陽の差さない朝   作:ばなな亭ミルク

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私のお母さん

 

 

 

「どう、おいしい?」

 

 真っ暗な空間の中で聞こえてきた、食事中の私へ問いかける優しげな声。こんな生活が始まってから、ずっと私の心の拠り所になっている人の声。その声を耳にする度に、冷え切った心がぽかぽかと温まっていく。そんな、私の大好きなお母さんのおっとりとした声が、聞こえてきた。

 独りぼっちの時間が長い私には、短い時間でも会話が出来るこの食事時が唯一の楽しみだった。口に含んだものを数回咀嚼して飲み込んだ後、お母さんがいるであろう方向へ向かって笑いかける。

 

「……うん、おいしい」

 

「よかった」

 

 顔は見えないけど、その声からは嬉しそうに言葉を投げ返してくるお母さんの笑顔が脳裏に浮かび上がった。暗闇の中での生活を始めてから、ずっと見ていないお母さんの顔。黒い長髪に吊り上がった細い眉、パッチリの黒目に小さな鼻。顔は実年齢より一回り以上は下に見えると、昔近所の人が言っていたから、多分とっても幼顔。子煩悩で、いつも私に優しくしてくれる、そんなお母さん。

 暗い部屋だから、周りは当然何も見えなくて、私一人で食事はとても出来ない。だけど、お母さんは暗い中でも周りが見える目を持っているらしく、食事や身体を拭く作業は全て頼ってしまっている。私が頑張っているから、お母さんも頑張るよ、と言ってくれて。この生活の中で行える範疇なら、私の我儘は多分何でも聞いてくれる。

 

 そんな風に思ってしまっているからだろうか。ここ最近不満に思っていた事を、私はつい口にしてしまった。

 

「ねぇ、お母さん」

 

「何?」

 

「その、ね。このお粥も美味しいんだけど、いつも同じような料理だと物足りなくて。偶には違う物も食べてみたいかなぁ、なんて……その、お母さんが昔作ってくれたドリアとか———」

 

 さっきはおいしいって言っちゃったけど、正直に言ってしまうとこの頃の食事はお粥のようなものばかりでつまらない。お母さんも忙しいだろうから、あまり困らせたくなくて今までは言えなかったけど、流石にこう長く続くと思うところもある。だって、本来のお母さんの料理はとってもおいしいから。

 

「っ……いつから、お粥だったっけ」

 

「分かんない。分かんないけど、結構前だと思う」

 

「そっ、か……ごめんね、お父さんに相談してみるね」

 

「ありがと」

 

 やっぱり困らせてしまったみたいで、お母さんの声に少しだけ元気が無くなった。申し訳なく思う気持ちが込み上げてくるけれど、期待感もあって複雑な心境だ。

 お母さんの声に合わせて私も口を開けて、運んでくれたお粥を口の中へと含む。同じお粥なのに、その一口だけは少ししょっぱかった。

 

 

 

 結局、お父さんからの許しが出なかったようで。我儘の代償だろうか、次からの食事は全部お粥になった。

 

 

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