CUE!~Si Vis Pacem, Para Bellum~   作:ラッキー

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なんだか久しぶりの投稿に感じられます…


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「気持ち良かったね~」

 

「寝る前と朝起きたらひとっ風呂浴びに来るかなぁ」

 

 他のチームのメンバー達や真咲などのスタッフはまだ温泉を堪能している最中だが、一番最初に浸かっていたFlowerの4人は一足先に大浴場を後にする。藍色の麻の葉文様の浴衣を纏い、その上へ薄紅の長袖羽織を着込んだ彼女達がスリッパの足音を響かせながら宛がわれた客室まで戻る途中、自販機やマッサージチェアが設置されている休憩スペースに立ち寄ろうと陽菜が提案した。

 

 ちょうど喉も乾いており、入浴後は水分補給が必要だ。売店も隣接していたはず、と思い出した彼女達が頷いて帳場近くの休憩スペースへ向かう。

 

 大浴場から目的地までは5分と掛からない。休憩スペースへ辿り着くとーーそこには先客が既にマッサージチェアに腰掛け、全身を揉み解している最中だった。

 

「ーージャーマネ、お疲れちゃん」

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ様っす~」

 

「…あぁ、キミ達か。お疲れ様。…温泉はどうだった?」

 

 ヴヴヴと駆動音を奏でるマッサージチェアが自身の腰や背中、首筋を揉み解す中、声を掛けられた佐々木は濃い茶色の眼を開いて彼女達に応える。

 

「控え目に言って…サイコーでした」

 

「なら良かった。…欲を言えばサウナがあれば良かったんだが…」

 

 旅館によってはあるだろうが、生憎と此処には設置されていない。残念そうに呟く彼に彼女達が苦笑を漏らす。

 

 まずは飲み物を買おうと彼女達がそれぞれの財布を開け、小銭を取り出すと自販機で好みのドリンクを購入する。やはり湯上がりなので全員が冷たい物だ。

 

「マネージャーも何か飲みますか?私が奢りますよ」

 

 そういえば彼は何か飲んだのだろうか。気になったほのかが佐々木へ尋ねると彼は不思議そうな眼差しを彼女へ向けた後、普通は逆だ、と苦笑いを漏らしてしまう。

 

「その気持ちだけ有り難く受け取ろう。…飲もうと思っていたのがほのか達では買えない物でな。年齢的な意味で、となるが…」

 

「…年齢的?」

 

「ビールだ」

 

「あぁ…って、もう飲むんですか?」

 

「…たまには昼間から飲みたい」

 

 あまり佐々木が飲酒をする姿を見た事がなく、ほのかを始めとして彼女達が意外そうに視線を向ける。ちょうどマッサージチェアが止まり、彼は腰を上げると小さな宅の上へ置いていた財布から小銭を抜き取る。

 

 ビールやカップ酒、チューハイが売られている自販機の投入口へ金額分の小銭を入れ、目当ての缶ビールのボタンを押した。取り出し口から350mlの良く冷えた銀色の缶ビールを拾い上げるとプルタブを起こす。封を開け、そのまま一気に喉を鳴らして冷えたビールを勢い良く飲み干した。

 

 空になるまで20秒も掛かっていないだろう。舌ではなく喉で味わう飲み物とされるのがビールだ。前者で味わってしまうと苦さばかりが口内へ広がる。

 

 飲み干した缶をゴミ箱へ捨てると佐々木は鼻から抜ける清涼感を覚え、満足気な息を微かに吐き出すと4人へ別れを告げて客室に戻って行く。

 

 あっという間の出来事に思えた彼女達はただ呆然と見送るばかりであったという。

 

 宛がわれた客室へ戻った佐々木は座椅子に腰掛けると茶を啜りながら煙草を片手にスマホを弄る事となる。手持無沙汰なのだ。

 

