視点は変わらずハイルでお送りします。
私は基本的に部活とか入ってはいないので、休日はぐーたらしてるか買い物などにいったりしている。
華の女子高生として平均的かつ普通な日常を謳歌していると自負する私の今週の休日の予定は、友達である英子と駅前のスイーツを食べに行くことであ———、
「いやぁ、待ちに待ったゲームが買えてよかったわー。もう、待っていたぞ、この野郎っ!」
「英子と買い物にいくと普通の女子高生の定義が壊れるよね」
スイーツを食べる、のは建前でこの友人は一人一つ限定のどこぞのアニメのキャラグッズを買わせやがったのだ。
これにはさすがに温厚と知られる私もぷんぷんだ。
「そんな怒らないでよ。ちゃんとご飯奢ってあげるから」
「よくそんなお金持ってるよね」
「人はなんのためにバイトをする? 趣味に貢ぐためよ」
そりゃそうだけど、英子の場合ほぼすべてのバイト代を貢いでいる気がしてならない。
「私は貢ぐ女だから。今はバーチャルだけどいつか現実を見つける」
「なんでここに香織がいないんだろう」
「いえ、もう見つけているかもしれないわね……」
「かわいそうだから、穂村君に関わらないで?」
色々な意味で危険なのでこの子は絶対穂村君に紹介しないでおこう。
どこに出しても恥ずかしい親友で困っちゃうな……うーん。
「で、どこに食べに行く?」
「無難に駅前とかがいいなぁ。他のお店とか見れるし」
「じゃあ、そうしよっか」
時間は昼を少し過ぎたくらい、か。
……怪人という存在が世に出てくるようになっても不思議と日常というものは変わらなかった。
怪人事変という怪人による強烈な事件が起きなくなったからか、黒騎士が怪人を倒してくれるという安心感からか、それは私にも分からない。
けれど、少しでも時間が経ってしまえば危機感というものは薄れてしまうものなんだな、とは思った。
「怪人って今のところ夜にしか出ないんだっけ?」
「今のところはね。だから昼間に外出してる人が多くなったって話題にもなっているのよねー」
「……私が言うのもなんだけど、それってなんだか危ない気がするよね」
こんな時に昼間に怪人が出てきたらまずいどころじゃない。
多分、たくさんの人が巻き込まれる事態になってしまう。
……まあ、一般人の私がどうこう考えても無駄なんだけど。
「あ、穂村君だ」
「!? え、いるの!? 穂村君!?」
英子の声に前を見る。
彼女が指し示した先にあるお店から買い物袋を手にした穂村君が出てくる姿を見つける。
ジーパンにパーカーという比較的シンプルな服装の彼は、私たちに気づかないまま道の先を歩いていく。
「近くに住んでいるのかな……?」
「自炊系男子……!?」
「もう穂村君をそう言うのやめない……?」
そろそろくどいよ?
持ちネタにしようとしているのか分からないけれども。
本当は声をかけたいけど……買い物袋を見る限りこれから昼食を作るみたいだし、邪魔しちゃ駄目だよね。
そのまま彼に声をかけずにその場を後にしようとしたその時———不意に穂村君が、なにかを感じ取ったように上を向いた。
瞬間。
彼が向いた方向から透明な空気の膜のようなものが私達を通り過ぎ、周囲へと大きく広がっていく。
「な、なに!?」
「あ、足が、動かな……」
地面に縫い付けられたように足が動かない……!!
それは私だけではなく、英子も、この場にいるすべての人間がその場から動けなくなっているようだ。
混乱していると、不意に頭になにかが被さる。
「っ、ヘルメット!? 英子も!?」
「周りもつけてるわ!」
彼女の言う通り、周囲にいる人も黄色いヘルメットのようなものが被せられている。
普通のものではなく、青いランプのようなものが取り付けられており、ものすごく不気味だ。
『———ようこそ、ニンゲン諸君!』
「声……?」
建物に取り付けられたモニターや、電気店のテレビからけたたましい声が発せられる。
それだけではなく、空中に映し出された映像にも、そいつの姿が映し出された。
『はぁじめまして! 僕は“はてな怪人クエッチョン”! クイズがだいだいだーい好きな怪人だよ!!』
怪人……!?
