東方龍帰章~Return of east Legendry~ 作:朝霧=Uroboross
今回は背景説明しつつ、バトルシーンを入れてみました。
東方の戦闘シーンって、なかなか難しいんですよねぇ…
厭世感の漂う人里を上空から眺めながら、湖から溢れ出た霧によって隠れる屋敷を視界の端に見る。
その人里では、以前来た妖怪寺の者達や、最近蘇ったという奈良時代の偉人達、そして今代の博麗の巫女があれやこれやと騒いでいた。
「何をやっているのだ彼奴らは……」
「なんでも、宗教合戦らしいですよ、当代」
術式の点検と補強を終えた水京が刻縁の隣に並ぶ。流し目で下を見れば、違和感のない程度で霧が増えていき、ゆっくりと屋敷を覆っていく。
こちらに来てから度々行っているこれは、刻縁らがこの幻想郷において目的のために発動しているもの。これにより、一時的にではあるが、刻縁らの存在は直接関わったものを除いて悟られることがないようになっていた。
「……あとどのくらいは持つ?」
「おおよそ、
さらに激しさを増していく人里を余所に、誰にも悟られることのない二人が思案する。
霧の湖の水を掬い、掌から零れ落とす。一息つき、いたずらっ子のような笑みを浮かべて振り替える。
「ふむ、ちとアレに混ざってみるか?」
「露見しますよ?」
的確かつ速攻で帰って来た水京の呆れ声に、うなるような声をあげて引き下がる刻縁。それから盃を取り出して水面に傾ける。
空だった盃の底からは次々に水が流れ出し、湖に張られた術式へと浸透していく。最後の仕上げを終わらせて盃をしまう刻縁。
「──待てがいい、そこな怪しい者共」
「む?」「はて?」
振り返って見れば、まさしくな効果音が鳴りそうなポーズを取る面を被った少女──『秦こころ』が立っていた。
半透明な扇子を広げながら格好つけるこころと、どう反応していいかわからない刻縁と水京。両者らの間に、なんとも言えない沈黙が流れる。
「……おい、なんか言え」
「…すまない…?」
「謝るな、惨めになるだろう」
無表情かつ抑揚も少ないため、微妙な圧を感じていた。とは言え、頭につけている面がどういう感情なのかを表しているため、大体どう思っているのかは判る。
憤慨したように地団駄を踏むこころ。ひとしきりやって落ち着いたのか、一息吐くと、今度は半透明な薙刀を刻縁に向ける。
「お前達はこの上なく怪しい。というわけで打ちのめす」
「…突拍子もない上に言いがかりも甚だしいな……いいだろう、相手になってやる」
腰に差した刀の鍔を持ち、半身を下げていつでも抜ける体勢を取る刻縁。対するは、狐の面を着けて薙刀を構えるこころ。
緊迫した空気が流れる。互いに動きのない時間が過ぎて行く。
そんな中、静かに吹いた一辻の風。初めに動いたのは────こころであった。
「せい、やぁ!」
棒読みに似た抑揚で繰り出されるその技は、その口調とは裏腹に鋭く、刻縁が生きてきた中でもかなりの遣り手とも言えた。
しかし、刻縁もまた、繰り出される薙刀を柳のように躱していき、神速の抜刀を見せる。
危機を感じたこころは、攻撃を中断して深くしゃがみ、それをバネとして高く跳び上がる。その直後、こころのいた場所に逆袈裟の斬擊が通る。
「危ない危ない、これは出し惜しみなしだな」
「……悉く此方の台詞よな。────行くぞ、加減は無しだ」
刀身の見えない速度で納刀されていた刀を、抜刀の構えながら駆け、距離を詰めていく。
そして互いにカード・・・を取り出して紡ぐ。
「スペルカード発動、秘剣『閃々・桜吹雪』」
「スペルカード発動、怒面『怒れる忌狼の面』」
口を開けた狼のようなオーラを纏い、刻縁へと突っ込んでいくこころ。対する刻縁は、未だ納刀したまま駆けりながらも、身体を深く捻り沈めて──鍔を弾く。
その次の瞬間には、眼に見えぬほどの剣閃が五つ・・駆け抜け、喰らいつかんとしていた狼を霧散させる。
「!?」
「油断大敵だぞ。────スペルカード発動、
炎上『黒縄火炎』」
刻縁がスペルカードを発動させた直後、こころの足元に漆黒の炎が柱となって立ち昇る。あわや直撃したかに見えたが、ギリギリで回避していた。
しかし炎はその一撃では終わらず、次々に足元から吹き出してくる。その全てをなんとか避けきった、と思った背後から刻縁が現れる。
