JTF・黄緑色の兵士たち   作:北極鳥ユキ

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 暴徒 
 社会の混乱や秩序の崩壊に乗じて様々な犯罪を起こした集団のこと。元は善良な市民である事が多く、危険度は高くないが、銃器で武装しておりJTFに恨みを持つ者も多くいることから侮ってはいけない。


第一話 穏やかな日は遠く

―― 201X/12/XX :a.m.09.50――

―― ニューヨーク州[隔離地域マンハッタン]ペンシルベニア・プラザの近く ――

 

 道路に銃声が鳴り響く。

 一か所からではない。東の方からも西の方からも、はたまた北や南からも。銃撃戦を奏でる銃の種類は多種多様。まるでニューヨークの多様性を表しているようだ。猟銃、拳銃、短機関銃にAK、M4、はたまたどこから拾ってきたのだろうか軽機関銃の音も響く。

 

 そして悲鳴と怒号の入り混じった声が響き、それを銃声がかき消す。街に響く音はもうずっとその繰り返し。

 もしもウォーキング・デッドの主人公みたいに意識不明になっていて、今日目覚めた人がいるならばきっと驚くだろうが既にこの音が、これがニューヨークの日常と化しつつあったのだ。

 

 略奪、殺人、強盗、強姦、放火、etc……。ありとあらゆる犯罪がこの街を埋め尽くす。

 

 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

 

 市民たちは知ってしまったのだ。

 助けなど来ないことを。

 

 犯罪者たちは知ってしまったのだ。

 裁く者が居なくなったことを。

 

 やがて市民は暴徒となった。誰が彼ら彼女らを犯罪者にしたのだろうか?

 それはきっと僕たちだ。

 彼らは犯罪者に襲われようと僕たちが助けないことを、飢えていようとも僕たちが食糧を恵まないことを、僕たちが制服と名前だけの案山子に過ぎないことを、知ってしまった。

 

 そして僕も知っている。

 目の前で仲間のルーカスを殺そうとバットを振り上げている暴徒は、きっと、善良な市民だったことを。きっと、去年の感謝祭では家族と一緒に七面鳥を焼いて食べていただろう。きっと、クリスマスには妻や子にプレゼントを買っていたのだろう。きっと、家族はもういないのだろう。

 

 目の前の彼ら、憎しみと悲しみが詰まった空虚な瞳をする人々も、その他大勢の市民と同じように知っていた。たとえ僕らを殺そうと自らに救いなんて訪れないことを。そして、それでもどこかに怒りをぶつけないと収まらないことも。

 

 皆知ってしまったんだ。

 

「お前らが、お前らのせいで! 妻は死にたくなんてなかったんだ! 子供はまだ五つだったんだ! お前らが無能なせいで死んだんだ!」

 

「クソったれの税金泥棒どもめ!」

 

「何がJTFだ!」

 

 バットを持つ暴徒と二人のJTF隊員を囲む四人の暴徒はそれぞれ思い思いの罵声を浴びせる。

 ルーカスは今にも殺されようとしているにもかかわらず、目を閉じてまるで暴徒の怒りを一身に受けるように微動だにしない。手足を縛られながらも必死にもがく僕とは大違いだ。

 

「頼む、やめてくれ! こんなことしたって」

 

 ルーカスに振り下ろされそうになるバットを見て僕は必死に叫んだが、直ぐにガコン、と金属バットと頭蓋骨が勢いよく当たって音を立てる。

 

「死ねっ、死ねっ、死ねぇ!」

 

 暴徒は絶叫にも似た叫び声を上げながら力の抜けたルーカスの頭に金属バットを叩き付ける。

 

 ガコン、ガコン、ガコン、ガン、ガン、ぐしゃり、ぐしゃり。

 固い物どうしがぶつかり合う音はやがて柔らかい物に当たる音へと進化する。

 

「やめてくれ……もう死んでるんだ……頼むから……」

 

 今にも泣きだしそうな擦れた声で懇願するが、振り下ろすその手が止まることはなく、真っ赤に染まった銀色のバットには大きなへこみができていた。

 

「死ね! し――」

 

 パシュン、と軽快な音が暴徒の頭から響く。

 直後に暴徒の顔から血が飛び散り、その真っ赤な血液が顔の方まで届きそうになった僕は思わず目を閉じた。

 

 それに続くように連続した銃声が鳴り響く。

 無煙火薬の破裂音が一帯に鳴り響きわたり、暴徒の体は引き裂かれる。暴徒も拳銃で抵抗しようとするがロクな遮蔽物の無い路地裏ではただの的に過ぎず、次々と射殺される。

 

 戦場のど真ん中に一人取り残された僕は、目を閉じたまま、流れ弾が当たらないように体を地面へと擦りつけることしかできない。

 しばらくすると銃声は鳴りやんだ。

 

「ジョン! ルーカス! 無事か!」

 

 M4カービンを構えたJTF隊員が、捕まっていた僕――ジョンへと駆け寄る。

 

「あ、あぁ、カイル、僕は大丈夫。でも、ルーカスが……」

 

 カイルは僕の手足を拘束していた縄をナイフで切りながら、その頭がもはや形を留めていないルーカスの方を一瞬見て、すぐに目を逸らした。

 

「なんてことだ。あぁ神よ……」

 

 顔を伏せたまま、彼は悲痛な声をボソりともらす。

 

「大丈夫?」

 

 顔を上げると、G36小銃で武装した女性が僕たち二人――とルーカス――の方へと近寄ってきていた。

 

「仲間が一人やられた。無事とは言えないが、もう一人は助かった。アンタのおかげだよ、ありがとう」

 

「……」

 

 僕は女性をじっと眺めた。年齢は僕と同じ20代前半ぐらいか、もしかしたら、もっと若いかもしれない。服装はジーンズに茶色の防寒ジャケットというラフな物で、とてもJTF隊員には見えない。どこかの自警団員だろうか?

 

「どうしたの?」

 

 女性が尋ねた。

 

「あっ、いや、あなたがJTFの隊員には見えなかったから」

 

 それを聞くと女性はカイルの方を見た。

 

「あぁ、その、コイツは新人だからな、知らないことが多いんだ」

 

 それを聞くと女性は座り込む僕の目線を合わせるために膝をついてから口を開く。

 

「私は……ディビジョンのエージェント。あなたたちを助けに来たの」

 

 そう語る女性の右手にはオレンジ色に輝く時計のような物が身に付けられていた。

 

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