命の従花を咲かす少年達   作:班・損

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 テイワズ傘下タービンズとの交戦。オルガが率いる実働部隊が敵艦に直接乗り込み、一度は決裂した交渉を成立させた。これにより鉄華団は地球への案内役とタービンズ加入の渡りを、同時に取り付ける事と相成る。

 

 結果だけを並べたら、この上なく上出来な幕引きとなった。

 

 しかし流石に今回ばかりは肝が冷えた。タービンズの棟梁たる名瀬さんがかなり、いや聖人レベルで温厚だったから最悪の事態にならなかっただけで、彼が最初から()()()だったら俺たちの命は大分危うかっただろう。それを実感した。

 

 「毎度の事ながらとんだ博打だったな」

 

 「面目ねぇ。気苦労を掛けた」

 

 自覚があるのかバツが悪そうにするオルガ。彼はいつも皆に苦労しか掛けてないので今更な話だが、今回ばかりは仕方がない。

 

 かくいう俺も交渉の場に居なかったし、何より名瀬さんの船にはマルバ・アーケイがいたのだ。既にマルバと取引していたタービンズが、わざわざソレを反故にする理由がない。

 

 対する鉄華団はクーデリアを地球まで送り届ける事が出来なければ、経営難で倒産する未来が待っている。互いに引けぬ理由があるのだから、戦闘に発展するのも当然の帰結と言えた。

 

 「おう。でも今度はもうちょい俺らを頼ってもいいんだぜ?」

 

 「ああ、重ね重ね悪かった」

 

 「もういいって」

 

 終わり良ければ総て良し、ではないが結果的にこちらの要求が全て通ったのだから、ここはしっかり喜んでおこう。勿論、名瀬さんにはちゃんと感謝してな。

 

 「で、これからはどうするんだ?」

 

 「どうするったって、このままクーデリアを地球に送る。それだけだろう」

 

 「地球に送ってそれで? 彼女を護送して、仕事を終えた俺たちはどうやって火星に帰るつもりなんだ。ギャラルホルンとは既に致命的なまでに敵対関係にある。言っちゃあ何だが、奴らが地球から火星までの星間移動を許してくれるとは到底思えない」

 

 「……あー」

 

 仕事を終えた()()()の事までは、流石に考えていなかったのだろう。オルガはあからさまに苦い顔つきになった。まぁそうだよね、現時点では俺もどうすれば良いか分からないし。

 

 「後で主要メンバーを集めて作戦会議だな」

 

 「……ジョシュアが居て良かったぜ、いや本当に」

 

 「よせって」

 

 オルガの背を軽くたたく。鉄華団に足りないのは首脳の政的な能力だ。

 

 そこら辺は冷静かつ広い視野を持つビスケットであっても、経験が追い付いていない。俺も柄ではないが、まぁ昔取った杵柄という奴だ。年齢詐欺の俺が出来る限りカバーしていこうと思う。

 

 「ああ、それと経理関係の仕事をしてくれる人も欲しいよなぁ」

 

 「そうだな。火星とこっち(イサリビ)の会計をデクスターだけに任せるのは流石に無理があるか。もしテイワズ入り出来たら頼んでみるか?」

 

 「いいんじゃないか」

 

 単に目の前の敵と戦う事だけが戦いではない。将来を見据えた経営戦略を練る事もまた、一つの戦いである。

 

 故に俺たちの話し合いは思ったよりも長引くのであった。

 

 

 

 ★

 

 

 

 「ああ、いらっしゃい。名瀬との話し合いは?」

 

 タービンズが保有する強襲装甲艦、ハンマーヘッドの作業ドックにて。三日月や昭弘がお姉さんたちに扱かれていると聞いたので赴いたところ、褐色肌でナイスバディのお姉さんに話しかけられた。

 

 彼女は名瀬さんの第一夫人、アミダ・アルカさんである。なお先の戦闘におけるピンク色の機体を操縦していたエースパイロットでもある。美人で強いとか隙がなさすぎる、名瀬さんはどうやって口説き落としたんだろ。

 

 「ええ、今終わったところです。何でもかんでも面倒見てもらって、タービンズさんには足を向けて寝れませんよ」

 

 「可愛い弟が出来た心地なんだろうさ。今のうちに好きなだけ我が儘を言っておきなさいな」

 

 アミダさんがニヒルな笑みを浮かべていた。うーんこのカッコ良さよ。タービンズの乗組員から姉御と呼び慕われるのも納得である。

 

 因みに彼女の言う『話し合い』とは、鹵獲品の処遇に関してである。より具体的に言えば、底をつきかけている鉄華団の資金を調達するべく、グレイズのリアクターを買い取ってくれそうな買取業者を名瀬さんに紹介してもらったという次第である。

 

 「三日月と昭弘は?」

 

 「ラフタとアジーに遊ばれてるよ。と言っても、大分マシになったけどねぇ」

 

 アミダさんが顎でタービンズのモビルスーツ、百錬を示す。そこでは昭弘の絶叫する姿が見えた。相変わらず五月蠅いというか、タービンズの皆さんに迷惑を掛けてなければいいのだが。

 

 「そりゃあ良かった。純粋な操作技術が上がるのは俺としても喜ばしい」

 

 「アンタはやらないのかい?」

 

 「そのつもりで来ました。そろそろ俺も強くならないとな」

 

 これでも一応俺は鉄華団首脳の一人なので、三日月や昭弘と比べてモビルスーツの操縦訓練があまり出来ていなかったりする。唯でさえ差をつけられているのに、これ以上強くなられたら俺が付いていけなくなる。

 

 「嫌らしい戦い方をするからねぇ」

 

 「誉め言葉と受け取っても?」

 

