『ヒッ! ……マシュ・キリエライトこんな時間に何をしてるのですか』
「あ、所長。はい、少し小腹が空いてしまい食堂の方に夜食を頂こうと思いまして」
『そ、そう。あ、あまり夜更かしをしない様にね、あなたは大切なマスター候補その首席なのだから』
「は、はい。ご忠告ありがとうございます。所長はこの様なお時間に何かあったのですか?」
オルガマリー所長は、とても怯えた様な様子を必死に隠そうとしているのか気丈に振舞おうとしています。しかし全く隠せていないのか怯えているのが丸わかりでそんな様子が少しおかしく思いました。
『べ、別になんでもいいでしょう。ここは私のカルデア、その所長が夜な夜な出歩いていようと、か、勝手でしょう』
「それは、そうでした。でもそんなに怯えないでください。私が所長に思う所はありません」
『え、ええ。怯えてなんていないわ。これは寒くて震えてるだけよ』
「そうですか。でしたら冷えた身体を温めるためにもご一緒に食堂に向かいませんか? ホットミルク等飲めば温まると思います」
私の提案にオルガマリー所長も断る訳にはいかないとでも思ったのか、承諾しました。深夜のカルデアを歩き食堂へと向かう私とオルガマリー所長。距離は離れていて私が先導するように歩いていて、今の距離が所長との心の距離のようにも感じました。
「ホットミルクでよかったでしょうか」
『ええ、いいわ』
いくらか落ち着いたのかオルガマリー所長は椅子に腰をかけると静かにホットミルクが出来るのを待っていました。
ホットミルクができ上がり、二人で対面する様に飲み私は夜食にクッキーを持ち出し食べているとオルガマリー所長は遠慮がちに声をかけてきました。
『あなたは、恨んでいないの?』
はて? 所長を恨む理由は無いし、今の生活に不満を覚えたことは無い。寿命もシールダーさんのおかげでそれなりに伸びている。ある程度の自由を与えられて、何かを強制されたことも無い。どこに恨む理由があるのだろうか。
「何故ですか? 私は所長に何かされた訳ではありません。恨む理由がないのです」
『でも、あなたには人としての心がある。デザイナーベビーはただ目的のためだけに造られた存在。私達はあなたをただの実験体として扱ったわ。恨まれてないわけない』
「所長はお優しいんですね。確かに外から見たらそう見えるのかも知れません。でも、私は私の中にいる英霊と出会えた事に感謝すらしています。本来私の稼働時間は20年行くか行かないか。それを大幅に伸ばし人として限りなく近く生きることが出来るようになりました。これを感謝せずにどうするのでしょう」
『……そう。恨んでいないのね』
どこか肩の荷が降りたのか安堵する所長。余程張り詰めていたのかその、雰囲気が少し和らいだ気がしました。
『……私はね、アニムスフィア家の当主として、お父様の娘としてお父様から引き継いだこのカルデアを守っていかないといけないの。例えお父様から期待されていなかったのだとしても……』
『魔術師である以上、まともな愛情は期待してなかった。いいえ、期待しないようにしてたの周りからどう思われていたとしても』
『だって、周りはみんなキリシュタリアをお父様の後継者として扱った。お父様も私にはたいして構ってはくれなかった』
『あなたの事も、お父様からここを引き継いだ時に初めて知ったわ。だから怖かった。あなたは色々な人に愛されていて、私には……。……変なことを言ったわね。忘れてちょうだい』
そう、言い残すとオルガマリー所長は食堂からでていってしまいました。所長は、とても魔術師に向いていないような方でした。父親からの愛を求めて、周りからの評価が欲しくて、とてもとても強い人でした。