東方龍帰章~Return of east Legendry~   作:朝霧=Uroboross

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こちらは刻縁の過去編になります。

その前に忠告を。
以下のお話はかなりの残酷描写、及び胸クソ展開を含みます。割とえげつない描写が多かったりするので、弱い人は見ないことを勧めます。
その上長いお話になるので、気分が悪くなったり、そういう話は無理、という人はここでブラウザバックして下さい。それでも覚悟を持って読めるというのであれば止めはしません。

ただし、それで具合が悪くなるなどの不良が起こっても、当方は一切の責任を負いません。負いませんというか負えません。なので読み進めるならば自己責任でお願いします。




































懐古・刻縁:護れなかったもの

 

 ────私は、捨て子だった。

 遥か昔、まだ神々が地上によく降り立っていたころの大和の大地。その山奥の小さな村で私は産まれたのだそうだ。

 というのも、産まれてすぐに忌み子とされて山奥に棄てられたのだとか。

 なんでも、天文学的にも有り得ない、有り得るはずのない日食と月食の同日展開があった時に産まれた子であるから忌み子とされたのだという。

 

 山奥に棄てられた時、産みの母は泣いて謝っていたらしいが、あの当時はどうしようもなかろうな。仕方あるまい。

 その後、山奥に棄てられた私を、母上──いや、昔のように、母様と。その母様と父様に拾われて今日に至る。

 まぁ、山奥に神代でわかるように、母様と父様は人ではない、(アヤカシ)──所謂ところの地上に堕ちた(=住み着いた)神々の者であり、厳密なとこの妖怪とは違うのだが──であり、以来私は父様と母様の手で育てられてきた。

 

 すくすくと育ち、野山を駆け巡り、同じ妖の里の者達と遊び、語らい、大きくなっていった。

 私が拾われてきた日を目安に、事あるごとに様々な贈り物をくれた。刀剣、面、着物、なぜかまだ乳飲み子の時に贈られた盃(後々思えばアホなのでは?と思った)。あの頃は、本当に楽しかった。

 まだ人として生きて16年。丁度齢16ほどだろうか。その時に父様と母様から妖であることを告げられ、共に生きるかと問われる。まぁ、にべもなく頷くとも。

 それから二人の血を飲み交わし、私は半妖となった。かといって何かが変わるでもなく、以前と変わらず里の者達と宴をし、遊びをし、のんびりとした日々を送っていた。

 

 

 

 ──だがそんな日々も、そう長くは続かなかった。

 100年近く経過した頃だろうか。その日も宴のために、遠く離れた土地に住む者から酒を貰いに、私は里を外れていた。

 つい長話をしてしまい、急ぎ足で里へと戻った。その時は乾いた風が吹き、嫌な予感がしていた。まるで、取り返しのつかない何かが起こったような。

 ぽつりぽつりと雨が振り出しながらも、急いで私が里へと帰りつくと、そこには────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──血に濡れ、視るも無惨な姿へと変えられた、里の仲間達の姿があったのだ。──

 一瞬、"それ"が何かはわからなかった。いや、わかりたくなかった。誰も息をしていない、濃密な死が支配する世界だった。

 親しかった友の首は落とされ、身体には幾本もの槍と矢が刺さり、血は溜まりとなって充満し、散らばった死体の目には絶望の色のみを写していた。

 

 呆然としながらも、私は生き残りを探して里を探す。生き残りなどいるはずもなく、ただ虚無感をもって歩き回った。

 だが、その中で私は見つけてしまう。そう────血に染まった、先日産まれたばかりの弟と、それを守らんとしていたであろう父様と母様の無惨なまでの死体を。

 

 父様の身体には他の者達よりも酷いと言わざるを得ないほどの傷痕や刺さったままの槍や矢、それらを受けながらも仁王立ちしたままであった。生気のない顔で。

 赤子であった弟は、惨たらしいほどにまで痛め付けられ、最早生きていないと断定できてしまう程であった。

 母様は、その弟を守ろうとしたのか、両手を広げていたが、その姿のまま樹に槍で張り付けられ、その顔には涙の跡がくっきりと残っていた。

 

