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また、あの夢。
いつからか、定期的に夢を見る。
やけにリアルな、まるで物語のバッドエンドの物語のような夢。
あの子は、目の前で嬲られ殺された。
俺は、何も、誰も守ることもできない。
俺自身は弱いまま、ガキのまま大人になっていた。
夢の中は、頭のおかしいクズが蔓延る世界。こんな腐った世界で、俺の一番大切な二人が凄惨な末路を辿る事は想像に難しくなかった。
その想像は、いつも夢として俺に見せてくる。
いくら眼を閉じようとも、絶望の光景は俺の視界に張り付いて消えない。
ある日の夢では、名前も知らないヤツのせいで、人形のようにされていた。
次の夢では、名前も知らないヤツらにいいようにされていた。
そして最後に、二人とも失い、俺だけが残っていた。
もう、声も涙も枯れ果て、茫然と膝をついていた。
全ては自分が弱いから。
全ては自分が甘いから。
これは本当に夢なのか、
俺が過去に経験したのか、未来に経験していく事なのか、
答えは出ないが、そんな想像を現実にしない為に、今日も自分を追い込み続ける。
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【予選2日目】
この街には巨大なコロシアムが建っている。どれ程の人を収容する事ができるのかわからない程に大きな建造物。そして、この建物が利用される目的はたったひとつ、闘神大会を行うためのみ。ここ、闘神都市の名前を冠したその大会は、強さを求める者の夢と欲望を一手に引き受ける大会。一対一の決闘によるトーナメント、勝者には栄誉と役得がついてくる。ほんの一ヶ月にも満たない大会期間の間に、幾多の英雄と名勝負、そして伝説が生まれる大会。
そのコロシアムの中にある、闘神大会の受付窓口に、俺はいた。
「あちゃー。きちんと説明してから確認をしようと思ってたんですが……」
受付の活発そうな、明るい緑色の髪を持つ美人な女性 シュリさんが、俺へと話しかけている。実年齢は知らないが、若く見えるシュリさんはこの闘神大会での受付をうん年はしていると言っていたのを思い出す。
「え、えぇぇーーー!?」
隣で驚いているのは──
羽純……
俺の、物心つく前から、双子のように育ってきた幼馴染みにして、付与師。
付与師と言うのは珍しい職業で、簡単に言うと武器や防具、アクセサリー、身近な日用品などに付与素材のアイテムを付与魔法で付与する職業。なぜ珍しいのかと言うと、付与をする時に元々ある付与の余地に付与をしていくのだが、まずそれを視る事ができる人間でなければそもそも付与師になる事はできないからだ。
そんなすごい付与師ではあるが、見た目はオレンジ色の長い髪と、青い瞳が可愛らしい大人しそうな女の子。俺にとっては見慣れた、家族のような妹のような存在だった。
なぜそんな羽純が驚いているかと言うと、闘神大会での試合の勝者には相応の賞品が授与される。それはお金や貴重な武器や防具、アイテムなどといった物。
──そして最後に、敗者のパートナーを二十四時間の間自由にする権利が与えられる。
今は、階段につまづき、よろけた羽純を支えた拍子に二人ともが受付机の上の大会への参加契約書の上に手をついている状態。それによって、出場者である俺と、そのパートナーとして、魔法契約を結んでしまったところだった。俺が負けた場合、羽純は俺を負かした相手に二十四時間の間自由にされる。つまり、
「自由に、と言いますが勝者の方は大抵えっちしてますね」
「え、ええ、えっちって……わ、私イヤです!!」
「だから説明してからと思っていたのですが…これは魔法契約でして、それにもう契約は完了してしまいましたから…」
シュリさんは少し申し訳なさそうな顔をして説明を続けた。既に見えはしないが魔法契約の印が俺と羽純には付いている。もう、取り消す事も逃げ出す事もできない。
