【外伝】となりの黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしました。
本編最新話と同じタイミングでの更新となります。

今回はハイル視点でお送りします。


となりのホムラくん 3

 夏は嫌いです。

 単純に暑いから。

 外を歩くのも憂鬱だし、頭上からギラギラと差し込まれる太陽光はお肌の天敵である。

 夏と言えば海、という言葉もあるけどそんな気軽に海になんていければ苦労もしないし、なにより高校生たる身分の私のお小遣いではおいそれと海になんていけるはずもない。

 

< かおりん

 
既読

13:10

結論

 
既読

13:12

夏休みはクーラーかけた部屋で

アイス食べるに限るってこと

陸上部の私に喧嘩売ってる?

(#^ω^)

13:13
      

 

 夏休みの序盤の序盤。

 誰もが長期休暇という夢のロングバケーションでの予定を立てている中、私は冷房をガンッガンッッに効かせた部屋でくつろぎながら友人の一人である香織とLINEを交わしていた。

 

 
既読

13:15

そっちは今どこにいるの?

帰りの電車 13:15
      

 

 今、お昼過ぎだし午前の部活も終わっていてもおかしくない時間帯かー。

 運動部は大変だなー、と暢気に思いながら他愛のない話を返信として打ち込む。

 

怪人でた

やばい

13:18
      

 

「ッ!?」

 

 怪人、という文面を見て寒気が私を襲う。

 私は急いで香織に連絡を取ろうとするが、一向に連絡は繋がらない。

 いや、それどころかコール音すらならない。

 

「それだけの規模ってこと……?」

 

 密集した中で電話とかが飛び交うと電波が悪くなるって話は聞いたことがある。

 もしかしてその場にいる人たちが一斉にスマホを使わなくちゃならない事態になった……?

 私はすぐに部屋から出てテレビのある一階のリビングへと降りる。

 リビングでは既にお母さんがテレビを見ており、その画面の上には怪人が出現した際に流れるテロップが流れていた。

 

緊急怪人注意報 本日13時18分 東京都 XXX区で怪人が出現

 

「お母さん、ちょっとチャンネル変えるよ!」

「え、ええ……また怪人。怖いわねぇ」

 

 ママに許可をもらいつつニュースに変えると、そこにはここからそう遠くない場所で怪人が出現したという情報が流れていた。

 

『都内にて怪人が出現!! XXX駅の上空に突如として出現した怪人は謎の電波のようなものを発し停滞を続けています!!』

 

 現場から直接中継しているのかどこかの屋上らしき場所から怪人を撮影している。

 かなり距離が離れているからか怪人の姿は朧気にしか見えないけれど、その姿は金に上半身がくっついたような姿をしている。

 

「ねえ、ハイル。ここって……」

「うん。いつも私が使う駅……」

 

 通学する時に利用する駅。

 その真上に浮かんだ怪人はなにをするまでもなく浮遊しているだけだけど、その下の駅の入り口には見えない壁のようなもので阻まれ閉じ込められている人達の姿が見える。

 

『駅周辺の人々は謎の力で閉じ込められ、現在も避難もできずに駅内に取り残されています!!』

「っ」

 

 まさか、あそこに香織が……!?

 友達があそこにいるかもしれない。

 そんなもしもの可能性に背筋が凍る思いに駆られる。

 

「お願い! 電話に出て……!!」

 

 LINEにも既読がつかず、電話も繋がらない。

 駄目だ、出ない。

 どうしたら———、

 

『———ッ、黒騎士! 黒騎士が現場に駆け付けました!!』

「!」

 

 女性リポーターの声。

 不安と焦燥にかられたそれからどこか喜色めいたものへと変わったその声に画面を見ると、女性リポーターのいるビルの屋上に黒い鎧を纏った彼、黒騎士が着地していた。

 無言で駅の上に浮かぶ怪人を見た彼は、どこか疲れたようなため息を吐きだしている。

 

『あ、あの黒騎士ですよね!!』

『っ!?』

 

 この状況で話しかけるの!?

