ジオン軍人がインフィニットストラトスの世界で生きる。   作:ゆかなおっぱい

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閃光のハサウェイでガンダムフィーバー


覚醒、ニュータイプ

青く深い海の上を走り抜ける。

 

「アレか……」

 

遠くに見える白い機体。あれがシルバリオ・ゴスペルだろう。聞いていた速度より遅く、失速したのかそこまで相対速度を感じない。俺は一度低空へ、箒ちゃんと一夏君は上空へと別れる。

 

マリーダ、アレ出して。

 

(ハイ、スナイパーライフル一丁)

 

俺は本来今日試験するはずだった倉持技研製(ヒカルノお手製)大型スナイパーライフルを持ち、十分な偏差をつけて発射する。

放たれた大型の弾丸は勿論直撃、恐らく胸に当たったので大ダメージを与えられただろう。

大きな衝撃により福音は大きくのけぞる。

 

『うおおおおおおおお!!』

 

そこへ打ち合わせ通り一夏君が突撃、零落白夜を発動して斬りかかる。

しかし福音はすんでのところで回避、逆に福音の無数の砲口が一夏君に向いた。

 

『そうはさせん!』

 

そこに箒ちゃんの天月によるレーザー攻撃が福音を襲うが、まだ慣れていないのか全弾外れていた。ただ威嚇射撃にはなったため、福音は一夏君に1発も撃たずに後退、立て直しを図る。

ただ飛んだ場所が悪い。丁度一夏君も箒ちゃんも射線に入らない絶好の位置だ。

 

俺はもう一度スナイパーライフルの引き金を引く。

今度は福音の左肩に取り付けられた巨大なアーマーに直撃、先程と同じく胸を狙ったのに外れたということは、福音の反応速度が上がったということ。

 

俺のスナイパーライフルの銃声を聞いて突撃合図だと思った一夏君は十分によろけなかった福音に突撃する。

 

「まて、一夏君!」

 

『うおおおおおおおお!!………な!?』

 

既に俺の声も届かなくなっていた一夏君は、余裕を持って構える福音の、真正面に来てしまった。

 

雪片弍型の触れる前に、福音は全砲門を白式に集中、レーザー弾の雨が白式を襲う。

 

『一夏!大丈夫か!?』

 

『あぁ、なんとか……だけど残り600、さっきので300以上削れちまった』

 

(零落白夜のシールドエネルギー消費量を考えると次にあの総攻撃を食らったら2人は撤退させたほうが良いわね。それに箒ちゃんも紅椿に振り回されてる)

 

あぁ、流石に削られ過ぎだし、箒ちゃんも慣熟訓練無しだからな。今回ばかりは仕方ないな。

 

「一夏君、次は回り込んでから突撃してくれ、正面はもうキツそうだ。箒ちゃんは動かなくてもいいから、俺の合図で空裂のエネルギー刃を福音に向けていくつか飛ばしてくれ」

 

『『了解!!』』

 

「よし、一旦散開!!一夏君は俺達と福音を挟んで反対側へ、箒ちゃんは出来るだけ遠くに」

 

2人を移動させている間、福音の目を此方に向けるためにもアサルトライフルで応戦。エネルギー弾を無数に放たれるが、これはア・バオア・クー戦よりかは断然少なく、俺の足を止めるには至らない。

俺は出来るだけ近接戦闘も交えられる距離に詰めたかったため弾をかわしつつ斜め移動で接近する。

 

「よし、空裂のエネルギー刃を出せ!!」

 

『はい!』

 

箒ちゃんのエネルギー刃に気付かず俺の対応に一杯一杯だった福音は横からの攻撃を素直に受けてしまい、隙が生まれる。

 

(はい、コレでしょ?)

 

流石は妻、俺のこと分かってんじゃん。

 

俺は両手指間に出現した8つのグレネードを全て間髪入れずに、至近距離で投げる。投げると同時に俺は福音の近くを離脱。

直後大爆発、福音の周りが大炎上する。

 

「一夏君!!」

 

『よし、今度こそはぁぁぁ!!』

 

黒い爆炎の中に、レーダーを頼りに白式が一際輝くブレードを両手に持って突っ込んでいく。これで上手くいけばお終いなのだが……

 

(そういうわけにはいかないみた……何?これ)

 

どうした、マリー……何だと?

