CUE!~Si Vis Pacem, Para Bellum~ 作:ラッキー
さて、昨年末から書き始めた本作ですがチマチマと書き綴った事でなんとか20話を達成致しました。これもひとえにーーほのかや美晴、莉子などの素晴らしいキャラクターが励みとなっているのは間違いありません。ここまでの推しが出来るとは艦○れの金剛や大和以来です。いやもう本当にありがとうございます。
あ、それと既にご存知でしょうが、遂にやっとこさメインタイトルが決まりました。色々と悩んだり、ご意見を参考にしましたが……こんな感じのタイトルとなりました事を改めてご報告させて頂きます。
という訳で新年最初の投稿となります。最後になりましたが本年もお付き合いのほど宜しくお願い奉ります。
重い足取りでエールブルーの寮へ辿り着いた4人の人影は先に帰っていた他チームのメンバー達から驚愕と心配の眼差しで迎えられる事となる。
なんと言えば良いのかーー瞳から光が消えているのである。
彼女達は互いに肩を貸し合いつつリビングへ向かった。そして扉を絢へ肩を貸している美晴が開ければ、莉子とまほろが続いてソファへ歩み寄りーー4人は倒れ込むかの如くソファへ腰掛ける。
何があったのかはレッスン場から響く怒号が気になって覗き込んだ者達は察しており、気の毒そうな面持ちのまま一先ずはそっとする事に決めた。
暫くの間、天井を見詰めていた彼女達だが不意にリーダーの美晴が口を開く。
「…シャワー…浴びようか。ご飯は私が作るから…」
Windの今日の夕食は莉子が作る予定であったが、その役目を美晴が請け負うと告げると彼女は力ない声音で礼を述べた。
重い身体を引き摺り、それぞれが自室でシャワーを浴びる。一苦労だったのは握力が尽きてしまっているのかシャワーヘッドやドライヤーを満足に握れなかった点だろう。これではペットボトルのキャップすら上手く捻れないかもしれない。
なんとかシャワーを浴び終え、ルームウェアへ着替えてからリビングへ戻ると幾分かは体力が残っている美晴が夕食を作り始めた。
その夕食をーーこれまた箸を握る事や食器を手にするのにも一苦労ではあったが、なんとか食事を終えて一息を吐く。
「…めっちゃ…キツかったね…」
「…絢は大丈夫だった?マネージャーに怒られてたけど…」
「私は大丈夫。…美晴も大変だったでしょ?片付けは私がするから休んでて」
「…体力もそうだけど…メンタルやられそうだった。…まほろも片付けぐらいは手伝うから…」
減った体力を取り戻したいのか身体が食事を訴えていた事もあり、食欲は普段以上にあったのだがやはり腕や手に力が入らず完食するまで時間はだいぶ掛かった。
食後に今日のレッスンーー佐々木がコーチを担当したそれの様子を思い出した4人はすっかり耳に残ってしまった彼の容赦ない罵声が甦ってしまう。
「ーーあぁ、お疲れ様」
「「「「ーーーっ!!!」」」」
だからこそなのかーー黒いジャージを履き、背面へ落下傘と翼、月桂冠に囲まれたダイアモンドの白い刺繍が入ったODの半袖シャツを纏った佐々木がプロテインの粉が入ったシェイカーを片手にリビングへ足を踏み入れて声を掛けた途端、4人は腰掛けていた椅子を蹴り飛ばす勢いで起立した。
「「「「ーーお疲れ様です!」」」」
「…お疲れ様。一応言っておくがレッスンは終わったからな?安心して欲しい」
彼女達の反応を見た佐々木が念を押すかのように告げると4人は力が抜けたのか椅子へ腰を下ろして安堵の溜め息を吐き出す。
ーーそれほどキツかっただろうか。彼は首を傾げながらキッチンの冷蔵庫へ向かい、自身の名前を書いた牛乳パックを取り出した。シェイカーへ牛乳を注ぐと蓋を閉じ、良く振ってプロテインと混ぜると出来上がったココア味のそれを嚥下した。
確かにこのプロテインの味は好みの部類だが乗飲したいかと問われると迷う所だ。基本的にプロテインを利用するよりも日頃の食生活で筋肉の維持を図りたいのが佐々木の考え方である。とはいえアミノ酸配合のサプリメントやタンパク質を摂取できるプロテインを利用すれば効率的に筋肉を育てるのも事実であり、なんとも判断に困る。結局は人それぞれ、用途や状況に合わせてが一番なのだろう。
飲み終えたシェイカーをシンクで洗い終え、キッチンペーパーで水気を拭い取るとリビングへ戻る。
ーー顔を出しただけで表情が強張る彼女達を見て佐々木は溜め息を吐き出した。虐めたつもりは毛頭ないのだが、やはりアフターケアは必要かと思い至ると彼は4人へ視線を向ける。
「…絢は…まだ未成年だったな」
「あ、はい」
「…炭酸…コーラは飲めるか?」