 空気の読まないリポーターの声にびくりと肩を震わせた彼が、女性と、その次にカメラの方を見て僅かに後ずさる。

 

『……っ』

『駅にはまだ逃げ遅れたたくさんの人々がいます!』

『……?』

 

 女性リポーターの声に挙動不審になりながらも首を傾げる彼。

 

『怪人は依然として動く気配はありませんでしたが、先ほどから奇妙ななにかを発しているから……その……!』

 

 インタビューをして邪魔するのか、と邪推してしまったけれどあの人は今来たばかりの黒騎士に状況を話してくれたんだ……。

 呆気にとられたような反応の黒騎士は数秒ほどして、頭をがしがしと掻いた。

 これまであまり見せなかった人間らしい(・・・・・)素振りに今度は女性リポーターが呆気に取られている。

 

『……、……分かった』

『えっ』

 

 小さく、確かにそう声を発した彼はその場で屈むと、一瞬でその場で姿を消す。

 カメラが彼の姿を見失った次の瞬間———ガイィィン!!!! というテレビ越しでも伝わるほどの強烈な音が響いた。

 

『! あっち!!』

 

 リポーターが指さした方向にカメラが向けられる。

 そこには黒騎士の突き出した拳が見えない壁のようなものに遮られ怪人の前で止まっている光景が映し出される。

 見えない壁に弾かれた黒騎士はそのまま駅の屋根の上に着地し、自分の拳を見ながら無言で空を見上げた。

 

『黒騎士よ』

 

 ……!? 怪人が喋ってる!?

 黒騎士の攻撃を弾きながら空を浮遊する怪人は震えたような声を発した。

 女性と男性の声が二重に重なったそれは、ただ聞くだけでも不快感を抱かせるもの。

 その声はどういうわけか現場から遠く離れたカメラも捉え、テレビを見ている私達にも聞こえていた。

 

『憐れなる孤高の戦士よ』

 

『お前の心はなにもない』

 

『からっぽだ』

 

『なぜ我が同胞(はらから)を殺す』

 

 黒騎士を見下すように嘲った怪人は、手を大きく広げる。

 それに対し黒騎士がなにかを叫ぶ。

 それは離れた距離からじゃ拾えず聞こえすらしなかったけれど、怪人は呆れたように肩を竦めた。

 

『お前の答えはそれか』

 

『ならばそれでいい』

 

『お前を殺すのは我———』

 

 遠目に見える怪人に再び黒騎士が激突する。

 先程と同じように殴っている、ようには見えるけど変わらず見えない壁に遮られ攻撃が通らない。

 

『無駄だ』

 

『我が護りはあらゆる害意を退ける(ことわり)なり』

 

『所詮はこの世の法則に縛られたお前では突破することは不可のぉッ』

 

 なにかが起こった。

 カメラがとらえたのは怪人と黒騎士の間に生じた壁のようなものに亀裂が入る。

 空間そのものがガラスにひびが入るように砕けていくと共に、黒騎士は腕を無理やりねじ込んで———怪人の首を無理やり掴み取る。

 

『お”』

『もう一度、言うぞ』

 

 怪人と同様に黒騎士の声が拡張され、こちらにまで響いてきた。

 

『能書き垂れんのは終わりか?』

 

 黒騎士が無理やり空間にこじ開けた穴から怪人を無理やり引っ張りだす。

 

『が、ァ!』

 

 掠れた声を漏らした怪人がなにかを放つが黒騎士は目にも止まらない速さで両腕を動かすと……ガラスが割れるような音だけが響き、彼の背後の空間の至る場所がバラバラに切り刻まれる。

 なにが起こっているかまったく分からないけど、もう勝負がついたのは私でも理解できた。

 

『あ”、うああああああ!!!?』

『自分だけが好き勝手できると思うなよ』

 