 

『グハァ!!』

 

『一夏!?』

 

黒煙の中から出てきたのは大ダメージを食らった福音ではなく、全てのシールドエネルギーを使い切り強制解除されて放り出された一夏君だった。幸い一夏君自体は箒ちゃんがカバーに入ってキャッチしたため死亡することは無かったが、問題は福音だった。

 

『クッ……目が赤くなってから、動きが激しくなりやがった……』

 

一夏君の言葉通り、福音のバインダーは赤く染まり、動きが先ほどより更に機敏になっている。

 

「クソ、来るぞ!!箒ちゃん!!」

 

俺の叫びも虚しく、箒ちゃんの紅椿をレーザーが襲う。

箒ちゃんは一夏君を抱えるのに精一杯で回避できず、まともに全弾を受けてしまい、展開装甲にも関わらず大破してしまった。

 

『すいません、これ以上は耐えられそうにないです……』

 

「大丈夫、あとは任せてくれ」

 

福音は一斉射おきにリロードがあるのか追撃をしてこない。その間に箒ちゃんは一夏君を抱えた状態で旅館へと引き返す。

俺は旅館の本部へと通信を繋げる。

 

「織斑先生、織斑篠ノ之両名を旅館へ送ります。白式はダメージレベルD、紅椿はCと推測されます。幸い2人の身体は特に大怪我はなさそうですが、これ以上の作戦遂行は不可能です」

 

『クソっ……星川、頼んだ。お前だけだ。本当は援軍を出したいのだが……』

 

「構いません。なんとかしてナターシャさんを連れ戻して見せます」

 

そう言いのこし通信を切る。

さて、どうしたものか……

 

福音は俺を待ち構えているのか、俺の斜め上の空に仁王立ちしている。

まるで一騎討ちを希望しているように。

 

(気をつけて。あの赤いバインダー……EXAMシステムじゃないかしら)

 

あぁ……IS学園を襲ったザク、ジオンを名乗るテロ集団、このEXAMシステム……この世界は何かおかしいぞ。

 

俺はあまり有効打を与えられないのを承知でアサルトライフルを構える。

俺が撃ち出した瞬間、福音もレーザー弾を俺の四方八方に飛ばしてくる。

 

このアサルトライフルでの銃撃で俺が不利になる理由、それがこのレーザーの雨だ。

アサルトライフルで発射できるのは口径の小さい実弾で砲口も一つ。それに対し福音のレーザー弾は多数の砲口から連射でき、さらに一つ一つの威力も大きなものだ。

つまり俺は弾幕シューティングゲームを、三次元のリアルで、それも弾丸を高速で動く敵機に相手のレーザーに当たらないように撃たなければならない鬼畜仕様で戦っているのだ。

 

EXAMシステムによるものなのかは分からないが、先程箒ちゃんと一夏君を倒した時より更に威力や頻度が増している。

機体は大きいラファール、しかも装甲以上にシールドエネルギーの作用範囲は広いので避けていると思ってもゴリゴリシールドエネルギーが削れていく。それなのに自分の放った弾はほとんどレーザーで相殺され、中々福音の本体に当たらない。

 

(これは……アメリカ国家代表のイーリス・コーリングのファング・クエイクね)

 

やっと来たか……

 

そんなジリ貧状態の俺に、加勢する一機のIS。共闘出来れば幾分マシになるか、そう思っていた。

 

『おーーーーらーーーーーー!!!』

 

しかし噂に違わぬ戦闘狂のイーリスは俺のことなど眼中にないように撃ち合いをする中に入り込み被弾もお構い無しに福音をファング・クエイクのナックルで1発ぶん殴った。

 

(とんでもない戦い方……)

 

俺は射撃が止まり一気に大きな隙ができた福音にスナイパーライフルを向け一気にケリをつけようとしてスコープを覗き込むと、そこにファング・クエイクの機影が入り込む。

 

イーリス・コーリングは俺の射線を気にせず近接戦闘をしていたのだ。

 

『オラ!!目を覚ませナタル!!』

 

レーザーを食らってでも真っ直ぐに突っ込む彼女の姿はとても国家代表には見えず、冷静を失っているのは明らかだ。

 

(どうにかしないと、国家代表までアナタが介護しなきゃいけなくなるわよ)

 

分かってるさ……しょうがないな

 

俺は持っていたスナイパーライフルも拡張領域に収納、手ぶらの状態でイーリス・コーリングの下に向かう。

 

「Hey,Ms.Calling!!Calm down!!You’re being ridiculous!!」

 

『アァン!?……お前、ホシカワユウタか?』

 

「そうです!一旦立て直しましょう、今の貴女は冷静さに欠けている。そんな戦い方じゃ此方のシールドエネルギーが先に底をついてしまいます」

 

『チッ、そんなことはわかってるんだよ……でも、そんなことしてるうちにもナタルは!!』

 

「分かってます。だからこそ冷静に、彼女を助けるためにもシールドエネルギーを減らしていきましょう」

 

『……そうだな……ならどうすんだよ』

 

「そうですね……じゃあ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は相変わらず福音に銃撃戦を仕掛けていた。アサルトライフルとレーザー弾の撃ち合いでお互い消耗し合っている。

 

(……今よ!)