更に負けた場合、出場者には一切のペナルティーは無い。もちろん殺されても負けとなるが、戦闘中に起きた事以外は負けた場合のペナルティーは全てパートナーに降りかかる。二十四時間自由にされた上に、三年間の無償労働が課せられる。だが、無償労働の方は免除金である三万ゴールドを支払えば免れる。というふざけた仕組み。
「羽純、ごめん。──でも、取り消すこともできないなら勝つしか無い。俺のせいだし、事後ですまないが……俺のパートナーとして一緒に参加してくれないか?」
「……う、うん。そう、だよね。もうどうしようもないんだし…それに私がつまづいちゃったせいだから…ナクトは悪くないよ…」
「ありがとう、でも、俺がもっと気をつけていれば良かったんだ…ごめん…」
ここで絶対勝つから大丈夫だ、なんて事は言えない。
絶対なんて、この世には存在しないという事は嫌と言うほどに見せられてきたのだから…
その後シュリさんから一通り説明を聞き終え、ひと段落着こうと俺がとっている宿へと向かった。
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闘神都市。
これは闘神大会という催しが世界でも群を抜いて有名な大会のため、それを受け入れる事ができるこの街はかなり大きく広い。様々な店が入っており、大通りはうし車が十台が横に並んでも平気なくらいに広い。そんな大通りではなく、少し外れた脇道を、うつむいた羽純と二人で歩く。
「ナクト、重くない?やっぱり私が持つよ?」
「大丈夫。それにもう少しで着くよ」
俺が既に支払いまで済ませている宿『カテナイ亭』。羽純もこの街についたばかりだったので、羽純の荷物を持って歩く。羽純も俺と同じ宿の部屋に泊まる事にしたのだが、俺のとっている部屋は唯一空いてたスイートの部屋だし、二部屋あるからと羽純も了承してくれた。ただ、宿の名前が闘神大会に出る者からすれば縁起が悪すぎて羽純も聞いた時は苦笑いを浮かべていたが。
「あら、おかえりなさーい」
「今帰りだぽん?」
宿の前まで来ると挨拶をしてくれたのは宿の主人となるご夫婦 マルデ・カテナイさんとトコトン・カテナイさん。マルデさんは狐っ子の様に狐の耳が頭に二つ生えているが綺麗な人間の女性。トコトンさんは、完全に見た目はただのかわいいタヌキ。
この二人が夫婦と言うのだから世の中わからないもんだ。
「ただいまです。あと、俺の部屋、やっぱり二人で泊まってもいいですか?」
「もちろん良いわよー。きちんと代金は頂くけどね。ナクトくん、可愛いパートナー見つけたのねー」
「か、可愛いだなんて…あの、私は羽純・フラメルです。ナクトとは幼馴染みで。今日から宜しくお願いします」
「あーはいはい。大丈夫よ。でも頑張りすぎてあんまりベッドを汚さないでよね。クリーニング代取るから」
「え?ベッドを…ですか?」
可愛いと言われ少し照れた羽純がペコリとお辞儀をするが、マルデさんの返しに頭にハテナを浮かべる。
「マルデさん、ひとまず疲れたんで部屋に荷物置いてから支払いに来ます」
羽純はこう言った事に慣れていない。と言うよりは怖がっている。と言う方が正しい。だから、話を早々に打ち切り部屋に行く事にした。
「羽純は奥の部屋でもいいか?手前は何かとあるだろうし、今は俺の荷物もあるし」
「うん。いいよ」
「あぁ。じゃあ荷物はここに置いておくな。マルデさんに支払いしてくるから、終わったら荷物の整理手伝おうか?」
「いいよ。自分でやるから。あの、宿代、私も持ち合わせはあるよ?」
「まきこんだのは俺だし、余裕はあるから大丈夫だよ。ありがとな」
そう言って俺は階段を降りて、ロビーへと向かう。
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部屋に一人となった羽純。
なんだろう。
なんだかナクトが大人っぽく思える。
頼もしくもあるし、何よりも強さを感じた。
