二周目雪風は人間に戻りたい   作:ベリーナイスメル/靴下香

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一年目・遠征会議

 ここに来てから早一ヶ月。

 霞さんは随分と海上での動きに磨きをかけた。陽炎教官に言わせれば付きっきりに近い形で訓練を受けている上、元々見込みがあったから当然だなんて言っていたけど。

 それでもやっぱり異常とも言える成長だろうとは雪風談。その雪風でさえ現段階の霞さんを見て、今すぐ何処かの鎮守府に着任しても問題ないなんて評していた。

 元々ストイックというか、負けず嫌いな性格も功を奏したんだろう。海上では私に負けっぱなしの霞さんだったけど、毎度何かしら新しいことを実践してきてヒヤリとしたもんだ。

 

 ――嫌味にしか聞こえないわよ……。

 

 私としては含みを入れたつもりはないのだけど、がっくり肩を落とされながらそう言われてしまった。

 同時にすぐに追いついてやるんだからとも言われたけど。

 

 そう、霞さんはとても……なんだろう強くなったんだ。

 他の同期達がどうなっているかを知ってしまえるから、よりそう思ってしまう。

 

 そして私だ。

 たかだか一ヶ月で劇的に体力がついたなんて上手い話はないもので、フィジカルに関して目を瞠るものはないんだろう。残念なことに陽炎教官からも言われた。

 それでも無駄では無かったと実感できたのは三重までの長距離航海練習。行って帰ってくるまでに疲労を然程感じなかった。

 なんと言うか、身体の使い方が上手くなったんだろうね、それは五十鈴さんにも言われた。物凄く自然体で無駄な力が入っていないから体力を消耗しないんだろうと。

 

 霞さんには感謝しなければならない、いや最初から感謝しているつもりだけど。

 やっぱり毎朝一緒にやってる自主トレの効果だろうそう思う。

 

 何よりも、だ。

 

「基礎的な海上行動に関して私から言うべきことはないですね」

 

「いやいやあるでしょ、むしろあって欲しいのだけど?」

 

 真面目な顔してとんでもないこと言わないで欲しい。

 不思議に思っていたことではあるのよね、私から見ても……ううん、多くの駆逐艦からみても雪風は随分先をいく存在だ。アドバイスなんかを上手くして戦力向上に努めればいいのになんて。

 

「もちろんそうですね、確かにここはこうした方が良いですよーなんて部分はあります。ですけど、それは私が私にしか伝えられない技術ですから」

 

「うん? いや、雪風は私なんだし、教えてくれて良いんじゃないの?」

 

 いまいち要領を得ない。

 雪風は私の歩むだろう道の遥か先にいるはずだ。だったらそれを先取り出来るようなものだけど。

 

「まず一つ、感覚的なものが強いって理由があります。言ってしまえばコツ、でしょうか? そういうものは自分で気づかないと活かせないものだと思います」

 

「うーん、コツねぇ」

 

 わかるようなわからないような。

 

「一番大きい理由として、今のユキはかつての現段階で私が至っていない域に辿り着いてしまってます。信じられないかも知れませんが、陽炎さんに勝てるまではないでしょうけどかなりいい勝負をするくらいに」

 

「嘘でしょ……。流石にそれはないって」

 

「あくまでも私から見て、ですよ。ですけど一定以上の成長をしているユキに、私からのアドバイスって役に立てそうなことが見つからないんですよね。言っても成長を邪魔しちゃいそうで」

 

 雪風が言うこととはいえ、そこまでは自惚れられない。

 あの時見た陽炎教官や不知火、黒潮教官たちの戦っている背中。

 あれほどの迫力というか、輝きというか。そんなものへと手が届くとはまだ思えない。

 

 と言うより単艦同士で戦って優劣を決したところで意味ないのよね、それくらいはわかるようになったつもり。

 仮に陽炎教官に勝てるようになったとしても、指揮能力だとか他の艦娘に合わせることだとか。そういった面のほうが重要で、それらに対して私はまだまだ未熟だと自覚もしているし。

 

「わかりやすいのは日程のさらなる短縮があったことですよ。霞さんの成長も飛躍的に収まらない程ではありますが、呉まで輸送遠征の話が決まるなんて相当ですよ?」

 

「う……そう、なのかなぁ?」

 

