【外伝】となりの黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしました。

序盤は少し変わってオメガサイドの第三者視点。

中盤からは本編最新話『姉の脅威』に登場するブルーの妹、日向晴(ひなたハル)の視点でお送りいたします。


みんなで笑顔に(VS催眠怪人)

 深く、太陽の日の光が差すことのない地の底で悪意は目覚めた。

 かつては人の姿をし、今となっては異形へとなり果てた怪物“オメガ”。

 本来は理性すらも失いただ暴れるだけの獣と化すはずだった彼は自身の肉体すらも作り変え、既存の生命とは別種の生命体へと超越するに至った。

 

『アルファを、殺せ』

 

 彼の行動原理は至極単純。

 地球人類の根絶、そして外宇宙への進出。

 自らの存在を脅かすであろう、“覇王(ルイン)”を抹殺するための足掛かりとして怪人を生み出し戦力を増やしていくつもりであった。

 

『アルファを、殺せ』

 

 しかしここに多くの誤算が起きた。

 本来ならば最初に作り出したクモ怪人だけで日本に生息する人類の大多数は根絶できたはずだった。

 だがそうなってはいない。

 全ては黒騎士、と呼ばれる謎の戦士が現れたからだ。

 彼のせいで全ての歯車が狂いはじめた。

 作り出したあらゆる怪人が殺され、戦力を集めることすらままならない。

 

『アルファを、殺せ』

 

 そしてもう一つが自身の思考を誘導し続けるアルファの存在。

 違和感もなく、まるでそれが自分の意思のようにオメガの思考を誘導し、阻害するものがいる。

 それを自覚しながらもかろうじて抗うことしかできないほどのアルファの力(認識改編)は、まさしくオメガにとっての天敵とも言えたのだ。

 

『アルファを、殺せ』

 

 だからこそオメガはアルファを殺そうと考えた。

 自身の意思は何者の言葉にも揺るがされない、自分だけのものだと。

 アルファは都合よく黒騎士の傍にいる。

 ならば、黒騎士諸共殺せばいい。

 

 そうすれば、今も尚自身の背後から思考(・・・・・)を誘導しているアルファは消えるのだから。

 

 矛盾した思考を抱えながらもオメガは怪人を生み出し、黒騎士と人類を狙い続ける。

 

「アルジサマ! 黒騎士を殺害にするには戦力が足りませン!! 力が、力が足りない!!」

 

 オメガは座に君臨しながらもその双眸を眼下の怪人へと向ける。

 黒騎士と相対するレベルにすら及ばない失敗作。

 なんの能力もなく即座に葬られるであろう哀れな出来損ないを見下ろした彼は、しかしそれでも怪人を殺すことはしなかった。

 オメガにとっては例え失敗作であっても、まだ利用価値のあるものだったからだ。

 

「あ、が、あああ!? ア、アルジサマ!? あ、あア……!?」

 

 オメガの瞳に映し出された怪人が内側から膨れ上がるように肉塊へと変貌する。

 溢れては収縮し、歪な音と共に元の姿からかけ離れた変形していった怪人は———新たな命と共に生まれ変わろうとしていたのだ。

 

『アルファを、殺せ』

 

 生命の怪人。

 それはまさしく命すらも創造し、弄ぶことのできる超常の能力。

 ただ目にするだけで命を玩具のように弄んだオメガの眼下には、変形を終えた怪人が誕生の時を迎えていた。

 

『お前の、力は、なんだ?』

君の力はなにかな?

「ボクは、スマイリー。みんなを、笑顔に、するんだ」

 

 変貌したのは道化のような姿をした怪人。

 不気味な笑顔を張り付け人形のように立ち上がった催眠怪人“スマイリー”は己に刻み込まれた指令と共に人間という種を絶滅させるために地上へと向かうのであった。

 


 

 私、日向(ハル)は絶賛不機嫌中です。

 不機嫌度で言うと過去最高ってくらいに不機嫌深度を突破するくらいです。

 

 その理由は単純、いきなり転校しなくちゃならなかったこと。

 引っ越した先はおじいちゃんのいる実家、というより神社。それなりに大きい家だし、都会だからそれほど不自由なことはない。

 それでもいきなり引っ越しだなんて言われて仲の良かった友達と離れ離れになることはとても嫌なことだった。

 

