ReⅢ闘神都市   作:eeeeeeeei

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本戦6日目

──────

 

【本戦6日目】 ─二回戦開始─

 

第一試合

 ナミール・ハムサンドvsアジマフ・ラキ

第二試合

 ラフレシア頭巾vsぶるま大使

 

──

 

 

「……この辺もまだ、相手にならない…か」

 

 今はマビル迷宮のダンジョン『だんごの里』というところに来ていた。

 突然変異種も出てこず、たいした魔物は現れない。

 いくつかの行き止まりはあったもののそのままダンジョンの奥へ向かう。すると、見知った顔がいた。

 

「ぽやぽや──この先に宝箱だんごの聖地、伝説の『だんごの里』が」

「ん?」

「だんごの里、それは宝箱だんごの故郷、ほどほどの宝の並ぶそこは、まさに夢のエルドラド」

 

 ただ、知ってるはずの女の子とはなにか感じが違う。

 そして、その子の先に見える道は一本の細い吊り橋になっているよう。まるでその吊り橋を守るように、『宝箱だんご』と呼ばれるモンスターが鎮座していた。

 

 宝箱だんごとは泥のような体から腕が生えている魔物。なぜ宝箱だんごと呼ばれているかと言うと、ダンジョンなどで冒険者の開けた空の宝箱をその腕で持ち歩くと言う習性があり、しかもそこに個々のだんごが好みの物をいれていくのだ。しかも、より気に入った空の宝箱を見つけると中身を入れて持ち歩いていた宝箱はその場に放置し、新しい空の宝箱を持ち歩く。ダンジョン内で冒険者が胸を踊らせる宝箱はこうして世界中のあらゆるところへ散らばっている。

 

「おや、お兄さんは渡れませんよ。だんご以外の侵入を拒むスーパーガーディアン門番だんごを突破できるのは私だけ…つまり、全ての宝は私のものだぜ」

「? ナミール、感じ変わったな。なにかあったのか?」

「ぽやぽや──私は私。お兄さん、それはもしかして私を口説いてます?」

「いや、そんな気はなかったが不快だったら悪かったな」

「いえ、言ってみただけです。では私はお先に──行け、だんごろう。キミに決めた」

 

 そう言ってどこからか宝箱だんごを取り出す。

 橋の前に鎮座する宝箱だんごと同様にその手には何も持ってはいない。

 するとナミールを持ち上げただんごろうを、門番のような宝箱だんごはだんごろうごとナミールを持ち上げ、反対側へとやさしくおろした。

 

「伝説のガーディアンもこんなもの──エルドラドの秘宝は独り占めなのです。いけいけごーごー」

 

 今の現象はよくわからないが、近くにいた冒険者が解説のように語り出した。無駄なウンチクが多いので省くが、あの宝箱はだんごの里への侵入を拒むガーディアン。宝箱だんごのみを持ち上げ里へと案内するのだそうだが、もちろん俺に宝箱だんごの相棒などいるはずもない。

 

 ただ、認証シールの台座はいまだに見つけれておらず。行き止まりばかりにつかまって、この先に行くしかないと言うことはわかっていた。

 

「まぁ、対岸は見えてるしな」

 

 剣を抜き放ち、膝を曲げ力を溜める。そのまま地面がえぐれる程踏み込んで対岸へと向かって跳躍し、崖へと剣を横に突き立てる。

 

「わりと落ちたな」

 

 対岸までの距離が長く、崖下10mくらいで剣にぶら下がりながら呟くと下を見る。

 

 こういったダンジョンにある崖の底はどうなっているのか、誰も知らない。他のダンジョンに繋がっているやら、底は無く、永遠に落ち続けるなどと言われている。

 そんな、時に蠢く暗闇を眺め、崖上へと登り始める。

 登り切ったところは自分の肩くらいの高さしかない小さな家が立ち並ぶ里があった。

 

『るーるるー♪』

『るーるるーるるーるー……』

 

 意思の疎通はできているのかわからないが、宝箱だんごの泣き声の響きわたる小さな里。その中を歩いていると、小さな高台に揺らめく金色の髪が見えた。

 

「────ふふふのふ」

 

 ぽやぽやしながらも嬉しそうな顔をしたナミール。周りには空の宝箱が散乱していた。

 