 黒騎士は逃げようと背を向けた怪人の胴体をその右拳で穿ち、止めをさした。

 

「……た、倒した……」

 

 砂になって崩れていく怪人を見て、すぐに黒騎士が姿を消すところまで見送って思わずそう呟く。

 現場にいたわけでもないのにものすごくヒヤヒヤさせられた。

 安堵のあまりその場で座り込んでしまっていると、不意に私の手に握りしめられているスマホが震える。

 画面を見てすぐに通話を受ける。

 

「っ香織!! 大丈夫だった!?」

『心配かけてごめんねー』

「いやっ、軽っ!!」

 

 さっきまで怪人に命の危険に晒された人とは思えないんだけど!!

 そういうニュアンスも含めて返すと、香織はあっけらかんに笑う。

 

『実は怪人が出たのは二つ隣の駅だったのよー。電車も止まっちゃってごたごたしてたからLINEも返せなかったの』

「もう、人騒がせな……」

 

 どちらにしても被害は出なかっただろうけど、本当に良かった。

 

『で、また黒騎士が出たんだっけ? どこにでも出てくるよね』

「はぁ、そうだねー……」

 

 もうなんだかすごく疲れた。

 全然動いていないのに猛烈な疲労感に襲われた私はそのままリビングのソファーに寝転がるのであった。

 


 

 お昼に無駄に疲れてしまったので、私は自分へのご褒美(?)のためにアイスを買いにいくことにした。

 夕飯前なのでママからは小言を言われてしまったけれど、そんなものは私の冷たい甘味への欲望を止めることはできない。

 ということで、夕暮れ時の町に踏み出した私はちょっと離れたコンビニに向かった。

 

「これで三日分のストックは確保」

 

 ほくほく顔でコンビニを出て早足へ帰路を歩く。

 夏になり日の出てる時間も長くなったからか、六時を過ぎても周りはまだ明るいまま。

 

「……ん?」

 

 通りがかった公園に気になるものを見つける。

 既に人気もなく、夕焼け色に染まった公園内のベンチに誰かが横になっている。

 普通ならなんともなしにスルーしているところだけど、その見覚えのありすぎる黒髪が気になりちょっと近づいてみる。

 

「……うん? うん!?」

 

 同じくらいの年に夏らしいシャツを着たまま、すやすやと眠っている彼を思わず二度見する。

 

「穂村くぅん!?」

 

 最近気になっている隣の席の男の子、穂村克己くん。

 彼がなぜか公園のベンチでこんな時間にまで昼寝をしているという事実に動揺を隠せない。

 とりあえず動揺したまま取り出したスマホで彼の寝顔を写メっておく。

 

「って、撮ってる場合か!!」

 

 ———いや、ノリツッコミしちゃったけどどういう状況!?

 というより大丈夫なの!?

 ね、ねねね熱中症になってたら大変だ!!

 

「ほ、穂村君! こんなところで寝ちゃだめだよ」

「んー……? ……此花……?」

 

 思ったよりもあっさりと目覚めた彼はベンチから起き上がりながら周りを見てから、私を見る。

 次第に状況を理解したのか彼は額を抑えて、肩を落とした。

 

「あー、やっべ、寝ちまった」

「どうしてこんなところで寝ていたの……?」

 

 とりあえず彼の隣に座りながら話しかけてみる。

 不思議と手元のアイスが溶けるのは気にならなかった。

 

「昼間ちょっと忙しくてな。ちょうどいい木陰があったんで涼んで昼寝してたら……気付いたら今になってた」

「もう暗くなるまで眠る勢いだったよ……?」

「悪い。面倒をかけた」

 

 忙しいからって普通こんなところで昼寝なんてするだろうか?

 確かに今日は割かし涼しい方だったけど、普通は家に帰って涼むものなんじゃ……?

