転移者、ガラルの地にて 作:ジガルデ
カブから推薦状を貰い、時間が経った。
カブのあの反応を見てからより一層自分のポケモンたちを見せびらかすべきではないと確信したアイビーは、ジムチャレンジ開催の日までワイルドエリアで過ごしていた。
あまり開会式を行うエンジンシティから離れすぎるのも良くないため、見張り塔付近でキャンプをしていた。
幸い、この辺りはゴーストタイプが多いためか、人の往来は少なくポケモンたちをボールから出していても見られるようなことはなかった。
また、ワイルドエリアの野生のポケモンたちは強い、といっても努力値やミントによる性格補正までしっかりと育成されたアイビーのポケモンたちにバトルを挑んでくる無謀なポケモンはいなかったこともあり、比較的平和に過ごすことができた。
「なんか久々だな。」
開会式の日が明日に迫りアイビーはエンジンシティに戻って来ていた。
当然目的はジムチャレンジへのエントリーだ。
アイビーはカブから貰った推薦状を片手にエンジンジムに向かっていく。
その時だった、後ろでボソッと何かを呟いた声が聞こえ、振り返るとそこには何やら白い仮面を被った少年が立っていた。
「貴方は…何者ですか?」
その少年を見てアイビーは察知した。
彼の名はオニオン、シールド版にのみ登場するゴーストタイプのジムリーダーだ。
彼は不思議な力を持っており、それのおかげでゴーストタイプのポケモンと意思疎通や、死んでしまったゴーストタイプのポケモンが見えたりするらしい。
そんな彼が明らかにアイビーを見て不審がるように呟いている。
その目線の先にいるのは当然アイビーだ。
「ご、ごめんなさい。」
オニオンはアイビーと目があった瞬間ダッシュでこの場から逃げ去っていく。
何かに怯えるように、見てはいけないものを見てしまったかのように。
「なんだったんだ?。」
何があったのかがわからないアイビーは、ただ首を傾げることしかできなかった。
☆☆☆
「はぁ…はぁ…うっ!」
アイビーを見て逃げ出した後、トイレでオニオンは盛大に胃の中のものを戻していた。
「あ…ありえない…。何をしたらあんなことになるんだろう…。」
あの時、オニオンが見たもの、それはアイビーの周りを取り囲むようにまとわりつく無数のポケモンたちの影だった。
10匹、20匹だとかそんな甘い数じゃない。
あの男に取り憑いていたポケモンは数千、数万を超える数だろう。
それらが混ざり合って肥大化し、混沌を産み出していた。
先の説明の通り、オニオンは不思議な力を持つ。
それゆえに本来なら見えない存在を見てしまった。
直視してしまった。
「うえっ!」
思い出しただけで気分が悪い。
早く忘れてしまいたい。
だがそれはできないだろう。
あの場にいたということはジムチャレンジに挑戦するということ、それすなわち勝ち進めば必ずあの人と相対するということだ。
あんな業を背負った人がそう簡単に負けるはずがないのだから。
「辞めようかな…。アレは…アレだけは…ダメだ…。」
ただでさえネガティブな思考を繰り返すオニオンを励ますようにゲンガーがボールから飛び出し、背中をさすってあげる。
それに倣って他のオニオンのポケモンたちも外に飛び出してくる。
「みんな…。」
オニオンはゴーストタイプのポケモンと意思疎通ができる、それは逆を言えばゴーストタイプのポケモンもオニオンの気持ちがよく理解できるということだ。
今のオニオンの状態を見て、心配で心配で我慢できなくなって出てきたのだ。
「うん、大丈夫だよ。」
そんなポケモンたちを抱き抱えながらオニオンは呟く。
あの男に対する恐怖が消え去ったわけではないが迷いはなくなったのだろう、その顔には覚悟が浮かんでいた。
「僕、頑張るよ。みんなと一緒に…。」
そう呟くとポケモンたちをボールにしまい、トイレから出て行った。
アイビー君は何をしたらこんなことになるんでしょうか?
本人はきっと分かってないでしょう。