 それを見た瞬間、私の中の何かがプッツリと切れたのだ。

 慟哭を上げ、何も護れず、何も残らず、全て、全て奪われた。泣いて、泣いて、大切なものを護ることさえできずに失ったことに悔いて悔いてたまらなかった。

 三日三晩泣き続け、疲れた私は、一人一人丁寧に、その遺体を埋めるていった。その中で私は、とあるものを見つけたのだ。

 それこそが──私が酒を取りにいく要因となった、友和をもちかけてきた人間の飾り物であった。

 そこからすぐに、これはその人間が、ひいては人間達がやったのだと察した。そして、私は決意した。

 

 

 

 

 

 

 ──アノニンゲンドモヲ、ユルシテハナラナイ──と。

 

 

 同胞達の血に濡れた刀剣のうち、比較的真新しいであろうものを二本ほど身繕い、死体を運んだがために塗れた手で、贈り物である狐面をつける。

 これは本来ならば未来のものであり、今でいうところのオーバーなんとかに含まれるのだろうが、その時はそんなことは関係なかった。

 

 ただ、とにかく殺す。それだけだった。

 

 

 そこからは早かった。まだ残っていた人間達の足跡を追い、我が里を襲った者達の里を見つけ、里の外周に皆から習った妖術で火を回し、何人たりとも逃さぬ陣を張った。

 そして、私は里内の人間全員を──殺した。

 老若男女関係なく、命乞いをする者も、逃げ惑う者も、子供だけはと懇願する者も皆、殺し尽くした。

 殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺し殺殺殺殺殺殺殺殺──────。

 

 徹底的に殺し尽くし、最後に残ったのは、あの憎たらしくも友和を勧めてきた人間だった。

 

『ば、化け物……ッ。お前達なんて、気持ち悪いんだよ!!消えろ!消えてしまえっ!醜い化け──』

 

 首を跳ねた。そうだ、化け物でいい。最早帰るべき場所も無くし、護るべき者も無くし、抱いていた矜持さえも無くした無意味な復讐鬼。──それが、昔の私だった。

 

 

 

 それからの私は、同じくして人間に反感を抱いていた者達を纏め上げ、憎き人間達に宣戦布告をした。大和の地の東側を占領し、西側に集まった人間達と高天原の神々と幾日にも及ぶ戦を始めた。

 初めこそ追い込みをかけ、人間達の領域を狭めていったが、後に神々の協力を得た強者達が台頭し始め、こちらが追い込まれる形になっていった。

 

 それでもなお戦線を維持できていたのは、こちらにも強者がいたことと、私への畏怖だろう。

 黒き八つの狐尾──母様が金毛の九尾であったため──に、龍の如き角と九つ目の尾──父様が龍の血を持っていた──。血塗れの狐面をつけた怨鬼。その凄まじいプレッシャーは、敵味方関係なく見るもの全てに恐怖を与えていた。

 

 とは言え、だ。それもそう長く続くはずもなく、徐々に徐々に押し込まれ、妖側の強者も、一人、また一人と倒れていった。

 ついには私一人となり、その身体に幾千もの矢と幾万もの傷を付けられながらも慟哭する。

 

 

『なぜだ…貴様らが………貴様らが!我らを人で無いと切り捨てなければ!人で無いと排除しなければ!我々は何も失わずに済んだのだッ!!なぜだ!なぜ我らを排除した!!そんなに人でない者が醜いか!そんなに人でない者が煩しいか!!ふざけるな……ッ、ふざけるなッ!!おのれ…上面ばかりの下衆共め…。許さぬ……許さぬぞ人間共……我が怨み、思い知れェッ!!!』

 

 