メンバーの中で唯一の未成年である長身の少女へ尋ねると絢は首を傾げながらも頷いた。
「ーーじゃあ…今日はお疲れ様」
各々、グラスを用意しておくようにと告げた佐々木がリビングを後にして5分後、彼は両手へ自身のグラスや
冷蔵庫の冷凍室へ仕舞っていた彼の名前が袋へ油性ペンで記されているかち割り氷を全員のグラスへ入れてから成人済みのメンバーには琥珀色のラム酒を、そして絢のグラスにはコーラを注いだ。
水割りや炭酸で割りたい者は冷蔵庫にある物を使うよう告げ、全員の用意が終わるとグラスを軽く当ててこじんまりとした酒盛りが始まる。
「マネージャーって結構お酒強いよねぇ」
「そうか?」
「だってこれ…40度でしょ?」
テーブルの机上には酒盛りの主役である佐々木が持ち込んだラム酒が鎮座している。そのラベルにはアルコール度数が明記され、それを見付けた莉子とまほろが指摘しつつ氷を浮かべ、水割りにしたラム酒をチビチビと舐めながら嚥下する。
「ウォッカよりは飲み易いと思うんだが…」
「いやいや比較対象が極端すぎじゃない?」
「ていうか…マネージャー…ストレートが好きなの?」
「違うわよ莉子。これはロック。もう酔いが回ったの?ーーあ、マネージャーさん。私が注ぎますね」
「あぁ、ありがとう」
疲れた身体にアルコールは良く染み渡る。勘違いを正す美晴も頬がほんのりと紅潮しているのが良い証拠だ。
氷だけをグラスへ浮かべたラム酒を佐々木は飲み干し、手酌で注ごうとしたがーーその寸前で美晴がボトルを取り、蓋を開けて彼に酌をする。礼を告げ、何口か嚥下した後、彼は彼女達へ尋ねた。
「ーー今日のレッスンはどうだった?」
その問い掛けに面々は口籠る。言葉を選んでいる様子がありありと伺えて佐々木が微かに苦笑を浮かべた。
「酒の席だ。遠慮しなくて良い」
「……キツかった」
コーラが注がれたグラスを両手で持ち、チビチビと飲んでいたチーム最年少の絢が呟くと他のメンバーも同意のようで小さく頷く。
「…まぁそうだろうな。
「転職って何処に…?」
「…無事に就職出来たら今日のレッスンが新人研修として半年ほど続く組織なんだが…聞きたいか?」
意味ありげな眼差しを向けながら尋ねる彼へ彼女達は一斉に左右へ首を振る。予想が出来てしまったのだ。1日どころか数時間でこのザマではとても無理であると言わんばかりだった。
「…でもマネージャーは何年も勤めていたんだよね?給料良かったの?」
「…いや…そこまでは高くなかったな。手取りでも最初は15万もないぞ。基本的に365日24時間勤務だからな。週末や祝日の休日も休みであって休みではないから俸給が良いとは言えない」
もっと高いかと思っていた、とまほろが驚愕の声を漏らす中、莉子が隣へ腰掛ける佐々木が纏っている半袖のシャツの背面を覗き見た。
「前から気になってたけど…これってなに?なんかパラシュートと翼…葉っぱとダイアモンドみたいなデザインだけど?」
「あぁ。このシャツは空挺レンジャーの課程が修了した時に貰った奴でな。それは…まぁ刺繍なんだが、空挺徽章とレンジャー徽章だ」
「え?レンジャーってあのレンジャー!?」
「…どのレンジャーかは分からないが…おそらくキミが言うレンジャーで間違いないと思うぞ」
度々、ニュース番組の特集で自衛隊におけるレンジャー教育の課程が報道される事もあり、莉子を始めとして美晴やまほろ、そして莉子も存在は知っているらしい。
「物凄い大声で罵倒されてた…」
「まほろが観たのは…パンパンになったリュックを背負って真夜中の山道を歩いてる訓練だったかな」
「意識朦朧になってる隊員さんも居ましたね…」
「ーー集合教育か曹士が対象の課程かもしれんな。俺が受けた教育は初級陸曹向けの空挺レンジャー。…まぁ他の課程と何が違うと聞かれると俺も全部の教育を受けた訳じゃないから答えるのは難しい」
長野県松本の通称“山岳レンジャー”を始めとして北海道は札幌の冬季戦技教育隊の“冬季遊撃レンジャー”や千葉県習志野の第1空挺団の“空挺レンジャー”と陸上自衛隊には“他とは少し”毛色が違うレンジャー教育が存在する。大概の場合、それらの課程を突破した者達は畏怖と敬意を隊員達から払われるがーー佐々木の場合は右を見ても左を見ても同じ徽章を着けている者達が多く目に付き、“着けているのが当たり前”などという考えを持ってしまったようだ。
「…ちなみにマネージャーさんはどういった訓練を?」
「偵察、爆破、通信所襲撃、要人救出…まぁ他にも色々と想定はあったが…」
「…ああ…うん…なんかヤバい訓練だって事は分かったよ…」
