命の従花を咲かす少年達   作:班・損

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テイワズ編
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 軍隊の能力は練度によって左右される。

 

 勿論それはモビルスーツのパイロットにも当てはまる。というか、原則として訓練なしでモビルスーツは動かせないだろう。一応モビルワーカーの操縦に通じるものがあるが、アドバンテージとしてはあまり強くない。

 

 そういう訳で、現在俺と三日月、そして昭弘の三人はモビルスーツのシミュレーションを行っていた。因みに昭弘は先日まで俺が搭乗していたグレイズ改めグレイズ改が与えられている。

 

 「う、うご、っがぁあああ!!」

 

 昭弘の獣染みた悲鳴が作業ドックに木霊する。訓練とはいえ、昭弘はこれで三日月に八度撃墜された。言い換えれば全敗である。

 

 「おつかれ様」

 

 「糞、三日月の奴マジで(つえ)ぇ」

 

 グレイズ改のコックピット内で頭を押さえていた昭弘にボトルを渡す。彼は俺からボトルを受け取ったが、それに口をつけるより先に「今回はどうでした?」と呟いた。

 

 「そうだな。三日月、というよりもバルバトス相手に良く立ち回ってたと思うぜ。相手が格上かつタイマンの状況になった際は、まず死なない事が重要だからな。さっきよりも大分長く戦えてた」

 

 実際、昭弘はセオリー通りの戦闘を繰り広げていた。それでいて彼の持ち味である”粘り強さ”も上手い具合に機能していた。恐らくだが、三日月も最初の頃に比べたらかなり戦い辛かっただろう。

 

 「……ですかね」

 

 「おう、だから自信を持てって。そもそも三日月レベルの相手が現れた時は、タイマンに持ち込むよりも連携した方が早いしな」

 

 「そりゃあ、そうですが」

 

 「実戦を経験した俺に勝てるようになってきてんだ。マジで上出来だよ」

 

 昭弘に対して偉そうに講釈を垂れている俺だが、実は既にその昭弘に数回負けていたりする。センスの良さで言えば、彼はまず間違いなく俺よりも上だ。

 

 「でも兄貴は三日月と長く戦えてる」

 

 「ああいうのは生き汚いって言うんだよ。臆病なくらいが丁度いいってね」

 

 「そんな、兄貴が臆病だなんて」

 

 昭弘は否定してくれるが、自分のことは自分が一番良く分かっている。根っからの臆病者である俺は生き残るためならば全力になれる。しかし残念ながら、三日月や昭弘の様に命をベットにした戦い方は出来ない。

 

 「ま、俺たちは軍隊じゃない。今まで通りお前たちが斬り込んで、俺がその援護をする。それが一番やり易いだろ」

 

 未だ何か言いたそうにしている昭弘に対して、最後にそう締めくくる。

 

 戦闘能力に特化した彼らの手綱を握る者が一人くらい居ても良い。少なくとも、総指揮をするオルガの負担を減らすことが出来るのだから。

 

 『これより本艦は戦闘状態に移行します。艦内重力を解除、120秒後の回頭に備えて下さい』

 

 唐突なアナウンス。これはフミタン・アドモスの声だ。

 

 「兄貴、こいつは」

 

 「お前はコックピットで待機。出撃に備えろ」

 

 「ああ、了解だ」

 

 俺もシュヴァルベに搭乗し、そのまま無線を三日月の乗るバルバトスにつなげた。

 

 「三日月、準備は?」

 

 『勿論。いつでも出れる』

 

 優秀で助かる。そして今度はブリッジと連絡を図ろうとすると、その前にフミタンの方から通信が送られてきた。

 

 『ジョシュアさん、モビルスーツ部隊の出撃は可能ですか?」

 

 「問題ない。状況は?」

 

 『敵はタービンズ、交渉の決裂が原因です』

 

 おいおい、タービンズと言えばテイワズの直系団体だ。「話が拗れた」で済ませるには、些か致命的すぎる。交渉の場にいなかったのが悔やまれる。

 

 「状況は把握した。俺たちはどうすれば良い?」

 

 『敵艦を直接制圧するため、イサリビに敵機を近づけさせないで下さい』

 

 「了解」

 

 敵艦の直接制圧。誰かが敵艦に乗り込んでブリッジを抑える作戦だ。大日本帝国よろしく神風特攻染みた戦い方だが、その一方でオルガの考え方も読めた。

 

 「フミタンさん、オルガには絶対に死ぬなとだけ伝えといて下さい」

 

 『承りました』

 

 「それじゃあ出撃するんで、エアロックのカタパルトとハッチの開放よろしく。ああ、それと三日月から発進させてくれ」

 

 『はい。目標より敵モビルスーツの出撃を確認しました、数は2機です』

 

 「あいよ」

 

 シュヴァルベを起動、武装の確認する。元から装備されていたランスユニットは取り外している。またワイヤークローは俺が上手く扱える気がしなかったため、三日月のバルバトスに換装されている。

 

 したがってシュヴァルベの武装は120mmライフルと9.8mバトルアックス、そして新たに鹵獲した肩部320mmバズーカ砲のみ。いや、十分だな。

 

 「……さて、あとは俺がコイツを上手く扱えるかだ」

 

 正直な話、シュヴァルベの操作性はあまり良くない。その代わりと言わんばかりにその機動性はノーマルのグレイズよか良好だが、個人的にはあまり好ましく思えない。先日交戦した士官がランスによる突撃しかしてこなかったのも、操作性の悪さを高い機動力で誤魔化せたからだろう。

