【外伝】となりの黒騎士くん   作:クロカタ

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本作は『追加戦士になりたくない黒騎士くん』のスピンオフとなります。

本編で描写することのできなかった話、キャラ視点、怪人などを出したいなと思いましたので、短編集という形で投稿することにしました。

今回は、本編第四部『いつもと違う日常』に登場した此花灰瑠というキャラクターの視点でお送りします。


はじまりの戦士(VSクモ怪人)

 最初に確認された“怪人”は人型のクモのような姿をしていた。

 クモそのものの顔から覗く大きな牙。

  とてつもない怪力を秘めた六つの腕から発射される糸は、あらゆるものを絡めとり、高くそびえたつ高層ビルさえも軽々と両断してしまうほどの威力を備えていた。

 

 一度目の出現は、時間にして10分弱。

 たった短時間で首都の機能が停止させかけるという惨事を以てして、クモ怪人は明確な人類の脅威として私たちの前にその姿を現したのだ。

 

 出現から三か月。

 定期的に暴れるクモ怪人を前に、自衛隊の出動も要請されたがそれも足止めにしかならず被害は大きく増えていくばかりだった。

 この最初の怪人が現れてからの三か月を“悪夢の怪人事変”と呼ばれた。

 

 まるで映画や空想の中から飛び出してきたような存在の彼らは、尋常じゃない力と能力を備え、人間に明確な敵意と殺意を持っていた。

 クモ怪人が登場した直後は『未確認生物出現!!』だとか『異星人侵略!!』だとか暢気なことを言っている人がいたけれど、それ以降はもうただただいつ現れるか分からない怪人という脅威に怯えることになっていた。

 

 でも、彼が現れた。

 

 夜を駆け、どこからともなく現れ怪人をその拳で打ち倒す黒い仮面の戦士。

 誰が呼んだかその名は“黒騎士”。

 目的も不明。

 人間かどうかも不明。

 なぜ、怪人と戦うかも不明という謎だらけの人物。

 簡単にまとめるなら、ものすごく強い不審者である。

 

 そんな彼とクモ怪人の戦いの場に、私、此花灰瑠(このはなはいる)はいた。

 

 それは、中学三年生の秋。

 肌を刺すような冷たい風が吹く夜のことだった。

 


 

 怪人が出没するようになったとしても、街には人がやってくる。

 まさか自分のいる街には来ないだろうとか自分なら大丈夫だろうっていう根拠のない自信を抱いたまま、私は友達と一緒に遊びに出かけたのだ。

 勉強の息抜きのつもりだったし、20時くらいには帰るつもりだった。

 そんな時、私のいるこの街に——クモ怪人は現れた。

 

『キュル!! キュルルォォ!!』

 

 鈴虫のように口の中で何かを削り合わせたような音を響かせたそいつは、怯える人たちの反応を楽しむかのように糸を吐き出しがんじがらめに縛り付けた。

 

『キュシャァ……』

「う、あ、ぁぁぁ……」

 

 そしてクモ怪人はこれみよがしに縛り付けた人に噛みつき、血を吸い上げあっさりと殺した。

 一瞬の出来事に私を含めた人々はパニックに陥り、その場を逃げ出そうとした。

 

『キュルル!!』

 

 頭上を何か糸のようなものがものすごい速さで横切ったのは今でも覚えている。

 それは、多分クモ怪人が出した“糸”だったのだろう。

 次の瞬間には、高くそびえたつビルが乱切りにされたニンジンのようにバラバラになり、私たちのいる地上へ落ちようとしていた。

 

「あ……あ……」

 

 逃げ惑う人の波に流されるだけだった私の視界にうつりこむ、落下してくるビル。

 足を止めかけた私は呆然としてしまっていると、どういうわけかビルの残骸が空中で向きを変えるように横に吹き飛ばされたのだ。

 

「……今、なにか……」

 

