CUE!~Si Vis Pacem, Para Bellum~ 作:ラッキー
そして、ほのかの過去捏造。いやだって…出身が茨城ですし。そういえばほのかって寮へ移るまでは実家のある茨城から通学とかしてたんでしょうか…?(´-ω-`)
週末の日曜日、彼女ーー日名倉莉子は上機嫌で起床するとカーテンを開いて外の天気を確認した。
空を漂う雲は少なく晴れ模様だ。天気予報も今日は冷え込むが終日晴れだと告げている。満足気に頷き、まずは食事だとリビングへ向かう。
美晴が作ってくれた朝食を口に運んだ後、莉子は自室へ戻ると準備へ取り掛かった。
どんな格好が良いだろうか。
莉子はクローゼットを開け、今日のコーディネートを考え始める。服装によってはメイクも変えなければならない。まるでデート前の乙女だがーーそれと同じ程に彼女の心は弾んでいた。
なにせ金銭的余裕がない自分では手が届かないバイクにタンデムとは言え乗れるのだ。自分が運転せずともーー勿論、運転出来るなら最高だが、それでもバイク好きとして心が踊る。
色々と悩んだが、彼女が選んだのはオリーブドライブのフード付きジャケットとマゼンタのセーター、そして黒いジーンズ。黒い革の手袋も両手へ嵌めた。まほろへ貸す分はジーンズのポケットへ捩じ込む。
自然な仕上がりになるようメイクを施した後、彼女は愛用のヘルメットーーゴーグルが付いたヴィンテージヘルメットと予備のそれを抱えて自室を出た。
集合場所は寮の前で待ち合わせまで30分ほど時間の余裕はあるが遠足前の子供のように心が弾んでしまい、じっとしていられないのだ。
「おはようございます莉子さん」
「おはよ~。ランニングから帰って来てたんだ」
リビングに入るとFlowerのほのかが朝食を摂っている真っ最中だった。この頃は朝夕の気温が低くなって来た為、佐々木から週末や時間に余裕のある日はなるべく陽が昇ってからランニングをするよう彼女は言われていた。冷えて身体が固くなるのもあり、怪我へ繋がるリスクを減らせという事らしい。それが叶わない場合については身体を充分に暖めてから運動をするよう言い付けられてもいるとか。
「あれ?莉子さん…これから出掛けるんですか?」
「あ、うん。そうだよ~。ツーリングに行くんだ。誰とだと思う?」
彼女が脇に抱える二人分のヴィンテージヘルメットを見たほのかは朝食となるプロテインバーを飲み込みながら首を傾げる。
ほのかの問いに莉子は嬉々と頷きながら尋ね返すと彼女は顎へ指を添えて考え込んだ。
「うーん……絢さん…かなぁ?」
「残念!正解は…まほろとだよ」
「え、まほろさんと?珍しい…」
意外な人物の名前を聞いたほのかが驚いて目を丸くすると莉子が苦笑した。
実際の所、彼女もまほろとツーリングのようなアグレッシブなイベントを共に過ごせるとは思っていなかったのだ。
切っ掛けはバイク屋の前で憧れの単車を見詰めていた時だ。そこでまほろに声を掛けられた後にツーリングへ誘ったのだが、まさか頷かれるとは思わなかったのが正直な本音である。とはいえ楽しみなのは嘘ではない。
「…あれ…?でもまほろさんって免許は…」
「うん、持ってないって。最初はあたしのバイクに乗せてツーリングにって話してたんだけど…50ccだったのを忘れててさぁ。マネージャーに言われなかったらそのままツーリングに行って…違反切符切られてたかも…」
「忘れちゃダメじゃないですか…ん?じゃあ…どうやってツーリングに?」
大雑把な性格なのは知ってはいたが、流石に道路交通法や法令を忘れているのは如何なものかと、ほのかは溜め息を禁じ得なかった。そして次いで疑問を覚えたのはツーリングの手段をどうするかである。
「あ、それはね。マネージャーのバイクに乗せてって貰うんだ~」
