二周目雪風は人間に戻りたい   作:ベリーナイスメル/靴下香

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一年目・友人関係

 歴史的瞬間ってやつも、多く目の当たりにしてしまえばただの出来事でしかない。

 

 確かに今の義務教育機関で採用されている歴史に関する教科書には、必ずと各国の長たる存在が手を取り合っている写真が掲載されている。

 もちろん、社会へ出るか元々穿った視点を持っている人間ならば、その写真の頭に表向きはという言葉が添えられているなんてことへは簡単に想像できるのだけれど。

 後者である私はもう少し想像力というか妄想力を働かせたものだ。言い換えるのならば人類は深海棲艦という共通の敵を手にしてようやく建前であっても手を取り合うことを示せたのだと。

 

 各国は言ってしまえば平和ボケをしていたんだろう、もちろん言葉が悪いのは自覚している。

 でもその御蔭で無為に散らされた命があるんだ、少しくらい棘を使ってもいいでしょう。日本で言えば専守防衛、ある程度の犠牲が出てからようやく使った軍事力は積極的自衛権なんてお題目。

 

 ただそこからの進展はあまり想像したくない部分でもある。

 だってそうでしょう? 艦娘化という技術を手にするまでに辿った道は、どちらかというのならば暗い道であったのだろうから。

 

 従来の兵器。主には海で戦うためのものが全く無意味であったというわけではない。

 深海棲艦を何隻も沈めたのは事実だ、それによってある程度の自衛を果たせていたことも。

 

 問題だったのはあまりにも割が合わないってだけ。

 

 当然だ、無限を思わせる深海棲艦の数に対して当時日本が所持していた兵器の数は少なすぎる。

 いくらかの深海棲艦を減らす代わりに、簡単にゼロが見えるくらいへと抵抗できる手段は追い込まれた。

 急ピッチで軍艦を建造なんて出来ないのも当然だし、同盟国からの援助だって自国だけでも大変なのにそんな余裕が何処にあるんだという話。

 

 故に国は団結した。

 最早自分の国を守るためにお互いの国を守り合うという手段しか残されていなかったんだ。

 

 それが歴史的瞬間が生まれた真実で裏側。

 同時に、軍艦一隻を建造するより遥かに安いコストで生産できる兵器(・・)を模索し始めた瞬間でもあった。

 

 何処かの研究者が人間そのものを海で戦わせる方法を見つけた。

 深海棲艦の姿から、母なる海という言葉から、そして何より男では失敗し続けたから女がその素材となった。

 すり減っていく女性人口を危惧して、艦娘化する前に女性の卵子を冷凍保存するべきだと訴えた。

 永遠の命は艦娘にありとくだらない夢想に取り憑かれて艦娘化を願った人がいた。

 

 狂ってる。

 

 それが素直な感想だった。

 そのどれもが確実に歴史的瞬間だったのだろう、そしてどれもがそう思えない。だからこそ狂っている。

 世界も国も人も。当然と言いたくは無いけどきっと私でさえも。

 

 それでも暗い道をたどり続けて、ようやく少しの落ち着きを世界ってやつは見せ始めたんだ。

 戦いに終わりはまだまだ見えないけれど、それでも戦う態勢ってやつは整えられたと。

 

 正直な話、映画や漫画でありがちな宇宙人だとかエイリアン(よくわからないモノ)とかと同類で良い、深海棲艦は一体何者なのか、目的は何なのかなんて二の次なんだ。

 もしかしたら、いやもしかしなくてもそういったことへと知恵を回している存在はいるのかも知れない。

 けれど二の次にしてしまっていいほど、深海棲艦は明確に人類の敵であり、艦娘が打倒し世界から駆逐するべき存在なんだ。

 

「――時間ね。午前はここまで、午後からは基礎体力訓練の予定よ。それじゃヒトフタマルマルまで各自自由、解散」

 

「ありがとうございました」

 

 イスから立ち上がり、そんな戦いの歴史を教えてくれた陽炎教官へと頭を下げる。

 歴史と言うにはまだまだ浅いのかも知れないけれど、その時を戦いここまで生き抜いた人の話はとっても重く感じられた。

 それは私だけじゃないだろう、事実教官が部屋から出ていったって言うのに私を含めた何人かは話の重さのせいか未だに頭を上げられない。

 

 戦いは何も生まない、失うばかりで何も良いことがない。

 