 そうだ、忘れたかったけど次は実戦というか実践らしい。

 本来後半月は先に予定されていたことだけど早まってしまったのよね、ゆっくり育てるとは一体……やらかし、だなぁ。

 

「私自身、輸送任務にしても鎮守府へ着任してからでしたし……はい、ユキさんはすごいです!」

 

「取ってつけたように持ち上げないでよまったく」

 

 悪い気はしないんだけどね。ニヤけるのを我慢しなきゃいけない程度には。

 

「でもどう思う? ほんとに危険はないのかな?」

 

「恐らく、としか言えないですけど。正直佐久島での出来事は訓練しか私はしてませんでしたから予想がつきません……ごめんなさい。でも」

 

「でも?」

 

「先の戦い……ユキも気づいたと思いますけど、あの深海棲艦達は私を狙っていました。もしそれがこちらに来ても継続しているのならって」

 

 なるほどね。

 確かに不安としてはあるかも知れない。

 

 私が狙われる理由はさっぱりわからないけれど、恐らく間違いないだろうし。

 まだ狙っているのなら呉までの輸送遠征は狙い所だろう。

 

「でも五十鈴さんの指揮に入るのですし、そこまで不安に思うこともないと思いますよ」

 

「あ、そうよ五十鈴さんよ。あの人ってどんな感じなの?」

 

 まだ一緒に何かしてるわけじゃないからいまいちわからないのよね、陽炎教官に聞いてもすごい人ってことくらいしかわからなかったし。

 何となく強気というか、凛々しいと言うか。霞さんに似た雰囲気を感じるけれど、霞さんも好きだって言ってたし。

 

「そう、ですね。あまり一緒にお仕事はしてませんので、報告書や映像を見た上での話ですけど」

 

「うん、どんな感じ?」

 

「一言で言うなら……苛烈、でしょうか」

 

 苛烈。

 えぇっと? 厳しく激しいってことよね? いやそれは何となくわかってるよ。

 

「対潜はもちろん、指揮能力が凄いです。特に攻勢時の指揮に関しては見てきた軽巡洋艦の皆さんの中では一番かも知れません」

 

「そ、そんなに凄いんだ……」

 

 優秀な人ってゴロゴロいるもんなんだな……恵まれてるって思うべきかな?

 いや、恵まれてるんだろうね。私にしろ霞さんにしろ、陽炎教官含めてきっと人に恵まれてるからこそこんなに成長できている。

 

「けどそんな人が、失踪、になるのかな? いなくなっちゃうんだよね」

 

「はい……ですのでユキ」

 

 わかってる。

 あの人が今何を考えて何を求めているのかはわからない。正直な話、ちょっと苦手なタイプだからお近付きも遠慮したいところだけれど。

 応えよう、雪風がそう求めてるなら、それは私の求めるものでもあるのだから。

 

 

 

「輸送連合艦隊、ですか?」

 

「連合艦隊って言うには随分と寂しいけどね。二つの艦隊を合わせるから便宜上そういうわ」

 

 呉への輸送遠征を明日に控えて、今日は最終ブリーフィング。初めて会うバイト艦娘さん達と挨拶するのもそこそこに着席して。

 会議室に運び込んだホワイトボードに輸送連合艦隊と書いて丸をつけたのは陽炎さんで、口頭で説明しているのは五十鈴さん。

 

 通常艦隊行動での演習や訓練が不足してる気はするんだけど、まぁ霞さんと同期たちのやり取りもあり難しいのはわかる。

 けれどもすっ飛ばして座学でしかしらない連合艦隊行動かぁ……。

 

「もちろん……って言葉が正しいのかはなんとも言えないけど。連合艦隊という体を取るのはそれぞれの役割分担を明確にするためよ。陽炎」

 

「はい。第一艦隊を睦月を旗艦とする輸送艦隊。第二艦隊を五十鈴さんを旗艦とする第一艦隊護衛艦隊とする。第一艦隊の皆は言ってしまえばいつもやっている輸送任務と変わりない。第二艦隊にしても長距離航海練習の延長線にあるものとして捉えてもらって大丈夫よ」

 

 ほむほむ、確かに安全性が確保されているのならそうとも考えられるのね。あ、霞さんなんですかその残念そうな顔は。駄目ですよ? ステイですステーイ。

 

「今回の目的として第一艦隊はより長距離の輸送を可能とするための練習。第二艦隊は護衛はもちろん、対潜水艦を含めた索敵、警戒の練習が挙げられているわ。深海棲艦が現れようが現れなかろうが、常に実戦を想定して動くわよ」

 

「実戦……」

 

 五十鈴さんの言葉にごくりと誰かが生唾を飲み込んだ。多分、バイト艦娘の誰かよね。基本的に戦闘訓練は受けていないって話だし、怖いだろうな……私も怖いです。

 

「第一艦隊は睦月以外はいつもの装備、主砲とドラム缶。睦月は主砲と魚雷を装備して」

 

「りょ、了解です」

 

 って、睦月ちゃん? どうしたのよめちゃくちゃ顔引き攣ってるけど……?