頭がクエスチョンマークでできた全身黒タイツの怪人。
ふざけた見た目だけど、これまで報じられてきた怪人とは明らかに異色なそれに言葉を失う。
その怪人は、どこかビルの上に立っているようでその背景は……私にとって見慣れたこの街が広がっていた。
『僕の初めての使命のために今日は僕を中心とした半径500メートル内にいる人間にクイズをやってもらうことにしたんだ!』
半径500って、つまり一キロ以内にいる人間があの怪人の人質になっているってこと!?
じゃあ、この足が動かないのってまさか私たちを逃がさないため……?
『クイズは公平じゃなくちゃね! じゃあ、今君たちの置かれている状況を説明させてもらおっか!』
『その1、僕の能力範囲内にいる生き物はぜーんぶ、僕のルールに従ってもらわなきゃいけない!』
『その2、能力範囲内における物理的な攻撃は全て無意味! 勿論それは君たちにも有効さ!』
『その3、唯一お互いに攻撃が通る術があるとすれば、それはクイズだけ!』
『その4、クイズだけがこの空間を支配する法則! それは僕でも君たちでも捻じ曲げられない決まりってことだね!!』
全然頭に入ってこない……。
こ、こんな状況でクイズをやれって言うの……?
『そしてルールは簡単! 僕の出題するクイズに答えればいいだけっ! この場にはもう何千人も人がいるから楽勝だよね!』
「そ、そうだ。クイズに勝てば、助かるんだ……」
「これだけ人がいれば、誰かひとりくらいは正解できるはず……」
「なんでクイズなんか……」
『勝利条件は、クイズに正解して僕にダメージを与え続けて勝てば、君たちの勝ちさ!』
勝利条件を聞き、周りにいる人たちもざわつき始めた。
勝てるかもしれない、という見込みができて喜ぶ人たちだけど……そんな甘い話があるのかな。
少なくともあのクモ怪人を見た私は、そんな楽観的なことを考えることができなかった。
『敗北条件は、もう分かってるよねっ! 君たちが一つでも問題に外れた時、全員連帯責任で皆には死んでもらおう!』
「ッ!? そんなの、ふざけてる……」
「なにそれ、クソゲーね。今時のデスゲームものだってそんなことしないわ……!!」
この怪人は、私たちを生かす気がない。
あのクモ怪人のように、人間を弄んでから殺すつもりだ。
怪人の言葉にその場が混乱に包まれる。
「ほ、穂村君……」
そんな中で私はどういうわけか、視線の先にいた穂村君を探す。
彼はここにいるのだろうか。
どうしているだろうか。
なぜか、理由も分からないまま彼を見ると———、
「……」
他の人たちと違って慌てたりもせずに、ただジッとクイズ怪人がいるであろうビルの屋上を睨みつけていた。
いつもの眠たげな眼からは想像もできない強い意志の籠った瞳を怪人へ向けていた彼に、不思議な感覚に陥っていると———、
『第一問!!』
ポーン、と絶望を告げる音が鳴り響いた。
『しすせそ』
さぁ、鳴っているものはなーんだ!
『制限時間は60秒! 解答者は挙手! チャンスは一回だけだから、よく考えてね!』
だ、駄目だわかんないよぉ!?
え、こんな理不尽なクイズ形式の癖してクイズだけは真っ当ってどうなっているの!?
