【外伝】となりの黒騎士くん   作:クロカタ

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お待たせしました。

今回はジャスティスクルセイダーのお話。
初のアカネの視点となります。


戦士への第一歩

 黒騎士に命を救われた。

 

 多分、それが私にとっての転機だったんだと今でも思う。

 怪人に襲われてもうすぐ殺されてしまうというところで彼がやってきた。

 黒い鎧を身に纏う謎の戦士。

 夜な夜な街を駆け、跳びまわりながら影ながら怪人と戦っている彼が、その拳であっさりと怪人を倒してしまったんだ。

 それからずっと黒騎士のことが頭から離れなかった。

 自分の命を助けてくれたこともそうだけど、彼がどんな気持ちであんな恐ろしい存在と戦っているんだろうかって純粋に気になったんだ。

 

 でも私みたいな普通の子なんかがいくら考えても答えなんか出るはずもなく、私は平々凡々な日常をそのまま送ろうとしていたその矢先に———、

 

 健康診断に普通に引っかかった。

 

 年はじめごろに全国規模で実施された健康診断。

 老若男女問わず行われたそれはなんとも奇妙なもので、不思議な形をした機械に手を当てるだけで終わりというものだ。

 診断の名目は“怪人の登場による未知のウイルスが発生していないか調べる”もので、それらは一分とかからずに終わるものだったからか、私は特に疑問も抱かずに診断を受けたわけだ。

 

 それで後日になって再検査という通知が来てなぜか世界的に有名な大企業“KANEZAKIコーポレーション”へと招待されてしまった。

 最初は意味分かんなすぎて詐欺だと思ったけれど、企業関係に詳しいお父さんが本物だって言ってくれたから私は両親同伴でそこに向かって……驚くべき話を聞かされた。

 

『単刀直入に言おう。新坂朱音君。君に怪人に立ち向かうためのスーツの適性があることが判明した』

 

 金崎令馬と名乗った男は、まさかの社長室に私たちを招くなりそんなことを言ってきた。

 さすがに状況からして冗談とも思えない。

 だけれど、その言葉があまりにも現実味を帯びていなくて、私も両親も最初その社長さんが何を言っているかまったく理解できていなかった。

 

『日本……いや、世界規模で適正テストを行ったが、適正者は君をいれて三人のみ』

 

『怪人との戦いは命の危険が付き纏う危険なものだ』

 

『強制はしない。君自身とご両親で決めてほしい』

 

 私が、怪人と戦う。

 それも命がけで、彼と同じように。

 今でも怪人に殺されかけた恐怖は忘れられない。

 あんな怖い目に遭うなんてもう絶対に嫌だ。

 

 ……でも、これからもっと怪人が出たら私と同じような目に遭う人がたくさん出てしまうかもしれない。

 自分に怪人と戦える力があるかもしれないのにそれをしないで安全なところに隠れて苦しんでいる人を見て見ぬふりするなんてしたくない。

 思い上がりでもいい。

 この感情が自分よがりな正義感でも構わない。

 

 私は私自身の意思で、怪人と戦う道を選んだ。

 


 

 そして、今私はまたKANEZAKIコーポレーション本社の隠された地下施設の一室でこれからチームを組むであろう二人の仲間との顔合わせを果たそうとしていた。

 世界的大企業本社の秘密の地下施設。

 いよいよ現実離れした状況に身を置いた私ももちろん緊張していたが、最初に現れたチームメイトの姿にその緊張もいくらかなくなっていた。

 

「まさかアカネがそうだとは思わなかったよー」

「きらら。それはこっちの台詞だよ」

 

 一体誰と組むのか、ちょっとだけ緊張していたわけだけど意外も意外。

 その一人はクラスメートであり友人である天塚きららだった。

 少し黒に近い茶髪をおさげにした彼女も、集まったのが私と知って安堵しているようだ。

 

「きららも変身できる、らしいんだよね?」

「まだ全然現実味がないけれど、そうらしい」

「……きららはどうしてこの誘いを受けたの? 怪人と戦うことが怖くなかったの?」

 

 同じ立場の私が言うのもなんだけれど、聞いてみたかった。

 私の問いかけにきららは、うーん、と首を傾げた後に困ったような笑みを浮かべた。

 

「怪人は危ない、から?」

「……え、それだけ?」

「特別深い事情はないよ。怪人のせいで危ない目に遭うかもしれない人を助けられる。それができるかもしれないのが私だっていうんならやるしかないってね」

 なるほどなぁ。

 そういう考え方もあるんだね。

 というより私とも結構近い考え方で驚いたくらいだ。

 