「一足遅かったようですね。この通り、あんなアイテムもこんなアイテムも、綺麗なサクラ貝も、この世の全ては私のもの。羨ましいか、この野郎…です」

「そっか、まぁ羨ましいかな。流石エルドラドだった?」

「もちのろんです。でも、サクラ貝という言葉、とても卑猥だとは思いませんか?」

「いや、別に……」

 

 突然何を言い出すのか…それに、持っている武器が、杖?前あったときも試合でも、二刀流の剣士だったはずだが…

 

「濡れ濡れのサクラ貝… 僅かに開きかけたサクラ貝に黒光りする硬くて──」

「言い方の問題だろ……でも、ほんとに感じが違うな。君、ナミール・ハムサンドであってるよな?」

「そうですです。私がナミール・ハムサンドです」

 

 とぼけたように言うが、見た目は確かにそっくりだが、全然しっくり来ない。

 

「じゃあ、俺が話した子の方がナミールじゃない?双子か、もしくは二重人格か?」

「ある時は剣士、またある時は魔法使い。その正体は……あでゅー」

「いや、正体はなんだっての」

 

 とぼけたままに去っていくナミール(?)。とは言え呼び止める程でもなく、俺も里の奥、認証シールの台座へと向かった。

 

 

────

 

 

 ナクトが探索に向かって、工房での午前中の仕事を終えて簡単な昼食を食べに出ていた。

 

 普段はお弁当を作って食べているのだが、昨日は酒場での夕食だったので、買い物をしていなかったから手軽なもので済まそうと、工房からも近いトトカルチョ会場側のカフェへと入り、コーヒーとサンドイッチを頬張っていると、周りの話し声がついつい耳に入る。

 

「次のトトカルチョはどーするかなぁ」

「勝ちが確定してんのは十六夜選手だろ!なんたって忍者だぜ?」

「忍者ってだけで…そんな強いのか?」

「おまえ一回戦見てないのかよ?相手の攻撃なんて一度もあたってないぜ。まさに消えるように動いていたからな。魔法使い相手ならまだしも、次は子供剣士だろ?絶対十六夜選手だな。全財産賭けるぜ、俺は」

 

 忍者…十六夜…

 ナクトの次の対戦相手の事だ…

 そんなに強い人なんだ、ナクトは、勝てるよね…?

 

 自問自答に答えてくれる人などいるはずも無く、落ち込んだままに工房へと戻ると、小さなお客様がやってきた。

 

「失礼します」

「いらっしゃいま…せ?あの、こちらは付与の工房なんだけど…」

「はい♪知っております。お姉様が付与師の方でいらっしゃるのですか?」

「うん…じゃなくて、はい。私が付与師ですけど…付与魔法は取り返しが効かないので個人での依頼は受けてないんですけど…」

 

 随分と身なりの良い、10歳くらいの可愛らしい少女。

 失敗すると付与スロットがダメになるので、個人での依頼は受けない事に決めていた。

 

「あら、そうなんですの…おじさまに付与してもらえと言われてきたのですが……また来ますね。ところで、お姉様はいつからこちらへ?こちらの工房は最近まで無かったような気がするのですが…」

「えぇ。ごめんなさい。そう、ちょうど最近開いたんだよ」

「そうなんですの。やはり、闘神大会に合わせてですの?」

「うん。そうだよ」

「やっぱり!こんなに素敵なお姉様でしたら、お見かけしたら絶対覚えてますもの。もしかして、どなたかのパートナーではありませんか?」

 

 素敵な、と言われて恥ずかしい気持ちが込み上がってくるが、この子、すごく鋭いな。

 

「そうだよ。ナクト・ラグナードのパートナーなの」

「そうでしたの!ではお姉様は、そのナクトお兄様とは恋人同士でらっしゃるのですか?」

「そ、そんな…!違うよ…ナクトとは、小さい頃から一緒で、家族のような関係だし、そもそもパートナーになったのも私の不注意で…」

 

 ナクトは、そう。私にとっては、幼馴染であり、家族だと思ってる。恋人では、無い。

 

「そうでしたの…でも、お兄様でしたら次の対戦相手は……でもでも、お姉様は付与師ですものね。あれだけ素早いお方でも魔法が使えれば確実ですもの。お兄様の武器には既に魔法付与を施してらっしゃるんでしょうね」

 

 魔法付与…カフェでの会話を思い出す。

 

『……魔法使い相手ならまだしも、次は子供剣士だろ?絶対十六夜選手だな。全財産賭けるぜ、俺は』

 

