吸血鬼世界のVtuber   作:縫畑

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02話 世界でただひとりの人間

「はぁー……っ」

 

 配信を終了した私は椅子にもたれながら体を伸ばした。

 緊張しながら座っていたせいでずっと強張ったままの筋肉がほぐれてゆく。

 達成感の混じった疲労感が気持ちいい。きっと私はいままでで一番充実しているのだろう。

 初回配信のときなんて緊張であたふたしていてずっと頭の中をぐるぐるさせながら話していたし、2回目と3回目のときは色々な設定に奮闘していた気がする。

 前回なんてひどいものだ。リスナーにコメントで指摘されるまでずっとマイクをミュートにしたまま話し続けていたのだ。慌てて解除したものの、配信が終わるまで赤面が治まらなかった。

 そして今回である。

 ようやく余裕が生まれてきてリスナーとの交流を楽しむことができた。

 届いたマロマロを画面に固定したときは反応が大きくてとても嬉しかったものだ。

 

「ええと、そうだ忘れないように……」

 

 私はデスコ画面を開いてマネージャーに配信終了の旨を伝える。ずっと見ていてくれたと思うが挨拶は大事だ。

 

「配信終わりました。今回はトラブルなくスムーズに終えられました」

 

『はい、ずっと見ていましたよ。お疲れさまでした。とても慣れてきましたね』

 

 思わずにへって笑いそうになってしまう。

 初配信で四苦八苦していた頃からずっと支え続けてきてくれた人がこう言ってくれたのだ。嬉しくないわけがない。

 それから私はマネージャーといくつかやり取りをして、デスコ画面を閉じる。

 もう一度伸びをしてゆっくりと深呼吸。

 

 もう遅い時間ですので。きちんと睡眠をとってくださいね。

 

 マネージャーから言われた言葉を思い出す。

 時計はいま正午を指している。

 人間ならばこれから昼食をとってさあそのあと何をするかという時間だが、マネージャーたちにとってはすぐに寝ないと明日に障る時間である。

 ここは世界に78億人もの吸血鬼が住む世界。

 彼ら吸血鬼にとってこの時間はもう深夜に違いない。

 

「…………」

 

 鍵を開けてベランダに出る。

 都営の集合住宅が自分の住んでいる場所だ。周囲には同じ集合住宅や一軒家が敷き詰められていて、遠く高層ビルがいくつも見える。

 いかにも都心ですという街並みだった。

 

「なんだか遠い世界に来ちゃったなぁ」

 

 手すりに肘をついて陽光を浴びているとそんな呟きが出た。

 眼前に広がる景色に普通の窓がない。

 正確には、見渡す限りすべての窓が磨りガラスで作られている。

 当たり前だ。吸血鬼にとって日光など毒でしかなく、窓の役割は『いまどの程度外が明るいか』を知らせることでしかない。

 そんなだから道路や公園をいくら探しても人影ひとつない。

 正午。こんな時間で屋外に出ているのはきっとこの街で自分しかいなかった。

 

 ここは世界に78億人もの吸血鬼が住む世界。

 そんな世界に私は唯一の人間として生きている。

 

 

 充分に日光浴ができたのでエゴサをすることにした。

 ベランダの扉を開けたままにし光を入れながらベッドに寝転がる。

 さっそく携帯でSNSで乾家つるぎと検索すると、ファンアートをちらほら見れてとても嬉しい。まだまだ活動して1月もないのを考えれば、かなり順調に乾家つるぎが受け入れられているんじゃないだろうか。

 

「ふーん、ふふーん」

 

 思わず鼻歌が出てしまう。

 携帯の画面をスクロールしていけば、やはり今回の配信でマロマロを画面に固定したのは好評だったらしい。

 意外と悪戯好きなところがあるとよく話題にされている。

 

 クソマロ晒し者の刑

 絨毯爆撃

 無差別攻撃

 初日の出

 声が可愛い

 あのマロマロ投げた人ちょっと羨ましい

 初日の出って何

 

「ふーんふーん、……ん?」

 

 配信中こそ気にならなかったが、なんだかやけに初日の出を話題にする人が多い気がした。

 日の出見るのがそんなに変だろうか。

 確かに吸血鬼にとって日光は毒だ。だが1秒でも日に当たったら死ぬというわけじゃない。

 大昔の彼らなら僅かな日光でも致命傷だが、世代を経てだんだんと耐性を持つようになったらしく、いまでは1時間ずっと照らされるとかでなければ平気なはずだ。

 

「うーん……富士山も話題にしてる人が多いかな」

 

 意外に体力があるって驚かれている?

 考えてみれば富士山に登ってまで日の出を見たいなんていう吸血鬼がいたら、変わった奴だと思われるかもしれない。

 まあいいか。

 私は携帯をベッドに置いて、昼食の準備へ取り掛かることにした。

 

 

 ◆

 

323 名前:名無しさん@視聴中

今日もいい声だった

 

324 名前:名無しさん@視聴中

わかる

いつもPCのヘッドホンで聞いてるわ

 

325 名前:名無しさん@視聴中

配信見れなかったんだけど何か面白いこと言ってた?

 

326 名前:名無しさん@視聴中

クソマロ

晒し上げ

無差別攻撃

 

327 名前:名無しさん@視聴中

>>326

なにそれ

 

328 名前:名無しさん@視聴中

「二人組つくってー」っていうクソマロを読んで

私はぜんぜん平気ーって言いながら配信画面にずっと固定してた

 

329 名前:名無しさん@視聴中

リスナーは平気じゃなかった

 

330 名前:名無しさん@視聴中

 

331 名前:名無しさん@視聴中

俺の悲鳴で喜ぶつるぎちゃんかわいい

二人組でいつもボッチになった甲斐があったよ……

 

332 名前:名無しさん@視聴中

よかったな

涙拭けよ

 

333 名前:名無しさん@視聴中

最初の頃はガチガチに緊張しててとにかく真面目にやってたけど

今日は肩の力が抜けてきたのを感じるな

 

334 名前:名無しさん@視聴中

だんだん悪戯っ子なところと天然なところを見せてくれてイイゾイイゾ~

 

335 名前:名無しさん@視聴中

天然って何か変なこと言ったっけ?

 

336 名前:名無しさん@視聴中

初日の出のやつ

 

337 名前:名無しさん@視聴中

マシュマロで小さいころからやりたかったことを聞かれて

富士山の頂上で日の出を見たいって答えたやつ

 

338 名前:名無しさん@視聴中

普通に死ぬのでは?

 

339 名前:名無しさん@視聴中

日の出見たあとどうするつもりなんですかねぇ……

 

340 名前:名無しさん@視聴中

どうもつるぎの中の人はデイウォーカーっぽいな

 

341 名前:名無しさん@視聴中

中の人なんていないに決まってんだろ定期

 

342 名前:名無しさん@視聴中

前からつるぎちゃんの話聞いててデイウォーカーっぽいなと思ってたけど

 

343 名前:名無しさん@視聴中

頂上からずっと日光受けながら下山とか並のデイウォーカーでも灰になるんですがそれは

 

344 名前:名無しさん@視聴中

べつに小さいころの夢なんだからいいじゃん

 

345 名前:名無しさん@視聴中

小さい頃『から』の夢だから現在進行系なんだなぁ

 

346 名前:名無しさん@視聴中

つるぎちゃん灰にならないでね……

 

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