二周目雪風は人間に戻りたい   作:ベリーナイスメル/靴下香

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黒潮さんは頑張らない ①

 やっぱり不知火は真面目ちゃんやなぁ、なんて。

 

 入渠っちゅうよりは艤装の点検に近い作業を受けた。

 とりあえず、と爆発したりバラバラになってまうんを防ぐ程度の修復を受ける前から、お互い理解しとった。

 

 あぁ、もう海で戦われへんのやなって。

 

 いつもと変わらん入渠ではあったけど、やっぱりどっか違う修復を受けながら思ったこと。うちだけで言うのなら、なんちゅうか、まぁしゃあないか程度のもんやった。

 いや、ちゃうで? 多分もうちょっとしたら枕を涙で濡らすくらいにはショックを受けるんやろうと思っとったし、実際そうなった。

 単純にそうなった自分っちゅうのをまだ受け入れられてへんかったからこそやろう。

 

 不知火はそのへん含めてうちより早く理解しとった。

 理解したからこそ、うち相手に珍しくこれからどうしようかなんてちょっと空っぽな表情で話してきたんや。

 

 戦いが日常になって。

 言うたらどうしようもなく普通になってしもてた日々が急に取り上げられたんや、覚悟はしとったけど空虚な気持ちは隠されへん。

 そんなもんやから、二人してちょっと泣いてもうた。

 

 救われたことがあるっちゅうんなら、そりゃやっぱり陽炎のことやろうか。

 うちらと艤装の状態はおんなじようなもんやけど、全力出撃さえせぇへんかったらまだ海の上におれるって話や。

 そのこと自体に救われたんはもちろんやけど、おかげでまだ陽炎を通して戦いに携わることは出来る。

 それが何よりの救いやった。

 

 別に戦争ジャンキーなわけちゃう。

 今でさえ、戦わんで済むのならそれが一番や思うてるし、平和言うんを享受したいとも思う。

 せやけどそりゃ今とちゃうんやろう、戦いを知ったうちらはどうしても仮初と感じてまう平和の中では生きられへん。

 ふとした瞬間に、海の上を思い出してなんだかようわからん気持ちになるのは見えとる。

 

「これから、どうしますか」

 

「またそれかいな。なるようになるとしか言えんて」

 

 忙しいやろう陽炎の分も二人で手分けして異動する準備をすすめる中。さて、これで何回目やろうか。

 あらかたそういう不安については話し尽くした思うたんやけど。

 

「違うわ、もっと具体的な話よ。人間以上艦娘未満の自分として生きることになった私達は何が出来るか」

 

「おっと、そりゃ失礼」

 

 流石に切り替えたようで何より。いや、一旦保留にしたとも言えるか。うちも同じようなもんやし。

 

 しっかしまぁそうやな。

 陽炎のバックアップ言うてもやれることは限られとるわな。相談役程度にしかなられへんやろうし。

 

「事務系の仕事はまぁ出来るやろ。他言うたら着任しとる艦娘の相談役にでも……あー佐久島はバイト艦娘ばっかか、あんま力にはなられへんなぁ。けどあっこには五十鈴はんがおるで?」

 

「五十鈴さんと久しぶりに会えるのは楽しみだけど、そういうことでもなく」

 

 ……っとぉ。なるほどなるほど、もうちょい裏側の話かいな。

 ちょっち声のボリュームは下げなあかんな。

 

「うちらはもう死んだも同然やしな。ちょいと深入りしてみるか?」

 

「そのつもりよ。問題はどっちを調べるか、だけど」

 

 大本営と狂信者連中のどっちか、か。

 難しいとこやけどあんまりどっちからとかそういう部分が問題やとは思ってへんのよな。

 

「意外とどっちも最終的には繋がってそうな気ぃするけどな」

 

「それは勘?」

 

「せや」

 

 戦争が終わらないで欲しいと願う勢力。

 

 何をアホなって話やけど、そんな思想を持っとるやつらはおるもんで。

 未だに続いているこの戦いは、単純に戦力が足らへんってもんだけでもない。

 意図的に長引かそうとしとる奴らがおる。戦争特需なんざもう特需でもなんでもなくなってしもうたはずやけど、総じてまだ利益を貪ろうと……いや、手放されんアホ達。

 ほんで戦争が終わったとしても今のままを願うアホ共。繋がっててもおかしくはないんちゃうやろか。

 

「あなたの勘はよくあたるだけに面倒ね」

 

「そんなん知らんわ。せやけど、今回の雪風があっこらへんに与えた影響は小さくはないと思うで」

 

 大本営に関してはまぁええやろ。

 真っ当に一枚岩とちゃうってことやろうし、なんだかんだ国のためにって働く連中に変わりはない。

 

 問題は狂信者連中。

 

「そうね。雪風は……私達はもちろん、きっと他のベテラン達が見ても希望を感じるでしょう。それほどだものね」

 

「せやな。だからこそ、周知が進む前に動くんやったら動かなあかん気はする」

 

 艦娘に永遠の命を見出したアホ共。

 正直まったく共感はできん。せやけど理解は出来る。

 順当に戦争って状況で精神を狂わせていった結果の一つに、そういうんがあってもしゃあないとは思うって意味でな。

 大なり小なり、この時代で狂気に触れてしもうたやつは多いんや。それこそ艦娘って道を選ぶってことこそが狂っとるとも言える。

 

 いや、まさに今戦いすらしなければ永遠に生きられるだろううちらが言うことじゃ無いんやろうけど……ってそうやな。

 

「つついてみよか」

 

「狂信者?」

 

「せや」

 

 老いることも成長することもなくなった艦娘。

 そして身体に馴染みきったロック装置。

 