 

あぁ!!

 

しかし俺は敢えてここでグレネードを投げる。勿論レーザーに当たって爆発するわけだが……そんなことはどうでもいい。寧ろ狙い通りだ。

俺はすかさずブレードに持ち替えて煙の中から突撃する。それに合わせて福音は砲口を全て此方に向けるが

 

『アタイのことを忘れるなぁ!!』

 

俺の真後ろから上に飛び出したイーリス・コーリングが拳を構えて殴りかかる。

2人ではあるが、コレは正にIS版ジェットストリームアタックだ。

 

『貰ったぁ!!』

 

イーリス・コーリングの勝利を確信した雄叫び。これで勝てる!!

 

 

 

 

 

 

 

___本当にそれが正解かな、ユウタ君

 

 

 

 

 

 

 

「だめだ、引いてくれミスコーリング!!」

 

(ダメ、間に合わない!!)

 

俺は咄嗟にイーリス・コーリングの手首を掴み強引に引っ張る。その影響で俺とイーリス・コーリングの位置が逆転、

今日1番の威力のレーザー弾が、無数に俺を襲った。

 

ラファールは強制解除、生身の状態で俺は海に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___俺は、死んだのか?

 

真っ白な世界。見渡す限り、何もない白い世界。

 

「やぁ、また会ったね」

 

「シャア、先輩」

 

シャア先輩はいつものさわやかな笑顔で俺を迎え入れる。

 

「君は本当の君を忘れているようだ」

 

「本当の俺?」

 

「そうだ。君がなんでニュータイプになったのか?それは君があの戦乱の世でも人間としての自分を守るためだった。どんな兵士も殺人マシーンに変わってしまう戦争にあって、最後まで君にあったのは優しさだ。君がジオンの軍人で最後まで生き残れたのはその人間としての器が大きかったからだ」

 

「そう、でしょうか」

 

「そうだ。それ故に君は色々なことを背負ってしまう。今回だって君にだけ作戦の勝敗がかかっている。他にも戦力はあるはずなのに、だ」

 

「………」

 

「君は死んだ仲間も、殺した敵も、女の心も、味方の期待も、全部を受け止めてきた。それが今の苦しさに繋がっている。昔は耐えていたのに。

では何故昔に出来ていて今は出来ていないのか?それは君がニュータイプとしての能力を使えていないからだ」

 

「ニュータイプの能力は宇宙世紀でのものです。今の世界では関係など……」

 

「いいやある。寧ろこの世界の方がニュータイプとしての君は必要だ。この世界は私達の世界と同じくらいおかしな方向に向かっている。ISの登場で男女もバランスは崩壊、それに一石を投じることが出来ず出生率は地を這っている。それ故スペースノイドが地球連邦に対して抱いた憎悪と同じものを感じる。

そんな世界にあってこの状況を変えられるのは君と、君の周りにいる女性たちだ。」

 

「世界を、変える……」

 

「君はアムロと同じで、他者の願いや想いを力にして実現することの出来るニュータイプだ。実際君の友人達は君の無事を祈っている」

 

直後、俺の頭を走馬灯のようにIS学園での友達の祈りが映る。旅館でも、彼女達が俺のことを待っている。シルバリオ・ゴスペルのナターシャさんも救助を待っている。

この期待に、応える。

 

「今の君にはまだペルセウスは渡せない。ただ、ニュータイプとしての再覚醒を助けることは出来る。

立ち上がれユウタ君、世界は君を待っている」

 

真っ白だった世界が薄れて黒く変色する。

水音が聞こえる。

そういえば、俺は海に落ちたんだったな。

マリーダ、行けるか?

 

(えぇ。シールドエネルギーはないから絶対防御は発動しないけど、ラファールの機体自体は動くわ)

 

それでいい。……さぁ、もう一度!!

