主にかっつんの学生姿や、時折発揮する天然を見せるお話です。
去年の怪人事変から大体半年後、私、
言葉にするだけなら簡単だけれど、ここに至るまでは波乱万丈な道のりがあったことは言うまでもないだろう。
まあ、細かく思い出すだけでも鬱な心境になりそうだし、ともかく私も華の高校生ライフを送れるようになったわけだ。
実際、こうやって無事に学生として過ごせることはとても幸運なことだと思う。
一時は怪人のせいで受験すら危うい状況になっていたんだから。
私が命を落としかけたクモ怪人の出現からも何度も怪人は現れていたけれど、そのほとんど……というか全部を未確認生命体二号———黒騎士、と呼ばれた彼が倒してしまった。
『黒騎士ぃ? あれは問題ですよ』
『あんなものに勝手に動かれちゃこっちは安心して眠れないですよ』
『怪人を倒しているなんて今だけかもしれないじゃないですか』
テレビの一部の評論家さんとかは彼が危険な存在だとか言っていたけれど私はそうは思わない。
口はちょっと悪いけれど、彼の行動そのものは悪い人のそれじゃないって思えるから。
というより、命を助けられたんだから悪くみられるはずがないじゃん。
「おはよー!」
「おはよー、ハイル」
そんなことを考えながら私は教室へと到着する。
入学から大体一か月。
それなりに仲良くなったクラスメートに挨拶を交わしながら私は自分の席……窓際から一つ分ほど離れた後ろの席へと座る。
なんとも惜しい席の位置に最初は悔やみはしたものだけど、今となってはそれほど気にしてない。
それには勿論、理由がある。
「おはよー、穂村くん」
椅子を引きながら隣で頬杖をついてぼーっと外を眺めている男の子に声をかける。
寝不足なのか疲れたような目に、少しぼさぼさの髪。
どこか近寄りがたい印象を受ける彼は、私の挨拶に気づくとこちらを向く。
「ん、おはよう」
そしてしっかり挨拶を返してくれる。
———彼の名は、穂村克己くん。
私の隣の席にいる男子生徒で、なんだか妙に気になっている男の子である。
「で、ハイルは穂村君のことが好きってこと?」
「んん?」
昼休み、クラスの友達と教室で机を四つ繋げて三人でお弁当を食べていると、黒髪おさげがトレードマークの友人、
「それは分かんない。でもいい人だよ」
「時々幼児みたいな返答するよね、ハイルって」
「てか、それって言外に対象外って話になんない……?」
もう一人、ショートボブと眼鏡がトレードマークの陸上部所属の
気になっているのは本当だ。
どちらに傾くかは今後次第だけれど……。
「でも、アリかナシかでいえば……アリね」
「え、英子? 意外……」
「ミステリアスって感じが。ゲームのキャラに出そうでいいわね」
いや、ゲームかい。
意味もなく焦ったじゃん。
「現実にいるわけないでしょ」
そこで香織が呆れた様子で英子にそう言い放つ。
なぜか、そこで受けて立った英子は香織に詰め寄った。
「いるかもしれないじゃん! 暗い過去を持つ心の傷を抱えたまま孤独に生きる系男子!? ほら、ガワだけなら穂村君ドンピシャじゃん!?」
「創作に夢を見ていると一生彼氏なんてできないよ?」
「言ってはならないことをいったわね?」
謎の喧嘩が始まろうとしているのもいつものこと。
まあ、いいや、とりあえず穂村くんについて二人にも話してみよう。
「このクラスになった後、筆記用具を全て忘れるという失態を犯した時の話なんだけど」
「いや、なにやってんの?」
あの時は焦った。
なにせ気づいたのは授業開始前だったから。
友達にも借りることもできずに焦る私に気づいた穂村君がすぐに筆記用具を貸してくれたのは今でも記憶に新しい。
「その時は穂村君がえんぴつと消しゴムを貸してくれたの」
「「えんぴつ!?」」
まあ、驚くよね。
私も隣からHBのえんぴつを差し出されたら驚く。
「えんぴつ? シャーペンとかじゃなくて?」
「うん。こっちの方が安いからだって」
「……ま、待って、これ聞いていいのかな? 私達の心が押し潰されそうな予感しかしないんだけど」
露骨に怯える二人に私は心配いらないとばかりに笑みを浮かべる。
「いっそのこと二人に共有してもらおうかなって」
「何この子、悪意しかないじゃん……」
「目が笑ってない……」
正直、私が彼のことを知れば知るほど放っておけないと心境に駆られてしまう。
それも含めて話そう。
「穂村君って話しかけたら普通に返答してくれるし、別に喋るのが苦手ってわけじゃないの」
「え、そうなの? 口下手系か、いつも不機嫌な俺様系だと思ってた」
「そろそろ乙女ゲー基準で考えるのやめない……?」
英子のその知識の偏りは将来苦労しそうな予感しかしない。
