吸血鬼世界のVtuber   作:縫畑

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05話 神屋トゥーリ1

 吸血鬼にとって日光は毒。

 吸血鬼は流れる水を渡るのが苦手。ただし不可能ではなく気分的にちょっと嫌という程度。

 吸血鬼は十字架が苦手。ダサいって思う程度。

 吸血鬼は銀が苦手。触れるとなんとなくピリピリする程度。口に入れたら大変だけどそれは人間も同じ。

 

「ふぅ……」

 

 自室。私はパソコンの前で吸血鬼の嫌がるものを暗唱する。

 今日これから行われるコラボ配信は前半にレースゲームを行い、後半で雑談するという構成になっている。

 コラボ相手は神屋トゥーリという二期生のVtuber。私は三期生だからひとつ上の先輩だ。

 

『緊張してる?』

 

「あ、いえ……大丈夫です」

 

 デスコから届く声に返事をする。

 緊張してるんじゃなくて、あなたと話して正体バレないか心配なんですと答えるわけにいかない。

 実際のところ、私は初めてのコラボに全く緊張していなかった。

 理由は簡単である。

 

『もし途中でわからなくなっちゃったら、さっき送ったスケジュール表見れば大丈夫だからね』

 

 サポートが手厚いのだ。

 デスコで最初の挨拶をして、コラボで何をするか概要を教えてもらって、それからスケジュールが画像で送られた。ひと目で全体の流れがわかるうえに、各セクションで私が何をすればいいのかまで記載されている。

 子供のお使いにタクシーとナビゲーションを投入するような手厚さだ。迷子になる方がおかしいレベルの。

 

「いえ、本当に大丈夫です。ありがとうございます、こんなに丁寧なものを用意していただいて」

 

 なんと『途中で話につまったらこれぶちこめばいいよホームランで返すぜ』話ネタデッキなんてのもある。至れり尽くせり感がすごい。

 

『全然気にしないでオッケー。ぼくはこういうのいつも手癖で作っちゃうんだよね』

 

 私が緊張をほぐそうとして、さらに恐縮しないようにしてくれてるのも伝わってくる。プリズム運営が新人のコラボ相手にしたのも納得である。

 だから。

 いまの私の胸にずっしりのしかかっているのは正体がバレる不安と、こんな優しい先輩を警戒しなきゃいけない罪悪感だった。

 

『さあもう時間だ。いくぜいくぜ、準備はよいか!』

 

「はい、いけます」

 

『始めるよー!』

 

 マイクから顔を離して深呼吸。今回のコラボで私がやらなければいけないことはとても少ない。配信は相手のチャンネルでやるし、ゲーム部屋を建てるのも進行もすべてやってくれる。

 私のやることはただ発言内容に気をつけることだけ。

 もう一度だけ深呼吸。それで覚悟を決めた。

 

『こんちゃー! いぇーいみんな見てる? 神屋トゥーリだよー!』

 

「こんにちわ、乾家つるぎです。今日はよろしくお願いします!」

 

 

 ◆

 

 神屋トゥーリは、着物を来た金髪碧眼の少女という外見になっている。

 和と洋の外見で元気な性格、言葉遣いが男子のようで、ときにはリスナーと煽り合ったりする。

 そんな見た目と性格のギャップ、リスナーとの近い距離感が魅力かもしれない。

 以上がアーカイブで知る限りの神屋トゥーリだった。

 そして実際に打ち合わせでやりとりをすると、とても親切で丁寧な人なんだと理解する。リスナーには豪快で大胆なキャラクターを見せているが、きっとこちらのほうが素なのだろう。

 デスコの通話設定まで手伝ってくれて頭が下がる思いだ。

 

「よしよし、キノコだ。このまま順位維持していきますよー」

 

 私は雪山のコースを3位で走行している。

 コラボの前半のレースゲームはリスナー参加型で企画されていた。色々調整することが多かったろうに、トゥーリは全て引き受けたうえでスムーズに進行させているのがすごい。私はただのびのび一緒にゲームすればいい。

 アイテム使用に合わせて操作キャラクターが加速する。

 順位は好調。このまま問題なく走り続けていれば上位は確実だろう。

 しかしそうはいかないのがこのレースゲームだ。

 

「えーと、トゥーリさんの順位はどれくらいなんだろう……え、真後ろ!?」

 

『ヘイヘイヘーイ、ドーン!』

 

「ぬわーっ!」

 

 草

 草

 こいつ後輩にも容赦ないぞ

 すげー悲鳴で草

 女の子が男みたいな悲鳴あげるのいい…

 悲鳴たすかる

 

 車体が真上に吹き飛んで後続に抜かれた。背後から赤甲羅を当てられたのだ。もちろん下手人はあの先輩である。

 お世話になって尊敬しているのだが、このときばかりはあの高らかに笑うやつが憎い。

 

「んもー、覚えといてくださいよ……!」

 

 順位を三つ四つと下げられたがすぐに追い上げてやる。このレースゲームは前世でよくプレイしていたのだ。

 誰が配置したのか、アイテムボックス前のバナナを避けてミラクルキノコを取得。

 

 つるぎちゃん結構うまいな

 「ぬわー!」

 やり慣れてる

 ぬわー!

 

 コメント欄をチラ見したらさっきの叫びをネタにされていてくやしい。仕方ないだろう前世は男だったんだから。可愛い悲鳴なんてとっさに出たりしない。

 

『え、もう追いついてきたの?』

 

「追いつきましたよ!!」

 

『リハから思ってたけどやっぱり上手いもんだぜ。……ところでここに緑甲羅があってな』

 

「え゛っ!? ……んがああああ!! もおおお!」

 

 私の叫びと笑い声が被った。あの先輩絶対に許せない。

 

 可愛い声してなんて悲鳴あげてんだこの子

 字面にするとめっちゃ野太くて草

 声がニァンちゅうみたいになってる

 悲鳴たすかる

 

『つるぎちゃん声がニァンちゅうみたいって言われてるよ』

 

「オ゛オ゛ンもう甲羅は勘弁してほしいに゛ゃあ゛あ゛あ゛ん!!」

 

 草

 草

 この子犬耳じゃなかったっけ

 犬耳(猫)

 自分の種族を見失ってるぞ

 

 まあトゥーリさんの意図はわかってるのだ。私だって本気で怒ってるわけじゃない。

 彼女もきっとこのゲームが上手いはずで、ただ今回は撮れ高を一生懸命作ろうとしてくれている。ネタがあれば細かく振ってくれる。

 ただ先輩として後輩をリスナーへプロデュースするために。

 やはりこの人はとても親切で優しい人なんだなと思った。

 

「もちろんやり返しますが!!?」

 

『あ、ちょ、グワーッ!!』

 

 




次回は後半の対談になります。ガーリックトーストおいしいですよね。
いまのところ毎日更新していますが、更新頻度が落ちたら書き溜めが尽きたんだと思ってください。
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