 

俺はもう一度ラファールを身に纏い、海面へと上昇する。

その装甲からは緑色の優しい光が漏れ出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クソっ、なんてすばしっこいんだ!!ナタルの癖に!!』

 

海から出てみると、未だにイーリス・コーリングが格闘を続けていた。

 

「コーリングさん」

 

『あ!?……なっ』

 

『星川!?』

 

「お待たせしました。さぁ、シルバリオ・ゴスペルを倒してファイルスさんを救出といこうか!!」

 

俺はいつも以上に速度の出るラファールで高速で接近する。勿論福音はそれに応戦して最初から変わらないレーザーの雨を降らせる。

 

『無茶です!!今の星川君のラファールはシールドエネルギーが無いんですよ!?』

 

『引き返してくださいまし!!裕太さん!!』

 

「心配すんなよ、俺はもう食らわないさ」

 

手に取るように福音の放つ弾の弾道がわかる。次はここ、次は、と回避する場所が自然と頭に浮かんでくる。

 

『ハハ……これが男のIS操縦者、か……』

 

「コーリングさん、感心してる場合じゃないですよ。舞台は整いました。とどめを刺してください!!」

 

『あぁ!!』

 

俺はスナイパーライフルを取り出して構える。さっきは高速で動く福音に1発も当たらなかったが、今なら出来る気がする。

 

「……そこぉ!!」

 

俺の狙いは一瞬突拍子もないところに飛ぶ。しかし福音は向きを変えて……命中した。

 

『目を覚ませ、ナタル!!!』

 

福音の脊髄反射的なレーザーと、ファング・クエイクの拳が同時に両機を直撃、大爆発と共に2人の金髪美女が煙の下へ飛び出てくる。

 

「ナタル!!」

 

「イーリ!!ありがとう!!」

 

2人は空中で涙を流しながら抱き合う。最期に親友同士再会できて良かった、といったところだろうか。

でも、目の前で2人を死なせはしない。

 

俺は2人を横から掻っ攫うようにお姫様抱っこでキャッチする。

 

「お二方とも、怪我はありませんか?」

 

「えぇ、おかげさまで。……ありがとう、裕太君」

 

「お前には最後まで助けられちまったな……ありがとよ」

 

「いえいえ、無事でなにより。」

 

 

俺は2人を抱えたまま旅館へと戻ると、作戦を知っていた専用機持ちメンバーだけでなく、一年生と教員の全員が砂浜に出ていた。俺が砂浜に降り立つと、盛大な拍手が巻き起こった。

 

「お疲れ様!!」

 

「凄い!!凄いよゆーゆー!!」

 

「フ、流石は裕太だな」

 

「皆んな……」

 

ティナも、本音も、マドカも、皆んな知っている様子だ。

するとその真ん中から少し目が赤く腫れた織斑先生が出てくる。

 

「星川……」

 

「織斑先生……ただいま戻りました」

 

「……あぁ。おかえり」

 

母のような、少女のような笑顔で出迎えてくれる織斑先生、いや千冬さんに、俺が皆んなの元へと帰ってこれたことを実感する。

 

「改めてお礼を言うわ、ありがとうね、裕太君」

 

「いえ、とんでもないです。ファイルスさんもコーリングさんも怪我がなくて本当に良かった」

 

「それもこれもお前のおかげだよ。あと、アイ達のことはそれぞれイーリ、ナタルで良いぞ。お前のことが気に入った、名前で呼んでくれ」

 

「えぇ、じゃあお言葉に甘えさせて貰うよ」

 

「ふふ、嬉しいわぁ……チュ♡」

 

近寄ってきたナタルの唇が俺の頬に触れ、観衆からは大きな黄色い歓声が上がる。

ナタルは俺の唇に人差し指を当てた。

 

「今度はこっちの唇で、ね?」

 

(赤くなった頬に潤んだ目。またやりましたね)

 

マジか。

 

「んじゃ、アタイも……♡」

 

すると今度はイーリがナタルがしたのと反対側にキス。またもや大きな歓声が。

 

「へへ、俺を惚れさせたんだから、責任取れよな!!」

 

「ナタル、イーリ……」

 

その後はティナや千冬さんを中心に2人へ抗議、一年生の他の面々は今のキス劇に会話に花を咲かせる。賑やかなIS学園が、戻ってきた。

 

(何はともあれ……おかえりなさい、アナタ)

 

あぁ、ただいま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

福音事件が午前中にかたがついたのもあって、織斑先生は午後から授業を再開。ナタルとイーリはアメリカ大使が来たもののお礼にと一年生全員にアドバイスをしてまわっていた。他の一年生には良い勉強になったことだろう。俺はというと、疲れを癒せと教員方からお休みを頂いたため電話で十蔵と会話をしていた。

 

「オイオイ、お前のせいで死にかけたじゃねぇか。えぇ?十蔵」

 

『ハハハハハ、まさかあそこまで強かったとは思いませんでしたな。それにしても流石の生命力ですな』

 

