命の従花を咲かす少年達 作:班・損
強襲装甲艦イサリビ、そのブリッジにて。
「指揮官機を含めたグレイズを4機鹵獲。正直出来すぎだね」
「三日月が化物なんだよ」
端末を見やりながら苦笑いするビスケットに言葉を返した。彼には既に今回の暫定的な戦果をまとめたデータを送っている。
「コックピットが無傷なのはシュヴァルベだけだ。他はフレームごと潰れてる」
「十分だよ。じゃあその機体以外のグレイズはパーツを分解して再利用、リアクターは売り飛ばすって方向で」
「……そうだな。問題は誰に売るかって話だが」
結局のところソレに尽きる。鉄華団唯一の伝手だったオルクス商会に裏切られ、この広く暗い宇宙で我々は当てのない旅をせざるを得ない状況と相成った。正にお先真っ暗な状況って訳だ、宇宙だけに。
「テイワズだ。それしかねぇ」
話を聞いていたらしいオルガがそのように告げた。
テイワズ。主に木星圏で活動する
「そういうと思った」
「でも確かにテイワズなら大きな後ろ盾になるね。後はどうやって話をつけるべきなのかだけど……」
ビスケットは不安を拭い去れない様子で呟いた。確かに彼の懸念は尤もである。
歯に衣を着せぬ言い方をすれば、俺たちは餓鬼の集団である。組織と言うには些か幼く、示せるモノは腕っぷししかない。面子を重んずる彼らの相手をされるとは考えづらいのだ。
「木星に直接向かうしかない。リアクター4基を手土産にな」
なるほど、確かにそれは多少なりとも現実味を帯びた案と言える。だが―――
「クーデリア嬢の護送を他団体に委託するって手段もあるぜ?」
現実的かどうかは兎も角として、俺達にはそういう選択肢もないわけではない。敵はギャラルホルン、対する鉄華団の現状は単独で地球にすら辿り着けないという有様なのだから。
「いいや駄目だ、それは筋が通らねぇ」
毅然と言い放つオルガ。
曲がったことを兎角嫌い、物事の筋を堅く重んじる。理不尽を押し付けられてきた彼の人生、その中で養われた価値観はかくも泥臭く気高い。だから皆オルガについて行くのだろう。
「でもオルガ。運が悪ければギャラルホルンだけでなく、テイワズも敵に回すことになるかもしれないんだよ?」
だが冷静に状況を分析できる者もまた、彼の御旗の下に集っている。贔屓目かもしれないが、良いチームだと思う。
「ま、もうギャラルホルンには喧嘩を売っちまったんだ。奴らの不正を証明できるクーデリア嬢を地球まで送り届けないと、俺たちに明日はない。やるしかないよ、ビスケット」
賽は投げられた。クーデリアの護送を引き受けた時から、俺たちは死ぬか生きるかの道しかなかったのだ。
俺がその様に告げると、ビスケットも「仕方ないのかなぁ」と苦笑した。鉄華団でブレインもといストッパーをこなせる人材はあまり多くない。だから彼はこれからも苦労することになるだろう、それを思わせる一幕だった。
★
イサリビのドック内で、雪之丞さんを中心にして鉄華団のメカニック達がバルバトスの修理及び改造、そして鹵獲したグレイズの解体作業を進めていた。しかしながら、その進捗状況はあまり芳しいとは言えなかった。というのも―――
「まったく楽させちゃくれねーな、お前たちはよ」
「いや、本当に申し訳ないです」
雪之丞さんを含めたこの場にいる全てのメカニックに、モビルスーツに関するあらゆるノウハウが存在しなかったからである。バルバトスと俺の乗ったグレイズの修理でさえ手一杯だというのに、更に鹵獲した他のモビルスーツの分解作業を要求するのだ。そりゃあ作業も遅くなる。
「シュヴァルベの方はどうですか?」
右半身のフレームが剥き出しになったシュヴァルベを見上げる。
損傷が激しいものの、コックピットが無事という理由で再利用される運びとなった本機。一応俺が乗ることになったので、こうして手伝いに来たという次第だ。
「破壊された右腕と右脚部、そして頭部は鹵獲したモビルスーツの物と交換、破損した外部スラスターはMWの物を流用ってな具合だな。同じ規格のフレームとはいえ、まったく手間のかかる事だ」
