二周目雪風は人間に戻りたい   作:ベリーナイスメル/靴下香

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一年目・単艦実演

『良いですかユキ、私達はこれから八丈方面から来ると思われる援軍に向かって進軍します』

 

「……時間短縮ってわけね?」

 

 姿は見えないけど頷かれた気がする。

 そうだ、敵の目的が私なんだとすれば私に引っ張られてついてくるはず。

 引っ張りながら援軍の方へと向かえばそれだけ合流が早くなって、敵を殲滅だって出来るでしょう。

 

『はい。ですが注意点があります』

 

「注意点?」

 

『燃料はまだまだ大丈夫、ですけど会敵する相手を逐一相手にしていたら弾薬が足りません』

 

 そりゃそうか。さっきまでそれで散々頭を悩まされたんだ。

 あぁなんだつまり。

 

「……可能な限り砲撃も、魚雷も撃つなってことね」

 

『相当、どころじゃないですけど厳しい条件です。それでも……』

 

 なんて無理ゲー。ド新人のド素人がやることじゃない。

 馬鹿にしてるよほんとに、だけど。

 

「わかった。やる」

 

『ユキ……』

 

 出来る出来ないじゃあないんだ。

 荷物を背負いたくないって決めた、誰の死も認めないって決めたんだ。

 だったらやるしかない。それしか手段がなくて、望む未来にたどり着けないのなら。

 

『大丈夫、私が、絶対に沈めませんからっ! 絶対、大丈夫っ!』

 

「ええ、存分に頼らさせてもらいますとも……行くわよっ!!」

 

 いい加減脳内会議も終了だ、敵艦が見えてきた。

 

 ……やっぱり、怖い。

 どれだけ無理やり納得しようとしても、これから訪れるだろう恐怖や痛み。そのことを思えば腰が砕けそうになる。

 

『敵艦発見! ユキ! 面舵一杯! 半速で!』

 

「あーもう! 左右か時計で教えて! 右よね右でいいのよね!?」

 

『はいっ!』

 

 ええいちくしょう! 女は度胸! やってやりますとも!

 

 ぐっと前傾姿勢をとって右方向へ。

 可能な限り速力を上げて曲がってみればその瞬間私が居た場所に砲撃が着弾した。

 

 ほんとに、怖い。

 

『そのままっ! まだ撃っちゃダメですよ……まだ、まだ……いまっ!!』

 

「いっけぇっ!!」

 

 やっぱりあたる。

 ええっと、あれは旗艦、かな? 水雷戦隊って言ったっけ? 教科書で見た軽巡ホ級ってやつだよね。

 

『ちゃーくだーん! ですっ! ユキ! 全速、いけますね! 引き離しますよ!』

 

「いかなきゃ、ダメなんでしょう!?」

 

 あーもういいや! そうよ、この戦闘が終わればまた訓練の日々よ!

 重っ苦しい座学とバケツのお世話になる毎日が待っている!

 その時もう一回覚えればいい! 今度は真面目にちゃんと聞くよ!

 

「っつぅ!」

 

 危ない、転けそうになった。

 

 全速なんて初めて出したよ、雪風は……約35ノット出るんだっけ? 時速で言うなら64キロくらい、かな?

 大型バイクなんて乗ったことは無いから知らなかった。感じる風はこんなに強くて、速いんだ。

 

 目から風に流されて雫が飛んでいった。

 あぁ、知らない間に泣いていたんだ、ほんとに気づかなかった。

 なんで泣いているんだろうなんて疑問にすら思わない。

 

 だってずっとずっと最初から、怖くてたまらない。

 艦娘になってから報われたことなんて無かった、まだたかが一ヶ月のはずなのにそんな風に思う。

 

 ただそれでも。

 

『私は……! 死神なんかじゃないですっ!!』

 

 誰に向けていった言葉だろう雪風のセリフ。

 それが何故か、どうしようもなく頷けてしまって。

 

 ここで自分さえ死んでしまえばこの深海棲艦の侵攻は止まるのかも知れない。

 うっすら気づいていたもう一つの解決方法。それには目を背けて。

 

『艦隊を、皆を! お守りします! 守ってみせます! 守るんだからっ!!』

 

 胸が苦しくなるほど、狂おしいほどの切望。

 私が聞いていると忘れている、戦っているのは私だっていうことも。

 いや、雪風も戦っているんだろう私と一緒に。

 

『くっ、ユキ! 魚雷来ますっ! そのまま更に取り舵一杯!!』

 

「だから左右で言って! あーもう! まっがれええええええ!!」

 

 ぐぐぐっと身体にかかる重力で潰されそうになる。全速でこんなことするの初めてなんだってば! もうっ!