「へ?マネージャーの?バイク持ってるんですか?」
「知り合いの人から買ったんだって。あれ、知らなかった?駐輪場に置いてあるよ」
「…知らなかった…」
なにせ、ほのかは自転車を持っておらず通学手段である電車の駅までは基本的に走るか歩くかの二択なのだ。
或いは同じ学校へ自転車で度々通学している悠希ならば知っていたのかもしれないが、少なくとも彼女は知らなかった。
「サイドカーも付いてるから…まほろはバイクに慣れてないだろうし、そっちに乗って貰うとして…あたしはマネージャーの後ろに乗る予定だよ」
「…危なくないですか?」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんとマネージャーに掴まってるから」
掴まってるーー密着するという事だ。なにせ乗用車とは違いシートには背凭れがない。運転する者はハンドルをしっかり握っていれば姿勢は保たれるだろうが、その背後へ乗る者は何かに掴まっていなければバランスを崩してしまい危険である。つまりは運転手の腰に手を回す必要がある。
「気を付けて下さいね…?」
「ありがと~。…それにしても…遅いなぁ。ちょっとまほろ見てくるね~」
中々、姿を現さないメンバーが気になり、莉子がまほろの自室へヴィンテージヘルメットを抱えながら向かう姿を見送った矢先、ほのかの耳がエンジン音を捉えた。
そのエンジン音がやがて寮の玄関前で止まる。おそらくは彼が買ったというバイクのそれだろうと察しつつ彼女も一目拝もうとリビングを出て玄関へ向かう。
「ーーわぁ…カッコいい…」
玄関を抜け、外へ出れば路肩に停車しているスペアタイヤが載ったサイドカーと連結された一台のバイクが彼女の目に入る。思わず率直な感想が口から漏れる中、バイクへ跨がっていた長身の人物がエンジンを切って降りる。
黒いフルフェイスのヘルメットを脱げば、その下にあった顔は見慣れたそれだった。
「ーーおはようございますマネージャー。カッコいいバイクですね」
「あぁ、おはよう。…90万の中古で買った割には中々素直なバイクだ」
「90万ッ…!?」
「…そんなに驚く事か?新車で買えば倍の値段はするし、最初に購入しようかと思ってたモデルは新車だと350万ぐらいはするぞ」
黒いレザーのライダースジャケットに普段と同じくオリーブドラブのカーゴパンツを纏った佐々木が驚きを露にするほのかへ首を傾げた。一介の高校生ーー声優という仕事もしているが、そんな大金は手にした事がないのだから当然である。
「高っ…!」
「まぁウラルはロシア製の輸入車で世界中に愛好家がいる程だからな。高くはなるだろう。…それにしても…莉子とまほろは?」
「あ、さっき莉子さんがまほろさんを呼びに行きました」
ほのかが答えると佐々木は頷く。もう少し時間がある事を察してジャケットの胸ポケットから煙草を取り出そうとするがーー眼前に彼女がいるのを思い出すとそれを元へ戻した。
その姿に彼女は思わず苦笑を浮かべてしまう。
「大丈夫ですよ。前にも言いましたけど気にしませんから」
「……なら…一本だけ」
頷いてみせれば彼は慣れた手付きでソフトパックを取り出し、振り出した一本の煙草を銜えるとジッポで火を点ける。ーー煙草を吸おうとは思わないが嫌いな匂いではないと、ほのかは鼻腔から紫煙の香りを少しだけ嗅いだ。
「…今日は何処まで?」
「あぁ…昨日、莉子から言われたが…なんでも海まで行きたいと。ルートは覚えたから大丈夫だ」
「…海…マネージャーは大丈夫なんですか?」
ほのかが問うと意味が分からず彼は紫煙を燻らせつつ彼女を見下ろしながら小首を傾げた。
「…その…津波に呑まれたって聞いたから…」
