閑話。それと白騎士様のイメージアップ。
時系列はオークション前です。
暗雲の空の下。
戦況は劣勢。
後に最強と謳われる2人の騎士の片割れは単身、
国を背にした大草原で
世界を滅ぼすという665匹目の〝災害〟
古王竜クラウディウスとの死闘に臨んでいた。
俺は雷の魔剣を振るい、竜の首へと突き立てる。
黒い鱗を突き破り、肉を裂きながら
剣は奥深くへと進んでいく。
「〝黒雷・放電〟!!」
叫び、魔力を解放する。
黒い雷が周囲に迸り、突き刺した首を焼き潰す。
それに竜は大きく怯むが………
「■■■■■■!!!!」
「───ぐ、ぎ、がぁ……ッ!!」
瞬きの間、その言葉通り一瞬で
即座に傷口を再生した竜は
俺を剣ごと振り払い、腹に食らいつく。
鋸のような返しのついた牙による鋭い痛み、
更にその痛みに怯んだ俺を
「────あ」
一度牙を引き抜かれる。
返しが肉を抉る。
そして───竜は更に力を込め食いつく。
その形容しがたい、最早声すら出ない激痛。
全身の力が抜ける。
更に竜は己の牙の形状を知っている。
そのギザついた牙で、
獲物の身体を磨り潰すように顎を動かす。
─────死ぬ。
そう、確かな感覚があったその時だった。
凛と高く響く、声が聞こえた。
「セトぉぉぉぉぉぉ!!!!」
光が周囲を白で染め上げる。
そして、一際眩しい極太の閃光が竜を貫いた。
首が落ち、俺は解放され自由落下を開始する。
地面に落ちる寸前、抱き止められる。
視線を動かすとそこにいたのは、
金髪をなびかせる白い鎧を纏う騎士。
その顔は涙でグシャグシャになっている。
白騎士フィーネだ。
彼女は俺を地面に寝かせ、
淡い光を放つ両手を血が流れ出る身体に当てる。
回復魔法だ。
「セト、セト……!
死なないで、お願い………!!」
その必死な形相に俺は腹に力を込めて
激痛を堪えながら声を絞り出す。
痛みはかなりの速度で引いていき、
身体が楽になってくる。
「……馬鹿……遅ぇ、よ………」
「………っ!!
ごめん、ごめん……っ!」
そして、視界の端。
再生を終えた黒竜がその翼爪で
大地を抉りながらこちらへと迫って来る。
俺は動ける程度までは回復し
立ち上がって剣を取る。
「フィーネ、来るぞ!」
「うん!」
その爪を同時に剣で受け止める。
火花が散り俺とフィーネを吹き飛ばすが、
なんとか耐えて着地する。
1人だと押し負けていたが、
やはり2人だと楽でいい。
「フィーネ、涙拭け。
俺はもう大丈夫だ」
「分かった……いえ、分かりました。
ですが、無茶だけはしないでください」
いつもの面倒な敬語モードに入るフィーネ。
2人の時や姫と3人の時は
普通の口調なのだが、公の場や戦場では敬語だ。
堅苦しくて俺はあまり好きではない。
俺は彼女に奴の特性を教える。
普通に闘って倒せるような相手ではない。
相手は世界を滅ぼせる力を持つ〝災害〟。
それも665匹目の大物だ。
「奴の特性は再生能力、ごり押すしかなくてな。
秘策……ってほどでもないが、
倒す手立てがある。時間稼ぎを頼めるか?」
「えぇ、貴方が1人で戦ったのです。
それだけの働きはさせてもらいましょう」
彼女は剣を構える。
その闘気に剣が呼応し、剣が光を纏う。
そして竜へと駆け出していく。
俺は彼女に時間稼ぎを任せた秘策。
黒竜はおそらく一欠片の鱗でも残れば
即座に再生する不死とも思える
再生能力を誇る化物。
ならば、塵1つ残さずに消し飛ばすまで、だ。
俺は剣を胸の前に掲げる。
黒雷が刀身を這い、ビリビリと音を鳴らす。
剣の全ての魔力を解放する。
「魔剣・真名解錠。
我が敵に裁きを。我が敵に死を。
我が信じた者を、仲間を、民を、国を。
我が手に在りし雷の魔剣、
その力を今、我が全てを守るために振るおう」
魔力を流しながら詠唱する。
竜が咆哮し、その口から炎を吐きだす。
炎は大地を抉り喰らいながら
こちらを呑み込もうと迫り来る。
だがその炎を純白の光が遮り、
その白を引くのは宝剣を持つ白い騎士。
竜が魔法を発動する。
その口を中心に巨大な5重の魔法陣が展開。
魔法陣が輝き、100を越える
黒い閃光が放たれる。
「灼け、大地を
断て、天空を
割れ、絶海を
滅せ、我が前に立つ生命を」