 引っ越した理由は今年中学三年生のお姉ちゃんがなにかに選ばれて、こっちでの生活を薦められたからである。

 理由を尋ねてみたけどお父さんもお母さんもお姉ちゃんも誰も教えてくれなかった。

 つまり、私は蚊帳の外ということだったというわけだ。

 

「……」

 

 自分だけ教えてくれないのに転校させられたの? と、我ながら憤慨した。

 なので普通に怒って、両親に怒りをぶつけた後に私は家を飛び出し外へと繰り出した。

 事情があるのも分かっていた。

 話すことのできない理由があるのも理解していた。

 異常なほどにスムーズにこっちに移る手続きと移動がなされたその裏に何かがあるのも察していた。

 けれど、理性で理解できても感情そのものを押さえつけられるはずがない。

 

「品揃えはいい。そりゃ当然か」

 

 人が沢山集まる場所に良い品物が集まるのは当然のことだ。

 胡乱な目で並ぶ組み立てに用いるPCの部品などを目にしながら、そんなことを呟く。

 新しい街。

 新しい環境。

 それに未だ慣れない……いや慣れたくない葛藤を抱く。

 

「それに、怪人が出るかもしれない場所に軽々と……」

 

 怪人。

 都市部に出現する恐ろしい力を持つ人に仇名す存在。

 まるで特撮の世界から出てきたようなそれらは、突然に人類に牙を剥いた。

 人類の敵、それだけが現在判明しているだけでそれ以外のことは分からない。

 

「第一、黒騎士が味方かも分からないのに……」

 

 それを今の今まで倒している黒騎士も意味不明だ。

 なんで怪人を倒しているのかも、そもそも人間かどうかも怪しい。

 内からこみ上げてくる不満を貯め込みながらビルとお店が立ち並ぶ大通りを歩いていると、通りに並ぶ展示用のテレビに昼間のニュースと思われる番組が映し出される。

 

『またもや黒騎士ですね』

 

『本当に彼は何者なんでしょうねぇ。身元も不明、唯一一貫する行動が怪人を倒していること、目的もなく徘徊している……ね』

 

『でも怪人を倒しているのが黒騎士ならいい人なんじゃないっすか?』

 

『そうじゃなかったらが問題なんですよ』

 

 モニター内に映し出された男は険しい様子で言葉を続ける。

 

『別にね。私はその黒騎士に悪い感情があるわけではないんです』

 

『彼のおかげで数えきれないほどの人命が救われているのも事実です』

 

『ですが危険とは思っています』

 

『いわばあれ、警察でも自衛隊でもない何者かが銃や刃物以上に危険なものを携帯していることと同じなんです』

 

『もし未成年の……それこそ判断能力が備わっていない子供が黒騎士の正体だったら……いえ、これ以上のコメントは控えさせていただきます』

 

 そこで男はコメントを止め、次の話題へとニュースは移り変わっていく。

 その場面を立ち止まって見ていた私は、その主張が少し分かるような気がしていた。

 結局、誰も黒騎士が誰だか分かってない。

 どうしてそんなに強いのか。

 どうして怪人と戦えるのかも。

 いったいどういう目的で夜な夜な街を跳びまわるのかも……誰もそれを分かっていない。

 それを怖いと思うのはなにもおかしくないことじゃないし、攻められることでもない。

 

「正体を明かしたくないのか……」

 

 まあ、明かしたら明かしたらで当人にとっても面倒なことにもなりそうだけど、

 ……それは当事者になってみないと分からないか。

 

「そろそろ、帰る頃か……」

 

 勢いで家を飛び出してきたのはいいけれどお金はあまり持ってきていなかった。

 いわばあれだ……私はこれぐらい不機嫌でした! ……的な意思表示がしたかっただけで、もっと簡単に言うなら八つ当たりだ。

 

「今度、お姉ちゃんと来よう。レトロゲーもたくさん売ってたし」

 

 変人の姉がプレイするゲームは基本的に定まっておらず、もっと簡単に言うなら雑食だ。

 私と同じく物静かな印象な癖して重度のアニオタだしゲーマーだ。

 一種の完璧超人とも思える姉ではあるが、変人と肝心なところでドジをやらかすところがあるので、特に劣等感も抱くこともなく仲のいい姉妹でいられている。

 ……ゲーム中に煽られている時は除くが。

 

 

 

「すまーいる」

 

 

 

 その時、人の多い通りの中でそんな声が聞こえた。

 喧騒の中で異様なほどの声の通りに、私を含めた人たちが足を止めてその声の方を見る。

 