 

「きゃあっ!?」

 

『ユキ!? ユキっ! 頑張って! 大丈夫、大丈夫ですから!!』

 

 曲がりきれなかった……! 敵砲弾が身体を掠めた!

 ぞわぞわと足元から恐怖が這い登ってくる、怖い! ……怖い!!

 

「はぁ……っ! はぁっ!!」

 

 背中に冷たさが奔る。

 思わず目が覚めた時受けた傷のことを思い出してしまう。

 

 あんなに痛いのは、嫌だ、嫌だ!

 ここには私一人だけしかいないんだ! だれも助けてくれないんだ!

 

 ――誰も、いない?

 

「い――嫌だぁあああああ!! こんのぉおおおおお!?」

 

『ユキっ!? ダメっ! ダメです! 相手をしたらダメ!! 落ち着いて!!』

 

 嫌だ、痛いのは嫌だ! 怖い! 怖いのも嫌だ! 一人ぼっちで死んじゃうなんて嫌だ!

 そうだ反撃だ! 攻撃できるじゃない!

 

「砲撃――っ! 魚雷――っ!!」

 

『だめっ! だめぇええええええ!!』

 

 煩いよ! 大丈夫だって! ほらあたる! あたるんだって!

 私は戦えてるっ! 敵を倒せてるっ!!

 

「あは、あははははっ! 何よ簡単じゃない! 流石私はフォーナインっ! これくらい――」

 

『避けてっ!!』

 

 ――あ。

 

 ほう、げき?

 だめ、これ、避けられない。

 

「ぐぅっ!?」

 

『ユキっ! ユキっ! はやく、はやくその場から動いて下さい!!』

 

 い、たい。

 なに、何があたった? 砲撃? 魚雷?

 

 あ、違う。

 痛いのは。

 

「いま、から……?」

 

『いや、いやあああああああ!?』

 

 

 

 ――この、疫病神が。

 

 あぁ、これは夢だ。

 ううん、違うか。違うのなら走馬灯だ。

 自分が死んじゃう寸前に、見ちゃうやつ。

 

 走馬灯が教えてくれたのは冷たい視線と言葉。私に覚えはない。

 だとしたらこれはきっと雪風の記憶、過去。

 

 ――死神め。

 

 ひどい言い草だ。

 戦って戦って、生き抜いて戦い抜いてたどり着いた場所で向けられる言葉じゃない。

 それでも下唇を噛みながらも耐えている。

 

 走馬灯は過去の描写機。

 スライドショーのように流れていく記憶には、ただの一度も誉れの言葉が無かった。

 

 ずっと。

 ずっと。

 

 雪風(わたし)は。

 

 仲間を見送って、戻れば罵倒が待っていて。

 そんな中で、ずっと。

 

「戦って……いたんだ……!」

 

 悔しい。

 何が悔しいって。

 

「私は……こんな女じゃないっ!!」

 

 耐え難きを耐え、忍び続ける大和撫子なんかじゃない。

 まっぴらごめんだ、時代遅れも甚だしい。バリバリ現代っ子の何が悪い。

 

 孤独に誰にも頼らず、認められず戦い抜くなんて、耐えられない。

 

 だから絶対。

 

艦娘(戦う人)になんか――なるもんかあぁああああああ!!」

 

『っ!?』

 

 そうよ! 艦娘(戦う人)なんかじゃない! 私は人間(戦える人)がいい!

 陽炎さんも言ってたじゃないか! 今だ、今なんだ! そうなるべき時は今なんだ!

 

 動け! 私なら動けるでしょう!?

 ここで出来ないでどうする!? ここで雪風にまた見送らせるの!?

 

 勝手にテンパって! 雪風を無視して! 自分勝手に!!

 

 ありえないったらっ!!

 

「うああああああああああっ!!」

 

 至近弾っ!! これもあれも全部! 至近弾っ!!