「あんな作戦で死んでたまるかってんだ」

 

『それもそうですな……それで、今日は七夕ですが、今年はどうするおつもりで?』

 

「そうだな……箒ちゃんに誕生日プレゼントを渡したら後は旅館を抜け出して花でも買って海にばら撒くかな」

 

『そうですか……ご冥福をお祈りします』

 

「やめろよ、柄でもない」

 

 

 

 

 

夜、イーリとナタルの誘惑を振り切って俺は砂浜の端っこの方に来ていた。

 

「お誕生日おめでとう、箒ちゃん。はいこれ、プレゼント」

 

「ありがとうございます!……開けても?」

 

「どうぞ」

 

箒ちゃんは俺が渡した細長い箱を開けると、そこにはマリーダと共に選んだリボンが。赤地に黒い帯が模様されたリボンだ。

 

「これは……」

 

「一夏君からプレゼントならリボンが良いだろうって言われてね。そのリボン、結構古いやつだから新しいのが良いかなって……嫌かな?」

 

「いえ、とても嬉しいです!!……その、着けてもらっても良いですか?」

 

箒ちゃんに上目遣いでお願いされて断る男はいない。

 

「勿論だよ。ちょっとあっち向いててね」

 

俺は彼女の緑色のリボンを解いて俺が買った方を箒ちゃんの綺麗な黒髪に結ぶ。

 

「はい、こんな感じかな?」

 

「わぁ……ありがとうございます」

 

「喜んでもらえてよかった。すごく似合ってるよ」

 

「えへへ……裕太さん」

 

「なんだい?」

 

「これからは私のこと、皆んなと同じように箒、って呼び捨てにして下さい」

 

「分かったよ、箒。なら箒も俺には敬語使わなくても良いよ」

 

「いえ、それは続けます」

 

「そう?」

 

何でだろうか?

 

(ハァ……これだから男は……)

 

マリーダさん?

 

(箒ちゃんはアナタに特別な口調で話したいのよ。あと、なんとなく敬語だと新妻感あるし)

 

そういうものなのだろうか。女心は幾つになってもわからんな。

 

その後は、2人で黙って星空を眺めていた。途中、箒がクチュンと可愛らしくくしゃみをしたため上着を着せて先に帰らせる。

 

さて、もう一つやりたいことがあるんだよね。

俺はGoog○eマップを使って近くの花屋を調べ、歩く。

十数分経ってお目当ての花屋に到着。花屋のおばさんに菊を数本束てもらい、海岸へと引き返す。

 

(今のアナタと同い年の時、だったのよね)

 

あぁ。丁度18の七夕だ。

 

俺は砂浜の端にある崖に登り、1番先端に立つ。

菊の花束のビニールを取り外して輪ゴムを取り、ポケットに突っ込んでから菊の花を右手に持って前に突き出す。

 

「親父、どうかどこかの世界で、幸せになっててくれよ。こんな人殺しの親不孝息子だけど、俺は親父のこと愛してるぜ。ありがとよ」

 

手をパッと離すと花は風に乗って少し遠くの海に着水した。

 

自然と心も中から込み上げるものがある。もし戦争がなかったら、俺は親父と母さんと暮らしていたのだろうか。

 

拳銃の引き金を親父に向けたシーンが頭をよぎる。戦争のトラウマは、何年何十年経っても、世界を越えようと当事者の頭を寄生虫のように蝕み続ける。戦争の憎しみは、走り出した火のついた牛のように止まることを知らない。その牛が死に絶えるまで、戦争の憎しみという暴走車は走り続ける。

 

「こんな、こんな悲しいことはないよ!!」

 

俺の目からは止めどなく涙が溢れる。幸せってなんだろう。平和って?こんな世界が銃を向け合って保たれる均衡が平和だと?

その銃によって殺された人間は?

今回の事件だって、俺が止めなきゃ大惨事になっていたかもしれない。

結果が良ければ、それでいいのか?

 

「ホント、世の中不条理ばっかりだよな」

 

敵を憎むな、己を憎むな、世を憎め。親父の言葉だ。

そんな親父を、俺は……

 

込み上げる、流れ出るものに身を委ねる。嗚咽も、霞む視界も、今の俺には関係ない。ただただ悲しみが、そこにはあった。

 

 

 

 

 

 

七夕、織姫と彦星が出会い、また引き裂かれる日。




お気に入り、評価、感想よろしくお願いします

箒がリボンを変えました。
一夏から貰ったリボンをほどき、裕太にもらったものを着ける。
新旧恋人交代です。
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