二周目雪風は人間に戻りたい   作:ベリーナイスメル/靴下香

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一年目・演習評価

 べ、別に悔しくないし! 今度やったら勝てるし!

 

 演習が終わって、同期たちのドヤ顔へそんなことを心のなかで叫んでおいた。

 何ていうのかな? 睦月ちゃんに負けるならきっと仕方ないと言うか納得できたんだろうけど、複雑だ。

 これがあの子達にとって睦月ちゃんありきの勝利ってわけじゃないのが理解できる。だからこそ悔し……くないし!

 

 まぁそうなんだ。

 複雑に思う気持ちはきっと自分の中にまだあった慢心とか油断とかを払拭する、いわば成長の糧となってくれるはず。

 尤も、それが完璧に無くなっていたとしても勝てたかどうかはわからないけど。

 

 バイト艦娘さんたちには悪いことしたなと思って謝ろうとしたんだ。憧れの人じゃないけど、慕ってる人の情けない姿を晒してしまったわけだし。

 けどそんな心配は無用どころか、逆に謝られた。

 私達のせいで負けてしまったと、今度はもっと上手くやると。とても前向きな顔で言われてしまった。

 第一駆逐艦養成所では経験できなかったことで、大概嬉しい気持ちになったんだけど……浸ってもいられない。

 

「まずは各自の思う勝因、敗因から聞きましょうか。そうね、まずは雪風?」

 

「はい」

 

「何故負けたのか分析してみて」

 

 現在演習評価真っ只中。広い会議室と思っていたけど、二艦隊分集まればちょうど良い。

 前を見てみれば陽炎教官に五十鈴さん。黒潮さんに不知火さんまで居て中々の揃い踏み。

 見つめてくる陽炎教官に頷きながら、改めて考えるけれどやっぱり答えは既に出ていて。

 

「一番大きいのは私の指揮が拙かったことだと思います。具体的な指揮が出来なかったのはもちろん、なんと言いますか状況判断能力が足りなかったんだと思います」

 

「続けて」

 

 実際に旗艦を経験して思ったけど、指揮は難しい。

 と言うよりは皆の呼吸というか、自分との差異を実感した。

 泣き言に聞こえるかも知れないけれど、私一人で戦ったほうがよっぽどいい勝負が出来たとも思ってしまう。

 もちろんバイト艦娘さん達が足手まといだと言っているわけではなくて。

 

「自分一人が出来ることと、隊全員で出来ることは違う。まずそれを一番強く実感しました」

 

 そう、幾つかの場面で自分一人ならこうするだろうっていうことが出来なかった。正確に言うなら、出来るかどうかを悩んでしまった。

 陽炎教官から事前に聞いていた指揮は思い切りって言葉を嫌ってほどに実感したんだ、悩む暇なんて無かった。

 結局少しだけだったのかも知れないけれど、悩んだ時間の分具体性を欠いた指示を出すって結果になったわけだし。

 

「時間があれば誰にだって熟考することは出来るし、それに基づいた指示を出せる」

 

「はい。やっぱり状況判断能力というべきですね、相手の動きの意図をどれだけ早く読み解けるか、その上で有効な対応は何か、またそれは実現可能か。そういった能力が私には足りませんでした」

 

 だからこそバイト艦娘さん達に敗因があるわけじゃない。おおよそ全て私の能力が足りなかった結果だ。

 

 そこまで言えば陽炎教官は一つ頷いて。

 

「わかった。じゃあ睦月? あなたの隊の勝因は?」

 

「はい」

 

「雪風ちゃんが言ったことそのままを含めた上で。個に対して私達が隊として動けたことでしょう」

 

 ……ええっと? 睦月ちゃん、ごめんよくわかんない。

 

「雪風隊は有効な指揮管制下にありませんでした、艦隊ではなく六隻の寄り合いというべきかそういった状態で戦っていた。それは遺憾ながら私達もでしたが、勝利出来たのは最後の最後で隊として纏まれたかどうかの違いに過ぎません」

 

「なるほど。他に言うことはある?」

 

「本来であれば、私達の圧勝で終わるべき演習でした、それこそ開始からすぐに決着をつけるべきほどの。そういった面から考えれば敗北と言ってもいいでしょう」

 

 うーん……あれよね、睦月ちゃんも大概ストイックだよね。霞さんと気が合うわけだ、本質的な部分はこうも似ている。

 そこまで睦月ちゃんが言えば、同期達も反省するように唇を噛んでいた。ふふん、反省してどうぞ。

 

「よし。じゃあ霞? 外から見ていた所感をお願い」

 

「はい」

 

 おっと、霞さんにも水が向けられるのね。まぁ確かになんかうずうずしていたけど。

 

「一言で言えば今回の演習は非常に幼稚なものだと考えています」

 

「なっ!?」

 

 ……うわぁ、霞さんすっごいこと言うね? 思わず一瞬頭が凍りついたよ。

 あ、同期さん落ち着いて? はいはい、座って座ってね? 