 魔法使いなら、まだしも…それは──

 

「魔法なら…絶対に命中するから…」

「えぇ。ですから次の試合はお兄様の勝利は確実ですね」

 

 魔法は外れる事は無い。相手を指定して打ち出したのなら必ず命中する。どれだけ早く動こうとも、文字通り消えない限りは、絶対に。

 でも、ナクトの剣には今、マポを付与するほどのスロットは、もう無い…

 

「次の試合、楽しみにしておりますわ。──あ、あの…お姉様、こちらへはまた来てもよろしいですか…?」

 

 試合を見れるという事は、この子はどこかの貴族の娘さんなのだろう。そして今は少し寂しそうにこちらを見上げている。

 

「うん。もちろんだよ」

「ありがとうございます♪私はフィオリ・ミルフィオリと申します」

「私は羽純・フラメルだよ。宜しくね、フィオリちゃん」

「羽純お姉様、素敵なお名前ですわね。それでは失礼いたしました」

 

 出ていこうとするフィオリちゃんを、無意識に呼び止めていた。

 

「待って──」

「はい、なんでしょうか?」

「もしもなんだけど、フィオリちゃん、サクラ貝って言う貝なんて持ってない、かな?」

「サクラ貝…ですか?」

 

 

────

 

 

「ただいま、羽純。帰ろっか」

「うん…ナクト、お疲れ様…」

 

 フィオリちゃんと、約束をして別れた後、ナクトが工房まで迎えに来てくれて、二人で買い物をして宿へと帰る。

 ナクトの顔、まともに見れない…

 

 怖い気持ちと恥ずかしい気持ちが入り混じって、私の頭はグチャグチャだ。

 

 ふと顔を上げると、ナクトが私の顔を覗き込んでいた。

 

「わっ!」

「どうした?調子、悪いのか…?」

「う、ううん。そうじゃないよ。ちょっと、疲れたのかも…」

「そうか…でも、無理すんなよ。今日は俺が夕飯作るから」

 

 ナクト…違うの。そうじゃ、ないの…

 

 ナクトの作ってくれた夕飯を食べて、闘神ダイジェストを見終わる。

 ナクトが勝った場合、次の対戦相手はナミール・ハムサンドさんと言う魔法剣士。しかも優勝候補に躍り出る程の実力者。

 

「ナミールが、魔法使いにフォームチェンジ…だから今日ぽやぽやしてたのか?」

「知り合いなの?」

「前に剣士の時にダンジョンで会ってさ、そん時は元気な子ってかんじだったんだけど、今日あった時は感じが違ったんだ。それは魔法使いのモードだったからなのか。でも、ああまで変わるもんなのかな?」

「どう、だろう?」

 

 私は見てないからわからないけど、首を捻ってうんうん唸ってる。

 今回勝てても、次の対戦相手も強い。

 不安に押しつぶされそうになり、思わず聞いてしまう。

 

「ナクト…魔法付与、する?」

「ん?どうした突然?しないって二人で決めたじゃん?」

 

 そう。レメディアの剣をもらって、付与スロットを見た時に決めた。

 小さい頃のナクトは魔法も使いたいといっていたけど、付与スロットをダメにすると言うと勿体無いから、自分が強くなれば良いからと言い、私もそれに賛成した。

 

「でも、その、付与スロットを、増やせるとしたら…?」

「できないんだろ?それは」

「……あの、ね。ナクトの、小さい頃に大事にしてたダガー、覚えてる?」

「覚えてるよ。失くなっちゃたんだよな。なんで今更?」

 

 ナクトのダガー。少しだけ付与スロットがある珍しいダガーで、ナクトはとても大事に使っていた。それを、私が失くした、いや…取りあげられた。

 

「本当はね、失くしたんじゃないの…本当は…」

「羽純、無理に話さなくて良い」

「うんん、言わせて。あれは────」

 

 ずっと隠していた、怖くて言えなかったことをナクトへと伝えた。

 拡張付与。付与スロットを増やす事ができる、有り得ない付与魔法。

 お父さんは、世界でも私にしかできないかもしれない事だと言っていた。そして、二度とするんじゃないとも…でも、私はナクトを喜ばせたくて、小さい頃に一度だけダガーに拡張付与を施した。

 そしてその晩、マントを着た女性にダガーを取りあげられた。この力は使うべきではない、知られてはいけないと。使えば恐ろしい人が捕まえに来るかもしれない、不吉なことが起きると。

