CUE!~Si Vis Pacem, Para Bellum~ 作:ラッキー
「そんな事よりさっさとメインタイトル決めろ」と言う声も聞こえているのに申し訳ないですが、もう少し掛かりそうです。
あっ、感想や評価を頂けると励みになりますので宜しくお願い致しますm(_ _)m
氏名 佐々木
年齢 26歳
誕生日 9月15日(乙女座)
出身 宮城県
血液型 B型(Rh+)
身長 187cm
体重 80kg
趣味特技 アウトドア、渓流釣り(海も少し)、トレーニング
嗜好品 煙草全般(ソフトパックのラッキーストライク11mgが好みの銘柄)
まさか新人歓迎会が2時近くまで続くとは思わなかったーーと彼は翌朝の5時過ぎに起床し、酒臭い口内をすっきりさせようと歯を磨きながら考える。
二次会はカラオケで真咲、桐香、りお、美晴、そして莉子が代わる代わるマイクを握ってはそれぞれの十八番の曲を歌う中、佐々木は席の隅に腰掛けつつロックのウイスキーを飲み続けるしかなかった。彼自身にもマイクが手渡され、仕方なく歌唱するはめとなったのだがーー好評だったのは本人としては意外であったらしい。ちなみに歌ったのは真咲が以前にキャストとして出演したアニメ作品のオープニング曲。作品に出演したと彼女から歌った後に聞かされると彼も驚いたそうだ。
二次会の次は三次会ーー今度は別の居酒屋へ入り、2時間ほどアルコールや食事を口にし続けた。管を巻き始める面々に辟易としながらも相手をするのは彼の優しさからなのかもしれない。色々と出来事が多すぎてラストオーダーに〆で注文した梅茶漬けがやたら美味かった記憶が一番色濃く残っている辺り、彼も疲れていたのだろう。
三次会が済めばタクシーを拾い、彼女達が家路に就いたのを認めてから佐々木も帰宅ーーというよりも寮へ戻ったのだが、到着したのは3時近くだった筈だ。手早くシャワーを軽く浴びた後に就寝し、起床したのは5時ジャスト。
睡眠時間は2時間を切っているのは間違いない。
にも関わらず佐々木は普段と同じルーティーンを行い、歯を磨き終わると左膝へサポーターを付け、上下をジャージに着替えるとジョギングへ向かった。
汗を吸ったタオルやジャージなどを洗濯機で洗いながら簡単な朝食を済ませ、洗濯物を干し終わるとスーツやワイシャツ、ネクタイを纏った彼は一度事務所へ向かう。入社当日に宛がわれた事務室の自身のデスクに仕舞っていた書類ーー本日、入寮する4人の声優達のリストを取るとそれを携えて片道15分ほどの寮へ戻る。
9時頃に業者のトラックが寮の前へ横付けし、荷物ーー主にリビングへ置く事となるソファやクッションなどが搬入される中、彼はスタッフから受領のサインを求められ、書類へ自身の姓を走り書きした。
ジャケットを脱ぎ、ライトグレーのワイシャツを腕捲くりした佐々木も業者と共にリビングにソファなどを並べ、トラックで帰る彼等を見送ると見覚えのある4人の少女達の姿が寮へ近付いて来るのを認めた。
今日、入寮するのは陽菜、舞花、志穂、そしてほのかの4人だ。
それぞれがボストンバッグなどの手荷物を持っている為、寮の中へ招き入れ、家具を並べ終わったばかりのリビングに置くよう指示してからジャケットを脱いだ格好のまま寮内の案内を始める。
1階にある洗濯室や共用トイレ、大浴場、キッチンを案内すると2、3階も念の為に紹介をする。ーーとはいえまだ誰も入寮していないので大した意味はないのだが。
案内をする道すがら彼女達の顔色を伺ったがーー志穂を除いた3人は期待と共に不安も抱いているようで笑顔を浮かべているが、その表情に陰が差しているのを佐々木は見逃さなかった。
「ーー大浴場とは別にそれぞれの部屋にはシャワーが付いているので自由に使って構いません。ただし使用後は掃除などを行うように心掛けて下さい。…水垢とカビは油断すると直ぐに増殖しますので」
「すっげぇ…!部屋にシャワーがあるなんて贅沢…!自分ん家じゃ考えられないよ…!」
「それと…真咲さんから聞いているかとは思いますが自分もこの寮の管理人として生活します。大浴場は使いませんので安心して下さい」
ネクタイピンの位置がズレている事に気付いた佐々木がそれを元へ戻しながらリビングへ辿り着くと彼女達へ向き直って説明を行う。真咲からもしっかり事情は説明されているようでーー正確に言えばこの建物の前でマネージャー業と寮の管理人を兼務する旨を告げられた場面を見ていた為、承知しているのか少女達は頷いた。
とはいえーー素直に頷かれてしまうと「男として見られていないのだろうか」と佐々木は彼女達の危機管理を疑ってしまうのだが。