続いた言葉に合点がいったようで彼は納得の頷きを返す。
「…海釣りも少しはするからな。特別なトラウマがある訳じゃないが…3月11日だけは何も用がなければ海に近付きたくはないかもしれん」
それはトラウマなのではないだろうか、と彼女は思っった。むしろそのような体験をしてしまったら絶対に海には近付きたくないとトラウマが脳裏へ刻まれてしまう。誰も謗る真似はすまい。
「…マネージャーは強いんですね」
「…みんな強いさ。あの地獄を生き抜いて、あの地獄から復興を成し遂げようとする人達はみんな強い。俺だけが強い訳じゃない」
「…ですね。私も…実家が茨城なので良く分かります」
「…茨城…あぁ…」
彼の脳裏に数年前の集中豪雨による大規模水害が過った。あの水害には佐々木も災害派遣で出動している。
「実家が床上まで浸水しちゃって…その時に自衛隊の人達に家族全員を助けて貰ったんですよ。私なんか恐くてベラを抱っこしたままで…あんまり良く覚えてないんですけど隊員さんに抱えられてベラと一緒にボートに乗せて貰ったんです。もし会えたら改めてお礼が言いたいんですけど…名前が…」
「まぁ分からんだろうな。ボートで捜索していたという事は救命胴衣を着ていただろう。それでは
短くなった煙草を携帯灰皿へ投げ捨てつつ佐々木が告げると彼女が頷く。名前も分からない上に顔も良く覚えていないが、これから自身が有名になり、もしかしたら相手が顔を覚えていれば名乗り出てくれるかもしれない。そんな幸運に恵まれたら「あの時はありがとうございました」とお礼を伝えようと改めて考えていると寮の玄関から莉子とまひろがそれぞれヘルメットを持ちながら出て来た。
「お待たせ~」
「ごめんマネージャー」
「ーー大丈夫だ。さて、行くか……」
2人の姿を認めた佐々木がやや角張り、無骨な印象を受けるサイドカーにまほろを乗せる。次いで自身もバイクのシートへ跨がり、その背後へ莉子が乗った。彼がフルフェイスのヘルメットを被ったのを合図に2人もヴィンテージヘルメットを被り、ゴーグルを下ろして両目へ嵌めた。
イグニッションキーを回し、セルで始動を掛けた。一発でエンジンが掛かるとマフラーから重低音のエンジン音が響き渡る。
ギアはニュートラルのまま空吹かしを行い、エンジン内を暖めると彼の背後へ腰を下ろす莉子が堪らずに口笛を吹いた。
「すっご…!めっちゃいい音…!」
「マネージャー、安全運転でね」
「分かってる。くれぐれも注意する」
サイドカーに座るまほろが出発前に注意を佐々木へ告げると彼は頷きながらヘルメットのクリアシールドを下げた。
彼はシールド越しにほのかへ視線を向け、行ってくると声を張り上げて告げる。その声がエンジン音に混ざって届いた彼女が頷く。
「ーー出発するぞ」
「は~い!」
風避けにと準備したマフラーでまほろが口元を覆いながら頷き、莉子が声を了解を返すと彼女の両腕が佐々木の腰へ回され、細い上体を倒して彼の背中へ密着する。
クラッチレバーを握り、ニュートラルから1速へ。
ゆっくりと進み出すバイクへ再びギアチェンジを掛けて2速に。
3人を乗せたバイクが走り去る姿を見送ったほのかだがーー理由は分からないが何故か苛立ちを感じたのだ。
「……なんでイラってしたんだろう」
気のせいだろうか、と首を傾げながらも彼女は寮の中へ戻って行った。
国道を走ること1時間半ほど。3人が乗ったウラルは海岸線の舗装された道路へ入った。晴天に恵まれた事もあり、右を向けば太平洋の青々とした海原が広がる光景にサイドカー、そして彼の背後へ腰を下ろしているまほろと莉子が思わず目を向けた。
ハンドルを握る佐々木が言うにはウラルはそれほど速度は出ないバイクなのだとか。ただその代わり、悪路や不整地での走破性に優れたバイクであるという。