 「当然さ。もっと腕を上げたら良い指揮官になるよ、アンタは」

 

 「恐縮ですよっと」

 

 謝辞を述べると共に、壁を蹴って昭弘たちのいる百錬に向かった。作業ドックは無重力下であるため移動はスムーズに行える。

 

 そういえば、今よりもっとガキの頃は無重力空間に慣れなくてすぐに体調を崩したことを思い出した。あとCGS時代だったため、大人たちにくっそ理不尽な暴力を食らったのもついでに覚えている。

 

 「あ、ジョシュアだ」

 

 俺に気付いた三日月が手を振る。それに釣られて俺も「おう」と手を上げると―――

 

 「あー! アジーを困らした人だー!」

 

 ものすごく目のやり場に困る女性が大きな声を出した。いや、露出具合で言えばアミダさんと同程度ではあるのだが。つーかタービンズの女性は皆露出が激しい。眼福。

 

 「今日は訓練できるの?」

 

 「おう。ついさっき交渉を終えたところだ」

 

 「そっか」

 

 三日月の問い掛けに応えると、彼はパッと見興味なさそうに頷く。本当に感情の起伏が分かりづらい奴だ。そこらへんが逆に可愛げを感じなくもない。

 

 「さて。飛び入り参加で悪いですが、俺の相手をしてくれる人はいますか?」

 

 「あ、じゃあ私がやるー」

 

 先ほどの女性もといラフタさんが、我こそはと手を挙げた。彼女は確か高機動機のパイロットだった筈だ。機動性に差があったとはいえ、あの三日月と互角に渡り合ったと言えばその技量の高さも伺える。

 

 「それではよろしくお願いします」

 

 「言っておくけど、私はアジーみたいに甘くないからね」

 

 「誰が甘いって?」

 

 会話に割り込むようにして現れたのは銀髪の女性、アジーさんだった。彼女は前回の戦闘で俺をマークした青い機体のパイロットでもある。集団戦なら兎も角、一対一の戦いでは俺よりも格段に強い人だ。

 

 「来たねジョシュア。前回の決着でもつける?」

 

 にっこりと笑みを浮かべるアジーさん。ともすればその表情から薄ら寒さを覚えた。先の戦いをまだちょっと根に持っているらしい。

 

 「はは、お手柔らかにお願いします」

 

 こうして俺はアジーさんを始めとした、タービンズが誇る女性パイロットたちに蹂躙されるのであった。勿論、スキルアップが図れたので有意義な時間ではあったのだが。

 

 

 

 ★

 

 

 

 「……例えばの話です」

 

 「ん?」

 

 イサリビの食堂。いつも通り自機の整備を終え、シャワーを浴びてから就寝前の夜食をとろうとした時の話である。既に食堂で食事をしていたフミタン女史がいきなり口を開いた。

 

 「大事な責務が二つあったとして。一つを果たそうとすると、もう一つが果たせない状況に置かれた時、貴方ならどうなさいますか?」

 

 なんだかややこしい質問をされた。いつもは三日月以上に何を考えているか分からない彼女だが、今回は苦悩が表情にはっきりと表れている。

 

 夜食時はいつも俺からほぼ一方的に話掛けていたので、少し驚いた。というかどんな状況だよ、それ。

 

 「正直ピンとこないが、俺だったらやりたい方をやりますかね」

 

 「やりたい方、とは?」

 

 「だってどちらもやらなきゃいけないのに、どちらか片方しか出来ないんだろ? だったらもう自分の好みで選ぶしかないでしょう」

 

 「それは、無責任ではありませんか」

 

 無責任。フミタン女史が何を思っているのかは分からないが、どうもその言葉を酷く嫌悪している様子だった。当然だが、俺も好ましく思えない。

 

 「そういう状況になった時点で無責任ってなもんですよ。責任の話をするんなら、そもそも前提が良くない」

 

 「そう、ですね」

 

 唐突に歯切れが悪くなるフミタン女史。これは何時の日か話した()()()()()()()()()()と何か関係していたりするのだろうか。いや、なんにせよ―――

 

 「俺が思うに、人は責任を負ってから道を選ぶべきではないと思う。そうだな、自分の選んだ道で人は責を背負うべきなんだから」

 

 前世からの受け売りだが、切にそう思う。

 

 「貴方が何を迷っているのか知らないが、選択肢がある内に選んでおいた方がいいですよ。多分、一番無責任なのは何も選ばない事だから」

 

 だなんて、何を偉そうに。それが出来たら皆誰しも悩むことを知らなくなるはずだ。

 

 それこそ無責任な発言である。故に謝罪をしようとフミタン女史に向き合おうとすると、彼女はその瞳から一筋の涙を流していた。

 

 「あ、えっと」

 

 「……気にしないで下さい」

 

 気にするなって言ったって。男性が女性を泣かすのは大罪なんだぞ。

 

 「なんだ、その―――」

 

 「ありがとうございます」

 

 「ええと、どうも?」

 

 手当たり次第に慰めようとしたら、彼女は既にいつもの凛々しい顔つきに戻っていた。或いは、その瞳に強い意志を感じたのは気のせいだろうか。

 

 「覚悟は決まりました。それでは御機嫌よう」

 

 「あ、お休みです」

 

 その様に告げてから、フミタン女史は優雅な一礼を披露した後、静かに退出していった。迷いがなくなったのは大変結構だが、俺には何が何だかって感じである。

 

 だから俺は呆然と彼女の後ろ姿を眺めながら、ただ豆スープを咀嚼するのであった。

 

 




フラグを潰して新たなフラグを立てる。

誤字報告をして下さる方々、また評価をつけて下さった方々に、この場を借りて感謝を申し上げます。本当にありがとうございます。
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