 ネットのニュースを一通り閲覧した後、キュイッターのアプリを開くと相互フォローとなっている事務所の声優達が投稿した呟きへいいねを押して行った。

 

 投稿が最も多いのはWindのまほろだ。つい数分前に投稿された呟きには客室で浴衣姿のまま寛ぐ彼女を含めた4人のメンバーの様子を捉えた写真が添付されている。

 

 満喫しているようでなによりだ。彼は紫煙を燻らせながら考えつつ湯呑を傾けた。

 

 チェックを続けていた18時過ぎ、不意に客室へ備え付けられた電話が鳴り響く。煙草を灰皿の上へ置いてから受話器を取って耳へ当てるとそれは帳場からの電話だった。曰く、夕食の準備が整ったので広間までお越しを願いたい、との事である。

 

 承知した旨を伝えた佐々木は受話器を置くと吸い掛けの煙草を名残惜しいが一口分だけ吸い込み、紫煙をゆっくり吐き出してから灰皿へ押し潰す。

 

 そしてスマホや鍵を掴むと夕食の宴席へ向かう為、客室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 膳の上には旬の食材を使った料理が並び、広間では声優達が談笑しつつ食事へ舌鼓を打っている。

 

 佐々木はと言えば宴席の上座方向ーー真咲や事務所スタッフ達が屯する場所で座椅子の上へ胡座を掻き、食事を箸で口へ運んでいる。その合間には手酌でグラスへ注いだビールを傾け、咀嚼した食事を流し込む。

 

「ーー本当に佐々木くんは良く飲むわね…」

 

「そうですか?…お注ぎします」

 

「あら、ありがとう」

 

 呆れたような感心するようなーー半々の塩梅の感情が込められた口調で膳の前へ正座する桐香が呟く。横目を向けると左隣へ着席する彼女のグラスの中身がほとんどない。手元のビール瓶を掴んだ佐々木がそれを桐香へ見せれば、彼女はグラスを手にして彼の酌を受けた。

 

「あまり酔った経験がないので人並みには強いのでしょうが…帰りの運転もありますので程々にします」

 

「それが良いわ」

 

 彼の言葉に頷きながら桐香も自身の手元にあるビール瓶を掴み、左手を添えながら酌を返そうとすると佐々木は残っていたビールを飲み干してから酌を受ける。

 

 それを直ぐに飲み干す辺り、やはり桐香や彼の言葉通り“人並みには強い”のだろう。

 

 仲居達が空いた皿やソフトドリンク、ビールの瓶を回収に回り始め、自身の前までやって来た若い女性へ彼は皿を渡し終えると空いたビールの大瓶を差し出す。空いた大瓶は占めて5本。夕食が始まって40分程度だが、彼が一人で空けた本数である。

 

「申し訳ありませんが日本酒はありますか?」

 

「あ、はい。ございますが…お好みの銘柄は?」

 

「特にありませんが…食事に合う物があれば宜しくお願いします。冷、燗はそちらにお任せします」

 

「畏まりました」

 

「お手数お掛けします」

 

 とんでもありません、と仲居は彼へ笑い掛けるがーーその細腕にある盆の上は回収した皿や瓶で埋め尽くされ、ほんの僅かだがプルプルと震えている。仕事に対する根性を垣間見た気がして頭が下がる思いだった。

 

「佐々木くんって日本酒も飲むんだ」

 

「…苦手なのはワインぐらいです。あぁ、どうぞ」

 

「ありがと~」

 

 右隣に着席しているりおが意外そうな口振りで彼へ語り掛けると佐々木は肩を竦めた後、ビール瓶を掴んで彼女に酌をする。

 

「ーー佐々木く~ん。私にはしてくれないのかしら~?」

 

 桐香を挟んだ先の席へ腰掛ける真咲が酔いで頬を僅かに紅潮させながら乾いたグラスを振って佐々木を催促してくる。桐香とりおはそれを見て苦笑を漏らし、彼はと言えば溜め息を吐き出すと手元の大瓶を掴んで立ち上がって真咲の元へ向かった。