 うちらは今、永遠の命に限りなく近い何かを得とる。

 それは狂信者連中にとって何よりも欲しい素体やろう。そんな存在はそうそうおらんからこそ余計に。

 そういう意味では、金剛はんなんかはどうしてるんやろか……いや、今考えることちゃうか。

 

「うちらはあいつらにとって喉から手が出るくらいに欲しい存在やろ、ましてや自分らの思想に賛同してくれるっちゅうんなら尚更」

 

「そうね。じゃあ早速――」

 

「――止めておけ」

 

 っとお、話に夢中なりすぎたか。

 ノックは……してたんやろな、気づかんかった。

 

「し、司令」

 

「分かっている。今の話は私の胸だけに留めておく……あまり自分の命を粗末に扱おうとするな。いや、粗末にさせる話を持ってきた私が言うことでもないんだが、な」

 

 うん? どういう意味や?

 ちゅうかこの人のこんな困った顔見るんは初めてやな、なんや心境の変化でもあったんやろか。

 

「黒潮、不知火」

 

「はっ!」

 

 あーこの辺はほんま随分と染まってもうたな、身体が勝手に敬礼しおるわ。

 

「もしもまた海で戦える可能性があるといえば、その命使って……いや、バカな真似はせず、日々を耐えてくれるか?」

 

「戦える……? し、司令! 私は、不知火はまた戦えるのですか!?」

 

 ほほーん? こらさっきまでの話すっかり忘れおったな不知火ちゃん。

 ……いや、まぁうちもそうか。可能性ってだけで気持ちが前向きに切り替わった。

 

「第二次改造計画」

 

「第二次って……あの佐世保の時雨とかが受けたっちゅうやつですか?」

 

 頷く、頷いてくれる司令はん。

 ほんまかいな……え? いやほんまに? それ、うちら受けられるんか!?

 

「まだ決定ではない。しかし、今回の戦闘で陽炎を含めた不知火、黒潮という損害は無視できるものでもない。言い方は悪いが、再利用できるならしたいのだ」

 

 通称改二。

 言うたらオーバーホール、各部機関の老朽化含めて新品に戻ることができる。

 第一次改造計画はロック装置が身体に馴染んだ艦娘やったら誰でも……ではないけど、受けられる。うちらもとっくに受けた。

 第二次はさらにその上、艤装改造の余地を検討しよりその艦娘に適した、あるいは特化した改造になるから設計図の作成なんやら含めて研究がいるって聞いとる。

 

「重ねて言うが決定ではない、改造できる余地があるか等の問題もある。ただ少なくとも陽炎、不知火、黒潮の艤装再研究はスタートした。いつ終わるかはわからないがそれまで――」

 

「待ちます」

 

 はやっ!? 返事はやっ!?

 不知火ちゃん? ちょおっち掌ドリルすぎへんか? 思わず滑りそうになってもうたで?

 あ、司令はんもおんなじ気持ちかいな? さっきから珍しい顔ばっか見せてもろてうれしいわ。

 

「う、うむ。まぁなら待ってくれ。しばらく退屈と言えばアレではあるが耐えてくれ」

 

「了解っ!」

 

 おーおーええ返事やなぁ。まぁ流石の不知火、落ち度はなしってことにしといたるでな。

 

 せやけど。

 

「……」

 

 返事の言葉は少し躊躇してまう。

 再び戦場へ戻ることが嫌なわけちゃう、むしろ嬉しい。

 けどどうにも気になるのはさっきまでの話やねんな。

 

 軍の内部に精通とまでは言わんけど詳しい艦娘なんざそうそうおらへん。

 それこそまさに陽炎や不知火、うちってくらいの古株くらいしか。

 やからこそうちらが動かへんのやったらほとんど誰も動かれへんやろう。

 

「黒潮」

 

「はいな司令はん。なんやろか」

 

 あー……あかんなぁ、やっぱこの人は目が良すぎるし、察しも良すぎる。隠されへん。こら抵抗は無駄やな。

 

「ここの養成所としての機能は一旦凍結になる。八丈方面への睨みを効かせるために予備戦力駐屯所としてしばらく使われるだろう」

 

「はい」

 

「私もそうだ。大本営勤務に異動となる。もしも貴様達が知る必要のないことへと首を突っ込むのなら、それを罰しなくてはならない立場になるだろう」

 

 ……てっきりここで指揮かその補佐くらいには収まる思うてたんやけど、勘が外れたか。

 しっかし、それやったらほんまに下手な手は打たれへんくなってもうたな、どないしよ。

 

「もう一度言うぞ? 私は、大本営勤務となる。貴様達が首を突っ込む必要はない」

 

「……あ」

 

 あっかんなぁ……うちの勘はやっぱ鈍ったか。

 

 これはあれや。

 司令はんが調べるっちゅうことや。

 

「……ほんま、雪風が与えた影響は小さくないんやなぁ」

 

「さて、な。しかし気づくことは出来た。戦うことへ慣れてはいけないと心に刻んでいたはずなのに、いつの間にかそれを言い訳にしていたことを」

 

 あぁ、ほんまに。

 今日は色々と驚くことが多いわ。

 

 こんなにはしゃいでる不知火を見るのはきっと随分久しぶりやし。

 司令はんの見たことない表情ばかりに遭遇するし。

 

 これから始まる、今までとは少しだけ違う戦いに心をこんなに躍らせてるんも。

 

「司令はん」

 

「なんだ?」

 

「了解や。しばらく、性に合わんことへ精出すことにしますわ」

 

 もっかい敬礼を一つ。

 そうすりゃやっぱ見たことない顔で答礼してくれた。

 

 

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