陽の差さない朝   作:ばなな亭ミルク

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陽の差さない朝

 

 

 

 今、何時だろうか。

 

 灯りの消えた暗い暗い部屋の中、ベッドの上で仰向けになりながら、そんな無駄な事を考える。暗く閉ざされた空間で、何の意味も無くただ生かされている私の、数少ない考え事の一つ。

 

 今何時だろうか、お母さんは何をしているだろうか、お父さんは仕事から帰っているだろうか、お姉ちゃんは学校から帰っているだろうか。そうやって毎日、限られた思考を繰り返しては、訪れたらしい次の日を迎える。

 

 私はこの家の次女として生まれた。今はこんな暮らしだけど、元々はお母さんとお父さん、お姉ちゃんと仲良く暮らしていた時期もあった。朝は四人でご飯を食べて、仕事に向かうお父さんを三人で見送って、学校に向かうお姉ちゃんを二人で見送って、後はお母さんとお留守番。家事をするお母さんの横で、与えられた玩具で時間を潰して。お昼ご飯を二人で食べて、暫くしたらお姉ちゃんが学校から帰ってきて、お父さんが仕事から帰ってきて、また四人でご飯を食べて。そんな、どこの家でも見かけるありふれた日常を、幸せな日々を過ごしていた。

 

 思えば、物心が付いた頃から不思議に思っていた。私は生まれてから一度も、外に出た事がなかった。窓の黒いカーテンはいつも閉められていて、外の景色すら見たことが無い。つい気になって聞いてもお母さんは話をはぐらかすし、お父さんに聞いても難しい顔をして答えてくれない。人が家に訪ねてきても、部屋で大人しくしていなさいと、挨拶どころか顔を合わせた事もない。そんなだから、私の外の世界への憧れは日に日に増して、一度だけ外に出ようとしたことがある。

 

 ある日、ご近所さんと玄関で立ち話をするお母さんの目を盗んで、部屋を出た私は裏口から外へ出ようとした。出ようとして、偶々二人の話し声を聞いてしまった。

 

 

「そういえば、美緒ちゃんまたテストで一位だったんでしょう? 凄いわねぇ」

 

「いえいえ、そんな。でも……自慢の“一人娘”です」

 

「私もあんな可愛い女の子が欲しかったわぁ」

 

 

 なんでもない世間話だった。何処にでもある、ご近所同士の何気ない会話。だけど、私はこの時大事な言葉を聞き逃さなかった。

 そして幼いながら、この時私は理解してしまった。何故お母さんはお姉ちゃんを一人娘と言ったのか。何故いつまでも私に関する話題が出ないのか。何故私は外に出してもらえないのか。

 

 

 それは、私がこの家にいない、生まれていない人間として扱われている……私はこの世界に必要のない存在として、ただ生かされているだけなのだと。

 

 ショックで、だけど本当の事を言われるのが怖くて、お母さんに聞くことも出来なくて。この日の事を胸に秘めたまま、それまでと変わらない生活を続けた。

 

 

 

 そして、気付けば私の扱いが大きく変化していた。

 

 

 

 初めに、部屋から出る事を禁止された。

 

 読書が趣味の私にとっては、初めはそれほど苦ではなかった。みんな毎日部屋に様子を見に来てくれたし、独りぼっちという感じではなかった。だけど、家族全員と食卓を囲めないというのは、想像以上に辛い。私の食事にはいつもお母さんが付き添ってくれたけど、寂しさは消えなくて。何でみんなと食事が出来ないのかと理由を聞いても、お母さんは言葉を濁して、教えてくれる事はなかった。

 

 

 次に、部屋の灯りを消された。

 

 突然の事に動揺して、本が読めなくなると両親に抗議したが、お母さんとお父さんは聞く耳を持たなくて。お父さんの仕事のお手伝いだと言われたけど、詳しい理由は教えてくれなかった。

 

 

 極め付けに、よく分からない薬を毎日いくつも飲まされた。

 

 身体に悪いところは無いのに、何故薬を飲まないといけないのか。お父さんの仕事に関わる事らしいが、それも詳しくは教えてもらえなかった。

 

 家族四人で笑い合っていた日常は遠くへ行き、いつしか暗い自室で私一人。ご飯と薬を運んでくる時と、身体を拭きに来てくれる時にお母さんと少しお話するくらいで、それ以外の時間はただ、暗い空間の中で佇むだけ。

 お父さんとは薬を飲んでいる時に偶に顔を見るだけで、お姉ちゃんとはここ何年も話していない。それどころか時間の経過すら分からず、何年経ったのかも分からない。

 

 時の流れを感じる事はなく、気が付けば次の日がやってくる。そうして、今日もまた、私は陽の差さない朝を迎えるのだ。

 

 

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