 空中に響く、何かが激突するような音と、微かに見える黒い影のようなもの。

 不思議に思いまた頭上を見上げれば、地上に落下するビルの塊が不自然に空中で跳ね飛ばされ、人のいない海のある方向へと飛ばされていくのをこの時の私は目にしていた。

 

「な、なんなの……?」

「どけぇ!!」

「きゃっ……」

 

 多分、ここが私の人生でベスト1のやらかした瞬間。

 緊急事態にも関わらず足を止めていた上に、逃げる人に突き飛ばされて友達とも逸れてしまったことは失態どころじゃなかった。

 気づけば、周りに人もいなくなって私は、慌てて近くの建物に逃げ込むしかなかった。

 

「うぅ……」

 

 挫いた足を押さえながらスマホを開くも画面は割れて、しかも電波が混線して連絡もつながらなかった。

 このままここにいたら危ないのは自分でも分かっていた。

 だからこそ、不用意に動かないでまずはまわりの安全を確認しようと考えた私は、まずは四階建てほどのビルの階段を上り、屋上から怪人の場所と逃げられそうな場所を確認しようとした。

 

「い、いないよね……」

 

 誰にも助けは求められない。

 そんな状況でも必死に階段を上り、屋上へと出た私はスマホのカメラ機能を使い周囲を確認する。

 

「っ、クモ怪人、いるじゃん……!!」

 

 目視できるほどの距離にいるクモ怪人に泣きそうになる。

 この距離じゃ逃げるに逃げられない。

 そんな絶望に襲われたとき、私はクモ怪人の様子がおかしいことに気づいた。

 

『キリィッ、キュルル……ッ!!』

 

「怪我、してる……?」

 

 クモ怪人が、お腹から血を流して地面に膝をついていたのだ。

 私の目でも確認できるほどの位置でもだえ苦しんでいるクモ怪人の前には、また別の異様な姿の人影がそこにいた。

 

『……』

 

 見た目は戦隊とかそういうスーツのようなものを着た人。

 しかし、ところどころに配線やら装甲の内側が見えたり、それを補強するように無理やりプレートのようなものが貼り付けられている。

 怪人とはまた違う黒い戦士の右こぶしには、緑の血で濡れていた。

 

「怪人を、倒してる? 政府の秘密兵器かなにか……なの?」

 

 銃も効かなかったクモ怪人をただのパンチで膝をつかせた。

 それは、怪人が現れてからこの三か月で一度もなかったことだった。

 

『キキッ、キリリリリリィィィィ!!!』

 

「きゃっ!?」

 

 この距離でも耳を押さえてしまうほどの金切り声をクモ怪人は上げる。

 それに伴い、クモ怪人の六つの腕から六本じゃ利かないくらいの糸が空中へと伸びる。

 月明かりに反射し、バイオリンの弦が夜空に広がるような……一見幻想的とも思える光景を見せる糸だけど、クモ怪人が腕を振るった次の瞬間には、そんな馬鹿な考えは一瞬で崩れ去った。

 

『キェェ!! キリェェェ!!』

 

 視界に映る建物の一角が一瞬にしてバラバラに崩れ去った。

 既に人のいなくなったであろう高層ビルも、街と街を繋ぐ橋も、目に映るすべてのものがクモ怪人のたった一薙ぎで瓦礫へと変わってしまったのだ。

 

「……ぁっ、あ……」

 

 悪夢としか言いようがない。

 かつて、これまでクモ怪人がこれほどの攻撃をしてこなかった。

 いや、する必要がなかったんだ。

 この時の私は、クモ怪人と戦ったあの黒い戦士も殺されてしまったのだと思い込んでいた。

 だけど——、

 

『キギィ!? ガッ!!』

 

 糸で空へと舞い上がったクモ怪人が空中で何かに蹴り飛ばされ、まだ壊されていない高層ビルへと激突する。

 点でしか見えないそれは紛れもなく先ほどの謎の黒い戦士。

 彼は着地した建物の屋上が爆ぜるほどの力で、高層ビルに叩きつけられたクモ怪人へと空気の壁を貫きながら襲い掛かった。

 

「な、なんなの……いったい……」

 

