命の従花を咲かす少年達 作:班・損
1
行き過ぎた自動化により暴走した無人巨大機動兵器。そして数億という馬鹿げた規模の犠牲。今日では厄祭戦と呼ばれるその戦乱は、有志の英雄らにより約300年前に終結した。
終戦後、恒久的な平和維持を目的に設立されたギャラルホルンも今や腐敗化が進み、その陰りある威光が届かぬ火星では貧困が蔓延している。特に、両親を持たぬ子供たちはその煽りを食らっていた。
つまるところ孤児として、しかも火星に転生した俺からすれば、この世界は大変なハードモードという訳である。
「あー腹いっぱい白米食いてぇ」
日本という国がどれだけ素晴らしい国であったか。それを今実感している。
ガキでありながら日銭を稼がなければならず、しかし火星ではマトモな就職口なんざ大抵は見つからない。故に何の後ろ盾も持たない子供たちは、己が身を売るなり売られるなりして誰かの所有物となり、彼らの代わりに非合法な仕事に手を出さねばならないのが実情だ。
無論、転生しただけで唯のガキである俺もその例に漏れない訳でして。むしろ他よりも少し賢しい分、大人たちには扱き使われている。尤も働き口があるだけ、俺はまだ大分マシな部類なのかもしれないが。
「白米ってなんだ、ジョシュア」
特徴的な前髪を有する青年が問いかけてきた。誰もいないと思っていたので少し驚いた。
彼の名はオルガ・イツカ、俺の所属する部隊の隊長を務めている。精神的および肉体的な意味でも彼は俺より年下であるが、中々のカリスマとリーダーシップを有しており、同部隊の皆から慕われる益荒男だ。
因みに今世における俺の名前はジョシュア・キサラギである。一応、オルガの指揮する『参番組』が発足する以前から、民間警備会社CGSで働いていたりする。
「めっちゃうまい穀物のこと。少なくとも毎日出てくる水煮よかマシだな」
「相変わらず物知りだな」
「まあね」
大したことない知識で一々感心されるのには未だに慣れない。
とはいえ、CGSは二十歳に満たない孤児を非正規に雇い入れている。そして少年兵を平気で扱う社長が、まともな教育を子供たちに施す筈もない。
だから必然的に前世で義務教育を受けた俺は、参番組の中でも比較的教養のある人間となる訳だ。全くもって自慢にもならないし、面白くもないが。
「ところでさっきビスケットの奴から聞いたんだけどさ。参番組がバーンスタインのご令嬢を地球まで送迎するって話、本当なの?」
いい機会だったのでオルガに聞いてみる。すると彼は「……ああ」と神妙な面持ちで頷いた。
「マジか」
「やっぱり胡散臭いと思うか?」
「そりゃあな。クーデリア・藍那・バーンスタインと言えば、ノアキスの七月会議を成功させた立役者だろう? 正直な話、彼女の功績は自治区の娘って肩書よりも厄介だと思うぜ」
「どういうこった」
褐色肌の若きリーダーは怪訝な顔つきになる。
「クーデリアは火星の独立運動を推し進めている革命の輩だ。そんでもって地球に向かうのもその一環ときた。さてそれじゃあ問題です、オルガ。そんな女の存在を一番疎ましく思うのは、一体何処のどいつだと思う?」
「……ああ、そういう事か」
合点が行ったようにオルガは目を見開く。またそれと同時に、額に手を当てながら表情を苦くさせた。頭の回転が速いようで何よりだ。
「つまりジョシュア、お前はギャラルホルンと
「そういうこと。何なら彼女の両親も良い顔はしないかもな」
「……成程な」
普通に考えて分かる事である。バーンスタインのご令嬢は志は立派なようだが、少しばかり考えなしでもあるようだ。いや、16歳の少女に完璧な立ち回りを要求するのも酷な話か。
「だが俺たちに仕事を選ぶ自由はねぇ。罠があるってんなら、罠ごと噛み砕くだけだ」
獰猛な笑みを浮かべながらオルガは告げた。ともすれば若さ故の危うさを感じなくもない。
しかし彼の判断はいつも的確であり、仁義を重んじる彼の気質はCGSの大人たちよりも余程信頼に足る。楽観的かもしれないが、仮に障害が生じたとしても何とかなるだろう。