「とりあえずさ、なんとか穂村君と仲良くなろうと思ってテレビの話題も振ってみたんだ」
「へえ、積極的じゃん。それでどうなったの?」
「穂村くんの家ってテレビとかもないから見てないんだって」
「「……」」
この流れで二人は嫌な予感を感じ取ったのだろう。
その感覚は正解だよ。
「い、今時珍しいね」
「じゃ、じゃあ、PCとかかしら? ほら、一人暮らしってPCあればテレビもいらないし」
「パソコンも持ってないって」
「れ、連絡先!! 連絡先は交換したの!?」
ここで無理やり話題を変えてくる英子ちゃん。
彼女の言葉に私を首を横に振る。
「ううん、交換してない」
「じゃあ今すぐ交換してきなさい!」
「そうじゃなくてね……」
斜め下を見て自嘲気味に笑う。
あの時の……いや、三日前の衝撃は嫌というほど忘れられない。
そろそろ電話番号くらい聞いてもいいかなーって思って切り出したのに。
「穂村くん、スマホも持ってないんだって……」
「「……」」
「だからさ、どうしようかなって……」
話をまとめただけでも、彼の家にはテレビもなくてPCもなくてスマホも持っていないのだ。
だから昨日見たテレビの話題にも答えられない。
その事実を知った香織は、軽く深呼吸をした後に半分ほど残った弁当の蓋を閉じると、そのままテーブルに肘を置き手に顎を乗せた。
「それは、あれだね。スマホがないことが事実か、単純にハイルが嫌われてるかのどちらかだね」
「そんな私にとって絶望しかない二択があるの……?」
嫌われるようなことなんてしてないよ……!?
真面目に考えてもスマホがないって信じられない事実だけれども。
そんなんでどうやって毎日生きているの? ってくらいに驚くけれども……!!
「暗い過去を持つ心の傷を抱えたまま孤独に生きる系男子は実在した……!?」
「英子が壊れた」
「養いたい……」
「もうこれ手遅れでは……?」
英子は時々意味の分からないことを口にする。
結構、業の深いオタクなのでこういう時はあまり深入りしないことが、うまく付き合っていくコツである。
「ここまで背景が分からない人いる……?」
「でもいい人だよ?」
「それはもう聞いたけど、うーん、複雑な家庭環境にいるとかなのかなぁ。今時、テレビ、PC、スマホの三種の神器を持ってないって異常よ」
「初めて聞いたよ、そんな三種の神器」
いや、若い世代の私達からすればその通りだけど。
妄想に耽っている英子を他所に私と香織が首を捻る。
「此花」
「うぇっ!?」
「「!?」」
突然、話の中心だった人に声をかけられ椅子から飛び上がりそうなほどに驚く。
え、え? こ、この声……!?
「ほ、穂村君」
「悪い。話し中だったか? ……? なにやってんだアルファ?」
「女子会。結構たのしい」
今しがた教室に入ってきたのか、入口のある方に立っていた穂村君になんとか返事を返す。
「ううん、ど、どうしたの?」
「ん? ああ、これを返そうと思って」
渡されたのは朝、穂村君に貸した私のノートであった。
先日、彼が三日ほど学校を休むという珍しいことがあって、それもあって彼にその日の授業分のノートを貸していたのだ。
彼が休んでいる間は妙に地震が多かったから、なにかあったのではないかと心配したものだ。
すぐに返してくれるとは思わなかったので驚きながらノートを受け取る。
「これ、ありがとな。助かった」
「うん、気にしなくてもいいよ」
「それとこれ」
続いて差し出されたのは紙パックのフルーツジュースであった。
学校の自動販売機で買えるソレは私が好んでよく飲んでいるものだ。
まさか、覚えていてくれたの……?
いやいや、シャーペンすらも節約する彼が私にジュースを買ってくれるって、あれかな?
勘違いしてもいいのかな……!?
「……あー、返せるもんがそれくらいしかなかったから。迷惑だったら———」
「も、もらいます!!」
「なんで敬語……? まあ、ほら」
差し出されたジュースを食い気味に受け取る。
彼は硬直している英子と香織に視線を移した後に、困ったように頬を掻く。
「話中にごめんな。じゃ」
「あ、待って、カツミー」
それで用が終わったのか、彼は自分の席へと戻っていく。
彼が離れたことを確認した私達は、すぐに顔を見合わせる。
「ハイル。あれ、やばいわ」
「やばいよね?」
「オタクに優しいオレオレ系男子と、自分にだけ優しい一面を見せる系男子の側面も併せ持っているですって……!?」
英子だけもっとおかしくなっているけど、概ね香織の言う通りだ。
穂村克己くんはやばい。
不思議な雰囲気もあるけど、なにより行動が意表を突きまくってくるのがやばいのだ。
時系列はマグマ怪人戦の後。
主にかっつんの天然さに此花とその周りが翻弄されたりします。