 糸を振るうために両断、倒壊されていく建物。

 響く激突音。

 

 その光景を足の痛みを忘れて魅入られたように見ていると、彼らの戦いがこちらに近づいていることに気づく。

 

「そ、そうだ。逃げないと……! ッ」

 

 足の痛みを我慢しながら屋上の出口へと向かう。

 

「あうっ……なんでここで、転ぶ……!? あっ……!?」

 

 後ろを振り向いた時には、もう数百メートル近くにまでクモ怪人が迫っていた。

 もう逃げられない。

 今まさにその手の糸を振り下ろそうとしている怪人を前に、目を閉じ諦めかける。

 

「……ッ……ん?」

 

 痛みも、衝撃もこない。

 聞こえたのは何かを弾くような音だけ。

 足を押さえながらも、身体を起こすと私とクモ怪人の間に、黒い戦士が立っていた。

 

「た、助けてくれた……の?」

 

 すぐ目の前にいる黒い戦士に声を投げかけるが答えは返ってこない。

 でも声はちゃんと届いたのか、彼はゆっくりとこちらに顔を向ける。

 

「……」

 

 機械的な赤い目に、二つのアンテナを思わせる角。

 クモ怪人のような生物的ではなく、スーツを思わせる見た目の彼の姿と、雰囲気に言葉が出なくなってしまった。

 

「……ぁ」

 

 この時の私が抱いた感情は恐怖なんかじゃなかった。

 それは決して言葉で言い表せないくらいの安心感。

 永遠とも思える静寂の後に、黒い戦士は無言のまま背後を向く。

 

『キリッ、キリリリ!!』

「ひっ!?」

 

 そこには既に視界すべてを覆うほどの網目状の糸を繰り出そうとするクモ怪人がそこにいた。

 そいつが私の傍にいる黒い戦士に向かっていくごとに、通りがかる建物も、車も、なにもかもが細切れになっていく。

 

「……動くな」

 

 そんな中で私は彼の声を聞いた。

 ノイズのかかった、その人の本人の声かどうか判別はきかない声だったけれどこんな状況では考えられないほどに静かで、優しい声だった。

 

「キリィッ!!」

 

 彼が両腕を構えると同時に、逃げ場がないほどに繰り出された糸が迫る。

 あまりの恐怖に思わず目を瞑ってしまった次の瞬間には、一秒にも満たない風が私の傍を通り過ぎる。

 

「———」

 

 恐る恐る目を開けると、黒い戦士の立っていた場所から後ろ以外は全て粉々に切り刻まれ———、

 

「ギ、キ、リュ……!?」

 

 糸の全てをその両腕でいなした黒い戦士は、向かってきたクモ怪人の胴体をその拳で貫いていた。

 口と胸の穴から血を吐き出し、よろめくようにビルから落ちるクモ怪人。

 

「こ、攻撃を全部、弾いた、の?」

 

 あのなんでもかんでも両断するような糸を全部素手で弾いた。

 それだけでも腰を抜かしそう(実際に腰が抜けてしまっていた)なのに、あっさりクモ怪人を倒してしまうだなんて、びっくりしすぎて声が出なかった。

 

「はぁ……」

 

 怪人が光と共に消えたのを見た黒い戦士は、どこか疲れたような吐息を吐き出しながら腕についた緑の血を落とす。

 

「え、な、なに!?」

「……」

 

 ジッと私を見て、次に赤くはれた足を見た彼はもう一度ため息を零した。

 すると何を思ったのか、彼は私の背と足を持ち上げたのだ。

 

「え、え!? なに!? なんなの!? きゃ!?」

 

 ほぼ半壊状態のビルを飛び降りた彼は、建物から建物へと跳躍しどこか向かう。

 そして、向かった先は———現場から大きく離れた避難所だった。

 

「……ですよねー」

 