グラスの中で溶けた氷がカランと軽やかな音を奏でる。味が変わったラム酒を一口嚥下する莉子は平然とした様子の佐々木を横目に引いてしまっていた。テレビの特集ですら大の男ーーそれも民間人よりも鍛えられている筈の隊員達が悲鳴を上げる“とんでもない”訓練だったのだ。それを突破した人間が眼前に居ると思うと畏怖よりも先に引いてしまう。なんと言えば良いか表現に困るが“化け物”とすら考えてしまうのだ。
「確かにキツかったが…
「…それって当然なんじゃない?…あんまりまほろはチームプレイっていうのかな。そういうのは苦手だけど…」
懐かしさが込み上げたのか佐々木が眼を細めると、対面で美晴の隣へ腰掛けるまほろが異を唱えた。彼女自身も自覚しているがあまりチームプレイや協力というそれに馴染みがない。だが中々実行出来ないだけで、それが大切だとは知っているのだ。
「…頭では分かってはいるんだが…肉体的、精神的にも極限状況へ追い込まれる訳だからな。出来て当然が出来なくなるぞ。飯もそうだが水も限られた分量しか飲めない。一度に飲める水はキャップ一杯分かそれ以下だ。なのに延々と殆んど眠らずに山の中を重い背嚢や銃を持って行軍する」
「……え?」
「…それって…」
「当然だが倒れる奴も出て来るし、下手をすると発狂する奴も発生する。俺の時も行軍の途中で意識朦朧を通り過ぎて気絶した同期がいたな。俺が担いで運んだが…」
また平然と人間離れした過去の出来事を語った佐々木に彼女達の目が点になる。以前、登山の最中に足を挫いたほのかを担いで下山した記憶が甦ったが、それとこれとは訳が違うだろう。
「…まさか荷物もですか?」
「そうだな。小銃とLAM…対戦車用の武器は別の同期達に持って貰った。意識を取り戻したら“水が欲しい”と言われて俺の水筒の水をやったんだが…半分も残ってなかった水の殆んどを飲まれて焦った」
思い出し笑いで佐々木が喉の奥から微かな笑い声を低く漏らしながらグラスを傾ける。話を聞くだけでも相当ーーいや、かなり過酷な状況だ。
「…でも…見捨てなかった?」
「ーー仲間や同期は見捨てられんな。良くも悪くも…まぁ殺意が湧かなかったと言えば嘘になるが、そいつが居ないと任務は達成出来ない。誰一人欠けても任務は果たせない。一人だけ突っ走っても任務の遂行は不可能だ。完全なワンマンアーミーやスタンドプレーが出来るのはフィクションぐらいだ。それに困ってる人間がいるなら助けんと…」
“困ってる人間がいるなら”。マネージャーとなって経歴は浅いが、彼と接する中で彼女達は佐々木の面倒見の良さには気付いている。言葉こそ足りない場合は多いが、面倒見は良いのだ。その特性が集約された言葉であるように思えてしまう。
「…マネージャーは凄いね」
「…どうだろうな。自分で凄いと思った覚えがない。至らない事ばかりだったと時々、考えてしまう。後悔も…まぁ…あるかな。この歳になると色々とあるから仕方ないが…」
謙遜なのか本気なのかーーおそらく絢が呟いた言葉に対しての佐々木の返答は後者なのだろう。
酔った素振りはないが、眼差しは何処か遠くを眺めている。彼女達が知らぬ自身の過去を振り返っているのかもしれない。
「…キミ達もいずれはキャリアを積んで一人立ち…もしかすると事務所を移籍して声優として本格的な活動を始めるのかも知れないが同期を大切にしろよ。生涯の付き合いに、とは言わないが…何かあった時、頼りになるのは同期だ」
「それはマネージャーの経験則?」
「のようなものだな。説教臭くなってしまうが…一人でなんとか出来る事柄には必ず限りがある。何かしらの協力がなければ出来ない事ばかりだ。壁のようなモノにぶつかった時は素直に相談しろ。同期ーーチームメンバーでも良いから。一人で悩むよりも建設的だろう」
「…うん…分かった」
「…マネージャーは?相談に乗ってくれないの?」
水割りにしたがアルコールの度数そのものは変わらない。胃の中へ流し込んだそれが温まり、体内への吸収が始まったまほろが心地好い酔いで頬を紅潮させつつ彼へ尋ねる。それを聞いた佐々木は軽く肩を竦めてみせた。
「ーー俺なんかで良ければ、だがな」
この酒盛りの数日後に行われたオーディションは噂通りに一風変わっており、参加者達は階段を延々と登り降りするという訳が分からぬ選考を受けるはめとなった。
その途中で莉子が足を捻ってしまうもーー他の3人が協力して彼女を支えながら選考終了の合図が響くまで登り降りを続けたのだ。
これが終末世界を協力して生き残る、という作品のテーマに最も近い人物像であるとして彼女達は無事にオーディションを突破したという。