JTF・黄緑色の兵士たち   作:北極鳥ユキ

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 クリーナーズ
 ニューヨークの消防士や清掃作業員などによって構成された集団。ウイルスに感染した(と決めつけた)人間を手製の火炎放射器で焼き尽くす。その脅威は日に日に増しており、マンハッタンに火炎弾製造所が設立されて以降はその勢力が拡大しているため、JTFが最も警戒している組織である。


第四話 雪と炎

―― 201X/12/XX :a.m.10.48――

―― ペンシルベニア・プラザ近くの路地裏 ――

 

 吹雪によって白く染まり、まるでモノクロだった視界の中に、ぼうっと炎が現れた。

 車道の端から端まで、ドラゴンの口から吐き出されるような炎は、大地を這うように広がっていく。枯れるような悲鳴が響き、焦げた嫌な臭いが鼻をさす。奴らは生きたまま人を焼いている。

 

「クソッ、クリーナーズだ」

 

 カイルは冷静にM4カービンを構えた。彼に続いて三人も武器を構える。

 

 ”クリーナーズ”……火炎放射器で見境なく市民を焼き殺す狂った集団だ。当然、敵対関係にあり、もう何人も隊員が焼き殺されている。

 よりにもよって、最悪なタイミングで吹雪が収まりつつあった。真っ白なカーテンがめくられた裏には自分たちを焼き殺そうとする狂った集団が居ると言うのに。

 

 カイルは路地に身を隠しながら様子を伺う。視界の先ではクリーナーズの集団が見えた。

 オレンジ色の蛍光ベストを付けた黒い防護着を身にまとい、顔は全体が不気味なガスマスクに覆われている。まるでチープなホラー映画の殺人鬼のような姿。クリーナーズと遭遇したのはこれで三度目だが、火炎放射器以上にあの見た目が恐ろしい。

 

 微かに見える蛍光ベストの光から、奴らは5人で道の真ん中を闊歩しているようだ。このまま進んで来るのであれば戦闘は避けられない。

 

「下がりますか?」

 

 警戒した面持ちでショットガンを構える伍長が訪ねる。

 

「道を戻っても暴徒がいるだけだ……今は進むしか……」

 

 ここからあと少し行けば作戦基地がおかれているニューヨーク中央郵便局に着く。お世辞にも設備が整っているとは言えないが、それでも外にいるよりはずっと安全な場所だ。

 風がやみ始める。吹雪が収まるまではそう時間がない。

 

「……いくぞ。あのトレーラーを遮蔽にするんだ」

 

 雪のカーテンは緩やかに開いていって、道に放置された車たちを露わにしていた。カイルが指をさしているのはここから一番近い場所にある大型のトレーラー。横転している荷台は身を隠すには十分な大きさがある。

 

 僕たちはカイルの指示に頷くと、一斉に動き出す。まずはショットガンを持つアラン伍長が飛び出した。彼はクリーナーズの方には見向きもせずに、トレーラーの陰に滑り込んだ。その姿は雪の中で辛うじて見えたが、その腕が創り出すハンドサインまでは分からない。ただ、少なくとも来るなと言っているわけではなさそうだった。

 

「次は俺たちだ」

 

 カイルが語り掛ける。彼は僕の肩をしっかりを担ぎなおした。足がこんな状態なせいで、僕たち二人は伍長のように素早く動くことはできない。伍長と巡査、二人の援護が受けられるといえど、見つかればただでは済まされない。

 僕の顔が曇っていることに気が付いたのか、壁に背をつけて拳銃を構えているサイモン巡査は、

 

「神のご加護を」

 

 と勇気づけてくれた。

 

 そして僕たちは動き出す。肩を担がれている僕は脚を引きずりながら、奴らにバレませんようにと祈ることしかできなかった。

 一歩、一歩とトレーラーに近づく。伍長は手を動かして、早くこっちにと言っている。焦りで心臓がどくどく動く。そう遠くないあの雪の向こうにはイカれた連中がたむろしている。

 

「JTFだ!」

 

 そして、叫び声が路地に響いた。

 

「くそっ! 接敵(コンタクト)!」

 

 クリーナーズの声が響いた瞬間――真っ先に、伍長がトレーラーから体を出して、引き金を引いた。ドン、と12ゲージ弾の重い音がして、彼の銃口が輝き口火を切る。

 

「走れ!」

 

 カイルが叫んで、僕は痛む脚のことを忘れるように走った。

 ヒュン、ヒュン、ヒュン、とこちらに銃弾が飛んでくる。パチン、と足元に弾が当たる音がして、思わず足を止めてしまったがカイルが肩を引っ張った。

 

「足を止めるな!」

 

 僕は引っ張られるままに、トレーラーを目指した。走りながら、握りしめた拳銃をクリーナーズの方に向かってがむしゃらに撃つ。片手で撃つ訓練はしたことが無かったので、反動が来るたびにひどく腕が痛んだが、そんなことを気にしている余裕はなかった。

 

「こっちです! 早く!」

 

 伍長の声が間近で聞こえる。僕たちは命からがらトレーラーの陰に滑り込んだ。

 カイルは伍長と入れ替わるように遮蔽から体を出して、M4カービンを構える。タン、タン、と一発ずつ引き金を引いた。

 

「伍長、応援を呼ぶんだ」

 

「了解……こちらスパローⅡ! ペンシルベニア・プラザ通りでクリーナーズの攻撃を受けている! 本部!」

 

 トレーラーの陰では伍長が叫ぶ。その無線に返答はなかった。

 

「だめです、通じません!」

 

「あぁクソ! 奴らこっちに来るぞ!」

 

 カイルが身を隠すと、次の瞬間にはボォゥと、不気味な音がして真っ赤な炎が横を通り過ぎて行った。

 

「ダメだ、体を出せない……巡査! 巡査! 援護してくれ!」

 

 カイルは炎をよけながら、腕だけを出してM4を撃ちまくる。

 

「ジョン、俺は反対側から回り込む。お前は准尉の援護をするんだ。いいな?」

 

 戦況は目まぐるしく移り変わる。僕は伍長に対してこくりこくりを必死に頷いて見せる。もうすぐ、あの角からクリーナーズが僕らを焼きに来る。

 伍長は身をかがめながら、トレーラーの反対側に走り出した。彼の背中を見送ってカイルを援護しようと銃を構えなおした瞬間――ボォゥ。

 

「うぁあああああ! ああァ!」

 

 叫び声が聞こえた。振り返ると、伍長がいたはずの場所が真っ赤に燃えている。体中に火が纏わりついた伍長がもがくように飛び出してきた。

 声をからすような叫び声。彼はぐるぐる回って転げると、火を消そうと地面にのたうち回るが、ボォゥとトレーラーの角からは無慈悲な炎が迫ってきて全身が包まれていった。

 

「ひっ……」

 

 伍長が焼けた。目の前で焼けた。拳銃をかまえる。

 ざっ、ざっ、ざっ、銃声を縫うように重い足音がした。

 トレーラーの角からは、ずっしりとした大柄の男が現れた。オレンジ色の蛍光ベストに黒い防護着。そして、ガスマスク。体を半分出したそのクリーナーズは先端の炎が小さく燃えている火炎放射器を構えながら、ゆっくりとこちらに向かってきた。

 

「JTF」

 

 確かにそう聞き取った。ガスマスク越しで、人の声とは思えない不気味な声を。

 

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