「みんなで笑顔になろう」

 

「ここがスマイル」

 

「あっちもスマイル」

 

「笑えば怖いこともへっちゃらさ」

 

 それは、異様な光景だった。

 スクランブル交差点に踊るように出てきたピエロ姿の長身のなにか。

 頭に着ぐるみを思わせる大きなピエロの顔をしたマスクを被り、縞模様のタイツを着たその人物は異様さすら感じる声と動きで、その場にいた皆の注目を釘付けにさせた。

 

「すまーいる」

 

「すまぁーいる」

 

「みんなで笑顔を広めよう」

 

 ピエロは映画のミュージカルのように歌いながら道行く人の肩に触れる。

 時にはバランスを崩して転びそうになったり、陽気な歌を歌い、すれ違う人たちを笑わせていく。

 

『なんだあれ?』

『なにかのイベント?』

『えー、ちょっと怖くない?』

『でも面白いじゃん』

 

 珍妙なピエロの登場にスマホを取り出して撮影する人まで出てきた。

 ……うわぁ、面倒な時に来ちゃったかな。

 人が集まる前にはやくここを離れたいなぁ。

 

『あ、あははっ、どうして……全然楽しくないのに……』

『なんで、わはっ……どうなって……はは』

 

「……?」

 

 なにか、おかしくない?

 目の前を横切るピエロを見て笑っていた人たちが、まだ笑っている。

 さっきよりもその勢いを増して、まるで息を吸う(・・・・)暇を与えないくらいの勢いで。

 それも一人だけじゃない。

 

「ちょっと、待って」

 

 なんで、あの人たち泣きながら笑っているの……?

 お腹を抱えて苦しそうにうずくまりながらそれでも笑っている人たちの光景に得体のしれない気持ち悪さを抱く。

 

「僕はスマイリーっていうんだ」

 

「……ひっ」

 

 気づけば、ピエロはすぐ近くになっていた。

 夕焼けを背にしたそいつは、逆光でその素顔を隠しながら、ぽつん、とその場にいた。

 

「みーんな、スマイル」

 

「笑顔になれば、みんな解決」

 

「一人じゃないから怖くない」

 

 身体が金縛りにあったように動かなくなる。

 一歩、一歩とピエロが一歩進むごとに周囲から響いてくる笑い声は大きく、その数を増していく。

 

「笑顔なら誰が死んでも悲しくない」

 

「悲しい記憶も僕の幸せな記憶で塗りつぶしちゃおう」

 

 近づくにつれ間近でピエロの被るマスクが鮮明に見えてしまう。

 その瞳は生々しいほどの大きな目玉が私の姿を映し出しており、口角は三日月のようにゆがめられ———その表情は親愛とはかけ離れた醜悪な笑みを浮かべていた。

 

「か、怪じ――」

 

「知っているかい?」

 

「笑顔はね、伝染するんだ」

 

 ピエロの手が私へとゆっくり伸ばされる。

 恐怖を引き出すかのように迫るその手に動けないでいると———私と同じく近くにいた女性がピエロの生々しい頭部に気づき、甲高い悲鳴を上げる。

 

「!!」

 

 その声で我に返った私は、ピエロの手が触れる前に私はその場から逃げ出した。

 後ろから笑い声が追ってくる。

 なにが起こっているか分からないし、分かりたくもない。

 ただ、とてつもなく大変なことが起きているのが分かった。

 

「あぐっ」

 

 っ、誰かにぶつかっちゃった!?

 

「すみません!! あの、早くここから逃げ―——」

「あッ、は」

 

 堪えるような笑みと共に振り返った女性は困惑と苦痛が混ざり合った歪な笑顔を見せ、引き寄せられるように私の手を掴んだ。

 

「あ、ひひっ、タス、け……」

「っあ、ああああ!?」

 

 掴まれた手からなにかが伝わった瞬間、視界が大きく歪む。

 

「あ、頭の中になにか、潜り込んで……!! やめ……」

 

 意味不明に溢れてくる喜色の感情。

 楽しくもないのに無性に楽しくなりぼやけた視界に浮かび上がる景色はこれまでの人生で“私が一番幸せ”と思った記憶。

 家族と遊園地に行った記憶。

 ゲームで一番を取った時の記憶。

 強制的に楽しく幸せに満ちた記憶を見せられた私は、抑えることすらできない笑顔を口から吐き出し続けるしかなかった。

 

「あ、は、はははは!」

 

 なにも思考できない。

 ただただ楽しかった。

 息もまともに吸えなくて苦しいけれど、それでも幸せとすら思えた。

 

 これを、この感情を誰かと共有したい!!!

