本編最新話と合わせての更新となります。
今回はアカネ視点でお送りします。
私達ジャスティスクルセイダーが正義の戦隊ヒーローとして始動したその日から、世間は大きく変化した。
これまで黒騎士くんだけが怪人と戦えていた状況が私たち三人の登場で大きく変わり、世間では良くも悪くもジャスティスクルセイダーの話題で持ちきりだ。
勿論それは悪い意味も兼ねており、中には私達を怪人側の怪物で自作自演で怪人と戦っているなどというものがある。
中にはポーズがダサい、こんな子供に本当に任せられるのかその他諸々もうかなりすごい。
「ふぁ……」
一方で私の学生としての日常はそこまで変わってはいなかった。
まあ、初戦の怪人と戦ってから一週間しか経っていないのだから変わったも何もないんだろうけど。
顔を洗って寝起きで働かない頭をすっきりさせながら、リビングへと向かう。
「アカネ、早く飯食わないと学校に遅れるぞ」
「ふぁい……」
「しっかりしな。人斬り家業と学業を両立させるっていったのはあんたでしょ」
「人斬り家業じゃないよっ!!」
一瞬で目が覚めた。
この母親はいったいジャスティスクルセイダーの活動をなんだと思っているのだろうか。
いや、怪“人”ではあるものの言い方ってもんがあるでしょうが……!
「お母さーん。リビングのレジュメってどこにやったっけ?」
「知らんわ。こんな朝に探すくらいならリビングで勉強するんじゃないよ」
「だって見たいテレビがあったんだもん」
「ふぁぁ……あぁ、また月曜が来てしまった……」
リビングに入ってくる長女、
慌ただしい様子でお母さんに話しかけているチセ姉は、乱雑にテーブルに並べられた大学の資料を探し苦悶の声を上げている。
私と同じく朝に弱いクルミ姉が欠伸をこぼしながら私の隣にのそりと座り、ぐにぐにと納豆をかきまわし始める。
そして、お母さんを除いて一番早く朝食の席についているお父さん。
「わん」
「ん、ああ、おはよ、きなこ……」
前言撤回、お父さんよりもずっと早くいるのが飼い犬のきなこである。
サモエド特有のわたあめ染みた野性を忘れた番犬は、ちょこんと座っている。
うーん、まだ生後一年とは思えないほどの大人しさ。
「あったぁー!」
「朝っぱらからうるさい。さっさと朝飯食え」
「はーい」
最後に目的のものを発見したチセ姉が満足げにテーブルについたことで家族全員が朝食を食べ始める。
五人と一匹、新坂家の慌ただしい朝の日常風景である。
「ねえ、アカネ」
「……なにチセ姉?」
味噌汁を口にし一息ついている私にチセ姉が話しかけてくる。
「ジャスティスなんちゃらの活動ってどうなってるの? 大丈夫なの?」
「んー、今のところ呼び出しもないし全然平気」
妹の私から見ても美人とも思える顔に気だるげな印象を張り付けたチセ姉は、どこか心配そうな様子だ。
「でも怪人がまた出たら、戦いに行くんでしょ?」
「うん……でも、決めたことだから」
私のように命の危機に陥る人がいないように、怪人と戦うこと。
その原点たる思いは怪人との初陣を経てもまったく変わっていない。
「あんたが決めたなら文句は言わないわ。でも、なにかあったら相談しなよ」
「……うん」
「あと黒騎士くんと知り合ったら私のこと紹介しておいて」
「え、身内の恥を晒したくないから無理」
台無しすぎる。
というより、チセ姉ってそこまで黒騎士くんのファンだっけ?
世間的にはまだまだアンチとか多い印象だけど、姉のこの様子を見る限りちょっと違うのかもしれない。
怪人は基本的に夜に出ることが多いので普通に学校に通うことができている。
時折、昼間に現れたりするような怪人もいるので安心できるわけじゃないけれど、社長自身からも私たちはこれまでと変わらずに学業に励むように指示されている。
「で、あるからこれらの文節において———」
午前中の現国の先生の声を耳にしながら教科書の文面を目で追う。
あくまでジャスティスクルセイダーとしての活動は私たちの裏の顔に過ぎない。
正体がバレることも許されないし、表の生活をする上で不用意な行動するわけにもいかない。
「……」
だからこうして、いつも通り真面目に授業を受けているわけだけど……時折、左手首に見える赤い縁取りが施された黒を基調にした腕時計———ジャスティスチェンジャーを目にして、思考が途切れる。
見た目がブレスレッド状なので校則にも違反していないのでつけていても大丈夫だが、いつこのチェンジャーから怪人が出現した点滅が鳴るのか気になってしまう。
「……はぁ」
時折、あの日の戦いの熱が引いていないような感覚に苛まれる。
夢心地、という感じとは違う。
まだ私は日常と非日常の境目にいるような感覚にあるんだ。
怪人に突き立てた刃。
とどめを刺すために引いた引き金。
その全てが私の精神的ななにかを戦いに駆り立てている。
「———では、今日はここまで」
「へ?」
教壇に立つ先生の声で我に返る。
気づけばチャイムが鳴り、授業が終わっていた。
目の前には書きかけのノートに今まさに消されている黒板の文字。
「やらかした……」
後で友達にノート見せてもらおう……。
溜息をついて肩を落とすと———視界に点滅するジャスティスチェンジャーが映り込んだ。
「ッ」
咄嗟に手首を隠し周りに気づかれていないか確認し、次に同じクラスのきららを見る。
彼女もチェンジャーの点滅に気づいたのか私と視線が合う。
「……っ」
このチェンジャーが点滅するということは怪人が出現したことを意味する。
私はテンパりながら隣の席にいるクラスの友達へ声をかける。
「ちょっといいかなっ!」
「ん? どしたのアカネ?」
「私、早退するから先生によろしく!!」
「はぁ!? なんで!?」
「熱が出た!!」
「熱が出た人の声量じゃないんですけど!?」
クラスの友人の声を背にし私は教室から早足で出る。
「私はぽんぽん痛いので早退するから!!」
「ぽんぽん!?」
「ぽんぽん……?」
「ぽんぽんってなんだ……?」
少し遅れてきららも出てくる。
なぜか顔を真っ赤に染めて羞恥に悶えているが、今は気にしてられない。
「きらら」
「うん。怪人だね」
きららに頷き返しながら私たちは早足で廊下を進む。
多分、もう学校の裏手に社長が手配した迎えの車が用意されているはず。
昼休みなので廊下には生徒の数が増えてきた。
逸る気持ちを押さえ、それでも進む速度を上げながら廊下の角を曲がっ———、
「あうっ!?」
「おう!?」
誰かとぶつかってしまった……!?