応用学校を卒業して、だんだんと会わなくなって
冒険者のベルナーさんのお手伝いを始めて三年。
すれ違ったときに簡単な挨拶を交わす程度になっちゃったけど、
荷物を持ってくれたり、整理も手伝うって言ってくれるなんて。
昔からナクトは優しかったけど、今は少し違って見える。
村を出るときに話をした時も感じたけど…
ベルナーさんとナクトのお母さんからナクトが闘神大会に出場する為に村を出るという話を聞いた。ずっとこの村で一緒にいるのだと思っていたけど、5年前から帰らないお父さんを探しにナクトは行くつもりなんだそう。
その話を聞いてから、居ても立っても居られず、その足でナクトの元へと向かった。
その時のナクトも、明日発つんだと言うその姿は、落ち着いた逞しい男性に見えた。
小さい頃からずっと一緒にいたのに。
ほんの数年会わなかっただけなのに。
そんなナクトが気になってこの街まで追いかけてきてしまったけど、まさかこんな事になるなんて。
今は闘神大会のパートナーとなった事よりも、ナクトの事が気になってしょうがなかった。
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羽純と二人で酒場に行くと、お店の人から挨拶をされる。
酒場の看板娘であるアリサ・エロリスと店主であるバーテンハニーの伊集院 雅人さん。
アリサちゃんは藍色の長い髪をした可愛らしいウェイトレス。もちろん人間。伊集院さんは、ハニーと呼ばれるハニワの魔物。この世界では魔物の中にも人間と敵対するものとそうでないものがおり、伊集院さんは後者だった。
実はこの二人は恋人同士で今は結婚資金を貯めているところ。カテナイ夫妻と言い、この街には特殊なカップルが多く存在していた。
明るい店内とアリサちゃんの格好から酒場というよりもカフェに近い雰囲気のお店で、羽純と今後の話をする。
「まずは予選、だよね…今日はどうするの?」
「あぁ。食べ終わったら行ってくる。本戦にも出れずに予選落ちになんてなったら洒落にならないからな」
「うん。じゃあシュリさんに聞きにいこっか」
「いや、実は羽純と会う前に聞いてるんだ。予選は昨日から四日間に渡って予選迷宮ってとこでとあるアイテムを集めるらしい。既に昨日行けてないから、さっと行って集めてくるよ」
そうしてある程度の話を終えて予選迷宮へと向かう。
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「フッ!!」
迫りくる魔物を斬り伏せる。
この程度の魔物であれば相手にならない。
「チッ。やっぱ既に少ないか……」
先に受付を済ませた参加者たちが狩り尽くしている為か、指定された収集物である『いかなご』がなかなか見つからない。だが、諦めるわけにもいかず夕方までの時間いっぱい迷宮へと篭り魔物を狩り続けていた。
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「あ、ナクト。おかえりなさい」
「ただいま。羽純」
出迎えてくれる羽純に手をあげて答える。
予選迷宮は朝9:00から夕方16:00までの時間のみ探索が許されている。今は探索の時間が終わった為に、次々と予選参加者が出てきており、中には羽純にいやらしい目を向ける者もいたので不快な気分になる。そいつらを殺気を込めて威圧すると蜘蛛の子を散らすように離れていった。
「……どうしたの?」
「ん、何でもないよ。帰ろっか」
「うん!」
笑顔でうなずき横を歩く羽純。
二人で街を歩いて、夕飯の材料を買って、羽純の作った料理をカテナイ亭で食べる。
もしかしたら、ついて来るかもしれないと、心の片隅で思っていたから、わざと羽純とは距離を取っていたのに……
こんな事なら、村を出る日に羽純に会うんじゃなかった。と今更な後悔をずっと感じていた。
でも、羽純と二人でいる今は、確かに幸せだと感じていた。