この話はフィクションです。
終わりの始まり
「何故だ!!私は貴方に誓った筈だ!!
貴方は私を認めてくれた筈だ!!
だからこそ私はこの剣を捧げた!!」
私の叫びが玉座の間に響き渡る。
拘束された両腕は魔法によって封じられ、
腰の剣を抜くことが出来ない。
目前にいる今まで15年の人生を全て捧げた
姫は黙って俯いているだけ。
髪に隠れてその表情は見えない。
数人の部下に床に身体を押し付けられる。
それでも顔を上げ、叫び続ける。
「初めから裏切る算段だったのか!!?
使い捨ての手駒だと貴方は言うのか!!?
貴方の『信頼』の言葉は嘘だったのか!!?
ふざけるな!!私は必死に剣を捧げた!!
貴方の敵を幾度斬ったか、最早覚えていない!!
貴方の為にどれだけこの手を汚したか!!
貴方の為にどれだけこの剣を血で濡らしたか!!
貴方は……いや、貴様は…………ッ!!!」
喉が裂けようと、血反吐を吐こうと、
ただ『何故』と『憤怒』を叫び続ける。
無限に怒りが沸き上がる。
全身から魔力を放ち、
身体を押さえつけていた兵たちを吹き飛ばす。
同時に左手を床につき、
右手で剣を抜き放って魔力を込め、
黒い雷を纏わせた剣を大きく右に引き絞る。
「ァァァァアァァア!!!」
半狂乱となって剣を怒りのままに振り抜く
───その瞬間だった。
「そこまでだ」
黒雷とは対称的な純白の光が黒雷を遮った。
黒と白が弾け、光はすぐに晴れる。
斬り潰そうとした姫の真横に、
純白の鎧を纏った女騎士が立っていた。
「ッッ……フィーネェェェ!!
お前も……お前も俺を裏切るのか!!!」
怒りのままに言い放ち、剣先を向ける。
フィーネ・ヒルド。
同じく姫に人生を捧げた幼馴染み。
本当は分かっている。敵だ。
だが僅かな望みをかけて、俺は問うた。
「えぇ、そうです。
それにしても……よく耐えるものです。
そろそろ毒が回る頃だと思いますが」
「な───う、ぐ」
俺を嘲笑うように彼女は断言する。
………そして、毒と、そう言った。
身体から力が抜ける。
意識に靄がかかり、その場に膝をつく。
「自覚したら効いてきましたか?」
フィーネが言う。
だが、即座に俺は自分の足に剣を突き立てる。
黒雷で更に痛みは増すが、
良い目覚ましにはなる。
「「!?」」
「舐める、な………!!」
血が噴き出す。
意識は少しだが戻った。
剣を引き抜いて血を払い、立ち上がると
フィーネが剣を振って姫の前に立ち塞がる。
「驚きました、まさかまだ立ち上がるとは」
「!!」
無事な右足で真っ直ぐに跳躍、
両手で剣を振り上げながら魔力を解放し
再び黒雷を纏わせる。
対するフィーネも剣に光を纏わせた。
「砕け散れ!!!」
「────!」
最大火力まで引き上げた剣を振り下ろす。
同時に白騎士も光の剣でそれを相殺。
雷と光は消え去り、
剣と剣の鍔迫り合いになる。
だが。
「姫、今です」
「な───ッ!?」
「…………セト」
名を呼ばれ、
背後に回り込まれていたことに気付く。
当然、一国の姫に騎士を打ち倒すような力はない。
だが彼女は魔法について学んでいる。
ここで鍔迫り合いをやめれば
フィーネに斬られることは分かっている。
背後へ向き直ることは出来ない。
後ろ蹴りも踏ん張っているため封じられている。
そして、彼女の小さな手が後頭部に触れた。
「〝現に在りし魂よ 今一時 夢に沈み給え〟」
昏睡魔法の詠唱───!
まともに喰らえば抵抗を無視して発動し
2~3日は目覚めなくなる魔法。
密着していないと発動しないが、この状態では……
紫の魔法陣の光が周囲を照らす。
そして、意識と力を魔法に刈り取られる。
剣を落とし、身体から力が抜けて
バランスを崩してふらつき、横に倒れる。
「く…………こん、な…………
……許さ、んぞ………必ず……かなら、ず……!」
肺から絞り出す。
それは呪詛。それは憤怒。
今の自分が持つ感情を吐き出す。
そして、意識が完全に消失する。
これが────5年前の話だ。
「…………しかし、お前みてぇな
グズを買うような奴はいるのかねぇ?
まぁいい、こちとら仕事だしな……
売れなくとも最期まで面倒みてやるよ」
「───────はッ」
乾いた笑いを漏らす。
笑ったのは何年振りだろうか。
いや、声を出したのも、前は何時だったろうか。
そして、ガラガラと音を立てて
牢を乗せた台車は進んでいく。
──────そして、眼を開ける。
拡声器の魔具を持った男が待ち詫びたように言う。
「それでは皆様お待ちかね!!
5年前の国の2人の騎士のその片割れ、
姫に反逆し国を揺るがした黒の騎士!!
その汚名を─────セト・モルドレッド!!
我等が姫様と白騎士様は彼を死刑にせず、
なんと奴隷へとその階級を落としました……
そして今!!
何も飲まず、何も食わず、彼は生き延びた!!
そして奴隷として売られることになります!
こんな騎士を買うような物好きはいるのか!!
もしも買ったら殺されるかもなァ!!」
歓声、罵倒、怒号。
様々な声が飛んでくる。
俺はゆっくりと顔を上げた。
そこは眩しいステージの上。
俺を入れた牢が台車から降ろされる。
「額は最低額の銅貨1枚からです!!
──────オークション、開始ィ!!!」
俺は、奴隷になっていた。