吸血鬼世界のVtuber   作:縫畑

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08話 サリス・ヒューマン

『どうもー! 人間Vtuberでーす、よろしくお願いしまーす!』

 

 画面ではしゃぐキャラクターをぼんやりと眺める。

 日の出から太陽が南中高度に差し掛かるまでの時間は、私と同じ吸血鬼にとって就寝前のくつろぐ時間で、だからこの時間が一番動画の再生数が伸びやすい。新しくデビューするVtuberの初配信もほとんどはこのタイミングに行われる。

 自室のノートパソコンで動いているのもそのひとりだ。

 いまはVtuber黎明期といえる時代、雨後のたけのこみたいに様々なキャラクターが毎月デビューする。自分のように企業へ属する者、属さず個人で活動する者。配信形態やキャラクターデザインを考えれば十人十色、千差万別だ。

 そのなかで、人間というのは強い人気を持つモチーフである。

 ドラゴンに並ぶ創作の定番。かつて実在し吸血鬼と世界の覇権をかけて争った歴史まであるとくれば人気など出ないわけがない。

 人間をモチーフにしたVtuberなんて珍しくなく、かくいう私もそのうちの一人だった。人間を名乗るVtuberはこれで何人目になったんだろう。

 

「んあーネター、ネタがないわ……」

 

 私は机にひじ付きながら頭を抱える。

 そう、珍しくないからこそ差別化が重要。これはデビュー前にマネージャーへ繰り返し主張してきたこと。

 無理やりな人間アピールをリスナーに楽しんでもらうという路線でVtuberサリス・ヒューマンはスタートを切った。

 種族名をそのまま名字に持ってくるのはマネージャーの提案だったが、なかなかにキャッチーな名前で気に入っている。実際に人間がいたらどう思うかは知らないけれども。

 さて次の配信のネタは何にしようか。そろそろホラー実況に手を出すのがいいかもしれないが、個人的にホラーの類は苦手だった。

 

「玉ねぎ食べるのは前にやったばっかりだし……」

 

 あれの反響はとてもよかった。玉ねぎみじん切りによる目への刺激が大変だったが、我慢した甲斐はあったと思う。エゴサすると本当に多くの人が笑ってくれていたし、なんだか私の泣き声まとめみたいな動画もアップロードされていてびっくりした。また、プリズムのひとの配信でまで言及されてると頬が緩んでしまう。嘘だ、緩みまくって気持ち悪い顔になってしまう。

 玉ねぎ配信をヒュー子の定番コンテンツにできればいいが、無闇に繰り返せば絶対にリスナーは飽きていくだろう。

 多彩な方法での人間アピールが必要なのだ。

 もっとも、必要だからといってすぐに方法が浮かぶわけではないのだが。

 

「飲食系はやめとこうかしら」

 

 代り映えしないネタを続けるのはリスナーにとって面白くないだろうし。

 かといって代案は一向に浮かばず、私は机にあったスパウトパウチを咥える。

 最近よく飲んでるのは鶏の血液。口に含んだまま床を蹴り、椅子でくるくる回ってみる。

 そういえば。

 人間って吸血鬼と同じように血を飲むんだろうか。

 小中高で受けた歴史の授業で人間の絵を見たことがある。吸血鬼と見た目変わらないなと思ったし、先生もそのように言っていた。食べ物もいまの私達とだいたい一緒だったらしい。

 食べ物が一緒なら、やっぱり血も飲むんだろうか。

 咥えていたパウチを手に持ち、観察してみる。

 チキンブラッド200ミリリットルパック。カルシウム・マグネシウム配合。

 もし自分と好みが同じだったら案外仲良くなれるかもしれない、などと思ったがすぐにありえないなと思い直した。

 いま吸血鬼たちが飲んでいる鶏や牛、豚などの血はそもそも人間のものの代用らしいのだ。だとすれば人間が人間の血を飲むというのはおかしな話。きっと彼らに血を飲む習性はないんだろう。

 人間の血液ってどんな味なんだろうと興味がないでもない。いまも存在していたら頂いてみたいが、豚の血のようにこってりしていたら別にいいやと思う。私は鶏とか牛とかが好き。男性は豚がいいと言うひとが多いけども。

 私達吸血鬼は人間のことをほとんど知らない。

 所詮は数百年前に滅びた生き物だ。詳しい生態なんてきっと古生物学者くらいしか知らない。

 

「だからあたしがこんなに困ってるんだけどね……」

 

 ほんと人間アピールネタどうしよう。

 同居している家族に配信のネタなんて相談したくない。私がVtuberをしていることは弟にも両親にも伝えているが、サリス・ヒューマンであることまでは教えていないのだ。相談なんてしたらきっとバレてしまうだろう、特に弟には。

 やはりホラーに手を出すしかないのか。

 人間は日光が平気とも授業で言ってたような気がするし。ビビりつつ口では平気ですって言いながら進むことになるのか。考えただけで気が滅入りそうだ。

 

「ホラゲなんて一人でやりたくないじゃない」

 

 そう呟いたとき、私ははっとして立ち上がった。

 一人でやりたくないのなら二人でやればいいのだ。

 私の脳が一瞬で相方候補を弾き出す。まず同じプリズム所属であること。さらに同性かつ、できればホラーに耐性があるひと。同期だと気兼ねがなくていい。

 いるいる。いるじゃないか適役が。

 乾家つるぎ。

 名前を呟いた瞬間にさまざまなイメージが流れ込んでくる。明るい雰囲気を怖がる人間Vtuberと、そういうのが平気なデイウォーカーのコンビホラー実況。きっとリスナーは楽しんでくれる。

 そういえば彼女は人狼と名乗っていたんだったか。まあ大丈夫だろう。ただ人狼って名乗ってるだけみたいだし。

 乾家つるぎは不思議な人物だ。

 プリズムのために用意されたデスコチャンネルではいつも挨拶しかせず、ほぼ誰とも会話しない。それなのにどこか存在感があり、デスコ開いたときにはつい彼女がオンラインかどうか見てしまう。

 少なくとも私は彼女に悪印象はないし、あちらも前に配信で私のことを気になってると言ってくれていたから、そう悪いことにはならないだろうと思う。

 よし、よし。いける。

 考えれば考えるほど乾家つるぎが適役だ。

 思考のどん詰まりから解放された喜びで飛び上がりそうになる。きっと彼女は救いの女神に違いない。

 まずはついったのリプライを重ねて仲良くなっていこう。

 目指せ三期生コラボだ。

 




ロックオン。
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