 

「得るものはありました、それは私も含めて。しかしながら、既に持っておかなければならないもので。そういった物を省いてしまえばあまりにも実入りが少ない」

 

「今回の演習は私が計画したことよ。それでもそう断じるのね?」

 

「はい」

 

「……良いわ、続けて」

 

 こ、怖いよ怖い。陽炎教官の目が据わってる……けど、何だか楽しそう?

 

「子供の喧嘩みたいなものでした。ここまでしなければわかり合えないのか、私達は軍人だと言うのに。得たものは雪風に指揮官適性が乏しく、仲良しこよししか出来ないだろうこと位なものです」

 

 な、仲良しこよし……へ、へこむ。結構頑張ったつもりなんだけどな……。

 

 でも、そうなのかも知れない。

 睦月ちゃんの散開に対して私は突撃を指示した、そこまでは有効的だったかどうかはおいておいて良かったんだ。

 けど最後の瞬間、味方に魚雷があたると感じたから自分を盾にした。それは旗艦にあるまじき行動なんだろう。

 思えば呉遠征の時もそうだ、我が身を盾にするなんて最終手段を簡単に選択してしまったわけだし。

 

「幼稚……いえ、無意味とすら思えます。どうしてもやるというのなら、少なくとも雪風に指揮経験を座学含めてもっと習熟させてからやるべきものでした。教官、質問が許されるのなら――」

 

「構わない」

 

「――どうしてこの演習を行ったのか教えて下さい」

 

 腕を組んで少し考える陽炎教官。

 ちょっとはらはらしながらも口が開くのを待つ。というかなんだろ、五十鈴さんめちゃくちゃ面白そうな顔して霞さんを見てる。

 うーん、なんと言うか霞さんって教官的な立場の人に人気よね。羨ましくはないけど。

 

「答えましょう。あなたがさっきの演習に対して幼稚だと感じたことは否定しない。私でもそう思っている部分はある」

 

「はい」

 

「だけど無意味ではないと信じたい(・・・・)。もしもあなたが無意味だと断じたのなら本当にそうとなってしまうでしょうけどね」

 

 含んだような言い方ね。どういう意味だろう?

 

「私はさっきの演習が必要だと思ったから実行した。だけど必要だと思った理由を話すつもりはない」

 

「……」

 

「霞、これは教育じゃないの。私がやっていることは教導よ。確かに私の中に答えはある、あなたが望むであろう言葉だって思い浮かぶ。だけど、だからこそ決して言わないわ。以上よ」

 

「……ありがとうございます。失礼な言動、申し訳ありませんでした」

 

 教育と教導の違い、か。

 私にはよくわからないな……。

 

「同じ理由で今回の演習内容に対して私から指摘することは無い。各自自分たちで消化しなさい」

 

「はい!」

 

「では演習評価を終わる……黒潮?」

 

「ほいほい。ほんなら今後のお話やで、傾注よろしゅうな」

 

 黒潮さんのおかげで空気が緩んでくれた……ふぅ。

 でも今後の予定か、色々やってきたけど、次は何をするんだろうな?

 

「雪風、霞の両名には総合教導効果演習……通称卒業試験が予定されたで。時期はちょうど一ヶ月後、そのつもりで最終調整に望んでや」

 

 

 

 

「霞さん! 私の胃痛をどうにかしてください!」

 

「私にどうしろってのよ……」

 

 ええいそこになおれ霞さん! はい正座! お座布もどうぞ!

 

「陽炎教官になぁに喧嘩売ってるんですか! もう! 私のドキがムネムネじゃすみませんよ!」

 

「意味分かんないったら。でもまぁそうね、どうしても気になったというか確認したかったのよ」

 

 確認? なんですかなんですか? 何を確認するんですか?

 私がハラハラしてるかどうかとか? やだもう霞さんってば鬼畜なんだから!

 

「落ち着きなさいな。多分教官としてもそう言ってもらえて良かったと思ってるだろうし」

 

「むー……もう、わかりました。一旦落ち着いてあげます。それで? どういう意味ですか?」

 

「自分で考えろって話よ。守破離(しゅはり)って聞いたことある?」

 

 しゅはり? えぇっと、なんだっけ? なんかで聞いたことあるな。

 

「規矩作法、守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな。千利休の訓、まぁ教えね、それをまとめた利休道歌の言葉よ」

 

「せ、せんのりきゅう……霞さんって、結構頭いいんですね……なんか意が――な、なんでもないです! そ、それでしゅはりがどうしましたか!?」

 