 かつて軽く言った言葉を翻す気持ちは無い。

 抵抗するために艦娘が生まれたんじゃないかと言われても、それはやっぱり人間を失ったというか、変質させられたというか。

 やっぱり失った結果に過ぎないんじゃないかと思う。

 

「ふぅ」

 

 一つ息を深めに吐いて頭を上げる。

 

 切り替えられたかいまいち自信は無いけれど、とりあえずお昼ごはんを食べなくちゃ。

 

 

 

 なんとなく気に入ってしまったメニュー、それが黒潮教官に奢ってもらったカツ丼。

 やっぱり少し大盛りだと思えるそれは、ちょこんと鎮座している三つ葉を湯気が揺らして口の中を潤す。

 

「いただきます」

 

 なんて、食い気で涎が溢れちゃうって話をかっこよく言って誤魔化せるもんでもないこのぼっち感。

 

 いや酷いよね不知火教官ってば。

 あの訓練がさ、終わった後からより皆に距離を置かれるようになっちゃったよ? やっぱり泣いて良いですか?

 なんかさ、皆の目の色変わったのよ、今までよりちょっと遠慮したくなる感じに。

 ほら、なんか言われてる。いや、言われてないのかも知れないけれど、そういう風に感じちゃう。

 

 ――不知火さんも漏れずすっごい武勲を立てた人ですから!

 

 なんであんたが誇らしげなのかと突っ込んでしまったけど、雪風が言うにはそうらしい。

 実際、陽炎教官や黒潮教官に比べて不知火教官はなんと言うか畏怖されている存在だったらしく、それだけにあの訓練を見ていた人はわかりやすく私への態度を改めた。

 改めた態度が嬉しい方向だったなら何も言うことは無かったんだけどなぁ……。

 

 正直な話、天才だなんだと言われてもまるっきり自覚がない。

 不知火教官とのなんちゃって単艦演習、って言うんだっけ? あれはほんとにたまたまとしか言いようがない、もっと言えばただの運だ。

 後で映像を見て分かったことだけど、たまたま私の魚雷が少し高くなった波で確認が遅れて、たまたま回避運動を取ろうとした不知火教官の先を塞ぐように撃った砲撃が行っただけだ。

 それまでに何度も詰みを感じさせられているし、夢中だったから詰み以外撃たれないってことを忘れて本気で沈められるとすら思わされてる。

 

 運も実力の内なんて言葉があるけれど、その実力とやらが発揮されるまでに何度も敗北してるんじゃそこまで自惚れられるわけもない。

 

 そう自分では思ってるし結論付けているにも関わらずこれだ。泣いていいかな?

 

「ここ、良い?」

 

「ふぇっ!? は、はい!」

 

 涙の八つ当たりを三つ葉へ向けようとした時、急に声をかけられて心臓が止まりそうになった。

 と言うか艦娘になっても心臓ってあるのかな……? い、いや現実逃避はやめるんだ私。えっと、この人は……?

 

「はぁ……まぁ、そうなっちゃうわよね。そうさせたのは私達だし……ううん。朝潮型駆逐艦の十番艦、霞よ。よろしく」

 

「ひゃいっ! えと、えと……か、陽炎型? 駆逐艦? な、何番……ええい! とにかく雪風です! よろしくおねがいします!」

 

 うっわ無様過ぎるぞ私!? さっきとは違う意味で泣きそう!

 ええと!? こんなときは握手!? それとも欧米風にハグアンドキス!? ファーストキス捧げちゃうの!?

 

「……ぷっ」

 

「ご、ごめんなさい! な、何かへ、変なこと――」

 

「ううん。謝るのは私の方だから安心して、うん。そうよね」

 

 ……うぅ、なんだか随分大人っぽいよぅ。

 見た目はまんまお子様なのにぃ……それは私も一緒か……ぐぬぬ。

 艦娘化ってほんと厄介、見た目でその人の精神年齢を測れない。

 

「不知火教官との演習、すごかったわ」

 

「えっ!? えと、その、ありがとう、ございます?」

 

 ほ、褒められた、と思っていいのよね? 良いよねわぁい。

 

「お世辞じゃないってば。それで別に流石のフォーナインだとか天才だとかそういう言葉を言いに来たわけでもないのよ」

 

「へ?」

 

「ごめん」

 

 ほわあああっつ!? なんで頭下げられたの私! 何? 何か知らない間に色々拗れてない!? 大丈夫!?

 

 あーダメだ混乱してる、そうだ冷静になろう、羊さんでも数えるべき? それとも素数?