「甘い、スペルカード発動、憂面『杞人地を憂う』」
今度は刻縁の足元からオーラを纏った大量の翁の面が立ち昇る。
咄嗟に後ろへ跳ね返ることでそれを避けるが、避けた先にも立ち昇っていた。だがそれを、空中で一回転しながら切り裂くことによって突破する。
避ける中で時に先回りされ、時に足元から吹き出されなど、あたかも翻弄されているかのように見せていた。さうして刻縁の体勢が一瞬崩れたのを、こころはみのがさなかった。
「決める────スペルカード発動、
『仮面喪心舞 暗黒能楽』」
スペルカードの発動と共に、周囲を面が取り囲む。そして、こころが必殺の一撃を加えようとしたその時、刻縁は一枚のカードを取り出す。
「スペルカード発動──────
神器『アメノムラクモ』」
刻縁の手刀が振り下ろされると同時に、光の奔流に飲まれていく────────。
「──────はっ!」
「起きたか」
意識が覚醒すると共に勢いよく起き上がる。はらりと落ちる濡れた手拭い。掛けられた声の方を見ると、木陰に座る刻縁の姿。
「安静にしていないとダメですよ?当代のアレ、もろに当たったんですから」
「……なぜ、助ける?」
まだ休ませるべきと判断していたこころの問い掛けに、呆気にとられた反応を返す水京。
目を瞬かせて柔和な笑みを浮かべると、こころの介抱を続けながら宣う。
「そうしたいと思った以上に、理由はいりますか?」
優しそうな雰囲気に、嘘偽りのない言葉。
大きく目を見開いたこころは、休まされながらも二人に頭を下げる。
「私の早とちりだった、すまない」
「気にするな。誰にでもある」
なんでもないかのように返す刻縁の言葉に、緩んだ息を溢す。
そうして介抱されながら、こころは気になったことを聞いていく。
「ここで何していたの?」
「ちょっとした調べものだ。丁度終わったところでお主に襲われて、な」
「う、申し訳ない……」
軽く笑ってから「気にするな」と言われ、茶化されたとわかったこころ。拗ねたような反応を見せるも、向こうの余裕は変わらなかった。
「最後の、何?」
「『神器』だ。それ以下でも以上でもない」
なんでもないかのように告げられたことに、このろは驚きを見せる(驚きの面を被っただけだが)。
神々が鍛え、振い、振るわれる武具である神器。それを扱うということは、目の前の相手は神に連なるもの。もしくは────
「神様?」
「あながち間違いではないな」
言外に神に連なるものと公言し、そして敵対していたのが神であることに、こころは驚き焦った。
神に牙を剥くのはご法度中のご法度。それを知らずとは言え剣まで交えていたことに、焦りを抱くのも当然のことであった。
「謝罪はいらんぞ。私としても、久々に身体を動かせて楽しかったからな」
「随分と久しいですからねぇ」
賛同するかのような水京を余所目に、ただ眉尻を下げて肩を落とすこころ。
そんなこころに、刻縁は声を掛ける。
「そうさな、まぁあれだ。今は故あって表に出れんが、いずれ大手を振って歩ける時には、君の能楽を見せてもらいたいのだが、構わんか?」
「もちろん。我が能楽、心行くまで楽しんで頂きたい」
形は違うとは言え、神前で能楽を披露できるということに、表に出るほど沸き立つこころ。
その後、今回のことは他言無用と取り決めて、二人と一人は別れ去る。
とは言え、今回の戦闘はどこからどうみても目立つほどに激しいものであった。しかし、幻想郷ではこちれを気にする空気は全くなかった。
なぜならば────戦闘中は水京が結界を張って、不可視化や戦闘の余波を流していたからに過ぎない。そして何よりも、彼らが霧に張った、後々の異変の元となるこの霧────『忘却の霧』によるものでもあった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
東方の戦闘描写は独特なので、なかなか表現は難しかったのですが、いかがでしたでしょうか。
もうあと二、三ほど書き上げた後、刻縁達の異変を書きます。お楽しみに。
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次回更新は、7/17の23:30を予定しております。