真正面からぶつかってしまい、後ろへ倒れそうになったけどそれよりも早く私とぶつかった誰かが背中を支えてくれる。
「悪い。大丈夫か?」
あれ? この人、前に見たような……。
やや目つきの悪い男子生徒。
申し訳なさそうに目じりをやや下げた彼に既視感を覚える。
「ごほんっ!!」
「っ!」
きららのわざとらしい咳払いで我に返り、慌てて離れる。
「あ、だ、大丈夫。こっちこそごめんね!?」
「……なにかあったのか?」
「い、いや大丈夫だよ!? それじゃあ急いでいるから!!」
やけに鋭い彼の言葉に少しだけ動揺しながら、咄嗟に返事をしその場を離れる。
……かなり失礼なことをしちゃったかもしれないなぁ。
「いや、ラブコメか」
「分かってるよぉ!?」
きららの呟きに反応しつつ私は先を急ぐ。
『学業中にすまん!! こちらとしても急を要する事態だからな!!』
学校裏で待っていた車に乗り込み、直接手配されたヘリに乗り込んだ私たちは怪人の情報が記されているタブレットに目を通す。
画像で表示されたのは宙に浮かび身体を丸めている怪人の姿。
白い肌の女性型の怪人には長いトカゲの尻尾のようなものが生えており、その耳も長い。
『出現した怪人の名称は【沈黙怪人】!! 能力は音を食らう怪人だ!!』
「音を食らう、怪人?」
「それって強いんですか?」
音を食べるということだけなら特に脅威とは思えないけど。
いや、でも怪人のことだ。
厄介な能力を備えていることだってあるかもしれない。
『能力の詳細は現在不明だ。現在、沈黙怪人は都市で動きを停止しているからな』
「暴れていないってこと?」
『いや』
葵の質問に社長は否定する。
『奴は都市の“音”を食らった』
「は?」
『車の音。雑踏の音。人の声———あらゆる音が奴のいる都市から消えたのだ』
「声を食われた人は?」
『……。未だ戻っていない。治療班が現場で診ているが被害者は声というそのものの概念を奪われていると見てもいいだろう』
……まずい怪人だね。
やっぱり怪人はえげつない存在だ。
倒せば奪われた音は戻ってくると願いたいけど、そんな上手い話があるかどうか分からない。
「私たちは怪人を倒す。それがジャスティスクルセイダーだ」
「その通りだよ、アカネ」
「私の美声を奪えるものなら奪ってみるといい」
きららと葵と視線を合わし頷き、チェンジャーに手を添える。
「「「変身!!」」」
ヘリ内に三色の光が溢れる。
また、私達と怪人の戦いが始まる。
人気が完全に消え失せた都市。
そこからは音という音がなにもかも消え失せていた。
ビルの間を吹く風すらもなくなったその中心に、沈黙怪人はいた。
「近くで見ると魚みたいだね」
「SAN値減りそうな見た目してる」
実際にこの目で怪人の姿を見てみると爬虫類というより魚と人間が融合したような見た目だった。
透明感のある青色の肌に魚を思わせる真っ黒で大きな瞳に丸みを帯びた鼻。
下手に人に似通った見た目をしている分、私にはとても不気味に見えた。
「ァ、アァ……」
私たちに気づいていたのか、こちらに視線を向けて鈴の鳴るような声を発する。
「とりあえずブルー、攻撃を」
「分かっ———」
「……ブルー?」
不自然に声が途切れた葵に疑問に思い振り返ると、彼女は自身の喉を抑えてなにかをしている。
その慌てたそぶりにまさかと思い声を発しようとするが———、
———ッ、声が出ない!?
肝心の言葉が音になって出ない。
きららを見れば彼女も同様に声を発せられないようだ。
“沈黙怪人”
私達の声は、音そのものを奪われたかのようにただ空気を吐き出してしまう。
その事実は目の前の怪人が、まだ私たちの知らない恐ろしさを秘めた存在だということを理解させられた。
【“沈黙怪人”情報開示】
・音を食べる。
・見た目は半魚人のようで弱そう。
・幹部クラス
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