 

「あーうー……あのあの、良いから座って下さい。ご飯、冷めちゃいますよ?」

 

「……うん、ありがと」

 

 はぁ、ようやく座ってくれた。いい加減私の心臓も座ってどうぞ、バクバク煩いから。

 

「怒ってないの?」

 

「何をです?」

 

「私達、同期なのにあんたのことだけ村八分みたいにしてて」

 

 おおう、あんた呼ばわりとは……いや、まぁこのくらいが楽でいいや。

 

 村八分、ねぇ。

 正直、ここへ来てからの二週間って言ってたっけ? それは雪風が言う所の記憶混乱であんまり覚えてないんだよね。

 まぁそれでもここ最近取られていた態度は心地良いとは言えなかったけど。もう少し続いていたら泣いていたかも知れないけど。

 

「わかんないです。どうしてそういう態度を取られていたのかすらわかりませんし。何に対して傷つけば良いのやら、怒ればいいのやら」

 

「そっか」

 

 霞さんが頼んでいたのはきつねうどん。

 やっぱり小柄な身体へ収まるには少々多いんじゃないだろうかそれくらいの量。

 

 思案を誤魔化すように。あるいは踏ん切りをつけるかのように霞さんはまずお揚げを口にして。

 

「んく……ここにいる艦娘はね、皆志願してここにいるの」

 

「志願」

 

「ええ、義務としてであっても、権利を叶えるため難しい試験に合格した上であっても。皆納得した上で艦娘になりたくて、なった結果ここにいる」

 

 あぁ、なるほど。

 つまりなんだ、平たく言えば私だけが異質だったのね。

 艦娘になりたいと思った人達がいる中で、私だけがイヤイヤだったんだろう。そりゃ浮くわね。

 二週間の記憶はあやふやだけど、断言できる。私はそれを顔に、雰囲気に出していたって。

 

「知ってるか知らないかわから……いや、知らないでしょうね。ここはそんな艦娘へ志願する人間が憧れてやまない陽炎さん達が教官として着任している場所なのよ」

 

「……あぁ」

 

 いやわかった。みなまで言わないで下さいな霞、さん。

 

「やる気が無さそうで、いかにも不満ですって顔してる人が……憧れの人から特別扱いされてたら、そりゃ嫌ですね」

 

「だからといって今までを正当化するつもりはないわ。ごめんなさい」

 

「いやいや!? だからもう頭は下げなくていいですってば!?」

 

 いやもうほんとに。

 頭を下げたいのはこちらの方なんだ。そんな話を聞いてもその重みを理解できず、未だに戦いへの忌避感から逃れられないし、逃れるつもりも生まれていないんだ。

 そうだ、未だにそうなんだ。

 私はやっぱり、雪風というアドバンテージ、安全マージンが無くなれば再び膝を抱えて二週間前と同じ顔をするだろう。

 だから、本当に謝られるのは勘弁して欲しい。

 

 だけど。

 

「でも今……こうやってしてくれてるのは。ええと、許されたとでも言いますか? その、認めて貰えたんでしょう?」

 

「あの時、あんたの顔を見られて良かったと思ってる。最低限と言えば聞こえが悪いかも知れないけれど、必死なんだって、それだけは本当によくわかったから」

 

 そっか、そんな顔してたんだ。

 映像では見れなかったし、無我夢中だったから、わからなかったけど。

 

 そうか、戦いへのめり込んでいたのか。

 

「なんでここで落ち込まれるのかがわからないんだけど?」

 

「いえ、気にしないで下さい。豆腐メンタルな上染まりやすい、流されやすいなんてちょろすぎるなと自己嫌悪してるだけです」

 

 やだなぁ、ほんとやだなぁ……。

 妙な確信があるよ、これきっと何か大事な場面で熱に流されるよ絶対。

 

 気をつけよう……。

 

「ともあれ」

 

「はい?」

 

 差し出されたのは手。

 思わずまじまじと眺めてしまう。

 

「もう、ごめんなさいは終わったわ。これは、これから改めてよろしくって意味」

 

「え、あ……はい! よろしくおねがいします!」

 

 慌てて両手で掴んでしまった霞さんの手。

 早速流されている様な気がしないでもないけれど。

 

 どうやら歴史的瞬間はまさに今この時を指すものでもあるのかも知れない。

 かつてのお偉い様たちが取り合った手。

 それと今結ばれた手の温かさに差はないのだろうから。

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