CUE!~Si Vis Pacem, Para Bellum~   作:ラッキー

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どうしよう…マジでメインタイトルが思い付きません。どなたか良い案がありましたら…感想などでご意見頂ければ幸いです(他力本願


03

「ーーはい、ありがとう。履歴書の方は特に問題はないわ。何処の会社へ出しても恥ずかしくないわよ」

 

「だと良いのですが…」

 

 何かを見極めんとしていたのか対面に腰掛ける女社長ーー真咲の瞳が怪しく光ったような気がする佐々木だが、彼女が身を乗り出して履歴書が収まっているクリアファイルを差し出すとそれを受け取って鞄の中へ仕舞った。

 

「希望する職種はあるの?」

 

「…これと言って特には。私の特技や資格、経歴が活かせる職場であれば…」

 

「なるほどね。つかぬことを聞くけど…パソコンは使えるかしら?もっと言えばワードやエクセル、パワーポイントを使う事は?」

 

「教育と指導を受けましたので一通りは出来ますが…それが何か?」

 

 この御時世、身体ひとつで働ける仕事というのは大概の場合、給料は安い。体力があった方が良いのは確かだがそれに付随してパソコンなどの特技を持っていれば間違いない。そして実務経験があれば尚良しである。

 

「ううん。特に意味はないわ、確認がてらね」

 

 その特技の有無を問うた真咲は意味ありげな眼差しを佐々木へ向けると長い脚を組み替えた。

 

 何故かは分からないのだがーー標的として照準を合わせられている気がしてならない心持ちに彼は陥ってしまう。

 

 これ以上、雑用を強いられない為にも彼は早々とお暇をしようと決意した。長居しすぎると今度はどんな無茶ぶりが来るか分かったモノではない。

 

 佐々木が飲み干したカップを机上へ置くと対面のソファへ腰を下ろしている真咲に声を掛けた。

 

「ではそろそろお暇させて頂きます」

 

「あら、まだコーヒーは沢山あるのだけど…」

 

「もう充分にご馳走になりましたし、あまり長居してはお邪魔かと思いまして…」

 

「もっとゆっくりして行きなよ」

 

「そうですよ」

 

 僅かに驚いた様子で真咲が彼を引き留めようとすれば陽菜と舞花も続いて口を開く。この人達は何故帰らせてくれないんだ、と途方に暮れ掛けた時ーー談話室の外、廊下を進んだ先にあるエレベーターが一同が屯しているこの階へ到着した旨を告げる微かなアナウンス音が佐々木の鼓膜を震わせる。

 

 廊下を駆け抜ける音と気配が近付き、その後ろに続く気配も感じた。ただし後者はかなりゆっくりとした速さのようだがーーと考えていた矢先、談話室の扉が勢い良く開き、息を切らしながら長身の少女が現れた。余程急いで来たのか腰まで伸ばした濃い茶色の長髪が乱れている。

 

「すいません!遅くなりました!」

 

「ほのか…ノックぐらいしなさい。お客様がいらっしゃっているのよ」

 

 真咲が社長として乱暴な入室を咎めれば、少女はやってしまった、と言わんばかりの表情を浮かべる。ーーそのやり取りを聞く佐々木だが、特に気分を害する筈もなく逆に真咲へ驚きの視線を向けていた。

 

 ーー俺は客扱いだったのかーー

 

 真咲の言葉には驚くばかりだ。なにせ客として認識しているにも関わらず雑用を申し付けたのである。

 

 とはいえ労働の対価としてコーヒーを馳走になった身だ。今更、兎や角は言うまいと彼は心に決め、改めて入室して来たばかりの少女を視界へ収めた。

 

「すいません!駅から猛ダッシュしたから勢いが止まんなくて…。えっと…すいませんでした…」

 

 注意を受けた真咲へ謝罪した後、少女はソファへ腰掛けている見慣れぬ男性ーー佐々木へおずおずと顔を向けると頭を下げる。座っている彼が割りと強面なのもあるだろう。紫水晶を思わせる瞳を伏せて頭を下げると佐々木は片手を上げてそれを制した。

 

「どうぞお気になさらず。気にしておりませんので」

 