 

 幸せを分かち合いたい!!!

 

 同じ景色を見せてあげたい!!!

 

『その通りだよ』

『幸せはね』

『みんなで分かち合うものなんだ』

 

 頭の中であのピエロの怪人の声が響いてくる。

 呼吸もまともにできないままに立ち上がった私は、他の人と同じように足を進めた。

 この幸せを共有してもらうために。

 みんなに笑顔になってもらうために。

 それが、まったく疑問に思えないほどの多幸感を抱いていた私は、歪んだ笑顔の集団から逃げ惑う人々の中、路地裏に進んでいく男性の姿を見つける。

 

——あの人も笑顔になってほしい

 

 思考の中でピエロの声が耳にささやかれていく。

 それに抗うことができず、私は霞がかった思考のままに路地裏へと足を進め———この状況で未だ笑ってない黒髪の少年の肩を掴んだ。

 

「は、は」

「……」

 

 だけど、彼は笑わなかった。

 私が触れても怪人の力の影響を受けずに、黒く澄んだ瞳を向けるだけだった。

 そこで限界だった。

 笑い声と共に呼吸を吐き出すだけだったためか、呼吸もままならなくなりまともに立っていられなくなる。

 

「大丈夫、か?」

「あ、あはは、たすけ、あはっ、あはは……」

 

 彼に背中を支えられ倒れずには済んだけれど、息も吸えずに目の前の景色さえ霞んでくる。

 それでも頭の中で沸き上がる感情は喜びしかなかった。

 これから死ぬかもしれないのに、それすらも喜んでいると錯覚してしまう自分がひたすらに恐ろしかった。

 

「……アルファ、なんとかできるか?」

「感情を抑えることはできると思う。でも抑えるだけ、症状を完全に打ち消すと感情そのものを消し去ることになるから」

「頼む。怪人の影響を受けてる人達にも」

 

 その時、なにが起こったのか私のうちから溢れる喜びの感情が少しだけ薄れたのだ。

 こみ上げる笑みも抑えられ、かろうじて呼吸もできるようになった私は、それでも吐息と共に笑い声を零しながら懸命に息を吸う。

 

「掃除機を買いに来ただけなのにこんな胸糞悪い怪人と出くわすなんてな……」

「え、えへへ……」

「待ってろ。すぐになんとかしてやる」

 

 なにを思ったのか私を壁に背を預けるように下ろした彼は光が差し込む通り——依然として怪人がいる方向へと向かっていく。

 駄目だ、と私が手を伸ばそうとしたその時、彼の姿が光に包まれ———、

 

「……ぁ」

 

 黒い鎧を纏った戦士へと姿を変えた。

 一瞬の出来事に言葉を失いながら、僅かに残る衝動を抑え込みながら路地から見える通りの景色を見る。

 

「これは話に聞いたアルファの仕業かな?」

 

 通りでは私と同じようにようやく息が吸えるようなったたくさんの人たちが笑いながら地面に膝をついている。

 その中心のぽっかりと空いた空間で、黒騎士とピエロの怪人がにらみ合うように相対していた。 

 

「抑えられるのはここまでなのかな? なら、それほど脅威でもないかな?」

「……くだらねぇ能力だな。反吐が出る」

 

 吐き捨てるように呟いた黒騎士が一歩踏み出そうとしたその時、ピエロ怪人を中心にして円状のなにかが広がっていく。

 それが私たちを呑み込むと視界にいたピエロ怪人の能力から逃れていた人たちが、触れられもしていないのに私達と同じように笑いだす。

 

「触れないと能力を発動できないとでも思ったのかな? でも残念、別に触れなくても君を僕の影響下に置くことだってできるんだよね!」

「……」

「さあ、無様に笑いなよ! 黒騎士くん!!」

 

 周囲に笑い声が溢れる。

 誰もが泣きながら笑い、ままならない呼吸のままに地面を這いずり苦しんでいる。

 

「……なんで君は笑ってくれないのかな?」

「……」

 

 しかし、彼は少しも笑ってなんかいなかった。

 静かな怒りを押し殺すように拳を堅く握りしめ、地面を蹴り一瞬でピエロ怪人の首を掴み持ち上げる。

 

