―― 201X/12/XX :a.m.11.00――
―― ペンシルベニア・プラザ前 ――
「カイル准尉。見かけないけど、警察官の彼も戦死したの?」
エージェントの一言で俺は路地に向かって飛び出していた。
そこにいたのは、うつ伏せになって雪が積もる道に頭を突っ込んでいるサイモン。
辺りには拳銃弾の薬莢が散らばっている。彼もクリーナーズと戦っていたのだ。目の前に迫った死と敵に頭がいっぱいで、彼のことまで気が回らなかった。
もし援護できていれば、もし連携できていれば……。
二人助けるために、三人失った。クリーナーズよりも、自分の未熟さが憎かった。
「こんなはずじゃ……。俺は……クソっ」
俺はサイモンの遺体を引きずってトレーラーまで移動させた。
「残念ね。遺体はどうするの」
「ルーカスと同じだ。今はこのままにしておく。……もちろん、後で回収しに来る」
いつになるかは分からない。付け足すべき一言はぐっと飲み込んだ。墓場はどこもいっぱいいっぱいだ。コンクリートを掘って埋めるわけにもいかない。
近くの建築現場からブルーシートをとってきて、二人の上にかけてやった。
「……作戦本部に行く。エージェント、護衛を頼めるか」
「もちろん。私も本部に行くところだったし」
足を負傷したジョンに肩を貸して立ち上がらせると、エージェントの援護を受けながら作戦本部に向かった。
―― 201X/12/XX :a.m.11.10――
―― ニューヨーク中央郵便局 ――
JTF作戦本部が置かれている中央郵便局。その正門前はJTFの検問所によって封鎖されていた。検問所はパイプで仮組されていて、まるで野外音楽フェスのステージにも見える。二つの塔に囲挟まれたゲートには兵士が四人立っていた。
「スパローⅡだ! お前は軍医を呼べ! 准尉!」
「カイル准尉! ジョン、よく生きて帰って……。とにかく、中に」
検問所で銃を構えていた警備兵に大声で告げるのはクラ軍曹。この検問所の守護神だ。彼に向かって大きく手を振ると、彼は走って近づいてきた。
作戦本部のホールでは、ベニテス隊長が俺たちを出迎えた。
ロイ・ベニテス隊長。彼はこの地域におけるJTFの指揮官だ。
俺とジョンを見た彼の瞳、眼鏡越しであってもそれが安堵に満ち溢れたものであることがよく分かった。
「救出後に定期連絡が来ないから全滅したかと思ったぞ。白髪が増えたらどうするんだ。このままじゃ定年前に爺さんになっちまう」
隊長は911の時に活躍した大ベテラン。定年目前だというのに、このパンデミックに巻き込まれていた彼の運の無さには敬服してしまう。
その瞳に宿る光や、指揮の腕前は現役時代から何ら錆びていないが、その髪は初めて会った時に比べてずっと真っ白だった。
「申し訳ありません隊長……。俺が不甲斐ないばかりに」
「いい。よく帰ったな」
「初めまして、ベニテス隊長。私はディビジョンの……」
「准尉、ジョンを医務室まで運びます」
エージェントの声は軍医にかき消された。
俺は軍医と二人でジョンを担ぎ、病棟の方に運んだ。作戦本部の奥には仮設の病棟が置かれていた。病棟といってもベッドが数台ある程度で、医療バッグ以外に設備はない。医師も軍医が一人いるばかりだった。
何故かといえば、高度な医療機器やJTF及びCERAの医師団は隣にあるマディソン・スクウェアガーデンにある野戦病院に集められているから。そちらは民間人の感染者を多く受け入れているので、医療関係者はつきっきりになっているのだ。
辺りは静まり返っていて、ジョン以外に患者はいない。ドルインフルの感染者は本部に入れないことに加えて、戦闘での重症者、その多くがここまでたどり着けないためだ。
軍医に足を見てもらった結果といえば軽い捻挫で、数日もすれば治るそうだ。二度も殺されかけて、銃弾の雨をくぐったのに無傷。まったくおめでたい奴だ。
体が上手く動かないなんて訴えていたが、それもただ栄養不足らしい。
俺はジョンに
オレンジ色の光る腕時計。それがエージェントのシンボル。
何という事だろう。ホールに戻った俺は、思わず目を擦ってしまった。その腕時計を身に着けているディビジョンエージェントが増えているのだ。
なんと、四人も!
「カイル、紹介しよう。合流したエージェントたちだ」
俺に気が付いたベニテス隊長がうやうやしく、エージェントたちの前まで案内した。
「ヴァンガード、ホーネット、ラプター、ドミノ」
武装した男たちが右から順に呼ばれていく。本名ではなくコードネームかコールサインのようだ。流石にエージェントというだけはある。
「そして、彼女は知っているな。カロンだ」
最後にあの女性エージェントが呼ばれる。そういえばしばらく一緒に戦ってきたが、ずっと「エージェント」としか呼んでいなかったので、名前(と言っても仮称だけど)は知らなかった。
「合衆国陸軍、カイル・バーンズ准尉です」
エージェントたちの階級は知らないが、一応礼儀ということでぴしっと敬礼しておいた。
「ご苦労、准尉。状況は聞いている」
そう口を開いたのはヴァンガード。
エージェントたちの中でも、ヴァンガードという男は特に頭一つ抜けて只者ではないことがすぐに分かった。彼は短髪にひげを生やした中年ぐらいの男で、元軍人なのだろうか、装備や銃の持ち方など端々から戦闘慣れしていることを伺わせた。
「俺たちはこれから、各地に取り残されている市民の救出に向かう。一緒に来てくれ。このあたりの事情に詳しい奴が必要だ」
俺はぐっと拳を握った。ディビジョンエージェント。彼らの力があれば、この街はきっと良い方向に向かうはずだ。
光が見えた気がした。この薄暗い闇の中で、ようやく、一筋の光が。
「もちろんです。お供します、エージェント」