「……あのマネージャーさん。その…前にも言いましたけど…敬語は止めて貰って良いですか?」
「…敬語はダメでしょうか?」
「マネージャーの方が年上ですし…」
以前、話題に少し出ただけだが陽菜が改めて佐々木に敬語を止めるよう求めるも彼としては年下の少女達とはいえ出会ったばかりで、それほど親交もない相手と敬語抜きで話すのは憚られるらしい。続いてほのかも陽菜と同様の意見だと口にするとーー前々職の頃は後輩相手の時は敬語を使っていなかったな、と思い出して意を決した。
「……分かった。これで良いかな?」
「はい。あと…“さん”を付けるのも止めて貰えれば嬉しいです」
「他人行儀に感じる」
「…善処しよう」
実際、他人なのは確かだがーー求めるならば仕方ないと彼も頷いた。
「…取り敢えず以上で説明と案内は終わりだが…質問はあるかな?」
敬語こそ抜きに話すと決めたが、命令口調とならぬよう彼は幾分か柔らかいそれに努めようとする。質問の有無を尋ねると陽菜がおずおずと口を開いた。
「…マネージャーさん…私、共同生活って初めてなんです。…色々と上手くいけるか…不安で…」
「皆そうじゃない?ねぇ?」
当然の不安を口にする陽菜へほのかが頷き、舞花と志穂へ水を向けるがーー舞花は少し考えた後、頭を横へ振る。
「自分はそうは思わないな。姉弟が5人いるからあんまり変わんない」
「それは家族でしょ?他人と暮らすのが初めてって意味」
「…はい…それで…ちょっと不安で…」
なるほど、と彼女達の言い分を聞いた佐々木も頷いて見せる。
「俺は集団生活には慣れているから経験を基に助言すると…トラブルはどうしても避けようがない。起こる時は起こるモノだ。生まれも育ちも違う人間が集まる訳だ。トラブルが発生する可能性は高い。そのトラブルを極力回避する為にも躾事項ーー訂正、いくつかの寮のルールに従う必要がある」
新隊員教育隊ではないのだから、と彼はつい口に出てしまった言葉を訂正ーーこれも癖で“訂正”と言ってしまい、咳払いをして誤魔化す。
「ルールって…もしかして凄く厳しいとかですか?」
ほのかが僅かな不安を表情に浮かべながら問い掛けると佐々木は頭を横へ振った。
「いや、全く。共用アイロンを使用後に水を抜かなかった阿呆がいて、そのせいで100名前後が小一時間腕立て伏せをやらされるような理不尽なルールと連帯責任の反省は存在しないから安心して欲しい」
「…どうしよう…ルールよりもマネージャーのエピソードの方が気になるよ」
彼なりの笑い飛ばせる軽い冗談だったのだが、彼女達の興味を引いてしまったらしい。むしろこの冗談が笑えると思うのは少し特殊な思考回路と経験がなければ無理だろう。
「…まぁいずれ機会があれば話すが…ルールの事だったな。例えばゴミ出しや掃除の当番を決めるのが真っ先に挙げられるか。分別もしっかりして欲しい」
「ーー冷蔵庫の自分の物には名前を書く」
「その通り」
「ーー人の物を食べたら死刑」
「…まぁ重罪であるのは確かだが……」
「めちゃくちゃ厳しいじゃん!!」
「お葬式は是非、うちの寺で」
「…宗教や宗派によって葬儀は変わると思うぞ。一概に寺で葬儀とは限らない」
志穂なりのユニークな冗談に彼は真面目な考察を述べてしまう。元来が真面目な性格なのか、あまり冗談やジョークの類いを理解しないのかもしれない。その手の人間というのは概して冗談が下手だ。或いは分かり難い冗談を口にする。
「…気をつけなきゃ…」
「とはいえ余りルールに縛られると息苦しくなってストレスを感じてしまう。守る所は守って、と理解して貰えれば良いだろう」
「他にはどんなルールがあるんですか?」
「他のルールについてはこの紙に書いてある。リビングに貼っておくので読んで欲しい」
やや顔色が青くなっている陽菜の背中を苦笑混じりに擦るほのかが尋ねると彼はファイルから取り出した一枚の紙を彼女達へ見せる。壁へ貼っておくと告げた所でリビングの扉がノックされた。
左手首へ巻いた腕時計の針に目を落とした彼は、そろそろ来る頃だったか、と気が付く。ノックの後にリビングへ姿を表した人物はチーフマネージャーのりおだったのだがーー
「ーーこんにちは~…どう?案内は進んでる…?」
「りおさん!…って…どうしたんですか…!?」
「具合悪そうですよ…?」
姿を表した りおだが、やたら顔色が悪い。心配した少女達が問い掛けると彼女は顔色を青くしたまま力なく笑いを漏らす。
「…ゆうべ飲み過ぎちゃって…二日酔い…」
