東方龍帰章~Return of east Legendry~ 作:朝霧=Uroboross
ルーミアと名乗った少女に連れられ、一向は森を抜ける。刻はすでに明け頃、あたりはほのかに明るみを差してきていた。
他愛のない話をする内に、いつの間にか外に出ていたということに、ほぅ、と少しばかりの嘆息をして陽を眺める刻縁。
「んじゃ、案内はここまで。人里には私らは近づけないからね」
「うむ、恩に着る。息災でな、ルーミア」
手をひらひらと振り、森へと返り入っていくルーミア。それを見送った一向は、人里へと歩を向ける。
朝焼けの、穏やかな風が吹きし野道を行く彼ら。中でも、懐かしさを禁じ得ない刻縁のその表情は、その望郷の念の大きさが窺えるほどに清々しく表れていた。
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雑多に人々が行き交う人里へと入り、その格好でさえ疑われぬほどに自然態で、各々人ごみへと紛れていく。
「いらっしゃい、いらっしゃい!新鮮な野菜が入ってるよー!」
「お米はいらんかねー?おいしいお米はいらんかねー?」
商人達の喧騒、井戸端の母親達の会話、子供達の笑い声。それが響きあう人里は活気に満ちていた。
そんな中で刻縁と、その側にて控えていた水京は、宿ないしは拠点を探すため、辺りを見回していたところ。ふととある店が目に入る。
「ふぅむ……水京」
「えぇ、承知しておりますよ。掘り出し物があるといいですねぇ」
刻縁が指を座した店に意識を向けて、なおその絶えることのない柔和な笑顔を浮かべる水京。二人は、その気にかかった店へと入っていく。
『霧雨店』と書かれた、古道具を多く扱うのであろう、小洒落た店へと────。
「いらっしゃいませ、ようこそ『霧雨店』へ」
「あぁ、邪魔をする」
眼鏡を掛けた店番からの声に、軽く目礼と共に言葉を返す。店内には、古惚けた、しかして値打ちのあるであろう壺や、長い年月を経ても、なお色褪せることなく鮮やかな絵が置かれていた。
そうして店内を物色していると、店の奥より声がする。
「おーい、"霖之助"ぇー!ちょっと手伝ってくれー!」
「あ、はーい、今行きまーすっ。すみません、少し離れますね。ご用でしたら呼んで下さい」
そう言って、店の奥へとかけていく番頭。多少毒気を抜かれたものの、肩を竦めてゆっくりと店内の品々を見ていく。
様々な骨董品や古道具が置かれ、中には外の世界から流れついたであろう、大きな振り子時計や、ソファー等といったものまであった。
しばらく見ていると、奥から先ほどの眼鏡の番頭と、もう一人の青年がやってくる。
「いやー、いてくれて助かったわ霖之助。親父がまたどでかいもん持ってきててなぁ────っと、接客中だったのか」
まだ少年らしさを残す青年が、刻縁達を見つけるや否や、二人に向かって頭を下げる。
「すまねぇお二人さん。ちょいと大仕事があったんだ、申し訳ねぇ」
「何、構わんよ。貴殿はここの主人かね?」
むしろ有意義だった、と言わんばかりの笑みを浮かべていた刻縁の問いに、青年は苦笑いをしながらかぶりを振る。
「いんや、ここの主人はうちの親父さ。あー、悪い悪い。うちは 霧雨 ってんだ。んでこっちは──」
「ここで学ばさせてもらっています、『森近 霖之助』といいます」
青年の紹介を経て、軽くお辞儀をする霖之助。真面目そうで、よく頭が働くであらう霖之助の、その姿を見ながら刻縁は思う。
(しっかりしたものだ……視たところ、半妖か?物好きなものだ。……しかしまぁ、商才は微妙なところかね)
先の番頭としての姿を見ていた刻縁は、霖之助の本質を見抜き、薄らと苦笑する。
その様子を見て首を傾げた霖之助と、霧雨と名乗った青年。そんな折りに、草履の摩る音が店頭より聞こえ、彼らが振り向く。
「もうっ!忘れ物していますよ!」
「ああっといけねっ。助かったぜ」
青年の想い人であろう女性が、包みを持って息を切らしていた。体が弱いのか、息を大きく切らしており、青年がそれを支えていた。
「無理すんなよ。これぐらい他のモンに任しときゃいいもんによ」
「わ、私が、会いに行きたかったからでは、ダメ、ですか?」
息切れもあるだろう、紅潮した顔で言われた青年は、目を見開くや否や朱が入った顔を背けて、照れを隠す。
頬をかく青年に微笑むという、なんともはや若い光景に、刻縁と水京もまた笑みを浮かべる。
「ふっ、まるで里に居たときの水京夫妻のようだな」
「おや、そうですかな?それは困りましたねぇ」
そんな二人の会話が聞こえたか、はたまた霖之助の向ける微妙な視線に気がついたか、慌てて二人が離れ、青年は咳払いをして気を取り直す。
「そ、それで、あんたらは何かお求めかい?」
「ん?そうだな……────では、これを貰おう」
そう言って手に取ったのは、艶やかな、しかし相当の月日を経たであろう、丁度良い大きさの盃であった。
鬼の大盃ほどではないが、月夜酒には丁度良い大きさであり、刻縁はこれを、入ったときより目につけていた。
「ん?それでいいのかい?だったら──っと、これだけになるな」
番頭台より算盤を引き出して弾き、値段を見せる。それを見て懐から丁度その値の銭を手渡す。
「毎度あり。そっちの御仁は?」
「そうですねぇ、では此方の簪をば一つ」
水京と青年が話し合う中、刻縁は霖之助に近付き、持っていたいくつかの古道具を見せる。
「これの買い取りは出来るか?」
「えぇ、出来ますよ。少々お待ちを────叔父殿、買い取りです」
店の奥に声をかける霖之助。すると、奥から初老を迎えたであろう白髪が入った男性が現れる。
そして、刻縁の出した筆や飾り物を丁寧に持って見ていく。それから、算盤を出して一つ一つ値段を決めていく。
その様子を傍目に、刻縁は霖之助に問いかける。
「ついでになるが、この辺りで、空き家か宿はないだろうか」
「そうですね……里の外れですが、少し大きめの空き家があったはずです。案内しましょうか?」
「それは助かる、是非願いたく」
そんな会話の後に、買い物を終えた水京と、買い取り金を受け取った刻縁は、霖之助の案内の元霧雨店を去り、里の外れへと向かうのであった。
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