逆を言えば速度が出ないーーつまりは比較的、ゆっくりと景色を眺めながらツーリングを楽しめるバイクであり、別の意味で捉えるとそれ向きのバイクでもある。
とはいえ安定した座席であるサイドカーに乗ったまほろは兎も角として莉子は彼の腰へ腕を回して姿勢を維持しなければならない。いくら他の大型バイクと比べて速度が出ないとはいえ転落してしまえば怪我は免れないのだ。
背中、大きいなぁ。などと黒いレザーのライダースジャケットの背面へ上体をくっつける彼女が何気なく考えていると佐々木がウィンカーを出して右折する。
ドライバー等が長時間の運転の疲れを癒す為、休憩や仮眠を取る際に利用する道路沿いへ設けられた休憩所の駐車場へバイクが滑り込んだ。
駐車しているクルマやバイクも数台見受けられるが、かなり空いている。目に付いた駐車スペースへ佐々木がウラルを停めてエンジンを切ると彼女達がゴーグルを上げた。
「着いた~」
「へぇ、こんなところあったんだ」
「いいでしょ~?絶景のパノラマ!断崖絶壁に見渡す限りの海!」
水平線の向こうにうっすらと見える影はタンカーだろうか。彼女達がバイクやサイドカーから降りる中、佐々木も海へ視線を向けながらフルフェイスのヘルメットを脱いでサイドカーの座席に置くと愛煙の煙草を取り出し、一本を銜えると火を点けた。
「時々ひとりになりたい時とかここに来るんだ~」
「…ひとりになりたい時ってどんな時?」
莉子とまほろがヘルメットを脱ぎ、それを抱えつつ駐車場を抜けた先に設置された展望台へ進む後ろ姿を捉えた佐々木も紫煙を燻らせながら歩き出す。
海風が頬を撫で、紫煙が背後へ流れては散って行く中、前を歩く彼女達の会話が彼の耳を打った。
「意外とさ…家族の事を思い出した時、とか…かな?」
「なんで?だったら実家に帰れば良いじゃない」
「だって…それはさ…」
「…なに?」
酷く言い難いのか莉子が言葉を探しながら展望台へ足を踏み入れ、長い金髪を風に任せるまま白波が立つ海を眺める格好で転落防止も兼ねた手摺りへ凭れ掛かる。その隣にまほろが同じ格好で寄り掛かり、言葉を探す彼女を急かす事なく横目を向けた。
「……うち、弟が高校生で妹が中学生。それで家を出て来ちゃったでしょ?」
莉子が傍らのまほろへ確認をするように尋ねると彼女は頷く。2人の様子を眺めていた佐々木だが、展望台に自販機があるのを発見し、財布を取り出すと500円を投入して3人分のコーヒーを買った。
「なんか…悪いっていうか…なんて言えばいいんだろ…まだ何者にもなってないあたしがさ、家に帰ったって…カッコ悪いじゃん」
「ーーーー」
「心配ばっか掛ける職業選んじゃったしさ。ーーでも、いつかさ「頑張ったんだよ」って言える時が来たら…その時は胸を張って帰る!」
「…意地張んなくても良いのに…」
「意地張んないとさ…頑張れないじゃん」
少し寂しげな声音で莉子が言葉を紡ぐと、まほろは返す言葉が見付からないのか黙ってしまった。会話が途切れた所で佐々木が背後から歩み寄り、2人の間へ両手へ掴んでいた缶コーヒーを差し出す。
「あっ、ありがとうマネージャー」
「ありがと…」
「どういたしまして。好みの奴じゃなかったら済まないな」
ポケットへ放り込んでいた自身の缶コーヒーを取り出してプルタブを開けた彼が一口を嚥下する。温かいコーヒーが喉を伝って胃へ落ちる感覚で人心地つく。煙草も短くなり、携帯灰皿を取り出してそれを中へ放り込むと彼女達が缶コーヒーのプルタブを開ける音が聞こえた。
「ーーさっきの莉子の話だけど…なんていうのかな…少し羨ましくもあるよ」
「なんで?」
「まほろなんか全然…。そこそこお金がある家で育って…ひとりっ子で、子役から仕事やらせてもらってるでしょ?」