白騎士は宝剣の魔力を解放し速度を
最速である音速にまで引き上げ、
追尾する閃光を回避しながら
空へと跳躍する。
そして剣を掲げると純白の光が収束、
全ての黒い閃光を抹消させる。
だが黒竜がその背後へ迫り、
その翼爪を白の鎧へと叩きつける。
抵抗できずに白い騎士は
大地へと叩きつけられ土煙が上がる。
更に黒竜は追撃しようと急降下するが、
土煙を引き裂いて数本の白い閃光が
黒竜の身体を貫いていく。
「我が
黒雷が剣に収束し、帯電。
雷が空へと昇り、空を覆っている暗雲を貫く。
その黒が世界から光を奪っていき、
世界は灰色に染まる。
竜は今更こちらに気付いたのか、
それを止めようとこちらへ
これまでにない凄まじい速度で迫ってくる。
だが、奴は間違えた。
逃走本能に身を任せるべきだった。
剣を大きく振り上げ、左足を後ろへ下げる。
天を突く黒剣はその雷の強さを更に増していく。
「────〝■■■■■■■〟」
魔剣の真名を口に出す。
その瞬間、雷は更に膨れ上がり、
一瞬でその魔剣へと凝縮する。
そして、迫る竜へと魔剣を振り下ろした。
雷が爆発し、大地を削りながら
黒い光柱が空へと昇っていく。
それは竜を容易く呑み込み、
振り下ろしたその一帯を
抉り、削り、呑み込んでいく。
黒い光柱が立ち昇り、雷が迸る眼前。
俺は剣を鞘に納める。
すると背後から突然重みを感じ、
俺はそのまま前に顔から倒れてしまう。
「いってぇ!?」
「やったぁぁぁ!倒した、倒したよ!!
私たち、世界、救ったんだよ!!」
「分かった分かった………お疲れ、フィーネ」
馬乗りになるフィーネを宥めながら、
俺は未だ世界を救った実感の無さに
嘆息するのだった。
晴れ渡った空の下。
玉座の間に、俺たちはいた。
「セト・モルドレッド、フィーネ・ヒルド。
国を代表して姫、ルイス・エルグランドが
あなたたち2人に、王国騎士の称号を与えます。
魔剣と聖剣はお譲りしましょう」
姫の前に膝をつき、
俺とフィーネは魔剣と聖剣をそれぞれ、
そして王国騎士の称号を受け取る。
「あなたたちと今まで生を共にしたことを、
私は誇りに思います。
まだまだ未熟な姫ですが、これからも
騎士として……良き友として、よろしくね」
敬語が取れ、最後の部分を俺たち2人だけに
聞こえるようにニコリと笑って彼女は言う。
それに俺たちも笑い返す。
ある日のことだ。
俺は夜中の城の見回りをしており、
姫の部屋を通り過ぎた時だった。
『……の…す蛇……!?』
真夜中の筈の姫の部屋で、
フィーネの声が聞こえた。
その声からは彼女の驚愕が伺える。
俺は何となく立ち止まり、それを聞く。
『そ………では………………』
『……まだ…….わけ。
必ずしも…………………から』
そこまで聞いた所で我にかえる。
我ながら盗み聞きとは……
内密な話を聞くのは良くない。
彼女らも年頃だ、女同士で話でもあるのだろう。
介入するのは……というか盗み聞きは失礼にあたる。
だが………蛇、か。
その言葉が妙に頭に残っている。
だが、靄がかかったかのように記憶は
思い出すことを拒否している。
(………夜も遅い。見回りも交代だし寝るとしよう)
俺はそう思い直し、その場を後にした。
「……………」
意識がガラガラと
地面を走る台車の音に引き上げられる。
意識が覚醒し、眼を開ける。
繋がれた腕と脚の枷の鎖が音を鳴らした。
(随分と、懐かしい夢を見たな………)
もうあれから5年……
いや、古王竜討伐はもう7年も前になる。
ただの昔の夢にしては妙に現実味があった。
「…………っ」
身体の傷が疼く。
古王竜との戦いで食いつかれた時の傷だ。
フィーネの力で見た目だけは完全に治ったが、
未だに痛みが走る。
「……………蛇……か」
この痛みがあの夢の原因だとすると、
何故『蛇』が夢に出てきたのだろうか。
聞き覚えのある単語ではない。
思い浮かぶのも魔物くらいだが……
何故か、そのことではないような感じがする。
上手く言い表せないが、
嫌悪感すら感じる単語なのだ。
「…………………いや、今は」
歓声が聞こえてくる。
どうやらオークションの時間のようだ。
『蛇』は、胎動を始めていた。
────
なんで閑話なのに本編よりも長いんですかねぇ………