 もはや決死。後のことなど考えてはおらなんだ。目の前の"(ニンゲン)"を殺しに殺し、千人から最早数えるのを止めてしばらく。私は、胸に突き立てられた剣を持って最期を悟った。

 

『っ……なぜ、だ……なぜ……我は、我らは……我が無念は……晴れぬと、言うに……』

『……すまない。だが、眠れ……其方は、休むべきだ……っ』

 

 剣を抜かれ、よろける身体。しかし倒れず、私は、虫の息な身体を無理矢理に動かし、歩みを進める。

 

『行かな、ければ……逝かな、ければ………』

 

 朦朧とする意識の中で、私はある場所へと向かった。後ろについてくる強者の気配も、その強者が、肩を貸して連れたことも。その時はとにかくどうでもよかった。

 ──ただ、死ぬ前に、どうしても──

 

『──嗚呼……嗚、呼……帰り、ました……ミンナ……』

 

 悠然と咲く桜の木。かつて、父母と血の契りを交わしたその場所に、皆の死体を埋めたその地に、私は手を伸ばし、倒れる身体と共に────意識を、手離した。

 こうして、道に迷った復讐に終止符が打たれ、妖は皆その姿を隠し、人と妖の戦は私の死と共に幕を閉じた。

 最早伝聞すら残らぬ、昔々の話だ────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから幾星霜、宛のない黄泉路を逝く私を、あんまりに思った天照様が導き、私は陽の元へと戻ってきた。たどり着いた私を、高天原の神々は手厚く保護し、半ば魂の抜けたかのような私を診てくれた。

 怨みは消えない。だがそれでも、私を照らし、導き、居場所を与えてくれた、かの神々の役に立てるなら、と。私は申し出、そして役割を与えられた。

『夜刀神』と呼ばれる、一種のヤンチャした者達をしばくための座に、月詠様揮下の元、配属された。そのおりに、私は神名として、『陰藤夜狐刀命(イトヤコトノミコト)』を授かった──まぁ流石に復讐者を神にするのもどうかという話なので、最低限で『神』を『命』にして頂いたのだが──。

 

 

 

 そうして幾年もの月日が経ち、水京という友ができ、人に成り変わってからしばらくして、平城京を見歩いたりだとか、かの偉大にして平安一の腹黒陰陽師こと安倍ナニガシに弟子入りしたりだとか。

 また、中華の八卦より、私は『勾陳』の冠を頂き、最終的には『青龍』の名を冠する許しまで頂くことにもなった。

 それから更に仲間ができ、部下ができ、己の居場所を確固たるものにできた。

 

 そして近世でも、新たな友ができた。私を宿らせながらも自我を両立させ、そして私を地上へと降ろすことのできた新たなる人の友を。

 

 

 昔を思えばこそ、数多くの苦難と想いがあったが、それでも、昔があるからこその今の私なのだ。

 嗚呼、人の世とは、かくて如何なるものになるかわからぬからこそ楽しいものだ。辛く苦い記憶も、朗らかで暖かい記憶も、私が私であるが故に、とても、大切なものであるな。

 

 

 

「ふふっ、"なべて世は事も無し"か。確かに、これはこれで、良いものだ────」

 

 





ここまで読んで下さり、ありがとうございます。そして、お疲れ様でした。

如何でしたでしょうか。あの刻縁がここまでの闇を抱えた存在だと、誰が思ったことでしょうか。
ついでですが、刻縁は復讐鬼であった頃は別の名で呼ばれていました。それはまた追々出しますが、昔は刻縁という名前ではなかったということは覚えて頂きたいです(刻縁という名前は天照様から頂いたもの)。

ちなみに、皆が皆、刻縁ほどの闇を持っているわけではありませんが、それなりの経験をしてきた者達ばかりです。
あと、刻縁のこれはフィクションです。まぁ、事実かも知れませんし、もしかしたらどこかでまだ伝聞が残っているかも知れませんね。


お疲れ様でした。次の投稿は6/5、23:30~0:00を予定しております。気長にお待ちくださいませ。
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