陽の差さない朝   作:ばなな亭ミルク

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私のお父さん

 

 

 

 私のお父さんは、とても優しい人だった。顔は恐くて子供も泣き出しそうな見た目をしているけれど、私やお姉ちゃん、お母さんをとても大事にしてくれた。仕事だって忙しいはずなのに、必ず朝と夜は家族みんなで過ごせる時間を作ってくれた。そんなお父さんの事を、お母さんやお姉ちゃんは大好きだし、私もお父さんの事がとても大好きで。

 

 

 だけど、私を暗い部屋に閉じ込めたのはお父さんだった。

 

 お父さんは、色んな病気を治す為の薬を作っている、研究者なのだそう。そんなお父さんを手伝う為に、私は真っ暗な部屋で生活をしている。

 事前に話を聞かされていたなら、私は手伝わなかったかもしれない。家族みんなとの時間が無くなる上に、本だって読めなくなる。お父さんは大好きだし、そんなお父さんが困っているなら、可能な限り手伝ってあげたい。だけど、暗闇の中に独りぼっちは怖いし、寂しいのは私だって嫌だ。

 そうやって私が嫌がるのを分かっていたからだろうか。ある日目を覚ますと、私は暗闇の中に閉じ込められていた。怖くなって大声を出して、慌てて部屋に入ってきたお母さんに話したら、お父さんのお手伝いの一環だと説明を受けた。酷いことも言ったし、お母さんやお父さんを傷つけたと思う。未だにその事を謝っていないから、今も少し心苦しい。

 

 

 色んな薬を飲んでいるのも、お父さんの仕事のお手伝いだ。

 

 暗い部屋で過ごし始めた頃から、私は毎日薬を飲まされた。お母さん曰く、私がその薬を飲めば、お父さんの仕事が進んで、とても助かると言っていた。薬を飲んで体調を崩した時には、様子を見にお父さんが部屋に来てくれる事もあるし、お話もできる。どんな薬なのか、詳しくは教えてくれなかったけれど、私の身体に悪い影響はそこまで無いから、心配しなくてもいいと言っていた。お父さんの助けになっているのなら、私はとても嬉しいし、これからも手伝いたいとも思う。

 けど、終わりの見えないこの生活はやっぱり辛くて。だけど、お母さんやお父さんは困らせたくなくて。そんな複雑な気持ちだからか。最近は、お父さんの事が少し苦手だ。

 

「元気そうだな」

 

「うん、多分」

 

 身体を起こしていた私に投げ掛けた、お父さんの低い声。つい素っ気なく答えてしまった私の態度に戸惑ったのか、暫くは次の言葉が響いてこない。失敗したと思いながら、私もどう会話を繋げていいのか分からず、黙ったまま。本当はもっと話したいのに、私の心がそれを許してくれない。今の私の状況は全てお父さんのせいなんだから、悪いのは全部お父さんで、そんなお父さんと話す必要なんか無いと。

 でも、お父さんの声を無視するほど、私も強い子供ではなくて。

 

「薬は、辛くないか?」

 

「大丈夫だよ。偶に疲れる時もあるけど、いつもの事だから」

 

「そうか……」

 

 違う、本当はそんな事を言いたいんじゃなくて。お父さんの為だから頑張れるって、お父さんも仕事頑張ってって、そう言いたいのに。思っていても、それを言葉にするのがすごく難しい。

 せめて、本当の気持ちを伝えられなくても。少しでもいいから、お父さんの事を想っているんだと伝えなきゃ。例えば、今のお父さんの声は、どこか……

 

「お父さんこそ大丈夫? 何だか疲れた顔してる」

 

「み、見えるのか!?」

 

「見えるわけないよ、この部屋真っ暗だもん。だけど、声を聞いたら何となく分かるよ。お父さん疲れてるんだなって」

 

「っ……そ、そうか。いや、お父さんは大丈夫だ」

 

 最初はどこか慌てた様子で。だけど最後は、昔に聞いたことのある、優しさを孕んだお父さんの低い声。紛らわしい言い方をしてしまったから、お父さんを心配させたのだろうか。私が見えないようにわざと部屋を暗くしているのに、見えてしまったらお父さんにとっては困るだろうから。それが一体どんな意味があるのか、教えてくれないから私には分からないけど。お父さんの仕事は難しそうだから、聞いてもきっと私には理解出来ないだろう。

 

「薬を置いておく。後でお母さんに飲ませてもらいなさい」

 

「うん」

 

 結局、私の本当の気持ちは伝えられずに、扉を閉める音が響いた以降お父さんの声は聞こえなくなった。多分部屋から出ていったんだろう。

 お父さんが薬を置いていったという事は、多分また新しい薬が出来たから。今日の薬は、苦しくならないといいけど。

 

 

 

 私の不安は的中し、その夜はずっと胸が苦しかった。

 

 

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