『だ、誰か答えろよ!!』
『分かんねーよ!!』
『間違えたら全員死ぬんだろ!? 俺は嫌だぞ!!』
チャンスは一回。
クイズに間違えれば全員が死ぬ。
そんな理不尽なクイズに誰も手をあげることができない。
『20、19、18、17、おっとぉ、解答者がいないならこっちで選んじゃうけど……んー?』
カウントダウンをしていたクイズ怪人が不意に言葉を区切る。
どうした、と思っていて気づく。
———穂村君が、手を挙げている。
『おやおやようやく手を挙げてくれる人がいたねぇ!! じゃあ、はい君!!』
モニターに穂村君の姿が、映り込む。
誰もが固唾をのんで見守る中、彼は少しも緊張も動揺もしていない様子で口を開いた。
『さしすせその“さ”がない。さ、いれないだから、答えは“サイレン”』
一瞬の静寂。
私たちの命を左右する答え。
数秒が永遠に感じるほどの時間の後に———クイズ怪人が、爆発に包み込まれる。
『うわー!? 正解だー!?』
や、やった!
正解してくれた!!
こんな状況でえぐい度胸を見せてびっくしりしたけど!!
「流石は……え、誰? 誰が答えたんだっけ?」
「ここにいる何千人も中から選ばれた人だから知ってるはずないでしょ!」
「そ、それはそうだけど……」
なんだろう、さっきのクイズに解答した人の顔も、なにも思い出せない。
ただそのクイズに正解して私たちの命を救ったということは覚えているけど、本当に記憶に霞がかかったように思い出せない。
『いやはや、まさか動揺もせずに答えられるとは思いもしなかったよ!』
「……なっ!?」
クイズに正解して、爆発を受けたのにどうしてあの怪人はほぼ無傷なの!?
こっちは一問でも間違えたら終わりなのに……。
『じゃあ、次の問題! 第二も———』
『クイズがやりたいなら、一人でやってろよ』
怪人が続けてクイズを出そうとしたその時、モニター越しに怪人以外の声が響く。
それと同時にクイズ怪人がいると思われるビルからなにかが激突する音が響き———モニターに、クイズ怪人に拳を叩きこんでいる彼……黒騎士の姿が映り込む。
『やあ、待っていたよ! 黒騎士!! 我が兄弟を次々と殺す悪魔!! あぁ、会えて光栄だ!!』
『……』
クイズ怪人の言葉を無視し、目にも止まらない速さで攻撃をした黒騎士。
ただ音と、衝撃だけが響くけれど、クイズ怪人本人には……彼の拳は届いてはいなかった。
『チッチッチ、無駄だよ。僕の能力範囲内で繰り出された攻撃は無力化されるんだ』
『……。そういうことか』
『これはね。耐久力とかそういうものじゃないんだ。そういう理として現象を書き換えているんだ。だから君がどれだけ頑張って拳を振るおうとも、僕に届くことは永遠にないってことさ』
黙り込む黒騎士に、クイズ怪人は意気揚々とした様子で自分を映し出す映像を寄せる。
『さあ、メインが来てくれた!! これからは黒騎士にクイズに答えてもらおう!!』
『……いいだろう。乗ってやるよ。テメェのくだらねぇクイズに』
『……おや意外だね。まあ、乗ってくれるというなら、僕は問題を出すだけさ!! さあ、間違えたら君を含めて人たちは死んじゃうから気を付けてね!!』
黒騎士でも、駄目なの?
やっぱりこれまで出てきた怪人となにかが違う。
昼間にも出てきているし、ここまで異様な力を持っているなんて……。
『第二問!』
では、上り坂、下り坂、いったいどちらが多いでしょうか!!
駄目だぁ、これも全然分かんないよぉ!?
で、でも日本って山が多いから上り坂の方が多いんじゃないの?
あ、解答者は黒騎士に固定されているから、私が考えても意味ないじゃん!?
