命の従花を咲かす少年達 作:班・損
俺、三日月、昭弘の三人で突撃した結果、ギャラルホルンのモビルワーカー部隊を全滅させることは出来た。
しかしその直後に敵モビルスーツの増援が現れた。そんでもってオルガから時間稼ぎを頼まれたので、損耗の激しいモビルワーカー部隊で遮二無二頑張ったら、最終的にCGSの地下倉庫に眠っていたというガンダム・フレームのモビルスーツを駆った三日月が全部片づけてくれた。
要するに何とかなったのである。ただし参番組の戦死者は24人、そして
「……大勢が死んだな」
モビルワーカーの残骸らを見下ろしながら、オルガは呟いていた。たまたま俺はその近くにいたから「そうだな」と短く返す。
「俺の指示は間違っていたと思うか、ジョシュア」
「聞かれても困る。だがそうだな、ギャラルホルンを相手取ったにしては上等なんじゃないか?」
言葉の上ではそう言うが、実際のところオルガの指令は完璧に近かったと考える。
敵は世界規模の治安維持組織だった。ましてモビルワーカーが玩具に見える程には隔絶した力を持つモビルスーツ3機と戦って、
「そうかな」
「なーに弱気になってんだ。やれるだけの事はやった、今はそれでいいだろ。先のことを考えるのは俺たちの仕事じゃない」
思考停止と言われたらそれまでだが、組織だって行動している以上はお上の指示を受けるのが筋である。問題なのはその頭が腐りきっている事なのだが。
「先のことを考える、か。ソレに関して何だがよ、一つ聞いてやくれないか?」
「ん、なんだ言ってみろよ」
「俺は明日にでもCGSを乗っ取ろうと考えてる」
「へぇ?」
オルガから飛び出た言葉は大変興味深かった。機械の残骸群から目を離して振り向くと、オルガは初めから俺を真っすぐ見つめていたようで即座に目が合った。
彼の鋭い眼差しの裏に不安の陰りがある様に見えるのは、果たして俺の見間違いか。
「それが意味する事は分かってんだろうな」
「当然だ」
「今まで俺たちは大人に命じられるがままに命を張ってきたが、組織の頭になったらその立場が逆転するって事なんだぞ」
「ああ、分かってる」
「オルガ。お前、仲間に面と向かって死ねって命じる事が出来るのか?」
「……そうするしかねぇ時は、言ってやる」
俺の意地悪な問い掛けに、オルガは苦々しい顔付きながらもハッキリ返答した。拳を固く握りしめ、強い信念を感じさせる瞳からも彼の意思の固さは伺えた。
「まったく。そこは意地でもそうならない様に立ち回るって言っとけよな」
ぽんとオルガの頭に手を載せた。背伸びして少しでも大人になろうとする彼に対する、せめてもの手向けだ。だからそう、これが最後の
「……悪い」
「気にするなよ。ソレ、俺も手伝っていいのか?」
「願ったりだ」
オルガから差し出された手を握る。彼の勇気ある選択に、最大の敬意を込めながら。
★
夕食時。モビルワーカーの整備を終えたので、雪之丞さんを始めとしたメカニックたちと共に食堂に向かっていた。
すると見慣れない妙齢の女性が配膳をしていたのを見つけた。やたら整った容姿と小綺麗な身なりから、その人物が誰であるかはすぐに分かった。したがって興味が勝って「こんばんは」と声をかけた。
「えっと、貴方は」
「ジョシュアって言います。とりあえず飯下さい」
「あ、はい!」
俺が促すと女性はせっせと手慣れない様子で器にスープを盛ってくれた。どうやら配膳だけでなく調理もしてくれたらしい。彼女の指には絆創膏が張られていた。
「ひょっとしなくとも、貴方がバーンスタイン家ご令嬢ですよね」
クーデリア・藍那・バーンスタイン。
四つに分割された火星自治区首相の娘にして、ノアキスの七月会議の立役者。火星を支配する側の人間が、支配される側の人間の実情を憂い、そのために奔走する活動家である。
「はい、どうかクーデリアとお呼びください」
「じゃあ失礼して。クーデリアさん、一つ質問してもよろしいですか?」
「ええ。それは構いませんが」
心なしか気落ちしているように見えるクーデリアお嬢様。いやまぁ、その理由も推測できないこともないのだが、それは触れないで置いた方が良いだろう。
「どうして警備にCGSを選んだのですか?」
純粋な疑問だった。
もし仮にクーデリア嬢が、自身の活動がギャラルホルンにとって不利益になる事を自覚した上で、命まで狙われる危険性までもを考慮できる賢明な女性であるとするのならば。民間警備会社を利用することで、自身の身の安全を図るのは理解できる。
だがCGSはそこまで大きな企業ではない。ある程度の実績こそ有してはいるものの、絶対数そのものが少ないのだ。何ならCGSがクーデリア嬢を裏切って、ギャラルホルンに情報を流す可能性すらあり得る。
「……私は、ただ火星の現実を肌で感じたくて」
クーデリア嬢は俯きながら小さな声で告げた。それである程度は察することが出来た。
彼女はまさか自分の命が狙われるだなんて露ほども考えてはいなかったのだろう。だがそれと同時に、何処ぞの誰かさんの様に強固な信念の持ち主でもあったのだ。
これを始末が悪いと嘆くべきか、それとも高潔な人間と褒めたたえるべきなのかは判断に困るところだ。ただ少なくとも、個人的には
「それでどうでした? 貴方の目から見た火星の現実とやらは」
貧困に喘ぐ無辜の民草。目に見えない誰かによって張り巡らされた陰謀と策略。そしてクーデリアを守るために目の前で死んでいく少年兵。俺が彼女の立場だったら、相当堪えている自信がある。
「……自分が何も知らない小娘であると、実感しました」
「成程」
「私が、もっと思慮深くあれば、貴方たちを巻き込むことは無かった」
「確かにそうかもしれませんね」
実際、自分の立場少しでも顧みる事ができたら現状よりはマシになったかもしれない。だが逆を言えば―――
「何も変わらなかったかもしれない」
「……え?」
「賽は投げられたんだ。なら君は後悔を教訓に変えるべきだ」
たらればの話に意味が出てくるのは、その人が深く反省している時のみである。だが死んだ人間は帰って来ない。だから彼女のすべきことは、自らの無知を受け入れて次に生かす事なんだと思う。
「すみません、突然上から目線で」
「いや、えっと、その」
困惑した様子のクーデリア嬢の手から、「よそってくれてありがとうございます」とスープの入った器を受け取る。すると彼女は「あの、こちらこそ!」と元気に返事をしてきた。
「頑張って下さい。俺たちの生活、貴方に懸かっているんだから」
「は、はい!!」
これは勘だが、恐らく彼女は失敗を糧に飛躍的な成長を遂げる事の出来る人間だ。
そしてオルガがCGSを乗っ取ったら、きっと金銭的な理由でクーデリア嬢の護衛任務を継続することになるだろう。命を懸けて守るのだ。護衛対象が守りがいのある人物であるのは、僥倖であると言えた。