 

 『発進準備が整いました』

 

 フミタン女史の声で意識が現実に戻される。指示通り既にバルバトスは先行している。そして俺に後に昭弘のグレイズ改が発進する手筈となっている。

 

 「了解。ジョシュア・キサラギ、シュヴァルベ・グレイズ・リペア、出撃します」

 

 

 

 ★

 

 

 

 当然と言うべきか、敵モビルスーツはグレイズではなかった。恐らくはテイワズが独自に開発したフレームなのだろう。だがそれ以上に問題なのは―――

 

 「こいつら手強いぞ」

 

 個々の動きが良いだけではない。数で劣っていながらも、それを連携で補っている。特にピンクを基調とした機体のパイロットはかなりの実力者だ。

 

 『しかも手加減されてる』

 

 更に恐るべき事は、三日月の言う通り敵にまだ余力がある事だ。それでいて全く油断していないのがやり難さを倍増させている。

 

 「だが時間稼ぎはこちらも望むところだ」

 

 俺たちはイサリビに敵機を寄せ付けない様に立ち回れば良い。数の差を疎ましく感じているのは向こうも同じだ。状況はそう悪くない。その様に思考を巡らしていると―――

 

 「エイハブ・ウェーブの増大、新手か!!」

 

 目の前の二機とは他に、新たな波形が凄まじい勢いで増大している。シュヴァルベが可愛く見えるくらいの高機動機、明らかにこちらが本命だ。恐らくこの様子だと、あの新手の目的は俺たちではなくイサリビの方だ。

 

 「畜生やられた! 三日月イサリビを頼むっ!!」

 

 『そのつもりだった。任せて』

 

 「俺と昭弘でこいつらを食い止めるぞ!」

 

 『了解だっ!!』

 

 武闘派で名の通るタービンズの保有戦力がモビルスーツ二機な訳がない。そのことにもっと早く気付くべきだった。とはいえ早期の段階で敵機を察知できたため、まだ致命的な状況ではない。

 

 新手は三日月が迎撃し、眼前の二機は俺たちで抑える。この状況を維持する事が出来れば、イサリビも吶喊し易くなる筈だ。

 

 『全く当たらねぇぞ!!』

 

 昭弘の怒号がコックピットに響く。無駄に五月蠅いが、気持ちは分かる。

 

 こちらの射撃は躱されるというのに、向こうの弾丸は決して少なくない頻度で直撃しているのだ。もしこれがモビルワーカーだったら既に俺たちは死んでいる訳で。ナノラミネートアーマー様様だ。

 

 とはいえ三日月が抜けた穴は大きく、そして相手は強敵だ。感覚的には、ギャラルホルンの正規兵よりも手強いように思える。ならばこちらもその地力の差を覆すような奇策を用いざるを得ない。

 

 「……昭弘、好きに動いてくれ。俺がカバーする」

 

 『―――おう!!』

 

 昭弘に指示を下すと、待っていましたと言わんばかりに応答する。

 

 彼のしつこさは時間稼ぎには打ってつけだ。その代わりにメカニック達の泣きを見る事になりそうだが、死んでしまうよりかは何倍もマシだろう。

 

 するとグレイズ改は最大船速でピンクの機体に突撃していく。その接近を許さない青色の機体に対して俺はライフルで牽制射、こちらに注意を引かせる。案の定青い機体はこちらを撃ち返してきたため、回避運動に注力した。

 

 「頭まで筋肉で出来てそうな戦い方だな」

 

 視界の端で昭弘の戦いぶりを確認しながら呟く。

 

 昭弘が危うくなったところで、ピンクの機体とグレイズ改を引きはがすようにバズーカやライフルで牽制。青い機体が妨害してきたら、あまり相手にせず回避に徹する。相手の嫌がる事をする、戦術の基本だ。

 

 『貴方、いい加減にしなさい』

 

 こちらに急接近してくる青い機体。成程、接近戦に持ち込んで1対1の形を複数作る。正に合理的な立ち回りだ。

 

 「良かった。温存した甲斐がある」

 

 『なっ!?』

 

 シュヴァルベ・グレイズは足が速い。だが今まで俺はその機動力を昭弘のグレイズ改に()()()()()()。それは推進剤の無駄遣いを抑えるだけでなく、相手の感覚を鈍らせるためでもある。

 

 「シミレーションの時よりも少し遅いが、まぁ十分だ」

 

 熟練したパイロットほど敵を良く分析しているものだ。それは如何なる戦場でも同じである。接近戦に臨んだのも、敵が自分の方に勝ち目があると見極めたからだろう。

 

 ならばその感覚を狂わせば良い。シュヴァルベのスラスターをフルスロットルにして、そのまま敵機と距離を離す。それでいて昭弘の援護は継続、俺のスタンスは崩さない。

 

 「俺は臆病でさ。もうちょい牽制合戦しようか」

 

 結局の所、こちらの目的は時間稼ぎだ。

 

 イサリビが敵艦船とニアミスする事さえ出来れば、後は消化試合である。殺し合いでしか己の価値を示せない俺らは、こと歩兵戦に限って敗北は在り得ないのだから。

 

 そうしている内に、オルガから停戦命令が届いた。どうやら上手くいったようだ。

 

 




指揮官タイプだけど、普通に強い主人公。
ただ相手も全力ではないので、残当という事で許して。
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