「あ、ありがとうございます。えっと…」

 

 顔を上げた少女が礼を告げると改めて見慣れぬ姿の彼へ眼差しを送る。この時の少女ーーほのかの第一印象としては安直ではあるが陽菜が最初に佐々木と出会った時のそれと大差はなかったようだ。付け加えるなら“借金取り”とも思ったらしい。

 

「こちらは佐々木さんよ」

 

「陽菜を助けてくれた親切な人」

 

「そうなんですね!事情はわかんないけど、ありがとうございました!」

 

「いえ、とんでもない…」

 

 この子は随分と元気が良く、素直そうだ。佐々木のほのかへ対する第一印象はそのような簡潔なモノであった。

 

「ーー助けたとは?具体的にどのようなことを?」

 

 ーー開き放しの談話室の扉から顔を覗かせ、勝手知ったるなんとやらの様子のまま足を踏み入れた小柄なーー佐々木が“子供?”と考えてしまう程度には顔に幼さを残した少女が現れる。声音も高く、それが余計に幼さを際立たせているようだ。

 

「…どのような…?」

 

「そう。ちなみに鹿野志穂と申します」

 

「あっ、私は月居ほのかです」

 

「ご丁寧に。佐々木と申します」

 

「あのね。足を挫いちゃって歩けない私を助けてくれたの」

 

「なるほど…珍しい人。天然記念物だな」

 

「……天然記念物……」

 

 自己紹介を交換する三人の声を聞く陽菜が代わりに事情を説明すると子供を思わせる小柄な少女が頷きつつユニークに富んだ例えを口にする。

 

 彼の脳内ではシナプスが活性化し、様々な天然記念物の指定を受けた動植物、地質、鉱物の写真や説明文が行き交う。その中には尻尾がとぐろを巻くような形状をした日本犬の姿があった。

 

「…天然記念物の中には柴犬や秋田犬などの日本犬も含まれていた筈なので物珍しさを例えたいなら特別天然記念物の方が適当かもしれませんよ」

 

「…確かに一理ある。勉強になった」

 

「…志穂ちゃんが…」

 

「…言い負かされた…」

 

「珍しい…」

 

「…言い負かされてない…」

 

 ーーこの子は口が達者なのだろう。同年代に見える三人の少女達が志穂へ驚愕の視線を向け、珍しさを口にすると彼女は頬を微かに膨らませた。

 

「バタバタとごめんなさいね」

 

「いえ、とんでもありません。では私はーー」

 

 慌ただしい様子を真咲が詫び、それに佐々木は首を横へ振る。場を後にする機会を逸してしまったが今度こそと腰を浮かせたが、それよりも早く社長が口を開いて先制する。

 

「ところで佐々木さん。…貴方、声優に興味ある?」

 

「……は?」

 

 予想だにしない言葉が耳朶を打ち、鼓膜を震わせる。その言葉の意味を彼は考えたがーー当たり障りのない答えしか浮かばない。

 

「…質問の意図は分かりかねますが…アニメや吹替の映画は観るだけで声優の事はあまり…」

 

 彼の言葉を聞いた少女達はアニメも観るのかと内心で驚いてしまう。外見と一致しない趣向なのだから当然かもしれない。

 

「普通はそうよね。基本は裏方だもの。でも今の声優は声でお芝居するだけじゃないわ。ステージで歌ったり踊ったりする総合的なエンターテイナーなの」

 

「総合的なエンターテイナー、ですか。…私としては声だけで演技をするだけでも凄いと思いますが…」

 

 そういえば後輩もアニメーションを良く観ていたな、と彼は思い出す。週末の残留要員として選出された世間一般の休日の際、隊舎の居室へ顔を出して見ればテレビに繋いだプレイヤーでDVDを再生してアニメを観る後輩の姿があり、そのまま一緒に鑑賞会となったのだ。

 

 その時は後輩が熱っぽく「ここ!ここの演技が凄いんです!」と解説してくれたが集中して鑑賞したい佐々木としては「分かったから静かにしろ。後で聞くから」と返す程度には面白かったらしい。

 

「どう?少しは声優に興味が湧いて来たかしら?」

 

