命の従花を咲かす少年達 作:班・損
テイワズ代表、マクマード・バリストンの下で行われた鉄華団とタービンズの兄弟盃。貫目は四分六、勿論兄貴分は名瀬さんである。これはマクマードさんの配慮だが、順当でもあった。
また名瀬さんの紹介で鹵獲したリアクターも高額で売り捌く事が出来た。これにより少しばかり鉄華団の資金に余裕が生まれ、無謀な挑戦から始まったこの仕事にもようやく終わりが見えてくる。
―――そう思っていた。
「おいおい、マジかよ」
アーブラウ代表、蒔苗東護ノ介が賄賂疑惑で失脚。新聞の一面にその文言が大々的に報じられていた。
蒔苗はクーデリアの交渉相手だ。だがその蒔苗が権力を失ったとなれば、彼はただの老人になる訳でして。俺たちが命を懸けてクーデリアを地球まで護送する理由がなくなる。
「クーデリア嬢はこの事を知っているんですか?」
「はい、私の方からお伝えしました」
俺がフミタン女史に問いかけると、彼女は淡白に返答した。お仕事が早いようで何より。
「で、彼女はどうするつもりなんで?」
「地球には向かうとのことです」
「いいのか? 今の蒔苗氏は何の力も持たない唯の亡命者なんだぞ」
「ええ、私もその様に具申しました」
フミタンは穏やかに微笑む。いやいや、何も面白くないんだが? クーデリア嬢がギャラルホルンの不正を公の場で暴露してくれないと我々としても大変困る。
「近日行われるアーブラウ代表選挙、お嬢様はそれに賭けるようです」
「それはまた何というか。博打だな」
他人事ではないが、あのお嬢さんはどうも大味なギャンブルが好きらしい。まぁ、鉄華団も彼女も後に引けない状況にあるのだから仕方ないとも言える。結局のところ、命を張るお仕事はまだまだ終わらないようだ。
「ええ、本当に馬鹿な人です」
「いいんですかね。従者の貴方がそんなこと言って」
「失礼。今の失言はどうか内密に願います」
「そいつは構わないが」
何処か吹っ切れたのか、彼女は良い笑顔を浮かべていた。フミタン・アドモスという人間は冗談を言うような人ではなかったと記憶していたが、どうやら少しその認識を改める必要があるようだ。
「少し変わりました?」
「おかげさまで」
「……どういたしまして?」
要領を得ないが、心当たりはある。所感を述べただけで感謝されるのなら安いものだ。
「そうですね。良い機会ですので、貴方にはお伝えしましょうか」
紅茶を口に含んで小休止する。因みに例によって食堂の出来事である。俺が「どうぞ」と続きを促すと、フミタン女史は「それでは」と口を開いた。
「元々私はノブリス・ゴルドンの間者でした」
マジか、と言いたくなるのを抑える。というのもあり得ない話ではないと、今更ながらに思い至ったからだ。CGS襲撃の遠因はひょっとすれば彼女だったのかもしれない。
「わざわざ
「ええ。信じてもらえますか?」
「いやぁどうでしょう。でも少なくとも元スパイを名乗った訳だから、その分くらいなら」
「手厳しいですね」
「順当です」
裏切り者を信用するのは難しいことだ。だが俺個人としては、フミタン・アドモスという女性を信用したいという気持ちもある。
「では貴方に信頼されるよう、より邁進しなければなりませんね」
「ああ。頑張ってくれ」
薄く笑みを浮かべる彼女にそう言葉を返す。面倒なことを聞いてしまったが、まぁ知ってしまった以上は何とかしよう。ただそれはそれとして―――
「そのスパイがどうこうってのは、クーデリアさんには伝えたのか?」
「勿論です」
「それは重畳」
クーデリア嬢がどんな反応をしたのか気になるところだが、そこは両者のプライベートを尊重して黙っていよう。尤もフミタン女史の反応を見るに、心配の必要はなさそうだ。
★
「大分改修したなぁ」
テイワズ本拠地、大型惑星間巡航船『歳星』の作業ドックにて。