 あ、危ない危ない……ここで喧嘩してる場合じゃないよ? うん、傾聴傾聴。

 

「ったく。教官の教えを守って学び、得た力を色々なものと組み合わせ自分に合ったものを掴み取りこれを破るとし、それを精錬することで離れることができる。まぁ大分簡単に言い直したけどそういうこと。私達は離の段階に来ている」

 

「そう、なんですか? あんまり実感はありませんけど」

 

「卒業試験が予定に組み込まれたことがその証明よ。そして、陽炎教官はあんたと私にそれを気づかせるためにあの演習と評価の場を設けたんだと思う」

 

 そんな深い意図があったのね……霞さんが言うんだから間違いない。

 だけど離の段階、か。だって言うのなら私もそうだし霞さんもだと思うけど、まだまだ破の段階だと思うんだけどな。

 

「考えていることはわかるわ。けど、私達……ううん、あんたは破の段階でとんでもない物を身につけたのよ」

 

「とんでもないもの、ですか?」

 

 なにそれ怖い。自覚がない分余計に怖い。

 

「あんたには指揮適性が無い。それはわかるわね?」

 

「そうはっきり言われると辛いものがありますが……まぁ、はい、わかります」

 

「あくまでも今の段階でだけどね。今後指揮を磨いて普通程度にはこなせるようにはなると思う……遠く及ばない私が何を偉そうにって話だけど、そう思う」

 

 いやいや、霞さんのことは信頼していますから、きっとそうなんでしょうね。

 

 でもそれもそうだ。

 やっぱり私は犠牲というものがどうにも認められないんだ。

 旗艦の無事を確保するために僚艦が旗艦を庇うとか、そういうのは出来そうにない。今回の演習ではっきりわかった。仮にあの最終場面で、バイト艦娘さんたちに自分を守れって指示を出す自分を想像したら吐き気がする。

 

「あんたはそれでいいのよ」

 

「……よくわかりませんが。でも、やっぱりそれは必要なことなんじゃないでしょうか? 霞さんらしからぬ意見ですね、甘いって一蹴すべきことでは?」

 

「本音としてはそうね。だけど、それをしたらあんたは間違いなく腐るわ」

 

 く、腐るって。

 

「あんたの魅力というか武器ってのはね、あんたが思うがままに行動することで生まれ活かせるものなのよ」

 

「思うがままに?」

 

「心のままにとでも言うべきかしらね、やりたいと思ったことにしか真価を発揮しないのよ。多分これも教官は思ってるんだろうけど、あの演習。艦隊戦じゃなくてあんた一人対睦月の艦隊ならあんたが勝ってたわ」

 

 流石に言い過ぎだと思うのだけれど、強く確信を持って言う霞さんに何も言えない。

 そうなのだろうか? そのなのかも知れない。だけどそうだとするのなら。

 

「そう、お察しの通りあんたは誰とも艦隊を組めない」

 

「そ、そんな……」

 

「だから、私がいる」

 

 ……はい?

 え、あちょ、霞さん? 姿勢を正して、はい?

 

「雪風、約束するわ。私はあんたの最高の相棒になってみせる」

 

「――」

 

「何を急にと思ってるかも知れない、自分より遥かに弱い人が何言ってるんだと思うかも知れない。だけど必ずなってみせる」

 

 霞さんの目は真剣で。

 喉から何か言葉が出たくてうずうずしてるのに、何も言えなくて。

 

「その証明に、さしあたっては卒業試験。必ず合格に導いてみせる。信じて、とはまだ言えない。だけど合格できた時は、認めて欲しい。私は……霞はあんたの相棒だって」

 

 正直、何が何だか分からない。

 だけど。

 

 あぁ、霞さんだな。

 

 そんな風に思う。

 目の前にある強い強い瞳。今まで会ったことのある人、誰よりも一番強くて澄んでいる目。

 

 こんな人が、相棒になろうとしてくれている。

 多分、これは究極の贅沢なんだろう。霞さんは、私を見切って自分の道を進んだのならきっと多くの名誉とかそういう物を手にするんだろうって思えた。

 

 それらを求めず、私を求めてくれた。

 

 ぶるり、とよくわからない震えが身体に奔った。ふつふつと、心から湧き上がる感情がある。

 

「霞さん」

 

「何かしら?」

 

 こんな高潔な人に私は、何を言えば良いんだろう?

 こんな清廉な人に私は、相応しくなれるのだろうか?

 

「十年、早いですよ」

 

「――ふふっ、言ってくれるわ。それでこそ、よ」

 

 二人一緒に立ち上がる。

 立ち上がって同時に握手をした。

 

「総合教導効果演習……ううん、卒業試験――私達を図るには足りなすぎるって、教えてあげしょう」

 

「はい。余裕の勝利を見せつけてあげちゃいます!」

 

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