ぐるぐると思考がドツボに嵌っていきながら、縋るようにモニターの先の黒騎士を見る。
彼は、少しも悩んでいない様子でため息をついた。
「……答えはどっちも同じ、だろ。何言ってんだお前」
「!?」
「坂なんて上から見たら下り坂、下から見たら上り坂じゃねぇか。クイズ怪人ならもっとちゃんとしたクイズを作れよ」
「く、ぐ、うぅぅぅ、正解ッ!!」
あっさりと正解し電撃を浴びるクイズ怪人。
しかしそれも一瞬だけで、大したダメージを受けずにすぐに復帰し、次の問題を繰り出す。
『第三問!!』
1、部長
2、村長
3、校長
さて、学校で一番多いのは誰かな!?
『部長だろ。村長は論外で、校長は一人しかいねぇけど、部長はそれぞれの部活とかでたくさんいるから』
『ぬぐぁぁぁ!?』
……いや待って、普通にクイズ強くない?
一瞬で答えた黒騎士に呆気にとられる私達。
当の彼は、おもむろにクイズ怪人に人差し指を向ける。
『テメェの能力は、問題に正解した後に拘束が途切れる』
『……それがどうしたのかな? まさか、君がニンゲンを置いて逃げる、なんてことはしないよねぇ?』
『……』
クイズ怪人の言葉に答えず黙り込んだ黒騎士は、そのまま軽く跳躍すると———屋上からその姿を消した。
『は?』
「「「は?」」」
クイズ怪人も能力範囲内にいる私たちも呆気にとられた声を零す。
怪人にも攻撃が向かってきていないということは、彼はこの場から移動したということになる。
『は、ははは!! まさか黒騎士が尻尾を撒いて逃げ出した!?』
黒騎士が、逃げた?
あの彼が?
本当にそうなのか……?
『や、やっぱり、あいつは人間の味方なんかじゃなかったんだ……』
『私たちを置いて、見捨てるなんて……』
『もういやぁ……』
避けられない死に、絶望だけが広がる。
このままじゃ私たちは確実に死ぬ。
たった一つの間違いで、全員があのクイズ怪人に命を奪われてしまう。
「……黒騎士は、あの人は私たちを見捨てたりなんか、しない」
「ハイル……?」
「私を助けてくれた時みたいに、きっとなんとかしてくれる……はず」
少なくとも彼が怪人に恐れをなして逃げるだなんて想像もできない。
例え、そう見えたとしても私は認めたりしない。
だって、彼は私の命を救ってくれた……私にとってのヒーローなんだから。
『さっさとここのニンゲンを終わらせて、次のクイズをするとしようかな!!』
クイズ怪人が明るく、残虐な声で次のクイズを出題しようとする。
その時、ゴウッ、という風を切り裂くような音が遥か頭上から響く。
『第四も———』
『え、な……は?』
『自分で言ったんだぞ』
ほぼ首だけになり倒れ伏すクイズ怪人の元に先ほど姿を消した黒騎士がやってくる。
彼は右手で拳大の石を弄びながら、瀕死のクイズ怪人を見下ろした。
『範囲内
『……アッ……』
『ヒントありがとよ。このマヌケ』
最後にとどめを刺すようにクイズ怪人の頭部を踏み砕いた瞬間、頭に被らされたヘルメットも消え、足も動くようになる。
「た、助かったの……。あぁ、よかったぁ……」
「ハイル」
「英子、助かってよかったよぉ。本当にって……どうしたの?」
安堵のあまりその場に座りこんでしまっていると、隣にいた英子は放心したように黒騎士がいるであろうビルを見上げている。
心なしか、その表情はどこか浮ついているように見える。
「私、黒騎士推しになるわ」
「……頑張って?」
なんか命の危機を救ってもらったせいで、英子が駄目な方向に目覚めた気もしない。
でも、また助けられちゃったな。
二回も怪人に殺されかけるとか全然笑えないけど……。
例に漏れずの外道怪人クエッチョン。
地味に自己再生機能を搭載しているので、地道にクイズで勝ち続けても絶対に倒せないという理不尽。
アルファもカツミと一緒にいたので、クイズ怪人の襲撃は彼女にとっても割とピンチな状況でした。