「……は、はは。手伝うんで許して下さい」
「そりゃあこちらとしては助かるが、休める時は休めよ。お前さん、最近あんまり寝てないんだろ?」
「いやぁ。それを言うなら雪之丞さんもでしょうに」
「俺は大人だからな。意地張らなきゃカッコつかんだろ」
「なら俺もそう言うことで」
俺が軽口を返すと、雪之丞さんは「ったく、テメェはまだガキだろうが」と悪態をついて見せた。だが彼の口角が僅かにつり上がっているのを見逃さない。不器用な人だ。
「さて、それじゃあシュヴァルベの方は俺に任せて下さい」
「おう。だがそれが終わったら大人しく寝ろよ。機械は兎も角、パイロットは替えがきかないんだからな」
「肝に銘じます」
雪之丞さんから許可をもらったので、シュヴァルベの修理に取り掛かる。これでも前世では技術屋だったのだ。専門ではないが同じ規格の部品交換くらいは熟して見せる。
★
シュヴァルベ・グレイズの改装修理が思ったよりも早く終わったので、皆の言葉に甘えて先に上がらせてもらった。また汗と油に塗れて汚れた体をシャワーで清め、ついでに食欲を満たすべく食堂に赴くと―――
「あー貴方は確か」
「フミタン・アドモスです」
少しばかり眼つきの鋭い女性が食事をとっていた。
フミタン・アドモス。彼女はクーデリアの侍女であるが、通信士として優れた技能を有していたため、有難いことにイサリビの臨時オペレータとして手伝ってくれている。
「ご一緒しても?」
「ご随意に」
「では失礼して」
アトラが作り置きしてくれた豆スープと合成ハンバーガーを貪る。船の中は娯楽が少ないが、こと食事に限っては話が別だ。アトラの飯は美味い、本当に良いことである。
「あ、そういえばさ。あの通信技術、どこで習ったんだ?」
人がいるのに会話もしないのは味気ない話で、思いついたことを聞いてみる。するとフミタン女史はその鋭い瞳を更に細めさせた。もしかして藪蛇だったか?
「悪い、無神経だった。言いたくないなら別にいいですよ」
「……いいえ。別にそう言うことでは」
彼女は取り繕うように言葉を返したが、その実安堵しているように見える。ともすれば、あまり触れられたくない過去なのかもしれない。
「CGS、いや鉄華団の子供たちは皆、多かれ少なかれ事情を抱えている。だから、なんて言えばいいかな。今の発言も、あまり気にしないでくれ」
「ええ、それは構いませんが」
「ん?」
「―――貴方にも、何か事情が御有りなのですか?」
貴方にも、か。言い換えれば自身に何か事情がある事を自白しているようなものだが、さて何て答えようか。
「そりゃあ勿論。あんまり話したくはないがね」
流石に公言するのは憚られる。まさか「俺って実は転生者なんでーす」だなんて言える筈がないのだ。というか、そもそも転生という概念がこの世界にあるのか甚だ疑問ではあるが。
「さてと、じゃあ俺はこれで失礼しますよっと」
食器を片付けながら告げる。そしてフミタン女史に向き直って手を差し出した。
「……これは?」
「握手。これから宜しくってな」
「はぁ」
頭の上にクエスチョンマークでも出てそうな顔つきの彼女だったが、そのまま俺の手を軽く握った。ふむ、やはり女性の手は柔らかい。役得だ。
「それじゃあ明日もまた頼む」
「はい」
見た目からしてお堅い女性だと高を括っていたのだが、案外こちらのノリについていける人だった。ひょっとすると貧困層に一定の理解がある人なのかもしれない。さすがはクーデリアの従者だなって思った。
・『シュヴァルベ・グレイズ・リペア』
シュヴァルベ・グレイズの鹵獲機。破損したパーツは同じく鹵獲したグレイズの物を流用、外付けのスラスターは宇宙用MTのスラスターで代用している。
中破した機体を現地修理、改造しているため、通常のシュヴァルベよりも性能は幾分か落ちている。特に機動性は通常のグレイズより多少優れている程度で、操作性の悪さはそのまま。かなりピーキーなモビルスーツに仕上がった。