視点は前回と同じレイマ視点でお送りします。
緊急速報です。
本日○○都○○市、郊外にて未確認生命体4号が出現しました。
現在、発電所に出現した未確認生命体4号は、黒騎士……失礼しました。
未確認生命体2号と戦闘を繰り広げている模様。
未確認生命体4号は発電所内で電気を捕食しているようで、その影響により周辺地域は停電状態に陥り迅速な避難が求められております。
磁場の乱れ、光の影響もあり現場の映像をお届けすることはできませんが、とても危険な状況です。
住民の皆さんは決して近づかないようお願いします。
繰り返し、お知らせします……
また新たな怪人が現れた。
その姿はゴム製のスーツのようなものを纏った見た目がナメクジじみた怪人。
背中に隆起した小さな棘が二つずつ並んだ、その怪人は発電所に現れ電力を貪り食べるという行動に出ていた。
ただ吸収するだけならば、大した被害になるはずがなかったが問題なのはその吸収力。
『ピギィィィ!!!』
驚くべきは電気ナメクジ怪人(今しがた命名)の電力貯蓄量。
発電所のみならず、周囲全域の電力全てを吸い尽くす勢いで電力を貯め込み続けるその異常さに、驚きのあまり口を開けるばかりであった。
電力を吸収されカメラも全て機能停止に陥った中、遠隔式のドローンでナメクジ怪人の姿を確認したが、それも吸収する電撃のスパークと光のせいで酷く朧気だ。
それでも映像越しで伝わるその“強さ”は伝わってくる。
「……なんなのだ、地球の怪人は」
異常すぎる。
脅威レベルは決して高くはない……いやむしろ他と比べて圧倒的に低いこの星でなぜあのような常軌を逸した怪人が現れるのか。
地球になにかがあるのか?
悔しい話だが、現状この地球のあらゆる軍事力を動員したとしても、電気ナメクジ怪人一体にすら我々は打ち勝つことすらできないだろう。
「そして……」
「主任!」
「ああ、分かっている。
しかし、それと同等、いやそれ以上に正体不明な存在がいる。
闇夜に紛れ、人知れず怪人を滅殺する黒き戦士、誰が呼んだか通称“黒騎士”。
表に出ていないだけで、現状で三度の怪人との交戦記録が確認された彼が、赤い複眼を光らせながら電力を貪り食らうナメクジ怪人の前に降り立った。
『ピギッ……?』
電気が消え、雲から月明かりが差し込みプロトゼロ、黒騎士の姿を鮮明に映し出す。
研究所から盗まれた強化スーツ。
装着者を死に至らしめるスーツを纏った男が、今この時ナマコ怪人と相対した。
『真っ暗な中で光ってると思ったら……なんだお前? ナマコ?』
『ピギッ! ピギィ!!』
気のせいだろうか、心なしかこくこくとナメクジ怪人が頷いているように見える。
顎に手を当て不思議そうに首を傾げた黒騎士は、腕を組む。
『いや、ナメクジ……?』
『ピギィ!! ピギピギィ!!』
『何言ってんのか分かんねーよ。もうナメクジでいいか?』
『ギィィィィ!!!!』
瞬間、ナメクジ怪人から異常なエネルギーが発せられ、モニターが閃光に包まれる。
「異常な量のエネルギーを検出!!」
「蓄えた電力を意のままに操ることができるということか……!? まずい!!」
ここで吸収したエネルギーは膨大なんてレベルじゃない。
首都の電力を賄えるに十分な電力と、それに加えて周囲全ての電力を吸収した奴の力は以前現れた怪人の比じゃないはずだ!!
「ドローンをもっと集めるんだ!! 彼の安否を確かめなくては!!」
「はい!!」
すぐに待機させていたドローンを向かわせ、映像を映し出す。
今度は映像が駄目にならないように私が手を加えておく。
……ッ、よし見えてきた。
彼はどうなっている? 恐らく、雷に相当する電撃が直撃したはずだが……!!
映し出された光景は、黒焦げになった地面と建物と———、
『テメェいきなり眩しいじゃねぇか!!!』
『ピギィィ!!?』
全身から煙を吹きだした黒騎士がナメクジ怪人を殴りつけ、そのまま地面にめり込ませている光景であった。
「えー、うそーん……」
まさかの殴り返しである。
しかし、その威力は尋常ではなく地面に叩きつけられてもなおナメクジ怪人の勢いは止まらず、そのまま地面を削りながら発電所内の建物に激突する。
「主任、プロトゼロって戦闘目的のスーツではない……はずですよね?」
「その、はず」
「じゃあ、あれ、なんなんですかね……」
「私もそれが知りたい……!!」
くっ、解体間近ということもあって計測系の類を外してしまったのが失態だった。
怪人の能力は映像越しである程度の測定と解析はできるのだ。
しかし、黒騎士はプロトゼロスーツそのものが一切の干渉を通さないようになっており、映像越しからの解析は愚か、スーツの内側で何が起きているのかすら調べることができないのだ。
「まさにブラックボックス……黒騎士だけに……!!」
いったいプロトゼロの中でなにが起きているんだ?