「僕の能力は間違いなく効いているはずなのに、どうして? 触れているはずなのに? 君は人間じゃないの? いや、いやいや、君は正真正銘の人間のはず。ぼくの、わたしの力は効いているのが分かる」

「……」

 

 もがき苦しむ素振りすら見せずにピエロ怪人は禍々しい光を放つその両手で黒騎士の腕を掴み返す。

 ———その時、無感情に悪意をまき散らしていたピエロ怪人に異変が起きた。

 

「なんだそれは、なんだそれは、なんだそれは! そんな、ありえない! お前は空っぽだ! 幸福な記憶なんて何一つ存在しない!! それで生きているのか!? 生きていると言えるのか!? 君は、お前は———」

 

 その瞬間にはピエロ怪人の胸に拳大の穴が出来上がっていた。

 一瞬にして胸に穴が空きピエロ怪人が血を吐き出した直後に空に放り投げられ、吹き荒れるように放たれた拳の前にその全身を粉々に消し飛ばされてしまった。

 

「なお……った?」

 

 あまりにも呆気ないその終わりを認識したその時、胸の奥底からこみ上げていた喜色の感情が消え去った。

 もう普通に息も吸えるし、幸せな記憶も見ることはなくなった。

 呆気にとられながらも、彼を……黒騎士を見ると、彼は怪人の血に塗れた拳を見つめながらその場にまだ残っていた。

 

「笑顔になれる記憶がないか。……ハッ、笑える冗談だよ……本当に」

 

 そのまま彼は手の血を雑に払った後に跳躍と共にその場から消え去った。

 


 

 その後、なにが起こったか正直よく覚えていない。

 呆然としながら家に帰った時は、プチ家出をしたことも怒られたり、心配をかけさせられて泣かれたりもした。

 ……これ以上、心配はかけたくなかったから怪人の被害にあったことは結局言わなかった。

 単純に言いたくなかったって気持ちもあるし、なにより私は嘘が下手だから、黒騎士の素顔を見てしまったことを誰にも知られたくなかったのだ。

 

 ……あの時、引き起こされるはずだった怪人による未曽有の災厄が、たった一人の彼……私より少ししか年が変わらない少年により防がれたという事実は結果として私にとっても強い印象として残ることになった。

 

「……笑顔を、知らない……か」

 

 あのピエロの怪人の力はすごく怖かったけど、幸せだったというのも本当だった。

 自分の人生で一番楽しくて幸せだった景色を見せられるというのは、きっと人間なら誰でもかかってしまうはずだ。

 それにかからなかったってことは……そういうこと、なんだろうなぁ。

 

「……」

 

 母さんの趣味の一環で一緒に組み上げた自作PCの前でボーっと思考しながら、次にゲームに視線を移す。

 ゲーム実況、かぁ。

 ……。

 いやいや、学生は勉学に励むべきだ。

 でも、いや、もしかして……。

 

「……年が近いなら、もしかして見てくれるかもしれない……可能性、ある……かなぁ?」

 

 私にできることは限られている。

 もしかしたら、これからしようとしていることも意味のないことかもしれない。

 それでも誰かを無理やり笑顔にさせようとするピエロ怪人とは違う形で、あの人を……皆を笑顔にできるようなことを、やってみようと私は考えた。




黒騎士に笑顔になってもらいたくて最初の第一歩を踏みしめたブルー妹でした。

ハルが主人公を覚えていたのは、アルファ自身が今回の騒動で頑張っていたのと単純に忘れていただけでした。

ここからは後付けも含めた怪人の設定解放をば↓

【生命怪人オメガ】
・目視で無為転変
・認識改編にある程度の抵抗力を持っている。

【催眠怪人スマイリー】
・強制的に笑顔にさせる、という自身の能力を接触と言う形で伝染させることができる。

・呼吸もできないほどに笑わされるため、手遅れになれば窒息する危険もある。(今話ではアルファの能力で緩和)

・能力の支配下に置かれた者は、他の人間に『自分と同じ幸せを共有したい』という強い欲求に抱き、自らの意思で支配下に置かれていない人間に触れようとする。(ゾンビみたいなもの)

・実はわざわざ触れなくてもよく、クイズ怪人と同じ範囲支配型の能力(単純に苦しむ人間の姿を見たかったため)
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