吸血鬼世界のVtuber   作:縫畑

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17話 プリズムサーバー

 リジア・ナプリスはプリズム三期生の女性Vtuberである。髪から覗く一対の角と、背に生えた小さな羽、そして細い尻尾を持つ外見から彼女は小悪魔をモチーフにしたキャラクターだと伺える。

 人狼の乾家つるぎ、人間のサリス・ヒューマン、そして小悪魔のリジア・ナプリスと三人の三期生は人外三人組と巷で呼ばれているのだ。

 さて、そんなリジアの配信スタイルは同期二人と少し異なる。

 得意なゲームは1人で地道な作業を重ねていく種類のものであり、例えば様々な特徴を持つブロックを採掘し建築してゆくマイクラフトというゲームの実況配信では、なんと5時間から7時間もの長時間アーカイブがいくつも残されている。

 長時間配信。これこそがリジアの配信スタイルである。

 華々しいスーパープレイもリスナーを湧かせるトークもしないが、ひたすらリスナーのコメントとやり取りしながらじっくりゲームを進めていく姿は一定の人気を博していた。

 以上、ここまでがリジアについて私の知っている情報だ。

 その彼女が私と遊んでみたいと言っていて、またマイクラフトが得意ということから同期三人でマイクラフトを遊ぶことが決まった。

 私は前世でマイクラフトに相当するゲームをやったことはないが、世界で一番売れたゲームということで名前は聞いたことがあるし、またVtuberが遊んでいる様子も見たことがある。何をすればいいか大まかに理解しているから、三人でやろうと言われたときは抵抗なく頷いたのだ。

 

 

 ◆

 

 いま私が操作するキャラクターの前には、粗いドット絵を3Dに起こしたような人物が立っている。どれもカラーリングはヒュー子とリジアを模していて、ひと目見ただけで彼女たちのキャラクターだとわかるようになっていた。

 周囲は見渡すかぎり自然豊かな丘陵地帯が広がっていて、よく見ればキャラクターと同じようなドット絵風の動物が歩いている。吸血鬼向けのゲームらしくスタート時点の時刻は夜だ。頼りない月明かりしか私たちを照らすものはない。人間の目には暗い景色だがディスプレイの設定で明度を調整しているおかげで困ることはほとんどない。

 

『今日やることは家造りでいい?』

 

 ダウナートーンの声が確認をとりにきた。私たち三人は全員とも女性Vtuberだが声質はかなり違う。リジアはやや低音のハスキーボイス。私は肉体年齢が若いからか女性Vtuberのなかではやや高めで若々しい。声がいいとよく言われるが自分ではよくわからない。ヒュー子は私より高音でよく通る声をしているが、配信外の地声だと私より低めになる。どちらの場合も陶器のように滑らかでしっかりした印象を抱く。

 

『そうね。マイクラフト初心者のつるぎちゃんの家を作るわ』

 

「それで、どんな家を作るかの参考にプリズムサーバーを観光するんだよね」

 

『プリズムサーバーには先輩たちの作ったものがたくさんある』

 

 マイクラフトは他人と世界を共有して遊ぶことができる。ゆえに協力して採取や採掘をしたり、建造物を作れるのだ。プリズムサーバーはプリズム所属のVtuberで共有する世界となっており、彼らがいままで作ってきた建造物は所狭しと並び建ち、ひとつの街の様相をなしていた。

 Vtuberが配信しながら作れば建築物ひとつひとつにエピソードが宿る。リスナーとてそれぞれに思い入れを持つ人がいるし、なんなら今日の観光と家造りは配信しながらでもよかったかもしれないと思った。きっとマイクラフト初心者が先達の作ったものを見て何を思うか期待するようなコメントが溢れかえるだろう。

 

「みんなが作ったもののところに行こういこう」

 

 スタート地点から東へ東へと進んでゆくと、地平線の彼方に賑やかな輪郭が見えてくる。

 近代的な建物が見えればその脇には巨木が乱立しており、周囲にのどかな牧場と畑、そしてピラミッドが広がっている。驚くほど無秩序な街並みである。それぞれ製作者が違うのだから仕方ないのかもしれない。

 

「この国会議事堂……完成度すごいね……」

 

『……』

 

 いざ街に入って一番最初に見えてきたものは、なんとブロックで完全に再現された国会議事堂だった。

 花崗岩とよく似たブロックで整えられた外装。その柱や窓の数はいずれも本物と同じなのだというから作り手の拘りを感じずにはいられない。きっと内部も相当に再現しているのだろう。

 

「でも、なんか襲われてるね……」

 

 そんな見事な建築物が、なにやら青紫の巨大な怪物に襲われている。およそ国会議事堂全体の三分の一程度のサイズを持つ、蛸と人とムカデを足したようなデザイン。それが無数の足と触手を建物に絡ませていまにも中にいる人々をほじくり出そうとしているのだ。ブロックで作られた怪物と議事堂でひとつの建築物になっていることを気づくのにしばらく時間がかかった。