 

 上司である真咲の傍らへ片膝を突いた佐々木が瓶のラベルを彼女へ見せつつ差し出されたグラスへビールを注いで行く。注がれたビールを真咲が勢い良く飲み干す。口回りに白い泡を付けながら満足気な表情のまま彼女は片膝を突いている佐々木の頭へ浴衣の袖から伸ばした手で撫で始めた。

 

「佐々木くんは優しいわよね~それに気が利くし…ほんっと雇って正解だったわ~」

 

「それはどうも…」

 

「お礼に社長自らお酌します!…って…あれ?グラスは?」

 

 手元にあった大瓶を掴んだ真咲が酌を受けるよう佐々木へ促すもーー彼の手にグラスがない事に気付いて首を傾げる。佐々木も酌を返されるとは思っておらず膳の上へ置いたまま来てしまったのだ。

 

「申し訳ありません。今持って来まーー」

 

「あ~大丈夫大丈夫。ほらほら」

 

 明らかに酩酊一歩手前の真咲が腰を上げ掛けた佐々木の袖を掴めば、彼が纏う浴衣が引っ張られて襟の合わせ目が乱れる。

 

 ズルリと(はだ)けた合わせ目から肩口、厚い胸板や割れた腹筋の一部が露になると彼等を見守っていた桐香は溜め息を漏らし、りおは何故か「お~」と感嘆を漏らした。

 

「真咲ったら…少し酔い過ぎよ」

 

「佐々木くん、ムッキムキだねぇ」

 

 そんな事を言う前に助けて欲しい。思わず佐々木は彼女達へ告げそうになるが、まずは着崩れた浴衣を直すのが先決だ。これ以上、引っ張られぬ内にと元の姿勢へ戻って浴衣の乱れを手際良く直した矢先、彼の鼻先に真咲の手で空いたグラスが突き出される。

 

 反射的に掴んでしまったが、良く見れば真咲の手元にはグラスがない。彼女が使っていたそれであるのは間違いだろう。

 

「は~い、お酌してあげる~」

 

「……どうも……」

 

 人が口を付けていようが、これといって気にしない佐々木は諦めもあってビール瓶を掴み、早く酌を受けろと促して来る真咲へグラスを差し出すしかなかった。

 

 グラスへビールが並々と注がれるとーー佐々木がそれを一息に飲み干す。それを見た真咲が感嘆の溜め息を漏らしながら更に酌をしようと大瓶を傾けようとするがーー

 

「ーーお待たせ致しました」

 

「あぁ、ありがとうございます。お手数お掛けしました」

 

 それよりも早く仲居が所望されていた徳利と猪口を運んで来たのだ。これ幸いと佐々木が腰を上げ、自分のビール瓶を掴みつつ元の席へ戻る後ろ姿を真咲が膨れっ面で見送った。

 

 中身がほとんどないビールを嚥下した後、彼は猪口を摘み、徳利を傾ける。澄んだ色の日本酒が注がれ、佐々木がそれをグイッと一気に飲み干す。口当たりは辛口だ。甘口よりも好みである為、銘柄は任せたが幸いにも口に合う酒が運ばれて来たのは僥倖だ。

 

「ーーマネージャーさ~ん」

 

 続いてもう一口飲もうと猪口へ徳利を傾けていると間延びした声と共にやや覚束ない足取りで現れたのは美晴だ。その後ろにはWindのメンバーである莉子やまほろ、そして絢が続いている。

 

「お酌に来ました~」

 

「…まほろは止めたんだけど…」

 

「…努力は認める…」

 

 浴衣姿のまほろが溜め息混じりに告げると佐々木も溜め息を吐き出しながら頷いた。美晴が酒好きであるのは知っている。本人は「酔わない」などと言っているのだが、それは誤りで“酔っていると気付いていない”だけなのだ。

 

