転移者、ガラルの地にて   作:ジガルデ

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第9話

 

 

 

サイコフィールド、こだわりメガネ、努力値C全ぶっぱ、タイプ一致サイコキネシス。

数値だけで見るのならイエッサンのワイドフォースの方が威力は出るだろう。

だが、それと比べられる程おかしな火力を出しているのがカプ・テテフのサイコキネシスであり、S種族値95という絶妙な数値とサイコフィールドの特性によりカプ・テテフよりも遅いポケモンは人権がほぼ剥奪されたも当然と言わんばかりの環境と化したSM時代の破壊神である。

もっとも、当時はサイコフィールドのエスパー技にかかる補正が1.5倍であったことからメガネをかけなくても火力は申し分なく、逆に遅いポケモンを狩り尽くすためにスカーフを巻く方が強かった。

そのせいで環境が高速化し、S種族値151という飛び抜けて早いフェローチェですらスカーフを巻くようなことが起きてしまっていたのだが…。

 

これらのことから良くも悪くもこれまでのポケモンバトルの環境を壊し、新しい世界に作り替えたといっても過言ではないそんなポケモンである。

また、エスパーとフェアリーの複合タイプであること、その技範囲もそのヤバさを加速させていたのは間違いがないだろう。

 

そんなポケモンが凄まじいレベル差による能力値の暴力と、追加補正の暴力で殴られれば考えただけでも恐ろしい光景しか広がらないのは目に見えている。

現にアイビーは言葉を失って目の前に広がる光景を見ていた。

 

「はは、これ程とは思ってなかったよ。」

 

倒れたヒメンカを抱き抱えながらヤローはつぶやいた。

挑戦者が持つポケモン、それらのレベル帯に合わせた育成状況のポケモンを繰り出し、時には叩きのめし、時には相手を認め次への課題を提示し、そして負ける。

なんなら、負けることが仕事と言われることもあるのがジムリーダーだ。

そんな立場であるヤローですら、『勝てない』。

アイビーの育成されたカプ・テテフのサイコキネシスは、そう思わせるには充分すぎる一撃だった。

仮にガラルスタートーナメントに出場するために育成した手持ちであってもあのカプ・テテフを倒せるかわからない。

倒せたとしても、アイビーの腰に見える残り5つのボールに眠るポケモンたちも、同等レベルに育成されているのなら、どう転んでも『勝てない』だろう。

かつて、負けを知らずにジムチャレンジを勝ち進み、今なお『負けない』チャンピオンと対峙した時に感じたものとは全く違う異質な寒気にヤローは晒された。

 

「アイビーくん、二、三分待っていてくれないかな。今の手持ちでは君と戦うことすらできないんだ。だから、次のポケモンを用意しに行きたいんだ。」

 

原作とは違う流れに一瞬思考を奪われたアイビーだったが、すぐに「はい。」と返事をし、ヤローの帰りを待つ。

そして、戻ってきたヤローの手から繰り出されたポケモンは、アップリュー。

既にサイコキネシスを使ってしまっている以上、キョダイマックスしたアップリューは同レベル帯ならばDに特化すればニ発、Hに振れば確定三発まで耐える耐久を持つ。

おそらくこのアップリューのレベルは74あたりであることを加味して計算したとしても確定で耐えるのは間違いなく、こちらもカプ・テテフをダイマックスしなければフェアリー技を打てず、更に言えばダイマックスによるHP上限上昇がなければ返しのGのちからによるダイソウゲンで確定一発となってしまう。

つまり、アイビーが取る手段は一つしかない。

 

「カプ・テテフ!」

「アップリュー!!」

 

「「ダイマックスだ!!!」」

 

アイビー、ヤローお互いに自分のポケモンをボールに戻す。

そしてその腕にはめられたバングルから力が溢れ出す…はずだった。

 

いや、ヤローのバンドからはキチンとその力がボールに流れ込んでダイマックスを正常に行えていた。

問題があったのはアイビーの方だった。

 

「なに…あれ…。」

 

会場にいた観客の一人がそう呟いた。

だが、その呟きは響めきに掻き消されていた。

その元凶はアイビーのバンドから溢れ出る漆黒のオーラだった。

見る人が見れば祟り神の触手のようだという感想を抱く不快感を催す謎のオーラがカプ・テテフが入ったゴージャスボールに流れ込んでいく。

そして程なくしてボールは巨大化し、ダイマックスしたカプ・テテフが降臨したのだった。

 

 

 

 

 

 


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