 

「この大きいのが邪神像……?」

 

『うん』

 

『ちなみにこれがサチヨ先輩の家よ』

 

「ここで生活してるの!?」

 

 等々力サチヨ。狂人と名高いプリズム2期生のVtuberだ。美少女の外見でありながら声は男性であり、ドスの効いた低音ボイスからの下ネタ連打を得意とする。緊張すると感情の起伏が乏しくなるそうで、普段は騒がしいのに他人が慌てる場面ほど冷静で無表情になることからサイコパス扱いをよくされている。

 個人的な感想としては、画面の向こうで眺めるぶんには楽しいが実際に絡むのは大変そうな人というところだろうか。

 

「サチヨ先輩はどうしてこんな家を……?」

 

『さあ』

 

『それがわかれば狂人って言われたりしないから……』

 

 次に訪れたのは巨大な大樹の三つほど並び立つ場所だった。よく見ればそれぞれ根本のほうには扉が付けられており、幹には擦りガラスがはめ込まれている。もしかしてこれも誰かの家なのかと2人に問いかければ、リジアが小さな声で肯定した。なんと彼女の作った家らしい。

 

「すごい……。これ、大きな木のなかをくり抜いて作ったの?」

 

『ううん。材木を用意して木に見えるように組み立てた』

 

 内部の上下移動は水流を使ったエレベーターで移動しやすくしており、そしてくり抜かれた各枝にはそれぞれ農場や牧場を設置してあるらしい。頂上に登るとプリズムVtuberたちの作り上げた街が一望できた。

 もはやすごい拘りだなとリジアに驚くべきか、このゲームはそんなこともできるのかとマイクラフトに驚くべきかわからない。その気になればいくらでもやり込めるゲームなのだろう。世界で一番売れた理由が伺える。

 

「ヒュー子ちゃんはどんな家を作ったの?」

 

『あたしは普通のログハウスよ。まだ始めたばかりだからつるぎちゃんも参考にしやすいんじゃないかしら。最後に見ましょ』

 

『ここからだとトゥーリ先輩の家が一番近い。次はそこに行こう』

 

 近いと言われた神屋トゥーリの作った家は湖にあった。一部を埋め立てて作ったのだろう出島の上に白亜の家が建っている。家はさほど大きくないが色とりどりの花畑が可愛らしい。普段の悪ガキめいた印象のある神屋トゥーリらしくない家だと思ってしまうが、案外可愛いものが好きなのかもしれない。

 私は出島へと続く橋まで近づいたところで、その前にある立て看板に気付いた。表札かと思いあまり気に留めず通り過ぎようとしたところ、リジアから呼び止められる。

 

『読んでみて』

 

「え、うん」

 

 なにか特別なことが書いてあるのだろうか。充分に近づかないと読めないほどに看板の文字は小さくて、目の前に立った私は文章を理解するより先にカチリという謎の音を拾った。

 足元のブロックが扉のように開く。

 

「え?」

 

 落ちる。

 

「な、え?」

 

 真上で閉じる扉。月明かりを失ってこれまでと比較にならないほど暗くなる世界。落ちた場所は身動きが取れないほどに狭くて、私はぐるぐる周囲を見回しパニックに陥りながら二人に説明を求めるしかない。

 

「待ってこれ何? バグ、バグ?」

 

 だが彼女たちから返ってくるのは情報でなく笑い声である。

 慌てた様子はまるでなかった。これはバグなどではなく何かの仕掛けだと気づくと、荒波のようだった心がだんだんと平静を取り戻す。私は落とし穴に誘導されたのだ。

 もう、と抗議したところで笑い声はやまない。

 

「ええ……。これどうやって出るの……」

 

 落とし穴のなかは前後左右が壁である。ゲームを始めたばかりで何の道具も持っていない私にはどうすることもできない。

 すると聞こえてきたのは例のカチリという音。

 見ればヒュー子とリジアが落とし穴のなかに落ちてきて、私は二人が掘る穴で地上に戻ることができたのだった。

 

『ビックリさせてごめんね』

 

 ヒュー子が謝ってくるが声は未だ半笑いだ。これが配信中だったら私の立ち絵はさぞ不機嫌な表情を浮かべていただろう。

 

「……もしかして私に悪戯するために落とし穴作った?」

 

『違う。あれはトゥーリ先輩が作ったもの』

 

 聞けばあの人は家の周りに様々な罠を仕掛けているらしい。だいたいマイクラフトを始めたばかりの人が、つまりプリズムの新人が引っかかるそうだ。二人も引っかかったことがあるらしい。

 

「そうだよね。トゥーリさんそんな感じのひとだもんね……」

 




本来は吸血鬼以外の種族は「人外」じゃなくて「吸血鬼外」という言葉で呼ぶのが正しいはずなんですが、オリジナルの単語を作ると読みにくくなるので、この作品の吸血鬼は自分たちを人と呼ぶことにしています。
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