「……好感度下がる経歴だねぇ」
堪らずに莉子が苦笑を漏らす。隣のまほろも自覚しているのか僅かに顔を顰めてしまう。
「…やめてよ…それが結構ネックでさ…」
「ごめんごめん。続けて?」
「うん…それで…なんかそこそこで満足しちゃってるっていうか…」
「そうなんだ…」
莉子が頷く。まるで、分からなくはない、と言いたげな同意であった。
「そう…でも…皆がいてくれて…まほろ、助かってるんだ。1人じゃとてもじゃないけど…闘えない気がする」
子役時代からの経歴に裏打ちされたプロ意識が強い彼女が吐露した弱音ーー或いは素直な本音を聞いた莉子が目を瞬かせた後、ゆるゆると頭を左右へ振った。
「そんな事ないよ。まほろは…強いよ…うん」
「そんな事あるんだよ…」
「……うん……頑張ろうね。みんなでさ」
「……うん、そうだね…」
彼女達が海を眺めつつ頷き合い、手にした缶コーヒーを飲み干す。
それにしてもーー
「ははっ…ちょっと素直になりすぎた…かも?」
「そんな事はないけど……赤面はしてる」
羞恥もあって互いに顔を合わせられない。顔が熱く感じるのは温かいコーヒーを飲んだからではないのは明白だった。
「海って怖いね。ーーそういえばマネージャーは…家に帰りたいとかってなったりする?」
「…家?」
「そう実家。確か東北だったよね?」
随分と仲間外れにしてしまっていた佐々木へ振り向いた莉子が尋ねると彼はコーヒーを既に飲み終えていた。佐々木はエールブルーに所属している声優やスタッフ達の中で唯一の東北出身である事を彼女は覚えていたらしい。その佐々木は新しい煙草を銜え、年季の入った銀色のジッポで火を点けると紫煙を緩く吐き出した。
「……家、なぁ……」
どう説明したものか、と佐々木は逡巡した。飲み終わったコーヒーの空き缶に視線を落とすと振り向く事すらせずに背後の自販機横へ置かれたゴミ箱にそれを投げ捨てる。空中で弧を描きながら投じられたそれが見事にホールインワンするのを目の当たりにした莉子とまほろが目を見張りつつ小さな喝采を送った。
「…実家が無いからな。帰るも何も…」
僅かな逡巡の後、煙草を唇の端へ銜えたまま佐々木が呟けば彼女達の拍手で喝采を送る手が止まった。
「…え?」
「…それって…どういう…?」
「そのままの意味だ。…陽菜や舞花、それとほのかへは話していたが………まぁ止そう。折角のツーリングに気が重くなるかもしれん話は似合わん」
肺へ送り込んだ紫煙が吐き出され、それが風に煽られて消えて行く。
平素と声の調子こそ変わりない佐々木だがーーその言葉の意味を深く尋ねる事が彼女達には出来ない。いや、出来なかった。冗談の類いでそのような事を言う人間ではないと理解しているのだ。
「……さて、帰るか。途中でガソリンも入れんと…」
「…そうだね。冷えそうだし」
「うん……あのさマネージャー」
展望台からバイクへ向かって歩き始める彼を莉子が呼び止めると佐々木は煙草を銜えつつ肩越しに振り向いた。
「ーー良かったら、またツーリングに連れて来て欲しいな」
「まほろも」
「…それは構わないが…冬は寒いぞ」
「大丈夫、大丈夫。暖かくしてカイロも貼っておけば大丈夫だって」
「…まほろは春になってからの方が…」
努めて明るい声を出しながら莉子が再びのツーリングを強請ると佐々木も了承した。とはいえ、まほろの方は及び腰である。
帰る前にSNSへ投稿する写真を撮りたいとまほろが2人に告げる。一緒に写ろうと莉子から誘われるもーー佐々木は断り、彼女達だけの写真撮影となった。
出発寸前、まほろが投稿した呟きに添付された写真には彼女と莉子、そしてウラルとサイドカーのみが写っていたという。