 そして、ナクトには言わなかったが、『人を好きになるべきじゃない。恋などするべきではない』とも…

 

 そして、その後不幸はすぐに訪れた。なぜならあの人と出会った翌日、鉱山の落盤事故が起きてお父さんは大怪我をした。私のせいで。私のこの力のせいで…

 

 私の話を聞いてナクトは立ち上がると、私を抱きしめてくれた。

 

「羽純、ごめんな。でも大丈夫。あの時も言ったけど、あの事故は羽純のせいじゃない。人にそんなことができてたまるか」

「ナクト…ありがとう…」

 

 優しい声。今は大きくなったその腕に抱きしめられて、安心させてくれる。私がお礼を言うと、ナクトはそっと離れた。

 

「あと、別にしなくてもいいんだぞ?勝つし」

「でも、次の対戦相手の人には、魔法が使えれば、有利に立ち回れるかなって…」

「有れば、そうだけど…肉を切らせて骨を断つ作戦で俺が勝つイメージは完璧にできてたんだけどな」

「だ、ダメだよ!私の力が有れば、ナクトが大怪我せずに済むのなら、手伝いたいの……拡張付与にはね、サクラ貝を使うの。ナクトが、一度私に見せてくれたものなんだけど」

「あぁ。だからあの時…」

「うん、あの時はごめんね。まだ持ってる?」

「いや、持ってないんだ。羽純が嫌いなんだと思って…旦那さんを亡くしてお金に困ってる人にあげちゃったんだよな…」

「そっか……」

「今日もナミールが宝箱から見つけてたから、意外とダンジョンには良くあるのかもしれないし、明日探してみるよ。あと、魔法が無くても、負ける気は無いしな」

 

 ニコリと笑って私の頭を撫でる。

 嬉しいのと恥ずかしいのが同時に出てきて感情がぐちゃぐちゃだ。

 ナクトは、ナクトだけは私を拒絶しない。

 お父さんも、あの女性も、私へ恐怖にも似た、怖い眼を向けていたけど、ナクトは違う。ナクトだけは。

 だからこそ、出来ることなら無事に勝ってきて欲しい。

 言い訳…かもしれない。

 でも、本当にそう思っている。

 だから……

 

「ナクトは、キスしたことある?」

「……あるよ。なぁ羽純、ほんと、何があったんだ?全部唐突だぞ」

 

 あるんだ……

 でも、そうだよね。

 応用学校では、ナクト人気あったし、マニさんとも、きっと……

 少しだけ落ち込んだ気持ちを押し殺し、聞いてみる。

 

「うんん、あの、ね。私ともし、するってなったら…その、嫌?」

「ん?嫌なわけないけど…羽純は、したいの?」

「わかんない、わかんないけど…もししたら、何かが、変わる?私とナクトの関係が、変わっちゃったりは、しないかな…」

 

 私は変化が怖い。

 今の関係が、楽しくて、大好き。

 ずっとナクトと、レメディアといたい。

 ずっとずっと、今のままで。

 

「んー。羽純がどうかはわからないけど、俺は変わらないよ。何があっても」

「ナクト……私も、変わらない…と思う」

 

 ナクト、ナクト…

 無意識に、ナクトの胸へと収まり、目を瞑って顔を上げる。

 どんな顔してるかな?突然こんなことされて、困ってないかな?嫌じゃ、ないかな?

 

 そっと、唇に何かが触れる。

 柔らかい感触。

 目をそっと開けると、驚くほどに近くにあるナクトの目と目が合う。

 そして、ナクトはすぐに離れた。

 

「何か変わったか?」

「…う、うんん。変わらないよ」

「うん。ずっと…ずっと一緒だ」

 

 ナクトも、私と同じことを思ってるんだろうか。

 心なしかナクトの顔も赤いけど、私はもっと赤いんだろうな。

 何も聞かないで、私を安心させてくれる。

 私が望めばキスをしてくれて、私が望めば…その先は、わからないけど。

 

 

 

 フィオリちゃんとの約束の事は言えないまま、ナクトはベッドに入り、私も寝室へと向かう。

 

 どうしよう…ナクト…私……

 

 




【試合結果】
○ナミール・ハムサンド×アジマフ・ラキ×
×ラフレシア頭巾vsぶるま大使 ○
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