マクマードさんの厚意により、鉄華団が保有する全モビルスーツの改修修理をテイワズが請け負ってくれた。そしてその作業が終了したとの連絡を受けて、この場に訪れたという次第である。
「ところでこのカラーリングは?」
元より青を基調とした色合いだったシュヴァルベ・グレイズ。しかしながら俺の前にある機体はホワイトカラーだ。より正確に言うのならば灰色で、しかもなんかちょっとゴツくなってる。
「青は高価なんだとよ」
隣で腕を組みながら佇む雪之丞さん。彼を始めとした鉄華団のメカニック達はテイワズの技術屋からモビルスーツの整備法を学ぶべく、このドックに入り浸っているらしい。勉強熱心なのは大変喜ばしいことだ。後で俺も教えてもらおう。
「高価?」
「ナノラミネートアーマーっつうのは色によって値段が異なるんだよ」
「あーそれで青みたいに実戦的な色は高くなるのか」
「そういうこった。ついでに、白は比較的安価だ」
いやはやそれは何というか、未だ財政面で不安の残る鉄華団にとっては深刻な話だ。だいたい一企業がモビルスーツとかいう金食い虫を三機も保有している時点で察するに余りある。
「それで、俺のシュヴァルベはどこら辺が改修されたんですか?」
「あーちょいと待ってくれよ」
そう言いながら雪之丞さんが端末を弄る。関係ない話だが、職人気質の人がこういうタブレット型のコンピューターを手慣れた手つきで操る様子を見ると、少しばかり不思議な気持ちになる。
「モビルワーカーで代用していた外部スラスターをより高出力な物に換装。それとプロペラントタンクを2基増設、あとタチとかいう武装をくれるそうだ」
「
「それは分かんねぇ。どうも厄祭戦の武器を独自に復元した代物らしい」
「へぇー」
刀は基本的に引いて斬る
「デッドウェイトにならなければいいんだけど」
「そこら辺はお前さんの腕の見せ所だな」
簡単に言ってくれるなぁ。俺としては接近戦はあまり得意とするところではない。比較対象が三日月や昭弘、タービンズのエースなのが良くないのだろうが、やはり支援する方が立ち回りやすい。特に戦場を俯瞰しようとすると、どうしても敵と距離を置く事が多くなるのだから。
「つーかこれ三日月にあげればいいんじゃ? アイツなら俺よりも上手く扱ってくれるでしょうし」
「三日月にも同じものが渡されるんだとよ」
「これ高硬度レアアロイで作られてるんですよね? さすが圏外圏で最も恐ろしい男、金の使い方も恐ろしい」
これで鉄華団はテイワズに大きな借りを作ることになった。穿った見方をすれば、俺たちはもうテイワズから逃げられない。マクマード・バリストン、その異名は伊達ではない。二次団体とはいえ、彼の顔に泥を塗ったらどうなる事か。
「……俺たちがマフィアか。あまり実感が湧きませんね」
「だな」
俺が呟くと、雪之丞さんも同調するように頷いた。幸いマクマードさんも名瀬さんも、筋と義理を大事にする任侠の気質を備えている。だが他の直系団体の頭たちが鉄華団をどう思うかは別の話だ。上手く立ち回るためには、一手二手先を読んで行動していく必要がある。
「……はぁ。こりゃあ気苦労が絶えなさそうだ」
だがやりがいはある。少なくともCGSで働いていた時よりは幾分も。
『グレイズ・グリント』
鹵獲したシュヴァルベを更に改修した機体。カラーリングは灰色(グリントとは)。
外部スラスターは後にSTH-20辟邪で用いられる肩部スラスターを使用することで機動性を大幅に改善。また射撃を専門とするジョシュアために装甲を微妙に追加。
ただしその分燃費が悪くなったので、プロペラントタンクを追加した。
ついでと言わんばかりに、辟邪の両腕部回転ブレードとバヨネットライフルを装備。
完全にテイワズの玩具、もといテストベッド機になっている。