「……あっ、あと、平凡な自分を変えたいっていう思いもある。こう……日常から脱却したいって感じで!」

「その考え方が普通って感じがする」

「うぐっ」

 

 自分でもそう思っていたのか密かにダメージを受けるきらら。

 そんな彼女に苦笑していると、部屋に新たな人が入ってくる。

 

「……む?」

 

 入ってきたのは青みがかった黒髪の同い年か年下くらいの女の子。

 ちょっと跳ねた肩ほどに伸びた髪と、ぼんやりとした目をした彼女は、なぜかその手にジャンクフード店でよく見る紙袋とジュースのカップを持ちながら私たちの前へと歩み寄り———、

 

「おいっす」

「「……」」

 

 そんな初対面からは考えられない挨拶を繰り出してきた。

 なんだこいつ。

 恐らく隣にいたきららの感想もそんな感じのものだったに違いない。

 というより普通私ときららのようにド緊張するこの場に来ているのに普通にジャンクフード食べ歩きしてくるとかどういう神経しているのだろうか。

 

「私、日向葵。14歳。中学三年生。お近づきの印にどうぞ」

 

 そう言って紙袋からハンバーガーを取り出して私ときららに渡してくる。

 いや、確かに今はお昼時でお腹も空くんだろうけど……今じゃなくない?

 てか、この不遜な態度で年下なの!?

 

「あ、ありがとう。わ、私は天塚きらら。高校一年生……だよ?」

「えーっと、新坂朱音。同じく高校一年生」

「……。もしかして私、第一印象間違えた?」

 

 どう考えたらさっきの印象で良くなるのか分からないんだけれども!?

 明らかに色々とぶっとんだ性格をしたメンバーを加えて三人になったわけだけど、きららはともかく日向さんはどうなってんだ。

 普通に生きててエンカウントしないレベルで個性強すぎないか?

 

「私、このプロジェクトに参加するにあたってド田舎から引っ越してきたんだ」

「へー」

「だからハンバーガー食べたかったの」

「今買うべきじゃないよね?」

 

 もう個性がぶっ飛んでる。

 受付の人に許可はもらえたからと言って普通ハンバーガー買って持参してくるだろうか。

 そんなことを思いながら、空いている私の隣に日向さんを座らせると……それと同時にこの部屋の扉が勢いよく開かれ、また新たな人物が入ってくる。

 

「はじめましてぇ!!」

 

 呆れるほどにでかい発声と共に入った金髪の男はずんずん、とした足取りでホワイトボードが置かれている私たちの座っているテーブルの前に移動する。

 

「私の名前はKANEZAKIコーポレーション代表取締社長!! 金崎令馬である!!」

「「「……」」」

「……アッ……ハイ、皆さんはじめましてぇ」

 

 勢いで自己紹介を行った社長は私たちの反応を見たとたんに一気に弱腰になってしまった。

 こほん、と咳ばらいをした彼は、自らの襟を正しながら向かい合う。

 

「今日はよく集まってくれた。君たちの勇気ある決断、誠に感謝する」

 

 先ほどのテンションとは打って変わって彼は真摯な様子で私たちに頭を下げた。

 

「既に聞いていると思うが、今日は君たちに我々が開発した新型スーツの装着テストを行ってもらいたいと思う」

「危険はないんですよね?」

「勿論だ。こちらで計算とテストを重ね安全基準を満たしたことを確認している。それに装着テストといっても新型スーツと君たちの生体情報を元にした疑似装着テストのようなものだ」

「疑似装着?」

「これから君たちが纏うのはホログラムで作成された偽物ということだ」

 

 ホログラムとかさらっと出たけど、すごい技術を使っているんだなぁ。

 世界的企業だから技術力とかも得体が知れない部分がある。

 すると、社長は手元で何かを操作するとホワイトボードに何かが投影されるように絵が浮き上がる。

 そこには赤、黄、青の三つのスーツが並んでいた。

 

「これが“J計画”により開発した新型スーツ。その名もジャスティススーツ」

 

 名前はどうかと思うけど、見た目はなんというか……目立つ。

 肩とか腕とかに鎧のようなものは纏っているけど、全身はほとんどぴっちりタイツみたいだし、これを着るのはちょっと抵抗がありそう。

 