 あれ? 睦月ちゃんって正規の軍人、艦娘よね? しかも先輩だし……流石に実戦の一つや二つどころか経験してるよね?

 

「第二艦隊は私がソナーと爆雷、雪風が主砲と魚雷、霞は主砲と電探を装備していく。実際に使って説明と練習を道中でやっていくからそのつもりで」

 

「了解」

 

「航路途中、予定では和歌山潮岬で一旦休息を取る。そこで第一艦隊は装備の交換を行うわ。状態によっては三重の何処かになるかも知れないけど、基本的には和歌山よ。朝から出発して昼くらいまでにはたどり着く行程だからそのつもりで」

 

 半日で愛知から和歌山、か。

 まぁそんなもの、かな? いまいちここまで長距離を航海したことがないからわからないけど。

 

「あ、あの!」

 

「うん? どうかした?」

 

「い、一日で、呉まで、ですか?」

 

 おっと、そうか。和歌山では休息、か。

 でもどうなんだろ? 距離的には一日でって話なら呉に着く頃には夜も夜になりそうだ。夜間航海練習は演習場でしかしたことないし、不安といえば不安だな。

 

「そのつもりではあるけれど。えぇっと、陽炎?」

 

「はい。行程に遅れが生じた場合、潮岬で一泊することも想定している。あそこには資材集積場として使っている島が一つあるし、許可は既にもらってるわ」

 

 あ、安心できたかな?

 しっかしそうか、えぇと和歌山の潮岬って所に辿り着いた時間によって臨機応変にってことよね?

 私と霞さんだけなら甘えるななんて言われてそうだけど……うん、ある意味バイト艦娘さんに感謝だね。

 

「ただ今回一泊することになれば、もう一度この連合艦隊演習をいずれ行うことになるわ。出来れば一発で決めてほしいわね」

 

「了解」

 

 それもそうよね、この訓練にだってコストがかかってるんだ。

 こっちに来てから結構言われたのよね、私達一人育てるのにも結構なコストがかかっている。

 ましてや私と霞さんは同期とは別に扱われているわけで、ただでさえかかるコストがマシマシってなもんだ。出来れば短い期間で余分を生ませたくはないでしょう。

 

 あぁ、そっか。だからでもあるのか、訓練期間というか予定の短縮は。

 なんか急にわかっちゃったな。

 

「以上が呉遠征についての概要よ。呉に着いたら鎮守府見学も予定しているし……呉鎮守府も何か用意してくれるそうよ。呉、広島といえば牡蠣よ牡蠣。任務を終わらせれば美味しい牡蠣が待っているかも知れないわね」

 

「わっ! 牡蠣ですか!?」

 

「私、初めて食べるかも!?」

 

「生牡蠣? それともお鍋? くぅ~楽しみ!」

 

 マジですか! 牡蠣ですか!

 いやぁこれは何としてでも一発成功させないといけませんね! ねぇ霞さん!

 

「……わかったから、バイト艦娘と一緒にはしゃがないで。恥ずかしいったら……!」

 

「でもでも牡蠣ですよ!? 霞さんは食べたくないんですか!?」

 

「た、食べたいけど! ってそうじゃない! ふんっ! そんなんで牡蠣にあたっても知らないからね!」

 

 またまたーツンデレさんだなぁ霞さんはーふふふのふ。

 

 あ、五十鈴さんに陽炎教官? 何呆れてるんですか? あぁ、陽炎教官はここに待機ですもんね、食べられませんもんねふふふ。

 

「雪風? 後で私の部屋に来なさい?」

 

「申し訳ありませんっ! 明日に備えなければなりませんので!」

 

「……やれやれ」

 

 よぉし! やるぞー! 頑張って牡蠣だー!

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