 目の下の頬が紅潮しているのが酩酊状態である事の何よりの証拠だろう。最年長の彼女は大学院生で年齢は22歳であった筈だが、自分が同じ年の頃はここまで弱かっただろうかと佐々木は過去を振り返ってしまう。

 

 やたら上機嫌な美晴は彼の前へ腰を下ろすと携えて来たビールの大瓶を両手で掴んで酌をする姿勢を取る。既にビールから日本酒へ変えているのだがーーこれは酌を受けるまで引き下がりそうにない気配を察した佐々木が猪口の中身を飲み干し、グラスを手に持った。

 

 そのグラスへすかさず美晴がビールを並々と注ぐ。縁のギリギリまで泡が届くと佐々木は溢れないように注意しながら口を付け、喉を鳴らしてビールを嚥下した。

 

「ーーわ~!一気にいったねぇ』

 

 たちまち空となったグラスを見て莉子が感嘆する。イケる口だとは以前から知っていたが改めて目の当たりにすると壮観の一言だ。

 

「マネージャー。今度はあたしのお酌受けてくれるかな?日頃のお礼を兼ねてさ」

 

「あ、それならまほろも」

 

「…私もした方が良いのかな…」

 

 すると美晴以外の三人が続けて酌をすると彼へ告げて来る。それを見ていた右隣で料理へ箸を付けるりおは「人気者だねぇ」と呑気な様子だ。

 

「…それなら俺の後にりおさんや桐香先生、それと真咲さんにもお酌して回った方が良いぞ」

 

「そうですね~。マネージャーさんだけじゃ不公平ですもの~。さぁ、りおさん♪」

 

「え"」

 

 ニコニコと笑みを浮かべる美晴が今度はりおの前へ移動して掴んだ大瓶に両手を添える。生憎とチーフマネージャーは佐々木と比べてしまうと酒に強いとは言えない。

 

 だが折角の酌を受けないのは失礼なのも確かだ。りおは意を決して美晴から酌をして貰うとグイッとグラスを傾けた。弾ける炭酸と舌に苦味を感じる液体を飲み干して一息吐くと眼前の美晴が拍手をしていたのだがーー

 

「ーーはい、りおさん。あたしのお酌もどうぞ」

 

「莉子ちゃん!?え、早くない!?佐々木くんにお酌しなよ!」

 

「え、マネージャーにはお酌しましたよ?」

 

 入れ替わるが如く、美晴に代わって眼前に座ったのは莉子だ。彼女は先に酌をした美晴から大瓶を受け取り、嬉々とりおへ注ぎ口を差し出して来た。

 

 もう酌をしたのか、と驚きで目を丸くしたりおが横目を彼へ向ける。

 

「ーーわぁ…凄いねマネージャー…はい、絢。次はあんただよ」

 

「うん、ありがとう。はい、マネージャー」

 

「あぁ、ありがとう…」

 

「ーーわんこそば!!?」

 

 まほろから酌を受けると彼は直ぐ様、ビールを飲み干し、続いて大瓶を受け取った絢が佐々木へ酌をする。それも直ぐに飲み干す姿を見たりおが思わず、次から次へと椀へ投じられる蕎麦を休む間もなく食する岩手県名物のわんこそばに例えた。

 

「ーーねぇ悠希ちゃん…あいり達もお酌した方が良いのかな…?」

 

「ーーあ~…そうだね。折角だしお酌して回ろっかな」

 

「ーー我輩達も参るか」

 

「ーー利恵が行くなら…」

 

「ーー他の皆も行くみたいだな…どうする?」

 

「ーーうーん…なら私達も…」

 

「…マネージャー、飲み過ぎないと良いけど…」

 

 なにやら広間で相談し合う声が聞こえたかと思えば疎らにだが声優達が腰を上げ、自分達の所へやって来るではないか。その姿を見たりおはーー明日に襲い掛かるだろう二日酔いを覚悟したという。

 

 

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