適合値が高いだけではあんな風にはならないはずだぞ?
なんで開発したはずの私が分からないことが起きているんだ……!!
「敵怪人の肉体組織に変化!!」
「! ……これは、再生能力まで有しているのか!?」
黒騎士に攻撃された部位が埋まるように再生していく。
絶望的とすら思える光景に唖然とさせられる。
「まさか、電力がある限り再生し続ける……? そんな、バカな……?」
だとすれば無敵ではないか。
今、大量の電量を抱えたナメクジ怪人は倒すことが不可能だ。
「ッ、黒騎士! 敵怪人の攻撃が直撃!!」
ナメクジ怪人の再生能力に気を取られたのか、至近距離で攻撃しようとした黒騎士が夥しい電撃の直撃を受ける。
あんなものを食らえば、いくらプロトゼロでも……。
スーツが砕ける想像をし、目を背けかける。
『……ッ、カッ!!』
しかし。
胸部に電撃をまともにうけた黒騎士は、後ろにのけぞりながらも地面に足を叩きつける。
……えっ?
『ッらァ!!』
そのまま起き上がった反動でナメクジ怪人に頭突きを食らわせた。
ナメクジ怪人の頭部が首にめり込むように沈む。
「……えっ?」
スタッフ共々呆気にとられたままモニターを見る。
黒騎士の体は帯電状態にあり、足元で再生しようとするナメクジ怪人を睨みつけると同時に拳をハンマーのように振り下ろし、轟音を響かせながら電撃を解放させる。
『効いたぞ、この野郎!!』
『ギ、ギギッ』
「電撃が、効いていない? ……違う、これは」
打撃音が響く度にスーツから電撃が発散されている。
もしやこれは、プロトゼロのエネルギー変換機能、か? 電力をエネルギーに変換するエナジーコアとしての能力ではありふれたもののはずだが……。
「ナメクジ怪人の電撃を吸収してその場で殴って発散させている……とか?」
いやいやいや待て、それにはいくらなんでも限度があるだろう!?
あんな量の電撃を受け止めきれるはずがない。
『テメェ、不死身かァ!』
『ギィィ!!』
黒騎士とナメクジ怪人を中心に電撃が迸り、その場所だけが光に包まれる。
それでも尚、黒騎士は拳を振るうことをやめず、ナメクジ怪人も放電を止めることはない。
『なら、よぉ……!!』
削岩機で岩を穿つような激突音が連続で響く。
目視できない速度で連続してナメクジ怪人の身体に拳大の穴を作り出した黒騎士は、それでも再生する怪人を前に拳を鳴らす。
『治るんなら、電気なくなるまで殴り続ければ勝つじゃねーか!!』
『ぴぎぃぃぃぃ!?』
……。
……、……あっ、そっかぁ。
「電撃を受けた傍から殴り返せば、パンクせずに済むのか」
なるほどそういうことか。
つまり、電撃でのエネルギー回復が追い付かない速度で全力で殴り続ければいい。
それなら辻褄が合う。
「……なんなの、黒騎士って……?」
本当に地球人?
現在進行中でナメクジ怪人をサンドバッグにし続ける彼に賞賛よりもドン引きする気持ちの方が勝ってしまう。
「し、しかし、全力で攻撃し続けることは不可能だ。いつか彼にも限界が来てしまう」
「で、では、支援を行えるように各所に手配を……」
「うむ、頼んだ」
いくら常軌を逸した強さを持っていたとしても黒騎士の装着者は(多分)人間だ。
どうあがいても限界というものがある。
しかし、私の予測ではナメクジ怪人も電力を失えば撤退するはず。
ここで重要なのは黒騎士がどれだけナメクジ怪人の蓄えて電力を削れるか。
……もし、現在の推定の3分の1まで電力を削れたのなら、十分に勝てる可能性はある。
「頑張れ、黒騎士……!!」
こちらもできる限りのサポートはする。
できるだけ、ナメクジ怪人の電力を削ってくれ!!
きっと、今とても辛く、限界が近いのはよく分かる!!
だが、頑張ってくれ!!
全ては君の戦いにかかっているんだ!!