 ……。

 彼の普段の生活を見ていると、嫌な可能性が頭をよぎる。

 

「穂村君。部屋に冷房もないの……!?」

 

 スマホもPCもない訳ありな彼の家には、まさか冷房すらもないという恐ろしい可能性。

 戦々恐々としていると、彼は苦笑しながらも首を横に振る。

 

「いや……去年はなかったけど、今は……ある。てか勝手につけられた」

「勝手につけられた……? 誰に?」

「……(いそう)ろ……いや、い、妹に」

「妹いるの!?」

「……妹、モドキだ」

「モドキ!?」

 

 妹ではないの!?

 もしかしたら仲でも悪いのだろうか。

 いや、でも悪かったらわざわざ冷房なんてつけさせようとしないだろうし……謎だ。

 

「帰って飯作らなきゃいけないから帰るわ」

「えっ」

 

 立ち上がり歩き出そうとする彼に思わず声が漏れてしまう。

 “飯を作らなきゃいけない”

 それは、いったいどういう意味なのか。

 彼が両親の代わりにご飯を作っているのか。

 それとも、彼しか作る人がいないのか。

 

「あの……さ」

「ん?」

「穂村君のお父さんとお母さんって……家にいないの?」

「……」

 

 私の質問に彼は目を丸くする。

 痛いほどの沈黙の後に、私を見た彼は———僅かな笑みと共に手を横に振った。

 

「うちの両親、どっちも仕事で忙しくてな。帰りも遅いんで飯は自分で作ってんだよ」

「……そう、なんだ」

「変な気を遣わせて悪いな」

 

 嘘なのはすぐに分かった。

 私に気を遣わせないように彼は嘘をついた。

 もしかしたら彼は実の両親から虐待を受けているかもしれない。

 もしかしたら彼には両親がいないのかもしれない。

 もしかしたら———、と嫌な憶測が頭の中をよぎっては消えていく。

 

「穂村君!!」

「お、おう? 今度はなんだ?」

 

 いてもたってもいられず彼の名を呼ぶ。

 突然の大声にびっくりした彼に構わず私は勢いのまま言葉を吐き出す。

 

「お腹空いてる!?」

「ん!? す、空いてるけど……だから今から飯を作りに帰るんだが」

「じゃあ、さ」

 

 ここが頑張りどころだぞ、此花灰瑠!!

 い、言ってやるぞぉ!!

 

「うちに夕飯食べに来るよね!?」

「!!?」

 

 あああああああ!? しまった語尾が強すぎて強制的になってしまったぁぁ!!

 テンパりすぎて最低最悪の誘い文句になった事実にその場にもんどりうちたい衝動に駆られる。

 もう駄目だおしまいだ死にたい……。

 このまま穂村君の中では夕飯を強制的に誘ってくる変な女として後世語り継がれることになるんだぁ!

 

「えーっと……」

「うぅ……」

「……はぁ」

 

 顔に熱を感じ俯いてしまった私を見て溜息をつく穂村君。

 駄目だ。

 自分で言ったけどやっぱりなしにして———、

 

「いいよ」

「エッ」

「夕飯、奢ってくれるんだろ?」

 

 苦笑しながらそう言った彼に先ほど抱いていた羞恥心とは別の感情がこみ上げてくる。

 うわ……これは、駄目だ。

 これは本格的に———

 

 勘違いしてしまう。

 

 そして今更ながら自分がとんでもないことを提案したことを自覚し、私はまたその場でのたうちまわりたい衝動に駆られるのだった。




【バリア怪人】
・強固な不可視のバリアを用いる怪人。
・バリアを用いて切断攻撃をすることも可能。
・駅にいる人々を人質にしようとしていたが、黒騎士があまりに話を聞かないので意味をなさなかった。

本編ヒロインより数年早く家にかっつんを招いたハイルでした。
アルファはクーラーのある部屋で涼んでました。

次回『となりのホムラくん 4』は明日の18時頃に更新する予定です。
本編の最新話の方も更新いたしましたのでそちらの方もよろしくお願いします。
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