机でパソコン開いてるうちに、ぼくはデスコでサチヨがオンラインになってるのを見つけてダイレクトメッセージを飛ばした。
「へーい、もし暇だったら通話しよー」
メッセージ欄にサチヨが入力中と表示されて五秒が過ぎ、やがて返事が届く。
『いいよ。配信中?』
「ノー」
『おっけ』
マイクを用意しながらデスクの下で足を伸ばし、小さく伸びをする。今日は仕事でたくさん歩き回ったせいでふくらはぎがじんじんするし、首と肩がずいぶん凝ってる。通話ボタンを押すついで腕や首をぐるぐる回しておいた。
リスナーたちには特に言ってないけれど、プリズムのVtuber全体がわりとよく配信外で通話したり遊んだりしてる。だからぼくがサチヨを通話に誘うことはべつに珍しいことじゃなくて、また特別に用事があったわけでもなかった。
『どうした、何かあったかトゥーリ』
「何もないよ。誰かと通話したいなと思っただけ」
ああそうかいと言いたげな相槌が返ってくる。呆れた声色じゃないからこのまま付き合ってくれそうだ。
『トゥーリさぁ、この前ジエンド食う配信してたじゃん。大丈夫だった?』
「ああ食った食った。大丈夫じゃなくて控えめに言って地獄だった。配信見たの?」
『見た見た』
とりあえず罰ゲームは消化したけど、リスナーのお願い何でも聞くって言ったやつはどうしようかな。いくつかマロマロで案を募ってついったでアンケートしてみようか。
「サチヨも罰ゲームで食おうぜ。なんか企画考えるからさ」
『なんで俺負けるのが確定してんだよ』
だってぼくもう食べたし。どうせならまだ食べてない人に食べさせたいじゃん。
企画はお互い3Dの体持ってるからそれを生かせるものにしてみたいよね。
『あのトトリス対決はトゥーリが企画考えて誘ったの?』
「そうだよ。相手は乾家つるぎちゃん、ぼくの推し」
お前誰にでもそういうじゃんって言われた。だからいま一番推してるって言ってやった。
初めてできた後輩で、初コラボで色々設定とか面倒見たのは確かに大きい。でもそうでなかったとしても彼女が一番の推しになってたと思う。彼女からはぼくを引きつける何かを感じるのだ。たぶん彼女のファンはみんな似たような想いを抱いてるはずだ。
サチヨは彼女と絡んだことないから、たぶん声がいいって評判しか知らないんだろう。
「企画に誘うのはだいぶ緊張したけどね」
『一度絡んだことあるのに?』
そうだよ、と返して一拍置く。
同期以外の女子とあまり絡もうとしなかったサチヨだから実感してないかもだけど、少し前までの彼女はなんだか周囲に壁を作っていたんだ。ぼくはプリズム主導でコラボしたことがあったけれど、逆に言うとそれしか関わりがなかったから距離を縮めにいけないでいた。
「なにか悩んでたのかなー」
彼女はずっと何かに警戒して身構えてたような気がする。何が彼女をそうさせたのかはわからない。もしかしたら真祖特有の悩みなんてものがあったのかもしれない。
『それじゃなんでトトリスのとき誘えたの?』
「彼女がさー、同じ三期生とコラボしたから」
その前後で悩みがなくなったんじゃないかと思う。彼女の作っていた壁はぐんと低くなったし、配信見てると少し明るくなったように見えた。だからこれでコラボ誘えるって思った。
『同期の力ってやつか。はーてぇてぇ』
「そうそう。てぇてぇ、マジてぇてぇ」
まあそれがあってもまだ企画に誘うの緊張したけどね。
『なんで?』
「罰ゲームが激辛ジエンドだったから……」
『あー、清楚系なのにそんなの食べさせていいのかって?』
「そうじゃなくてジエンドはキツすぎるかなって思ったんだよ。なに、サチヨもつるぎちゃんが清楚って思ってんの?」
意外と聞くなつるぎちゃん清楚説。ぼくはそんなことないと思うんだけどな。
サチヨが言うところによると、なんでも非公式wikiに清楚枠って書いてあるんだとか。なるほどだから前のコラボのときちらほら清楚がどうのってコメントが見えたわけだ。
『清楚系なんじゃないの?』
「違うよ。たぶん彼女は下ネタをどう扱えばいいかわからないだけ」
プリズムの男性Vtuberに清純派とかプリズムで一番清楚とかリスナーから言われたりしてる人がいるけど、本人によると女子とのやりとりでは無難に角が立たないようにしてるだけという。
ぼくなんかは同性相手のようなノリでトイレ行ってくるとか、おしっこしてくるなんて言うことがあるけど、きっと彼は聞いてて居心地悪いんだろう。彼は決して女子へそんなふうに言わないし、ちょっと席を外すとかなんとか濁して言う。
つるぎちゃんも似たようなものだと思ってる。コラボ相手やリスナーから振られた軽いそっち系のネタを、やんわり受け流していくからそいう認識をされていったんじゃないかな。
「さっきの話に戻るけどさ、つるぎちゃんが人と絡むようになって嬉しくなったし、安心したんだよ」
『後方で保護者してるやつじゃん』
「いやそうじゃなくて」
いやあってるのかな。ぼくは先輩じゃなくて保護者になってた? いやいやいや。
「プリズムが四期生募集するって言ってたじゃん」
『ああ、してたね。……そっか先輩後輩の箱内コラボか』
新人がデビューしてから一ヶ月後に毎回行われるコラボ企画。先輩がプリズムのリスナーに新人を紹介するような感じのやつ。当然四期生は三期生と組ませるだろうし、なんだかんだ三期生は三人しかいないから新人の人数次第では二期生にも仕事が回ってくるはず。
「四期生デビューまでにつるぎちゃんが人と関わるようになってよかったなーっていう話」
彼女が何を思っててどんな事情があったかはわからないけど、プリズム運営から新人を導いてあげてと言われてるのに人と関わるのが苦手なままじゃみんな大変だからね。どこかで違和感を抱くリスナーだって出るかもしれない。
『四期生ね。何人入るかなー』
「何人だろうねー。やっぱり男子入ってほしい?」
『ほしい。二人以上はほしい』
プリズム二期生はぼくとサチヨを含めて全員で五人。男女比は2対3で、サチヨはバーチャルの体が女子だから純粋な男子は一人だけだ。一期生と三期生に男子はいないから、男子陣はこれまでだいぶ肩身の狭い思いをしてきたんじゃないかな。
Vtuber業界というのは全体的に女子が多いから、男子同士の関わりを作りにくそうだなとは日頃から実感する。ぼくたちが当たり前のように経験してる同性同士の関わりが彼らには難しいんだ。サチヨたちが箱内より箱外でコラボをよくしてるのもそのあたりが理由かもしれない。
「面白い男子はいっぱいほしいよね」
もっとこう、コラボしてても折り目正しく丁寧に接してくるようなタイプじゃなくて一緒にはしゃげるようなタイプがいい。
『でも時期的には四期生デビューより三期生の3Dのほうが先だろうな』
「あー……募集からデビューまで結構時間かかるもんね」
するとぼくたちはまだ見ぬ四期生のことより後輩の3D記念配信のことを気にしなきゃいけないのか。現状で3Dの体を持ってるのは二期生と一期生のみ。ぼくたちがお披露目配信に呼ばれるのは確実だ。
乾家つるぎをよく知ってる人とあまり知らない人の会話。
主人公は転生して半年以上経ってるのに未だ女子同士の距離感が掴めてません。