命の従花を咲かす少年達 作:班・損
鉄華団およびタービンズのモビルスーツ部隊は、そこそこの苦労と引き換えに所属不明の敵部隊を撃退した。
三日月が後援として現れた部隊を迎撃。その間に俺とラフタ、そしてアジーさんで前衛の二機をフルボッコ、戦闘不能に追い込んだ。そうして数的有利に持ち込んだ訳だが、奴さんも馬鹿ではないようで不利と悟ると即時撤退していった。
しかしながら、三日月のバルバトスは本隊と合流するためにかなりの推進剤を消耗していたため追撃は断念。何よりクタン参型に一人残された雪之丞さんを回収しなければならなかった。因みに戦闘不能になった敵モビルスーツパイロットは投降したので、彼らも回収して現在はユージンが取り調べをしている。
で、そんな感じに帰投した後の事である。オルガとビスケットと共に、俺たちは名瀬さんのハンマーヘッドへ赴くと―――
『ケツがテイワズだからって、でけぇ面してんじゃねぇよ』
メインスクリーンに映し出された顔のデカい男が、そのようなことを宣っていた。どうやらアレが先ほど交戦した所属不明部隊の頭領らしい。
「後で吠え面をかいても知らねぇぞ」
余裕の表情で返す名瀬さん。実際、こちらは既にモビルスーツを三機撃墜している。どうして相手方はピンポイントにこちらの位置が分かったのか謎だが、それを差し引いても十分に戦えることが分かったのだ。マジで彼の言うとおりである。
「それで?
名瀬さんにぴったりとくっついているアミダさんが言う。うーん、ラブラブなのは良いけど子供たちの前なんだから少しは抑えてくれませんかねぇ。俺は兎も角、未だ10代のオルガやビスケットには些か刺激が強すぎると思う。
「はい。お陰様でタカキの奴も軽傷で済みました」
オルガが答える。するとアミダさんは「私たちは何もしてないよ」と微笑を浮かべながら、名瀬さんの方を見やった。
「で、連中は何者なんですか?」
ビスケットが話を進めた。俺もそのことが一番気になっていたので助かる。催促された名瀬さんはつまらなそうに口を開いた。
「名をブルワーズという。火星から地球までの宙域で活動する海賊だ」
「聞いたことあります」
一応これでもそこそこの
他にも火星圏であれば『夜明けの地平線団』とかが有名だったりするが、ブルワーズはソレと比べてみると二回り、いや三回りも格下だ。当然ながらテイワズとは比べるまでもない。
「奴らの狙いはクーデリア・藍那・バーンスタインの身柄だとよ。大人しく引き渡せば、命までは助けてやると、随分と上から目線で言ってきやがった」
「……それは、妙な話ですね」
疑問点は二つある。まず海賊風情がなぜクーデリア嬢の存在を知っているのか。そしてもう一つは俺たちの所在をどうやって突き止めたのか、である。
だが実はそれら二つの疑問を解決させる要素、というよりも人物には心当たりがある。というのも―――
「トド・ミルコネン」
元CGSの従業員だ。火星を飛び立つ際、彼の裏切りが発覚したため、俺たちはその
その後、トド自身はギャラルホルンが回収したと思われていた。しかしもし彼が
「あいつがどうした?」
「確証のない話をここでするのもあまり気が進みませんが。この件、端を発したのは我々かもしれません」
「それはどういうことだ」
オルガがこちらを見ながら言った。俺は自分の考えを皆に伝えながら考える。
「おいおい、ジョシュア。お前さんはギャラルホルンがコソ泥を利用したって言いたいのか?」
言外に在り得ないと指摘する名瀬さん。俺もそう思う。だがどうしてだろうか、俺はこの可能性を捨てきれずにいた。
言いようのない違和感。そもそも火星から離脱する時、ギャラルホルンの連中も追撃しようと思えばできた筈だ。しかし連中はそうはしなかった。地球圏で待ち伏せ出来るからか? それとも他に事情があったからか。
何にせよ、これではまるで―――
「試されてるみたいだ」
★
イサリビの備品倉庫室にて。ここでブルワーズの子供たちは拘束されていると聞いた。個人的に聞きたい事があったので訪れてみると、倉庫の入り口でシノが腕を組みながら佇んでいた。
ノルバ・シノ、CGS時代からの古参の一人だ。シノは鉄華団の中でも特に”愛すべきバカ”とでも言うべきムードメーカーであるが、その一方でモビルワーカー部隊や白兵戦部隊の隊長を務める歴戦の兵士だ。役割で言えば俺に近しいこともあってよく会話をすることもあるのだが、彼は珍しく不機嫌なようで眉に皺をよせていた。
「捕虜はどうした?」
「今ユージンが取り調べしてるぜ。しかし面白くねぇ」
「何がさ」
「あいつら、俺たちよりもよっぽどひでぇ扱いをされてやがった」
怒りに身を任せて壁を殴ろうとしたシノの手を掴む。彼はハッとした表情で「すまねぇ」と謝意を述べた。
「宇宙ネズミってのはそういう存在だ。厳しいことを言うようだが、慣れてくれ」
「……ああ、分かってる」