「えぇ、まぁ…」

 

「じゃ、ちょっとアルバイトしない?」

 

「……はい?」

 

 唐突すぎる話に佐々木は両目が点になってしまいそうだった。何故、急にそんな話が始まるのか理解が及ばない。

 

 すると談話室の扉が再び開き、室内へまた新たな人影が入ってきた。ーーそしてまた女性である。この事務所に男性はいないのだろうか、と彼は思わず考えてしまった。

 

「ーー失礼します。真咲さん、今から新人のスカウトに行ってきますね!」

 

 敬語混じりだが、何処か親しげに真咲へ告げる薄茶色の髪を持つ女性へ社長は顔を向けたかと思えば、チラリと彼へ目線を投げて寄越した。

 

「ちょっと待って。今日はアシスタントを付けるわ」

 

 アシスタント、その一言に佐々木の表情は困惑に染まる。

 

「アシスタントって…この人ですか?…お客様なんじゃ…?」

 

「経験はないけど、とっても気が利くの。きっと力になる筈よ」

 

 トントン拍子で話が勝手に進んでいるのは彼にも分かる。流れを止めようと佐々木は声を上げた。

 

「ちょっとお待ち下さい。…なんのお話を…」

 

「うちの事務所にはこの子達の他にも声優のタマゴが何人か所属しているわ。でももっともっと人数を増やしたいと考えているの」

 

 その為にもオーディションや街で声を掛けるスカウトを行っていると真咲は彼に告げ、薄茶色の女性は社長の側で大きく頷いている。

 

 アルバイトとはつまり彼にスカウトをこれから行う女性のアシスタントとなって貰いたい、という事だ。

 

「…スカウト…斥候や偵察の意味のスカウトならまだしも…」

 

 ちなみに偵察を意味する英語の略はReconである。その手の教育や経験がある佐々木としては是非ともそちらの意味での“スカウト”であれば良かったのだが、間違いなく“勧誘”という意味でのそれらしい。思わず彼は溜め息を吐き出してしまった。

 

「…それにひとつ大きな懸念があります。“これ”です」

 

 おもむろに彼は自身の顔を指で指し示す。なんだろう、と一同が佐々木の精悍な顔へ視線を向ける。

 

「…とてもハンサムだと思うけど?」

 

「…強面では?」

 

「まぁ人によってはそう捉えるかもしれないけれど…私としては強面よりも整った顔立ちに見えるわ。チャラついていないしね」

 

 少なくとも軽薄な人物には見られないだろう、と真咲は太鼓判を押しながら瞳を細めて笑みを浮かべてみせる。なんといい加減な、と彼は二度目の溜め息を吐き出した。

 

「大丈夫よ。貴方には光るものがある。私が保証するわ。貴方はーーマネージャーに向いてる」

 

「…先程、鷹取さんにも“新しいマネージャーか?”と言われましたが…」

 

「あら、そうなの?」

 

「えぇ。…ですが、とても向いているとは思えません」

 

 佐々木のマネージャー像とは、もっと気遣いが出来る上に細かい仕事も出来る真面目で勤勉な人間こそ向いていると考えている。学生時代の部活にマネージャーは居なかったがーースポーツ部の花形と言える野球部やサッカー部、バスケ部のマネージャーは毎日忙しそうだった記憶があった。

 

「そうかしら?私には向いてると見えるけれど?」

 

「ーーっと時間が…。じゃあ真咲さん。この人、アシスタントとして借りて行きますね。エールブルーのマネージャーやってます五十鈴りおです!一緒に頑張りましょう!」

 

「…いや…あの…まだアルバイトをするとは一言も…」

 

「話は後で聞くから。ちゃんとアルバイト代も払うし、取り敢えずスカウトに行ってらっしゃい。荷物は預かっておくわ」

 

 ーーこの事務所の社長以下のスタッフは全員、押しが強いのだろうか。

 

 とはいえ声掛けをするだけで今日の夕食分の食費が賄えるならば、と打算も働いたのか佐々木は腰を上げた。ーー念のために、そして彼の名誉の為にも言うが決して食費に釣られた訳ではない。

 

 

 

 

 

 

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