日の出と共に暗闇に包まれていた発電所に日の光が差し込む。
最早見る影がないほどに黒く焦げ付いた発電所だった空間の真ん中で、黒騎士とナメクジ怪人はいた。
『ジッ、ギ……ギィ』
最後に残った電力が弾けるように宙へ霧散し、黒く焦げ付いた色になったナメクジ怪人は、糸がきれた人形のように地面へ倒れ伏した。
モニターに映し出されたナメクジ怪人の生命反応が完全に消失する。
まあ、つまり何が言いたいかというと……。
ナメクジ怪人、殴られすぎて死んじゃった。
きっと世界中の誰もがこの結末に驚かずにはいられないはずだ。
いや、むしろ全宇宙規模といっても過言でもないかもしれない。
もっと信じられないのが、そんなナメクジ怪人を殴殺した黒騎士だが——、
『おいどうした立て!! まだまだできるぞコラァ!! もう終わりかァ!!』
屍と化したナメクジ怪人の前で、黒騎士はぶんぶんとシャドーボクシングをしていた。
深夜からほぼノンストップで殴り続けていたのに「限界? 何それ?」みたいな様子でとても元気そうである。
「……」
「……」
「……」
気まずい沈黙に包まれた作戦本部の中で、私は震える手でサングラスを外しながら腕時計に視線を落とす。
時刻は早朝、6時45分。
ナメクジ怪人の戦闘が開始されたのが大体21時頃だとすれば、約10時間ナメクジ怪人を殴り続けていたことになる。
「……ふぅ」
いや、なんというか、あれだよね。
眉間を揉み、軽く深呼吸をした私は唖然としたままのスタッフたちを見回し、声を張り上げる。
「結論!!」
「「「!?」」」
「怪人は殴ったら死ぬ!! 以上ォ!!」
もうそれしか言いようがない。
……だって、もう考察のしようがないだろう!!
本当の本当になんなのだ、黒騎士はァ!? 存在そのものが非常識すぎるぞ!?
「ま、まさか黒騎士の正体は、政府が裏で開発していた実験た……」
『……あっ、早く帰らなきゃ学校に遅刻する』
「はい、学生でしたぁ!!」
って、学生なのか君!?
どういう十代なのだ!?
「主任、私は若さこそが力という説を推しますよ!! これ割とアリだと思うんです!!」
「徹夜テンションで適当なことを抜かすなァ!! 大森ィ!!」
『疲れた。帰ろ』
上がってくる太陽に気づいた黒騎士はナメクジ怪人の遺体に一切の興味を持たないまま、その場を跳躍する。
あらゆる監視、追跡を置き去りにする移動速度を以てその場から消えてしまった後は、ナメクジ怪人の遺体というこれ以上にない研究サンプルが残されていた。
その後ナメクジ怪人の解剖を行った結果。
ナメクジ怪人がどれだけとんでもない能力を有していたかが発覚した。
【ナメクジ怪人は自身の内側に固有の異次元空間を作り出し、貯蓄したエネルギーをほぼ無制限にため込むことができる】
つまりは、あの場でナメクジ怪人を倒さなければ、いずれは星将序列一桁台に相当する脅威になっていた可能性があったということだ。
それと同時に、大量の電撃を貯蓄したナメクジ怪人のエネルギーが尽きるまで殴り続け力技で始末してしまった黒騎士がどれだけ凄まじいことをしていたのかも分かってしまった。
「これを公表して黒騎士の悪いイメージを払拭するべきだな」
今、世間では黒騎士は大規模停電を起こした原因を担っている、ということで批判の対象にされている。
当の黒騎士本人はなぜかドヤ顔なのだが、このことを知った我々にとっては非常に良くない状況だ。
「このナメクジ怪人を倒せたのが、黒騎士だけという事実は絶対に覆すことのない事実だ。いや、仮にスーツが完成したとして……」
少なくとも私が現時点で想定したスーツでは、星将序列二桁の下位レベルの相手が限界だ。
だが黒騎士と呼ばれる彼は、学生という身分でこともなげにそれらを上回る怪人を圧倒してしまっている。
ぶっちゃけ全盛期の私でさえも、直接的な戦闘力では絶対に勝てないと断言できる。
「よぉっし、彼の捜索を行うことは二の次だ!!」
藪をつついて蛇を出すよりも、今は全力で彼のサポートをすることが最優先事項!!
最早、政府も黒騎士の重要性を無視することはできない。
なにより、彼が唯一怪人に対して戦える存在なのは疑いようもない事実!!
「当の黒騎士は悪ぶっているが、行動が夜な夜な徘徊して怪人をジェノサイドしているだけの不審者なので、問題なし!!」
ならば、私がするべきは黒騎士のイメージアップ。
そして継続して新スーツの開発と、スーツの適合者の調査だ!!
「やぁってやるぞぉぉぉ!!」
「主任、元気ならこっちの書類やってもらってもいいですか?」
「あっ、はい……」
研究室では皆平等。
社長である私も一研究員として扱うように自分から願い出ているので、部下に顎で使われてしまうのであった。
オメガガチャURの期待の新人ナマコデンキくん。
初陣でかつてないほどにボコボコにされて無事撃破(諸行無常)
ここらへんでレイマは黒騎士のイメージアップに力をいれるようになった感じです。