奴隷騎士は再び魔剣を握る   作:青い灰

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お姫様は機嫌が良い

 

 

 

「それで、新しい主の命は?

 俺を騎士と呼ぶのなら使命が必要だ」

 

「堅苦しいのね、騎士らしいけど」

 

 

自己紹介を終え、

俺はルシアと名乗った少女に聞く。

彼女はフードを眼が隠れるほど目深に被り、

ちゃんと前を向いているのか分からない。

 

 

「使命は……そうね、私も守って。

 騎士なら簡単なことよね?」

 

「承知した。我が名に誓って」

 

「ふふ、ありがと。

 それじゃあ少し寄ってくれないかしら?

 認識阻害の魔法の心得はあるわ」

 

 

言われた通り、彼女に寄る。

彼女は人差し指を俺の顔に向けて眼を閉じ

詠唱を始めた。

………しかし、認識阻害の魔法などあったのか。

5年のうちに魔法も進んだらしい。

 

 

「〝知らず 見えず 解せず

  認識揺らすは我が魔力 

  彼の者の印を現世から絶たん〟」

 

「……………」

 

 

詠唱が不吉なのだが………

それにしても、魅了魔法は中級魔法と呼ばれる

詠唱破棄するのは困難な魔法だ。

それを易々と、触媒も無しに破棄できるような

彼女が詠唱を必要とする魔法か。

認識阻害の魔法は中々に高位の魔法であるらしい。

 

そして白い魔法陣が頭上に広がり、

頭から足へと魔法陣が身体を透過する。

 

 

「よし、上手く行ったわね。

 これで貴方の姿を見た者しか

 素性の認識が出来なくなったわ」

 

「さぞや高位の魔法師なのだろう。

 しかし認識阻害の魔法、か………知らなかったな」

 

「そうでしょうね。

 だってこの魔法、人間には伝わってないもの」

 

 

その言葉に少し驚く。

そして………どこか、納得した自分がいる。

ここまで魔法に長けた種族は

人間でもそういるまい。

そう思うと、合点がいった。

 

 

「…………なるほど、魔族か」

 

「正解よ、魔族は嫌い?」

 

「いや、別に。

 彼らにも彼らなりの考えがあるのだろう」

 

 

東西南北5つの国があるこのレムリア大陸には

幾つもの種族が存在している。

人間、エルフ、ドワーフなど。

古くから存在している種族を『原初種族』と言い、

その1つである『魔族』は神話の時代から

この世界に存在するとされる代表的な原初種族だ。

 

人間は数々の種族と関わりを持っており

文化交流なども行われていたが、

魔族は他種族との関わりを持っていない。

人間も何度か国交を取ろうとしていたが、

冷たくあしらわれるだけだった。

特産物なんかの土産くらいは持たされたようだが。

 

俺の答えに彼女は嬉しそうに笑った。

 

 

「なら良かったわ、

 寝首を掻かれては堪らないもの」

 

「既に誓いは立てた。

 主が誰であろうと、今度は最期まで誓いは守る」

 

「…………………今度は、ね」

 

 

彼女は俺の言葉を復唱し、

その顔を少し俯かせる。

と、思えばバッと顔を上げた。

 

 

「さて、騎士には剣が必要よね。

 流石に宝剣は無いけど、

 武器屋で買えるもので良いかしら?」

 

「無いよりはマシだ。頼めるか?」

 

「えぇ、お金なら沢山あるの。

 聖金貨は流石にカラッポだけどね」

 

 

その言葉はまだ金貨や銀貨はあると言うこと。

俺は皮肉交じりに息を吐いて言う。

 

 

「一体どこのお姫様なんだろうな」

 

「…! ふふっ、お姫様、お姫様ね……

 えぇ、本当に……どこのお姫様なんでしょうね?」

 

 

どうやらそのセリフは好評だったようだ。

彼女は嬉しそうにスキップを始め、

町の方へと進み始める。

そしてこちらを振り向き、言った。

 

 

「行きましょ、セト。

 私の騎士様の剣を買わなきゃね」

 

「─────はいよ、お姫様」

 

 

それは、人生を捧げた彼女と重なって見えた。

そして何処か懐かしい感覚で、

俺は彼女を追って駆け出した。

 

 

 


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