「質問いいですか?」

「む、日向君。……どうして君はハンバーガーを持っている?」

「黒騎士は、社長さんの企業の戦士ではないんですか?」

「えぇ、スルー……?」

 

 素知らぬ顔で質問をする日向さんにちょっと引いた様子の社長。

 でもその質問の答えは気になる。

 

「こほん、その質問が来るのは予想できていた。答えは半分イエス、半分ノーといったところか」

「……どういうことですか?」

 

 元から黒騎士のスーツがこの会社から盗まれたもの、だという話は知っていた。

 大々的に報じられたし、間もなくその訴えが取り消されたことも有名だった。

 でも……もしかするとその黒騎士は秘密裏で怪人を倒している企業の戦士なのではないかと私も思っていた。

 しかし社長の答えは予想とは違っていた。

 

「正体は我々にも分からん」

「分からない、ですか……」

「だが断片的な情報はある。本来は極秘のものではあるが、君たちにはその一部の情報を教えよう」

 

 ホワイトボードに映し出された映像が動画へと切り替わる。

 それは、黒騎士がこれまでの戦い。

 公開されているものから、私達の知らない裏の世界で繰り広げられたそれら。

 

「こんなに……」

「なんで、騒ぎになってないの……?」

「多くの怪人は表で暴れることを許されずに黒騎士に葬り続けられている。中には能力すらも出せずに始末された怪人もいるだろうが……その個体すらもこの地球の戦力では到底太刀打ちできない強さを持っている」

 

 表に出ているのはほんの一部だったっていうの?

 それも、たった一人で……。

 

「そして、ここで重要なのは黒騎士の装着者は君たちと同じ学生。それも男だということだ」

「が、学生って……」

「私たちと変わらないのに、今まで怪人を倒しまわっていたってこと……」

「その通り。学校には通っているだろうが、いったいどういうわけか特定はできていない。私の科学力をこうまで欺き続けるとなると、なにか別の力が干渉しているようにしか思えないが……いや、話を戻そう」

 

 独り言を呟いた社長は投影された黒騎士を指さす。

 

「黒騎士は誰にも縛り付けることはできん。それほどまでに彼の力は強力且つ、力だけではない思考・判断力も持ち合わせている」

「……それだったら黒騎士がいれば私たちの力は必要ないのでは?」

「確かにその通りだ。彼がいれば君たちを集める必要はないのかもしれん。それほどまでに彼は強すぎる」

 

 ……断言、しちゃうんだ。

 ここは普通、否定する場面だと思うのだけど。

 

「だが彼以外にも戦える者が必要なのだ」

「戦える、者」

「いくら強くとも彼は一人しかいない。もし怪人が二体同時で出現するようになれば彼の力だけでは足りない。そのために君たちを見つけ出したのだ」

 

 確かに、その通りだ。

 もし怪人が二体現れたら黒騎士だってどうしようもない。

 仮に二体倒せたとしても必ず被害が出てしまう。

 

「私たちに黒騎士を捕まえろって感じだと思った……」

「不可能だ」

 

 断言する社長に私達も驚く。

 新型スーツというなら黒騎士の着ているスーツを性能で上回っているんじゃ……?

 

「性能的だけ見れば君たちのスーツの方が性能は上だろう。だが、黒騎士……プロトゼロの装着者に限っては違う。彼がプロトゼロを着用したその時からプロトゼロはプロトゼロではなくなったのだ」

「新型スーツでも、黒騎士には勝てないと?」

「スーツだけで見ればな。だが装着者たる君たちに限っては異なる。スーツの性能を引き出すのは君たちだ」

 

 いよいよ黒騎士って人のことが分からなくなってきた。

 本当に何者なんだろう。

 学生ってらしいけど、日常と怪人との戦いを両立させているのは普通にすごいと思う。

 ……いや、私達もそれをしなくちゃいけないんだろうけど。

 

「……。一部の者たちは捕獲する作戦を考えてはいるだろうが断言しよう」

 

 静かになった私たちに社長が口を開く。

 

「彼は善良な存在だ。これまで彼の戦う姿を見てきた私がこういうんだから間違いはない」

 

 脳裏に私を助けてくれた時の黒騎士の姿がよぎる。

 得体が知れなくて、ものすごく冷たくて……それでも安心感を抱かせる彼の姿は世間一般で言われているような危険人物とは思えなかった。

 だから、私も社長の言葉を否定はしない。

 

「……。さて、話が長くなってしまったな。早速、試着テストに移るとしよう。ラボに移動するぞ」

 

