命の従花を咲かす少年達   作:班・損

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ブルワーズ編
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 損傷したモビルスーツとイサリビの整備を終え、細やかな休息を経た鉄華団は歳星を発った。地球までの案内人は兄貴分となったタービンズが務めることとなり、バルバトスの整備は長引くようで、雪之丞さんと三日月は後で合流する手筈となっている。

 

 またテイワズのお目付け役として、メリビット・ステープルトンさんがイサリビに乗艦している。彼女は組織として未熟な鉄華団の財務管理も手伝ってくれるとのことで、それまでイサリビの収支計算を行っていた俺とはそこそこ接点があった。

 

 「っと、これで引継ぎは終わりましたかね」

 

 「はい。有難うございました、ジョシュアさん」

 

 「いえいえ。お礼を言いたいのはこちらの方です」

 

 実際問題、タスクが集中していた時期は中々しんどかった。

 

 モビルスーツの操縦、整備、訓練。経理関係の仕事はビスケットと共に処理し、定期的に開かれる会議は首脳陣の一人として参加していた。正直な話、経理の仕事に時間を割く必要がなくなったのは僥倖と言わざるを得ない。

 

 「それにしても、逞しいですね」

 

 メリビットさんが何の脈略もなく呟いた。それにしても綺麗な人だなぁ。鉄華団の皆が夢中になるのも頷ける話だ。

 

 「何がでしょう」

 

 「この船は子供たちで動かしているのでしょう? 改めてそう考えると皆さん逞しいなって」

 

 「はは、そう言ってもらえると嬉しいです。でもオルガの前では言わないで下さいね。多分、アイツ怒るからさ」

 

 「団長さんが怒る? どうして?」

 

 不思議そうに眉を顰めるメリビットさん。うーん眼福。クーデリア嬢とフミタン女史も綺麗所だが、メリビットさんの場合だと大人の色香がある。まぁ、それは置いておいて。

 

 「年齢的な意味でも精神的な意味でも、俺たちはどうしようもなく唯の餓鬼です。それでいて軍事レベルで武装している訳で、世間一般から見れば俺たちは立派なテロ組織だ」

 

 火星の独立運動に加担する組織。搾取する側、すなわち地球やギャラルホルンからすれば、俺たち鉄華団はテロリストとそう違いはない。正確にはテロリストとして扱った方が()()()()

 

 そして腐敗しつつあるとはいえ、ギャラルホルンは秩序を司る正義の味方である。更に付け加えると、俺たちはその正義の味方を幾度も退けている。これをテロ組織と言わずして何と言うのだ。

 

 「だが、俺たちは戦うしかなかった」

 

 「……戦うしか、ない」

 

 「そうです。俺たちは生きるために殺しを覚え、自らの意思でこの闘いの場に身を置いているんだ。それで子ども扱いされたらたまったもんじゃないでしょう?」

 

 殺し合いに子供も大人もない、全ては死ぬか生きるかだ。だから都合の良い時に餓鬼扱いされるのは、これ以上ないほどの屈辱となるのだ。

 

 「それは、そうなのでしょうか」

 

 「まぁ要するにただの意地っ張りです。あんまり気にしないで下さい」

 

 イマイチ理解できていないようなメリビットさんに対して、そのように締めくくった。

 

 価値観の違いからくる理解の不一致。それ自体に何ら問題はない。だが己の価値観を押し付ける事は大きなリスクが伴うだろう。だからこれ以上俺から言うことは無い。

 

 「でもあなた達はやっぱり子供よ。生き方はまだ選べる筈」

 

 「優しいんですねぇ」

 

 だが優しさは甘さにもなり得る。既にテロ組織のレッテルが張られた俺たちは、もう前にしか進めないのだ。少なくともクーデリア嬢が火星の実情を公の場で発表するまでは。

 

 「貴方は正しい。だが正しさだけで人を救う事はできない」

 

 「え? それはどういう―――」

 

 「ま、これから宜しくって事です。出来れば貴方とはよい関係を築きたいですね」

 

 「え、ええ」

 

 本当の意味で俺たちと彼女が理解し合うには、もう少し時間がかかるだろう。願わくばその間に取り返しのつかない事態にならなければいいのだが。

 

 

 その様に考えていた矢先に、緊急警報が鳴った。

 

 

 『哨戒任務で出撃していた昭弘機が所属不明のモビルスーツ部隊の襲撃を受けています。ジョシュア・キサラギ、救援のため出撃を要請します』

 

 フミタンの声だ。聞く限りかなり危機的な状況だと分かる。

 

 「そういう訳で俺は行きます」

 

 最低限の挨拶。しかしながらメリビットさんの返事は待たずに、俺は即座に作業ドックに向かった。

 

 早急にノーマルスーツに着替え、グレイズ・グリントに搭乗する。シミュレーションや試運転は何度か行ったが、この改修機での実戦は初めてだ。

 

 「こちらジョシュア・キサラギ、発着準備が整った。フミタン、昭弘は無事かどうか分かるか?」

 

 『了解。昭弘機のリアクター反応は健在です。しかし戦闘行動は不可能でしょう』

 

 「それはどういう?」

 

 『哨戒任務にあたり、昭弘機には有人のモビルワーカーが簡易的にドッキングしています。激しい運動は極めて困難であると言わざるを得ないでしょう』

 

 なるほど、それは一大事だ。となればこうしている今も時間のロスになる。

 

 「出撃する。ハッチを開けてくれ、フミタン」

 

 『ハッチ開きます。敵の数は三、ご武運を』

 

 「あいよ」

 

 隔壁(ハッチ)が開き、カタパルトが伸びる。

 