苦々しい顔つきのシノ。いくら年長組の一人と言えど、まだ二十歳に満たない子供だ。前世の日本であれば、友達と馬鹿をやって笑っているような年頃。
「辛いな」
「ああ」
俺のつぶやきにシノは頷く。あの子供たちが、これまでにどんな目に遭ったのかは知らない。だが想像する事は出来る。
「……なぁジョシュア」
「どうした?」
「こいつら、俺たちで面倒見れねぇかな」
「それは―――」
安易に肯定する事はできない。俺たちは既に彼らの仲間を一人殺害している。故に彼らがふとした拍子に復讐に出る可能性を、俺は否定できないのだ。それに面倒を見ると一口に言っても、
「同情だけでアイツらを助けたいと思ってるのなら、やめとけ」
誰かを救うという事は、そいつの責任を負うという事だ。中途半端な覚悟で中途半端な救済を与えても、彼らは遠からず破綻する。それが分かる。
「ヒューマンデブリには人権がない。もしお前が―――」
「ジョシュア、分かってる」
講釈を垂れようとする俺の言葉は遮られた。シノは俺を真直ぐな瞳で見つめている。
「ならいい。オルガに聞いてこい」
「おう。ありがとな」
何に対する感謝かは分からないが、恐らくそれは筋違いだ。シノはシノの意思でブルワーズの子供たちを何とかしたいと考え、それに伴う責任もしっかり弁えていた。だから俺がしようとしていたことは”余計なお世話”という言葉で一蹴される。
「ほれ、早く行ってこい」
「ああっ!」
俺が促すと、シノが元気よく駆けて行く。何故だかその後ろ姿が眩しく思えて、顔を背けたくなる。
だがきっとここで顔を逸らしたら、俺は人道から外れた大人たちと何ら変わらない存在となるのだろう。故に俺は目に焼き付けるようにして、シノの背中を見送った。
「さて、それじゃお邪魔しますよっと」
感傷はここまでに。気持ちを切り替えて倉庫の中に入る。するとそこには両足を抱えて座る少年が二人、そして沈痛な面持ちのユージンがいた。
「ようユージン、首尾はどう?」
「今終わったとこだ」
「そうか。俺からも聞きたい事がある、外してもらっていいか?」
「俺がいると不都合なのか」
ユージンがぴしゃりと言い放った。彼が俺に食い下がってくるのはいつもの事だが、今日はいつにも増して当たりが強い気がした。
「いや別に。でも何も面白くないぜ」
「それを決めるのは俺だ」
「そうか」
別に隠すような事でもなし。一つ頷いてブルワーズの捕虜に目を向けた。
★
ユージン・セブンスタークにとって、この目の前の男は”憧れ”そのものだった。
客観的に見てジョシュア・キサラギは思慮が深い。またモビルワーカーの操縦に関して言えば、三日月や昭弘に勝るとも劣らない技量を有し、整備班でもないのにモビルワーカーの整備まで行える。それでいて前線における指揮能力が高く、それ故の人望もある。話によれば最近まで経理関係の仕事にも携わっていたというではないか。
だというのに、それだけの能力があるというのに、彼はいつも前に出たがらない。
CGSの大人たちに殴られようが何も反抗しない。皆の期待にいつも応える癖して、行動指針はいつも他人任せ。自分から何か行動を起こすことは無い。鉄華団を立ち上げる時だって、彼は自ら首脳陣に加わろうとはしなかったのだ。
そういう態度が、ユージンにとって酷く気に食わなかった。
「なんでアンタは自分から何もしないんだよ」
何時の日か、ユージンはジョシュアにそんなことを聞いた。しかし彼は「これが性に合ってるから」と、あまりにも軟弱な返答をするのだった。その発言はユージンを失望させるのに十分で、そして彼の劣等感を加速させた。
オルガの様なカリスマ性がない。ビスケットの様な冷静な思考と、それに伴う作戦立案能力がない。ジョシュアの様にマルチタスクを熟せるほど器用でもない。三日月や昭弘のように目を見張るような腕っぷしもない。
なら自分には何があるのか。いや、何もない。少なくとも他に誇れるような能力は何も。ただの仕切りたがりだから、
故にジョシュアは言った。
「お前は責任感が人一倍強いんだな」
責任感で何が果たせるのか。戦えないし守れない。ただ無力なだけで、寧ろ皆の足を引っ張ってしまうだけではないか。
「いいや、そんなことは無い」
それは嘘だ。
「嘘じゃないさ。本当に無力ならとっくの昔に死んでる」
じゃあなんだ。俺には何があるって言うんだ。
「いやぁ。言葉では言い表すのは難しいな」
あっけらかんと述べるジョシュア。そのふざけた発言がユージンを更に不愉快にさせた。
こんな奴が俺よりも優れているのが許せない。だから追いつこう。オルガもビスケットも、鉄華団にいる皆に頼られるような男になろう。そのために血反吐を吐いたってかまわない。
しかしユージンは知らない。自分に出来る事を見極め、物事に全力で取り組める人間がどれだけ優秀であるかという事を。
ブルワーズ編は次回で最後ですね。