 社長の指示に従い私達は今いる部屋からラボと呼ばれる研究室へと移動する。

 その際に簡単な説明があったわけだけど、私達は渡された変身する道具を指示通りに起動してみればいいらしい。

 渡されたそれは一見して時計に似た造りをしていて、傍目ではそれが俗にいう変身アイテムには見えない。

 

「これで、スーツが着れるの?」

「玩具みたいだなぁ」

「もうこの時点で普通の科学力超えてる気がするのは気のせいかな?」

 

 三者三様の反応を示しながら、そのまま一際広い空間へと三人で移動する。

 周りにはたくさんの技術者さんらしき人達と、彼らを指揮する社長の姿が見える。

 

「……全員、ジャスティスチェンジャーを装着したようだな。とりあえずはこちらの合図で横のボタンを三度押して、変身してもらうことになるわけだが……できるだけパニックにならないようにな」

「えーっと、分かりました」

「なんとかやってみます」

「ちょっとわくわくする」

 

 怖い、とは思うけれどその分少しばかり期待している自分がいる。

 あの黒騎士と同じような姿になれるだとか、純粋な好奇心とかで……。

 

「では、はじめてみてくれ」

 

 タブレット型の端末を手にした社長の合図で私たちは腕輪———チェンジャーの側面のボタンを三度指で押し込む。

 瞬間、私……いや、私達三人の顔の前に半透明なホログラムで構成された文字列が浮かび上がる。

 

Authorization code “J”

Arasaka Akane

Amatuka Kirara

Hinata Aoi

Awaken system of Alpha.

 

 え、えーと、かろうじて分かるけどこれって認証しているのかな!?

 なんか私たちの名前が浮かび上がったように見えたけど……って、足からなにかが覆ってきてる!?

 

「って、わわっ!?」

「心配するな! それはホログラム! 実体はない!!」

 

 実体はないっていうけど、思いっきり足から何かが覆うような感覚があるのですが!?

 

「所長!! スーツが疑似シークエンスを弾き返し、彼女たちに直接スーツを展開させています!」

「なんだと!! 今すぐ止めるんだ!!」

「こちらからのアクセスを拒否しています! ッ、そんな、こんなこと今までなかったのに……!!」

「強制装着……!? まさかこのコアもプロトゼロと同じく適合者を……」

 

Loading(ローディング)! N!(ナ!) N!(ナ!) N!(ナ!) Now(ナウ) Loading(ローディング!!)!! → Loading(ローディング)! N!(ナ!) N!(ナ!) N!(ナ!) Now(ナウ) Loading(ローディング!!)!!  →』

 

 騒々しくなる室内。

 それに構わず、どこからともなくリズミカルな音声が鳴り響き、私の足から腰、そして胴体から頭までをスーツが覆っていく。

 

——恐るべき素質は備えているが、随分と鈍臭い小娘だな。

——だが、幾星霜を経て巡り合った適合者

——よろしくたのむぞ

 

Flame Red(フレームレッド!)! Acceleration(アクセラレーション!!!)!!!』

 

 音に紛れて誰かの声が聞こえたその後に、私達の身体を覆っていたなにかが光と共に消失し———その姿を完全なものにさせた。

 

CHANGE(チェンジ) → UP RIGING(アップライジング!!)!! SYSTEM(システム) OF(オブ) JUSTICE(ジャスティス) CRUSADE(クルセイドォ)……!!』

 

 自身の手を見れば赤いスーツに覆われていて、身体には今まで感じたことのない力が溢れていた。

 隣を見ればきららは黄色、日向さんが青い姿の戦士へと変わっていて、二人も私と同じように困惑した表情を浮かべていた。

 

「これが、私の……人を助けるための、力」

 

 この時私は黒騎士……ううん、黒騎士くんと同じ舞台に上がったことを理解した。

 怪人の脅威に立ち向かう存在。

 そんな荒唐無稽な状況に置かれた私は、自分でも驚くくらいに冷静だった。




文字が現れる特殊タグのやばさよ……(白目)

ジャスティスクルセイダーのはじまりのお話でした。
あと少しで怪人との戦いにジャスティスクルセイダーが参戦することになりそうですね。

※※※

本編『追加戦士になりたくない黒騎士くん』の方でも最新話の方、更新いたしました。

閑話『配信後(掲示板回)』

掲示板回+ジェム君たちの地球生活についてのお話となります。
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