 痛くない! 痛くないったら痛くない!!

 

「雪風っ!! 次はっ!?」

 

『つ、次……?』

 

 あぁもうっ! ぼーっとしてないの!

 

「テンパった! ごめん! ここからどうしたらいい!? 私が生きるためには! どうしたらいい!?」

 

 雪風は私だ! どうあがいても認められなくても信じられなくても私なんだ!

 重荷を放棄した私が、私に重荷を背負わせてどうするんだ!

 

 黒煙が目に染みるけど! 体中痛すぎて何が何だか分からないけれど!

 

「雪風っ!!」

 

『っ!!』

 

 指示を頂戴! 私には、まだ何も知らない私には! 情けないけどここからどうすれば良いのかわからないから! 

 

『円陣型に囲まれつつあります、ですがまだ包囲は完成していません……この場でできることは唯一つ、一点突破のみ』

 

「一点突破……!」

 

『単純です。今目の前にいる敵艦、あれに向かって突撃あるのみ……出来ますか?』

 

「やってみせる……!」

 

 やってやる。やってやりますとも。

 それしか生き残る術がないのなら、その先に私の命があるのなら。

 

『大丈夫……だって――』

 

「雪風は――」

 

 ――沈まないからっ(沈みませんからっ)!!

 

 突、撃――!!

 

 心に決めた瞬間から、景色がスローモーションで流れ始めた。

 前と言えば見えるのは駆逐艦が二隻、今歪な口から砲塔が覗かせている。

 

 ぐっと前に進もうとしてみれば、力がいまいち入らない――構わない。

 砲撃をしてみようとすれば、へしゃげている主砲の砲塔――問題ない。

 カチリと感じた感触を確かめてみれば発射準備可能魚雷――最高ね。

 

 まずは魚雷。

 分かってる、適当に放てば適当な誰かにあたるって。

 だけど今、適当は許されない。

 

 しっかり狙って、相手の行動を予測して。

 

「――」

 

 放った魚雷はまっすぐに。

 あぁそうだ、確かこう、砲撃を相手の回避運動するだろう先に置くんだ。

 

 ……なんだ、やっぱり不知火さんってすごいんだ。

 あの人に比べたら、全然なってない。

 

 行け、行くんだ。

 前に出ろ、足。

 動け、私の身体。

 

「ああああああああああ!!」

 

 怖くない。

 何より怖いものはさっき知った、知ることが出来た。

 だったら止まるな。叶えるな。

 

 私には、あぁ私には。

 

「邪魔よっ!! どけぇええええええ!!」

 

 周りであがる水柱、水飛沫。

 見えない、知らない。

 

 私にはもう、生き残る道(目の前)しかわからない。

 

『ユキっ!!』

 

「と――っぱああああああ!!」

 

 最後に思いっきり砲撃を放って。

 昇る爆炎を突き抜けて。

 

 私は。

 

「どうだっ!! 雪風っ!!」

 

『はい……はいっ!! 流石ですっ! ユキっ!!』

 

 やった、やったよ! 抜けてやったよざまぁみろっ!

 

『後ろは私が見ますっ! 進路そのままっ!』

 

「了解っ!!」

 

 だけどやっぱり。

 

「あ、れ……?」

 

『っ!?』

 

 足がもつれる、膝が海につく。

 

 あーあー……本当に。

 これでも体力に自信はあったんだ、ほんとだよ?

 学校であるじゃない? スポーツ大会なんて。

 いつだって私は上位だったんだ、クラスのちょっとした英雄だったんだ。

 

 ふふ、ほんと。

 

「そんなんじゃ、甘すぎるなんて……もう分かっていたのにね」

 

『ユキっ!!』

 

 ごめん雪風。

 私、やっぱり根性なしだ。

 

 ――主砲、一斉射っ!! てぇええええ!!

 

 幻聴? あぁ、やれやれだ。

 どうやら走馬灯の次は三途の川だ。

 おいでおいでと手招きしているのは、誰だろう?

 

 その手招きしている誰かは、勇ましい声のもと、私に近づいて。

 

「……よく、持ちこたえた……!」

 

「あ、はは……出来れば、天国に行きたい、かな……」

 

 海の上では感じることのないだろう感触に包まれて、意識を失った。

 

 

 

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