「…あっ…」
昨夜の新人歓迎会ーー深夜にまで及んだ飲み会の事は彼女達もSNSを通じて知っていたようで、気の毒そうな視線をりおへ送る。
「…だから水を飲めと言ったのですが…」
「…色々とごめんねぇ。お店出る時、肩を貸してもらっちゃって…というか元気だねぇ。真咲さんと桐香先生も二日酔いだってメールが来たのに…」
「人並みにはアルコールに強いので…あの程度なら」
「あ の 程 度 な ら ?」
昨夜の記憶はぼんやりとしか残っていないが、りおは何度か佐々木がウイスキーのロックを飲んでいた姿を目撃している。二件目の居酒屋では日本酒や焼酎も飲んでいた筈だ。自分がこれほど二日酔いで苦しんでいるのにーーと彼女は佐々木へ怨めしさを込めて鸚鵡返しに告げるも彼は肩を竦めるだけである。
「…それはそうと…まだそれぞれの部屋の方には案内していませんのでチーフマネージャーが案内をお願いします」
「うぇぇ…私…?」
「そういう段取りだったでしょう」
「分かったよぉ。…じゃあ皆、付いてきて。部屋に案内するから」
フラフラと足取りも重いりおが少女達を案内してリビングを出て行く。その姿に彼女達は部屋よりもりおの方が気になってしまい、彼女が転ばないか注意しつつそれぞれの部屋へ案内された。
『ーー私、全力で走ります!一生懸命頑張ります!もし転んじゃってもすぐ近くに助けてくれる仲間がいる。ーーきっと何度でも立ち上がって走る事が出来ます!』
広いリビングを見渡せるように設計されたシステムキッチンのガスコンロで沸かした湯でコーヒーを淹れ、それを彼から手渡されたチーフマネージャーは部屋を案内した際に陽菜が語った言葉を彼へ伝える。
「ーー彼女がそんな事を…」
「あの言葉…真咲さんにも聞かせたかったなぁ。きっと寮を作って良かったと思ってる筈よ」
「とはいえ今頃は二日酔いでしょうから…聞いても感動が薄れそうです」
「…そうなんだよねぇ…」
インスタントコーヒーを静かに啜るりおが苦笑を微かに漏らしながら佐々木の言葉に頷く。
部屋へ案内された少女達は続々と業者が配送をしてくる家具や荷物を自室へ配置する作業へ追われている。その間、彼は基本的に暇だ。受領のサインを綴るしかなく、キッチンへ赴くと備え付けの包丁の具合を確かめた後に砥石を置いて刃を研ぎ出していた。
シャーシャーと砥石の上を刃が滑り、研がれる度に鋭利な輝きが増して行く包丁を眺めつつ佐々木は、りおの話に相槌を打ちながらも作業の手は止めなかった。
「ーーでも…良い子達だよねぇ。…言っとくけど…お風呂とか覗いちゃダメだよ?」
「…覗きませんよ。そんな一時の気の迷いで犯罪者になるつもりは毛頭ありません。真咲さんの顔に泥を塗るような事はしませんから安心して下さい」
「分かってるよ。言ってみただけ。…コーヒーご馳走さま」
彼女なりの冗談だったらしく、幾分か二日酔いが楽となったのか笑みを浮かべながら飲み終わったカップを彼へ差し出すとそれを受け取った佐々木がシンクで洗い始めた。
「……夕食は何が良いですかね」
「ん?どうしたの?」
「…いえ…おそらくですが程度の差こそあれホームシックを感じると思ったので元気が出るような食事をと」
「…あ~…」
シンクでの洗い物が終わった佐々木が再び包丁を研ぎ始め、今夜の夕食の献立は何が良いかと尋ねれば彼女は考え込んだ。
「…ホームシックかぁ…それは考えていたけど真剣には考えていなかったなぁ…」
「馬鹿に出来ませんよ。たかがホームシックと小馬鹿にするような人間はいっぺん殴られろとすら考えています」
「そこまで!?」
「酷くなればうつ病ですからね。…これぐらいで良いか…」
満足出来るまで研げたのか佐々木は眼前へ運んだ刃を一直線に見て、角度を確かめてから包丁を元の場所へ仕舞った。
「…うーん…やっぱり妙に凝らない家庭料理的なのが良いんじゃないかなぁ…あ、でも余計に恋しくなるかな…」
「恋しくなって良いのですよ。ここは確かに彼女達の新しい住まいですが、血の繋がった家族がいる実家ではない。ーー弱音を吐けて、それを聞いてくれる仲間がいると分かれば幾分かでも慰めにはなるでしょう」
ちゃんと考えているんだなぁ、と彼の言い分を聞いたりおは感心の息を漏らすがーーふと疑問を抱いてしまう。
「ん?あれ?…ちょっと待って…献立を聞くって事は…ご飯作るの?っていうか作れるの?」
「……作れますよ。失礼な。流石にレストランの料理には及びませんがね」
当然の事のように言い返す佐々木の姿を見たりおは再度、感心の息を吐き出したのだった。