「だな。つーか今思ったんだけどさ、地球まで護衛するってことは宇宙艦が使えるって訳だろ? もしかすると、もしかするかもだぜ?」
俺もニヤリと口角を上げる。するとオルガは苦笑いしてこちらを小突いた。
「おいおい、そりゃあ不味いだろうが」
「かねぇ? でもまぁ、手段の一つとして覚えといてくれよ」
「まったく。しょうが―――!!?」
オルガが言葉を返そうとした瞬間、凄まじい轟音と共に建物が揺れた。それが迫撃砲によるものであることは、俺も彼も経験的に理解していた。
「敵襲だっ!! いくぞジョシュア!」
「了解!」
★
阿頼耶識システム。
それは機械と人間の神経を直結させることで、字が読めずとも迅速かつ感覚的に機械を操作することの出来るインターフェースである。また脊髄に直接インプラント機器を埋め込むことで成立するシステムであるため、施術の成功率はあまり高くない。
そして俺たちの様なガキどもがCGSに入社するには、この阿頼耶識システムの手術を受ける必要があった。まぁ俺の場合、宇宙海賊に売られた身の上であるので、強引に施工されたというべきなのかもしれない。
尤もそのおかげで俺はモビルワーカーを上手に動かせる。言い換えれば、生きるための技術を手に入れる事が出来た。
「待たせた! お前ら生きてるか!!」
『ジョシュアさんっ!!』
砲撃を掻い潜りながら前線に飛び出す。これでもCGS内でもトップを争う操縦者であると自認しているのだ、指揮を向上させるためにもエースが前に出る事は重要である。
「状況は?」
『ギャラルホルンのモビルワーカーが前方に多数、こちらの損害も少なくない』
「了解。だが連中の動きを見る限り、物量に頼ってばかりで練度は微妙だな」
事実、ここに来るまで俺は派手な動きをしてきたが、一度の被弾もなかった。つーか奇襲を仕掛けられれ、その上に物量差もあるのに
となれば―――
「三日月、昭弘、俺はこれから混戦に持ち込もうと思うが」
『ついてくよ』
『アンタにだけ良いカッコはさせねぇよ!』
頼もしい返事が通信越しに聞こえてくる。俺が号令をかけると、三日月と昭弘のモビルワーカーが突っ込んでいった。ガキらしく血の気が多くてちょっと怖くなるが―――
「殺し合いやってんだ、正気じゃあいられないってなぁっ!!」
★
『殺し合いやってんだ、正気じゃあいられないってなぁっ!!』
通信機からそんな威勢の良い声が発せられる。参番組の中では、恐らく最も年長であろう男、ジョシュア・キサラギの声だ。
オルガと三日月がCGSに所属する前から、同社で働いていたヒューマン・デブリの青年である。彼の特性として、まず初めに人当たり良さが挙げられる。同じ部隊の仲間にさえ排他的な態度をとる昭弘・アルトランドから兄貴分として慕われているのが、その良い証拠だ。
だが彼の特筆すべき事項はそれだけではない。
「相変わらず、すっげぇ操作技術だ」
参番組に指示を飛ばしながら、オルガは彼らの鬼神の如き戦いぶりに感嘆の声を漏らす。あのギャラルホルンの兵隊でさえ、ジョシュア、三日月、昭弘の三人の前には手も足も出ていない。
「まったく頼りになる奴らだ」
ジョシュアは、参番組きっての実力者である三日月・オーガスに負けずとも劣らないモビルワーカーの操作技術を有している。だが三日月と異なる点は、経験に裏打ちされた指揮能力も同時に備えているという事である。
前線だけでなく全体の指示を下さねばならないオルガにとって、ジョシュアの存在は色んな意味で有難い存在だった。
「―――ああ、本当に心強いよ」
ジョシュア・キサラギ。
後にオルガ・イツカ率いる鉄華団で、MS部隊長兼地球支部長を務めることになる男である。
鉄血のオルフェンズを一気見したら何時の間にか手が動いていた。
アナザー系のガンダムで一番好きかもしれん。
需要があったら続きます。