 ちょっとどこかに連れて行ってくれないかと期待したのは内緒だ。

 いや、普通に人のいるところにまで運んでくれたのはすごくありがたかったけれども……足も挫いていたわけだし。

 結局は私を地面に下ろした後、彼はすぐに闇夜へ消えてしまった。

 怪人を打ち倒す何者か。

 はたまた、怪人を倒す怪人なのか。

 それは今、これを語っている私自身も分からない。

 けれど、ただ一つ言えることは———、

 


 

「私はその黒い人に助けられたってことだけです」

「……なるほど」

 

 そこまで語って私は肩の力を抜いた。

 目の前にはスーツ姿の金髪の男が座って、今の今まで一週間前に私の身に起きた出来事をメモ帳に書き記している。

 ……いやー、まさかうちにまで来て話を聞きにくるとは思わなかったなぁ。

 お母さん、びっくりしてたし。

 

「その黒い戦士の動きはどうだったかね?」

「え、すんごかったです」

「すんごかったのか……」

「はい。すんごかったです」

 

 びゅんびゅんそこらを跳びまわっていたし、殴ったり蹴ったりしかしてなかったけど、それだけでもあのクモ怪人を圧倒するほどだった。

 

「……プロトゼロがどうして、あそこまでの力を……うぅむ、分からん

「はい?」

「いや、こちらの話だ」

 

 小さく何かを呟いた彼に首を傾げると、すぐに誤魔化されてしまう。

 

「さて、ここまで話してくれてありがとう。此花(このはな)灰瑠(はいる)さん」

「……信じてくれるんですか?」

「勿論だとも」

 

 黒い彼を見た人は多くはなかった。

 だけど、現場に残されたクモ怪人の死骸により倒されたことは確認されたけれど、肝心の彼の姿は見られることはなかった。

 だから私の話を信じる人もいなかった……。

 

「私の立場を抜きにして言わせてもらえば、その黒い戦士は確実に存在する。そしてこれから、その名が知れ渡る可能性が高い」

「どうして、そこまで言えるんですか?」

「怪人という正体不明の存在が一体だけとは限らないからだ。……別に不安を煽るつもりはないが、日本は……いや、地球そのものの状況が変わろうとしているのかもしれない」

 

 なんだか、言動がやばそうな人だ……。

 私が言うのもなんだけどちょっと引く。

 

「あの、政府の関係者の方……ですよね?」

「うむ。実のところ、ある会社の社長でもある」

 

 めっちゃ偉い人じゃん……!?

 驚きの事実に驚愕していると、目の前の彼が立ち上がる。

 

「そろそろお暇することにしよう。すまないな、長く時間を取らせてしまって」

「いえ、私も話せてすっきりしましたから……」

 

 椅子にかけたコートを羽織った金髪の彼はそのまま玄関へと歩いていく。

 ……あっ、そういえばもう一度名前を聞いておかなくちゃ。

 

「えっと、すみませんお名前はなんて言いましたっけ……?」

「む?」

 

 こちらを振り返りながら、政府の関係者を名乗った彼は自身の胸に手を当てる。

 

「私は令馬。金崎令馬だ。ついでいうなら宇宙人である」

「へ?」

「冗談だ。では、さらば」

 

 そう言って彼は出て行った。

 暫しの間、呆然としていた私が我に返った頃にはそこには誰もいない。

 

「……本当に冗談、だったのかな?」

 

 きっとそうなんだろうな。

 堅苦しい口調が目立つ人かと思っていたけど、結構おちゃめな人だったな。

 この世界に現れた怪人という人類の敵と、それと戦う黒い戦士。

 まだまだ謎だらけだけど、不思議と彼がいるなら安心と……思えてしまう。

 

「また会えるかな……」

 

 怪人とは関係のないときに遭遇してみたいな。

 できればあの時、命を助けてくれたお礼も言いたいし。




黒騎士くんデビュー戦。
相手は地味に幹部クラス。
黒騎士くん本人がほぼ無言なのは、初めての戦闘で緊張しまくっていたからでした(!?)

このような形で本編主人公の過去周りを掘り下げていきたいなと思います。
更新については、本編の方を優先していく方針です。
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