東方龍帰章~Return of east Legendry~ 作:朝霧=Uroboross
本日より更新してまいります。まずはいくつかの話の後、二週間の感覚を空けて更新していくので、だうぞよろしくお願い致します。
なお、次話を前の話にするという大失態を犯していた、などということはありません。ありません(圧)。
深く、静けさが辺りを支配する夜の森。何人も訪れることのない無縁の古仏達が眠るこの地に、幾人かの姿が靄のように現れる。
蒼衣の剣士を先頭に、白衣の識者、黄土の妖忍、金面の無頼、死相の花魁。最後に三足の烏が剣士の肩に留まり、彼らは|顕界(帰郷)した。
「……人の手に侵されておらぬ、澄んだ気よな。好い」
「今は|私(わたくし)共しかいないのですから、素でよいのでは?当代」
「そうですわ旦那様。いつまでもそうですと肩が凝りません?」
苦笑いする識者と、袖で口元を隠しふふふと笑う花魁。その二人に、剣士はただ眉を下げて苦笑する。
「そうか、それもそうだな。しかしまぁ、彼奴がすぐに来れんのは意外であったな」
そう回想するは、かつて邸宅にて浴びるほどに酒を呑み、大笑いをする大男――否、巨漢の鬼のことであった。
誰とも言わず、皆歩みを進めながら、彼の者を思い出す。酒を呑み、馬鹿騒ぎを起こし、その度に悪びれずまた賑やかしをする彼の者を。
「……『金熊』は自営の酒が荒稼ぎしてしまったが故に遅れる、と」
「ん、そうだったな。やれやれ、あれほど頃合いをよく見ておけと言ったのだがな……」
ため息と苦笑いが一緒くたに出る一同。愉快そうに笑い声をあげながら「後で行く」と言った鬼に、ただただ呆れるばかりであった。
周囲は少しばかり開けた細道から、いつしか深い森へと映り変わっていく。あちらこちらから化け茸のものと思われる胞子が飛来するが、識者が張った結界に全て遮られていた。
「随分とまぁ様変わりしましたねぇ、ここも」
「そうは言うが、昔のここを知るのは私とお前ぐらいであろうよ」
辺りのざわめきを他所に、他愛のない話をしていく。
彼らが吹き起こした風の、行く先知るゆえもなく――――――――。
人里外れた、この幻想郷の端に位置する神社。その屋根の上で、黄昏るように夜半の月を見ていた女性が一人。膨大なまでの妖気を、人に知れることなく収めるこの女性こそ、幻想郷にて賢者とされる一人。『八雲 紫』その人である。
そんな彼女は今、この幻想郷にて不可思議なことが起こっていると感じていた。結界に綻びができた。が、一瞬で跡形もなく修復された。これを異常とせずに何と言うのだろうか。
「どうした、紫」
背後より呼び掛けられる声。振り向けば、そこには見知った、傷だらけの痛ましい姿でありながらも、堂々とした強者の気配をにじませる巫女がいた。
紫は、現状さしたるものはなけれども、何かしらはあると見て式神を放ち、巫女にはなんでもないかのように肩をすくめる。
「なんでもないわ。ただ問題が山積みなのが億劫なだけよ」
「それはお前のだらしなさのせいだろうに」
自らが唯一気の許す人間の友が放った容赦のない言葉に、紫はただ頬を膨らますようにして拗ねる。
まるで子供のようだと肩をすくめる巫女。風邪は引くなよ、とだけ言い残し、屋根から降りていった。その後ろ姿を見送ってから、紫はまたしても思案にふける。
(この幻想郷の結界を、的確に一部分だけを裂いて即座に修復……そんな芸当、できる相手は絞られる……)
そうして、この"世界"が出来上がる直前に別れた、あの賢者の一人を思い出す。
――後は頼むぞ、紫――。そう言い残して別れた、この幻想郷でも屈指の賢者だった者。高天原に一席を置きながらに、剣術の極致を体現した者。その後ろ姿を、この現状から錯覚する。
「貴方だと言うの……?本当に、帰ってきたのかしら………刻縁」
その問いに答えるものは誰も居らず、ただ独り空しく夜の闇の中へと消えていく。その胸中に抱くは懐古か、はては羨望か。それを知る者未だに居らず――――。
これより、彼らを渦中に幻想郷は進んでいく。だが、彼らを見つけることは有り得ないだろう。
それ故に彼らは、いずれ来る時まで身を隠し続ける。
龍に仕え、神に遣え、人と愛し、裁き、導く彼らを。人の世に結して語られぬ其の名を――――。
「お初にお目にかかる。我が名をば名乗り上げるが故、口上御免つかまつる」
キャラクター説明等については後々に開きますので、気長にお待ちください(もしかしたら早めになるかもしれませんが)。