 俺は深く息を吸った。そして独特の緊張感に身をゆだねながら加速に備える。

 

 「ジョシュア・キサラギ、グレイズ・グリント出撃する」

 

 

 

 ★

 

 

 

 「ちょっと怖いくらいだな」

 

 全力でスラスターを吹かしているため、現在俺の機体は殺人的な加速度となっていた。しかも改修を施したからか、只でさえ早かったグレイズの速度は大幅に向上している。正直な話、少し恐怖を覚える。

 

 「……見えた」

 

 リアクターの反応から昭弘が生きている事は分かっていた。そして今、目視で昭弘のグレイズを捉えた。

 

 情報通り敵は三機。だが見たことない機体だ。少なくとも外見リアクター共にグレイズとは異なっているから、ギャラルホルン所属ではないだろう。

 

 「昭弘下がれ、俺が相手する。あとからラフタやアジーさんが来る」

 

 『兄貴かっ!! すまねぇが頼む!』

 

 昭弘のグレイズとすれ違う。そして迫りくる機体に対してバヨネットライフルで牽制射撃。しかし―――

 

 「全く動じないな」

 

 装甲が分厚いというのもあるのだろう。しかしどうもそれだけではない様な気がする。というか、この無鉄砲な戦い方に既視感を覚えるが、もしかして。

 

 「……そうか。こいつら宇宙ネズミか」

 

 直感する。そしておそらくこの考えに間違いはない。全く、俺たち共々業が深くて困るな。

 

 「だが死んでくれ」

 

 トップスピードのまま突撃。敵もこちらに向けて射撃を行ってくるが、最低限の回避に留める。ライフルを格納、背中に備えていた太刀を構えて―――

 

 「悪いな」

 

 すれ違いざまに敵モビルスーツを太刀で貫く。グリントの高機動を活かした刺突。さしずめ重モビルスーツと言えど、力を一点に加えれば装甲は貫通出来る。

 

 『ぺ、ペドロォっ!!!』

 

 やはり敵は子供だった。オープンで割り込んでくるあたり、本当に嫌になってくる。そう甲高い声を出してくれるな、罪悪感が凄いから。

 

 今度は逆上した敵のモビルスーツが突撃してくる。あれは鉈だろうか、上段からの振りかぶり。またコンピュータ制御に依らない挙動からして、阿頼耶識システムを搭載しているという事も分かる。

 

 『お前えぇっ!!』

 

 太刀を敵のモビルスーツだった残骸から引き抜く。そして鉈による一撃を防いだ。

 

 「ああ、そうか」

 

 アックスと違って、太刀は突くことと守ることが出来るのか。モビルスーツ戦において刀よりも斧の方が優秀だと思っていたが、一概にそうとは言えないらしい。

 

 余計な思考はそこまでにして、敵を蹴りつけて距離を取る。しかし敵は二機、片方は射撃を専念しており、もう一方は格闘戦に持ち込もうとしてくる。

 

 「……やりづらいぞ、これは」

 

 こういう連携をされると非常に面倒くさい。いつもはソレを()()()だっただけに、その厄介さも身に染みて良く分かっている。

 

 弾丸に直撃して硬直したところで接近される。こちらはナノラミネートアーマーが削れている訳だから、機体の破損もしやすく訳だ。正に合理的といえる。

 

 だがこちらにも勝ち目はある。

 

 『ま、待てっ!!』

 

 全スラスターをフルスロットルにする。敵もそれに追従してくるが、こちらの方が加速が大きい。これはグリントの方が軽量というのもあるが、それ以上に燃料の量に差があるからだ。

 

 「その機体、持久力はないんだろう?」

 

 こちらはプロペラントタンクをつけている。一方、敵のモビルスーツは執拗な重装甲によって重くなっており、その重い機体を動かすために余計な推進剤を使う事となる。

 

 そこから推察できる運用方法は、敵の対空砲火を強引に突破して殴る短期決戦。それに尽きるだろう。

 

 だからあの丸い機体の武装は破壊力のある鉈と、集弾性が悪い代わりにレートの高いマシンガンのみなのだろう。となれば、射撃戦にはあまり向いていないという事も同時に分かる。

 

 『ちょこまかとぉ!!』

 

 そして俺の目的はラフタやアジーさんが来るまで持ちこたえる事。言い換えれば、遅滞戦闘だ。俺から馬鹿正直にぶつかる必要もない。

 

 故にこちらからの射撃は最低限。攻撃の回避に専念する。

 

 「練度もセンスも悪くないが―――」

 

 戦闘能力が高いからといって、必ずしも戦いに勝てるという訳ではない。尤も三日月の様な例外もいるから、本音を言えば何とも言えないのだが。

 

 「ん? こいつは」

 

 新たなリアクターの反応が複数モニターに表示される。数は全部で6、その内の一つは全く知らない機体だ。

 

 だがその正体不明機は、俺と戦闘状態にある機体と同じリアクターの周波数を持つ機体を2機引き連れている。そのことからアレが十中八九敵のモビルスーツ部隊の増援だと分かるが、残りの3機は――― 

 

 『事情は昭弘から聞いた。援護に来たよ、ジョシュア』

 

 バルバトスのリアクター反応、これは三日月の声だ。そしてその少し後ろからラフタの百里とアジーさんの百錬が迫ってきている。

 

 「三日月か。バルバトスの改修、終わったんだな」

 

 『うん。俺はどうすれば良い?』

 

 「前からくる三機を抑えてくれ。こっちは俺が何とかする」

 

 『分かった』

 

 三日月がいるのならこちらの物だ。戦いは始まったばかりだが、その行く末は見えてきた。

 

 




更新速度を優先したため、今回は少し雑かもです。
許してください何でも(ry
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